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 ザワザワ


 演習グランドの一つの区画を、一クラスから二人を抜いた全員が取り囲んでいる。皆の視線は場内で向き合っている二人の男女。

 片方は、軽篭手を装備し短杖を片手に持ち佇む、橙色の髪を肩で揃えている美少女。まぁカルイストのクラス代表である。

 もう一方は、幅が少しだけ大きめの長剣を持ち、長くも短くもない銀髪の青年。というか俺である。

 クラス代表のこのカルイストの息女と模擬戦することとなった。そのことは武器を取り用意する段階で周囲の殆どの人間に伝わり、オールアイム先生はこの戦闘を授業のラストとして皆に見せたいらしく、この様な状況が生まれたわけだ。


 「準備は宜しいですね?」


 審判の問いに、お互い構えることで応える。


 「それでは――」


 さて。

 カルイストといえば確か、ボーニエ家の派生血族だったか。ならば是非とも土魔法を見たい所だが、仮にも名門だ。それ以外の属性魔法も標準以上のモノだとは思うが。


 「はじめっ!」

 「っ」


 開始の合図と共に、俺はまっすぐ駆け出す。相手に向かって最短距離で詰めるつもりだったが、相手も同時に魔法の詠唱に入っている。


 (それでも俺の方が速・・っ!?)


 刹那、『間に合わない』と直感で判断して、進路を真横に変更する。

 ほぼ同時に、カルイストの周囲に展開された複数の魔法陣から魔法が放たれ、俺が方向転換する直前の位置に打ち込まれる。


 「っとぉ!土と水のアロー系魔法の同時撃ちかよ。にしても下級魔法にしたってはえーはえー」

 「それだけではなくってよ!!」


 短杖を振り払う様な動作と共に、ロックブラストという土礫を放つ魔法を連続で使用してくる。


 「さっすが!カルイスト家って奴か!」

 「貴方も見事な体捌きですわね。流石はAランカーと言った所かしら」


 その場でカルイストが放つ魔法を、走り回りながら躱す。一分程その状況が続く。

 ロックブラストは土属性魔法の中でも扱いやすい部類の魔法だ。それでもこの精度で長時間発動し続けられるのは流石だ。


 (しかしまぁ飽きて来たなぁ・・)


 正直他の魔法なんかも一応見たい。これ以上この状況では新しい行動を起こしてくれそうにないので、こちらから動くことにする。

 今まで走り、躱すだけだった動きから、回避しつつも剣で礫を弾きながら接近する動きに変えた。


 「っ!?」


 いきなり距離を詰めてきた俺に驚いた様子だが、直ぐ様短杖を持ち直す。


 「牙持ちし土の――」


 身体能力強化魔法を使用したのだろう、後ろに下がり時間を稼ぎつつ詠唱を唱え出す。よしよし。

 乗ってやることにし、こちらも相手の後退速度に合わせ距離を維持してやる。


 「――なす敵を貫け、ロックランス!!」


 言下、周辺の地面から岩槍が幾本も生え出てくる。

 俺の体を刺す勢いで、真下からも真正面にも岩槍。堪らず前進を止め岩槍を避ける。

 その間にもカルイストは俺との距離を開け、別の詠唱に入っている。

 俺の足止めに重ねて、火球を放ってきた。


 (一発?詠唱もしていた。下級のファイヤーボールではなくて、範囲性のあるフレアボムか)


 迫ってくる火球を見て判断、仕方ないので魔力で障壁を作りそれに備える。


 ボカ―ンッ!!


 火球が爆ぜて、着弾地点の周囲に土煙を舞わせる。

 土煙の外のカルイストは油断無く、相手がいた方向を見据え魔法の準備をしている。


 「・・・」


 十秒程静まり返った後、魔力光を体に纏い煙から相手に向かって飛び出した。


 「ロックランス!!」


 再び岩槍が地面から生え、こちらの動きを止めようとしてくる。


 「らあぁ!」


 剣に魔力を乗せ、岩槍を斬り砕き構わずに前進する。


 「くっ!?」

 「おそい」


 カルイストは目を見開きつつも魔法を追加で詠唱しようとするが、俺の剣の方が早く首に突きつけられる。


 「・・・参りましたわ」

 「そこまで!カイナ君の勝利とします」


 降参の言葉を吐き模擬戦は終了となった。



























 「流石Aランカーだな!まさかカルイストさんに勝つとはなぁ」


 昼食時間  食堂


 セーヒとロッサと共に騒がしい食堂で昼食を取っている。

 セーヒが午前の授業であった事をロッサに聞かせていた。


 「ほう。クラス代表のあのカルイストを・・・」

 「まぁな」


 コイツラの少々大げさな物言いを聞き流しながら口に匙を運ぶ。


 「てかスルーしてたが、クラス代表てなんなんだ?」

 「?クラス代表って言ったらクラス代表だろ?」

 「セーヒには聞いてない」

 「なん!?」

 「クラス内の魔法における成績最優秀者の事だ」

 「流石ロッサ、ちなみにそれってどういう基準で決まるんだ?」

 「納得行かねぇ」モグモグ

 「さぁ、毎年クラスが決まるのと同時に発表されるだけからな。教師達が成績で決めてるとしか」


 という事は現状、あのクラスでの魔法はアレが最高ランクってことか。


 「なるほどな・・ごちそうさんっと。で、今日も頼めるか?」


 食事を既に終えている二人に聞く。


 「ん?ああ案内か昨日どこまで案内したっけ?」

 「食堂と教室周辺だな」

 「それじゃあ今日は特別教室の方にいくか?」

 「いや、そういうのは授業で行くだろうし、出来れば・・そうだな、敷地内を見て回りたい」

 「「?」」

 「こう、校内じゃなく、休みの時とか人が少なくて落ち着ける穴場とか、そういうのだ。無ければ校舎の回りでも良い」

 「ああそういう事か」

 「オッケー。じゃ、あ、わり、おれちょっとトイレ行って来るわ。先行っててくんね?」


 セーヒが席を立ちながら、体をトイレの方へと向ける。


 「わかったじゃあ、分水塔のところまで先に案内してるぞ?」

 「おー」

 「分水塔?」


 右手を上げながら駆けていくセーヒの後ろ姿を見ながら、疑問に思う。渡された資料の中の地図にそんなものはなかった気がするが。


 「まぁ行けばわかるさ」


 そして、校舎の裏手側の方に案内される。方向的には校舎を挟んで寮エリアの反対側だな。


 「ふぅわぁ」


 あくびをしながら、両腕を横に、それから上に伸ばす。ついでに首も回す。・・よし。


 「ん?眠いか?」

 「いんや生欠伸だ」

 「ふむ。そう言えばカイナはどこから通学してるんだ?」

 「ん?普通に寮からだが?」

 「お、俺もセーヒも寮生だ。部屋番号は?」

 「ん、番号?・・ああー、そういや一般じゃなくて待遇寮だったか…」

 「ん?そうなのか?待遇寮は上級貴族用みたいなものだった記憶が」

 「Aランカー待遇ってやつじゃね?確か俺、第二級特待生てヤツだった気がするし」

 「なるほど、確かに言われてみれば大陸に数十人程のAランカーを一般寮に入れるわけ無いか」

 「悪いな、最初に言い出してれば良かったんだろうが、特に希望もなかったから」

 「いいさ、残念ではあるが」


 待遇寮は高額な学費や相応しい成績、家柄等を持つ者が入る事ができる一人部屋、防音高性能なブルジョアな寮の事であり、俺が今利用している寮のことだ。

 作りも規則も一般寮のそれとは違い、上級貴族御用達ということもあり無闇な他人の部屋への入室は基本禁じられていたりする。部屋も一般寮は番号で識別されているらしいが、待遇寮は何か花の名前で分けられていたりする。部屋の扉に番号札等無く、代わりに草花が彫られているプレートが付いているのだ。鈴蘭部屋とか睡蓮部屋とかアホかっつーの。


 「ここが通称『中庭』だ」

 「中庭?」


 草花とレンガロード、大きな噴水がある場所に着いた。雑木林の近くで昼間の日差しと木々の木陰が良い感じに温度を調整してくれている様だ。まぁそういう時期だからなのもあるが。


 「・・ここで昼食を取ってるヤツもいるのか・・」


 周りを見れば噴水の縁や近くにあるベンチに腰掛け、弁当なりを広げている姿が見える。


 「あぁ、一応生徒の自由スペースの一つだ。といっても、この時間か、後は部活で放課後なんかくらいしか利用されないがな」

 「へぇ意外だな」


 環境は悪くない様に見えるが。


 「休み時間はここまでの往復を考えると暇が無いし、平日意外だと如何せん寮から少し遠いからな」

 「ああ」


 因みに、一般寮も待遇寮も別の建屋だが、エリア的には同じである。


 「・・まさか『分水塔』ってコレの事か?」


 レンガロードの横にある噴水を少し見て考える。

 噴水というには確かに中心の凸加減がかなり微妙ではある。


 「そうだ。噴水というには『こう、なんか違う・・・』となるコレを俺たちは代々分水塔と呼んでいるそうだ」

 「伝統なのか・・」


 なんとも残念な伝統である。少し面白いが。

 近づき、試しに少し覗き込んでみる。


 「ふーん、水は結構キレイなんだな」

 「ああ飲んでも大丈夫らしいぞ?自己責任だが」

 「・・他の場所は?」


 少しの間、水中に視線を固定して観察。すぐに体制を戻し案内の続きを促す。


 「ある。だが、セーヒがまだだ」

 「そういえば」


 その後、セーヒと合流した後、旧校舎の方や倉庫建屋等をエピソードや説明を交えながら案内してもらった。

 

 

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