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 王国スヤーイ・ドヴァイ。

 北東、南東、南西、北西の四大陸の内、南東の大陸「クアリビア」の南西部に位置するこの国は、クアリビアの5分の1の割合を占める大国家である。

 君主制のこの国では、国民は主に王族、貴族、平民の3つに分けられる。

 そして、『四大属性貴族』と呼ばれる貴族の中でも最も高位に位置する貴族が存在する。


 火のアイロワ家

 水のフェシーヌ家

 風のクリグナ家

 土のボーニエ家


 それぞれ魔法の基本属性と呼ばれる火、水、風、土。それぞれに高い適正を持った貴族であり、特定の部分であれば、王の次に権力を持っていると言っても過言ではない。





 テクシネル学園

 スヤーイ・ドヴァイ一の教育機関であり、中等部から高等部までの、王都に存在するエリート養成機関。

 王都はもちろん、片田舎の辺境まで、国のあちこちから将来を有望視された少年少女達が集い、しのぎを削り、互いに力を高め合っている。
























 キーンコーンカーンコーン


 「皆さんおはようございます。既に知っている方もいらっしゃるかもしれませんが、本日よりこのクラスに編入生がやってきます」


 ザワザワ


 ・・ドア越しでも結構聞こえるなぁ。薄いんとちゃいます?このドア。

 眼の前の二年Bクラスの教室のドアにしかめっ面を向けつつ、軽く一呼吸。

 何しろ、これから生きていく集団とのファーストコンタクトだ。緊張も懸念もする。


 「では、入ってきてくださーい」


 教室から担任の女教師、ケイムス=オールアイム先生(先程自己紹介された)の声がかかる。

 いざ。


 ガララ


 ドアを開ける。目線はまっすぐ。そのままドアを閉め、教師のいる教卓の方へ歩く。顔や目線はあまり動かさず自然に黒板の前に進む。


 (ふぅ、どうやら最大の壁は乗り越えられたようだ)


 最大の懸念だった観察眼や解析技術は大して感じられない。無論、これで完全にという訳ではないが、一番の緊張はこれで溶けた。

 黒板に自分の名前を書き、後ろ・・つまり生徒全員の方へと向き直る。


 「カイナという。ご覧の通り平民出身で、魔法はあまり得意では無いが、一応Aランカーの冒険者をやらせてもらってる。これからいろいろとよろしく頼む」


 ザワ


 ざわめきを聞きながら、軽く頭を下げる。


 「はい宜しくお願いしますね。カイナ君の席はそこの端の席になります」


 こちらから見て、左側の真ん中列より少し後ろの方の空席を指された。

 言われたとおりの席に着き、学生鞄を横に置く。


 「それではホームルームを終わります。皆さん今日も良き一日を~」


 礼の号令で一礼。オールアイム先生はそのまま教室を出ていった。

 一限目の授業まで時間があるのだろう。皆好き好きに回りと喋りだした。そして、


 「よっ後ろさん!今日からよろしくな!」

 「おーよろしく」


 前の席に座る赤髪の男子生徒が振り向いて来た。


 「おれの名前はセーヒ=クロネット。まぁぶっちゃけ貧乏下級貴族だからセーヒで良いぜ」

 「セーヒか、覚えた。カイナだ、色々と世話になると思う」

 「おぉどんどん聞いてくれ!その代わりといっちゃなんだが・・・」

 「ん?」

 「授業中、おれが寝てる時に指された時は起こしてくんね?」

 「・・」


 会話とは不思議なもので、ある程度言葉を交わすと性格が見えてくるものだ。


 「な?」

 「ふむ、1ポイントに付き1回起こそう」

 「ポイント?」

 「世話になった内容によってポイントが獲得出来ます」

 「ハハッ、オーケーそれで頼むぜ」

 「カイナ・・・君?」

 「「ん?」」


 セーヒと話していると横から声がかかった。真横に一人の女生徒が立っていた。


 「はじめまして。私はリーラ・カルイスト、このクラスの代表者をやらせてもらってるわ」


 肩にかかる程度に揃えられた橙色の髪をした美少女だった。

 つか、カルイストかい。確か名門貴族だったはず。


 「カイナだ、これからよろしく頼む」

 「ええ宜しく。困ったことがあったらなんでも言って。特にクラスの事なら是非私に」

 「ああ、そうさせてもらおう」


 その後すぐにチャイムが鳴った。

 他にいくつかの視線を感じていたが、無視して席に座ったまま授業を受けた。

 無闇矢鱈に接触するのは、あまり良ろしく無いからな。


























 「んでセーヒ、早速なんだが今日時間取れるか?」

 「ん?」


 一限終了後の休み時間。すぐに前の席のセーヒに声を掛ける。


 「出来れば学校の案内を頼みたいんだが」

 「あぁ別に構わないぞ。でもあれ?編入生って校内案内とか無いのか?」

 「直接の案内はなかったな。まぁ資料を見せられながら一通り説明は受けたが」

 「へ~、結構ぞんざいなんだな。おれは中等部からのエスカレーター組だけど入学日にはちゃんと案内あったぞ」

 「まぁ態々一人に対してそこまではしないんだろうな。てことで案内を頼む。説明で、基本的な知識面はあるから一からは教えなくていい」

 「あいよ、わかった。昼休みでいいか?」

 「ああ助かる」


 そんなこんなでチャイムが鳴る。二限目の開始だ。

 てか休み時間短いなぁ。もうちょいゆっくりしたい。事実、回りの生徒達も朝ほどおしゃべりに余裕は無い様に見える。

 実際授業時間は長い。二時間の授業に対して十分の休憩は少々辛い。マジでトイレ行って少し休む程度しか出来そうにない。

 休憩時間での行動は難しそうだな。



























 「ロッサ=ベルテナカントだ」


 セーヒに案内された食堂での昼食。大人数が利用しているためすごい喧騒だ。

 空いている席に座り、そこでもう一人の男子生徒と自己紹介することとなった。


 「カイナです。よろしく」

 「あぁ宜しく。それと敬語は要らない、呼び方もロッサで良い」

 「うし、挨拶は済んだな。カイナ、ロッサは教室は違うが中等部からのおれのダチなんだ。ロッサ、さっき話したと思うが、今日編入してきたカイナだ。おれの後ろの席でなんとAランカー冒険者」

 「ほう」


 セーヒと同じくらいの短髪の緑髪でメガネをした男子、ロッサが興味深そうに見つめてくる。


 「編入と聞くから、何かあるとは思っていたが・・・なるほどAランカーか。合同実技が楽しみだな」

 「だよなー。ここ編入って結構レベル高いしな」

 「あんまり無駄に期待されても困るんだが・・」

 「失礼だったらすまないが、ギルドカードを見せて貰う事は可能か?」

 「ん?あぁ」


 魔力を手に集中し、何も持っていない手からカードを喚び出す。

 二人が先程よりも乗り出し気味に食い付く。


 「おぉ!すっげ!マジでA以上ってカードが魔力物質に変わるんだ!」

 「カード表記もAランク。初めてみたな・・・当たり前だが」


 ギルドカードは、ランクがAランク以上になるとこうして魔力によって構成される物になり、本人自体にカードそのものと記載情報が保存される形となる。

 因みにギルドにおけるランクは下からG,F,E-,E,D3,D2,D1,C,C+,B,B+,A,AA,S,SSとなる。詳しくは追々。


 「なぁ、どうやってAランクになったんだ?」

 「どうやって?」

 「どのようなクエストややり方で、という意味だろう。悪いな言語能力が猿並な奴で」

 「うっせーわ!」

 「どうっつか、まぁ、俺はそもそも冒険者主体だったし。つかそっちはギルドで登録は?」

 「もちろんしている」

 「おう、おれもロッサもD1ランクだ」

 「へぇ、すごいな」


 ギルドへの登録は誰でも出来る。それこそ平民はもちろん、国に努めている騎士や貴族、果ては国によっては王族まで可能だ。

 そんな中、冒険者にもいくつかパターンが出来る。

 まず俺のような冒険者主体の者。これはクエストをこなして行くことで日々の食い扶持を賄っている者のことだ。

 次に副業として冒険者をしている者。これは商人や職人等、物の仕入れ等営業に直接関係する業務をメインにクエストをこなしている者のことだ。

 そして、片手間に冒険者をやる者。これは貴族や騎士等に多い。腕試しや訓練、小遣い稼ぎ等、余す時間を有効に活用するためにクエストをする者のことだ。

 ランク上昇のためには様々なクエストをクリアする必要がある。それこそ一週間近く遠出するようなものも含めてだ。

 必然的に冒険者主体の者の方がランクは高くなりやすく、逆は難しい。特に貴族等が片手間にやるようなものだと、ランクはせいぜいD3からD2止まりになる。求められる強さとかそういう問題じゃなく、単純にクエストの内容やクリア数の問題なのだ。


 「Aランカーに言われると嫌味にしか聞こえないな」

 「おれたちクエストはそこそこ前からやってるからな」

 「・・そうなのか?」


 セーヒは先程下級貴族と言っていた。そしてベルテナカントという聞き覚えのある名前。

 俺は思わずロッサを、正確には彼の頭部を見る。


 「ん?あぁ、ご想像の通り、ロッサはおれと違って結構しっかりしたとこの貴族だ。三男だけどな」

 「三男?」

 「ああ、三男だ。おかげで家督相続はほぼ無い」


 なるほど、そういうことか。

 この国の貴族は金髪や緑髪、桃色等の髪色が多い。平民の場合は黒や青、銀等の色が多くなる。

 予想通りロッサもそこそこな貴族の血筋だった。

 しかし、いくら権力のある家に生まれてもそれを相続、あるいわその恩恵にあやかる事が出来なければ意味は薄い。それどころか大きな権力を持てばそれだけ争いの火種には事欠かないという事でもある。特に後継者以外の後継者候補等は最たる例だろう。


 「おれもド田舎の貧乏貴族だからなぁ。畑仕事とか普通にしてたし、ガキの頃から体力着くような生活してたんだ。ギルドに登録してクエストもソレくらいから普通にやってた」

 「俺も似たようなものだ。早いうちからどうなるかわかっていたし、家もちゃんと援助してくれていた。早い段階でギルドに登録したんだ、相続関係の教育が丸々冒険者業になっていた」

 「なるほどな。まぁ俺も冒険者本筋で、色んな所に行きたくて高難易度なクエストにも結構進んで挑んでたからな。そこら辺のおかげだ」

 「お、そうだ。今度一緒にクエストとかどうよ?親睦会も含めてさ」

 「別に構わんが」

 「Aランカーに同行してもらえるのは中々の経験だな。是非頼む」

 「ああ時間が合った時にな」


 会話しつつも男子というべきか、すぐに食べ終わる。

 各自、飲み物を飲みながら食後をゆったりしていると、セーヒが思い出したかのように口を開ける。


 「んで案内だけど、どーゆーのから見たいとか、なんか希望ある?」

 「ん?案内?」

 「ああ、カイナに学園の案内を頼まれてんだ」

 「資料を渡されて口頭説明しかなかったからな」

 「ほう、いつだ」

 「この後だな」

 「急だな」

 「学校内の事だしな。早いうちに理解しておきたい」

 「ふむ。それもそうか」

 「ロッサも来るか?」


 セーヒの問いに、ロッサは寸刻考え一つ頷いた。


 「そうだな。特に用事もないし、一緒に行こう」

 「助かる。正直コイツだけの意見だと信憑性に欠ける気がしていた」

 「どういう意味だそりゃ!」

 「無理もないな」

 「お前らヒドくね!?」


 なにはともあれ、校内案内をしてもらう事となった。

 がしかし、さすがに一日では案内しきれず、また後日という事になった。


























 「魔法実技ねぇ~」


 昼休みが終わり、3時限目の授業。魔法を主に使用する戦闘訓練、だそうだ。

 専用の服に着替え、野外にある演習グランドに出ている。

 回りを見渡せば、少し離れた場所から魔法を打ち合う模擬戦や、指定の場所から置かれた的を狙った魔法射撃訓練を皆行っている。


 「で、俺は編入初日だから魔力測定からですか」

 「はい」


 目の前には、他の女生徒同様にブルマ姿のオールアイム先生が水晶片手にニコニコ笑顔で立っている。なんで教師もブルマなんだよ・・・・・・・・・・おぉエロい、役得役得。


 「一応、編入時に魔力測定は済ませたはずなんすけど」

 「それは最大魔力値と適応属性だけでーす。ウチは実技も通して生徒個人の補助教育も行っていますから、他にも色々と調べるんですよ」

 「色々、ですか・・」

 「はいー。得意魔法や使用レベル、魔力の最大値から消費、回復速度等々、色々です」

 「・・・・・・・・・・・・チッ」


 思わず小さく舌打ちが漏れる。

 一応予測というか、決めていた内容はあるが、どちらにせよ調べられるのは面倒臭い事この上ない。

 先々がやりづらいなぁ・・。


 「ではまずは、この水晶に手を置いて魔力を流して見てください。あ、先に身体全体に満たしてからお願いしますね」

 「はい」


 右手を置き、魔力を出す。

 すぐに薄白い魔力光が体から出ると共に、水晶も中心の方が白く輝く。


 「ふ~む。無属性、魔力量は並、と。これは編入時と変わりありませんね」

 「変わるわけないでしょ、魔力量はともかく、適応属性は生涯そのまま。その魔力量だって長い年月努力を重ねてやっと伸びる程度のもの。それくらい俺ですら知ってますよ」

 「ですが、魔力の伝達速度には目を見張るものがありますねぇ。水晶に触れてから反応まで一秒もかかっていませんでしたから」

 「・・」

 「全身の魔力光からも、魔力の巡りが比較的均一である事が伺えます。魔力制御に長けているのでしょう、以後これを長所として伸ばしていきましょうー」


 内心、そんなとこまで見られるのかと思い軽く冷や汗ものだったが、なんとか怪しまれずに済んだらしい。


 「さぁ、他にもどんどん見せてもらいますよ~、Aランカーの生徒を持てるなんてそうそう無いですからね!」

 「まぁ・・お手柔らかに」


 その後もいくつか魔法を使わされたり、質問されたりで授業いっぱい測定につき合わされた。


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