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 「はてさて、着きましたるわ我が故郷!クアリビア大陸一の王国!スヤーイ・ドヴァイ!!」

 「ますたー、うるさい、まわりめいわく、しゃらっぷ」

 「・・はい」


 ここまで来た護衛クエストの完了を報告し、ギルドの建物から出るな否や両手を腰に当て声を張る。当然の如く通行人には不審な目で見られ、横にいる褐色少女からは釘を刺された。


 「つーか予定よりはよ来すぎたなぁ」

 「?」

 「いや学園の編入日まで後少しあるんだよ」

 「へー」


 寮制の学園に入るため、多少の荷物はそっちに手配してあるし、始めからそっちで寝泊まりするつもりだったのだ。さて、どうしたものか。


 「とりま宿の確保だな。行くぞビー」

 「ん」


 テクテクと俺の左斜め後ろをついてくる身長150センチも無いチビっ子。俺の相ぼ・・・いや奴隷のビーだ。一年ちょっととそこそこ長い付き合いになる」

 「どれい、ちがう、びぃ、ほむんくるす、つかいま」

 「どっちも似たようなもんだろ?てか俺声に出してた?」

 「ぜんぜちがう、ますたー、あほ」

 「主に向かってアホとはなんだアホとは」

 「ていのう」

 「その口縫い合わすぞ」

 「ぱんつ、ぬいで、おかされたー、てさわムグムグ」

 「ハイちょっと黙ろうねー。普通に周りに聞こえるボリュームで言いやがってこの野郎」


 ザワザワと回りが騒がしい。近くの女性を見れば騎士を呼ぼうとしている。勘弁。


 「チッ」


 しゃーねーなー。

 そのまま押さえているビーを抱き上げ、走る。


 「ますたー、だいたん、・・・ぽ」

 「ちったぁ故郷を懐かしむ暇くらい与えてくれませんかねぇ!?」


 一人の全力疾走中の少年の叫びが街の喧騒に飲まれていった。





























 「うぉー、なんと綺麗な街並み!懐かしい!訳でもねぇか」


 テンションが上がっていたが、よくよく思い返すと、基本軟禁されていた俺に街並の記憶などあろうはずもない、普通に初見だった。


 「故郷とは名ばかりのなんちゅー肩透かし・・まぁ端から昔を懐かしむつもりも無いわけだが」


 それでも目を輝かせ、周囲をキョロキョロ。


 「ますたー、こどもみたい、はずかしい」


 そう言いつつも、ビーもキョロキョロ。

 二人で、宿屋に着くまで終始、そんな観光客、田舎からの御上りさん丸出しな雰囲気で街の地形配置を頭に叩き込むのだった。


 「二人一部屋で五日。食事はどうなってる?」

 「料金追加で朝食付きに出来る。昼と夜は自分らで賄ってくんな」


 簡素で良さげな宿屋を見つけ、提示された金額を払い、部屋鍵を貰う。

 そのまま案内された二階の部屋に入る。


 「ふぃー、やっと着いたな」

 「ん、ばしゃ、もういや、おしり、いたい」

 「そりゃ護衛中殆ど座ってりゃ尻も痛くなるでしょうよ」

 「たいへん、だった、かんしゃ、すべし」

 「その間歩きづめだった主に言うセリフかそれ?」


 互いに言い合いながら、部屋に入った途端に部屋を物色し始める。ベッドの下、窓縁、床と天井の角など隅から隅まで俺が確認している間、ビーは机の抽斗、椅子などの小物から、ベッドや机の装飾や模様に至るまで見て、触れて確認する。

 それはそうと護衛クエストでは、基本的に数人が馬車の回りを歩き付いて行きながら、他は馬車の荷台なりなんなりで休憩し、一定時間ごとに交代するものだ。

 俺も同じパーティーのビーとは交代でやれば良いのだが、如何せんコイツはチビ。馬車と平行して進むには、歩幅の大きい大の男の歩きと同じ徒歩速度が必要になるのだ。俺ですら早歩きしなければ少しずつ距離を離されてしまう。

 よって護衛中の殆どは、俺が外で警戒、ビーは荷台待機となっていた。

 まぁそれくらいで何かある体力はしていないし、複数のパーティー合同でのクエストだったためそこまで負担にはなっていないが、やはり心情的には納得行きづらい処もあるのだ。


 会話を途切れさせること無く物色は続き、俺が壁に手と耳を当て、すべての確認が終わった所で会話がポツリと途絶える。


 「・・特に問題はないみたいだな」

 「ん、おーるぐりーん」


 ぐっ、と親指を立てるビー。


 「・・愚者ニーズヘクスのやつ、人のモンに変な言葉教えやがって・・」


 たしか『正常』とかそんな意味と言っていた気がする。


 「まぁいい、少し休んだら外へ出るぞ。飯時だし腹が減った」

 「ん、おしごと、も」

 「あぁ」


 やれやれ。

 ゆっくり気ままに観光、なんて出来るのは当分先になりそうだった。



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