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 「ハァ・・・・・・・・・ハァ・・・・・・・・・・」


 ザ―――― ゴロゴロゴロゴロ


 大粒の雨が木々の葉っぱを、地面の土砂を、自分の体を叩く音に混じり、遥か高くに感じる空の向こうから聞こえる雷の音。

 ドクドクとうるさいくらいに体中に響く心臓の鼓動。

 朦朧とした意識の中、地面の冷たさを感じながら、それらの雑音をただ聞いていた。


 「ふぅむ」


 と、雑音に混じりナニカが聞こえた。いや、聞こえたというより感じたという方が正しいか。既に聴覚を含め身体の機能は満足に使えるものではなかった。

 顔をどうにか数ミリ動かし、目の端をそちらに向ける。


 「・・・・・・フム。いい目をしている」


 ハッキリと聞こえた。別段大きい声というわけでもなかったにも関わらず、その声は何故かハッキリと耳で聞き取れた。





















 ――――い


 ―――おぃ―――


 おい!起きろ!


 「んむ?」

 「寝てんな、出番だ」

 「ん・・ふわあぁぁ」


 イカンイカン、ついウトウトしていた。仕事中なのに、反省反省。


 「おぅワリ。で?」

 「ったく、こっちだ」


 満足な明かりもない部屋。

 座っていた椅子から腰を上げ、目の前の黒髪短髪な男に付いていく。

 今は真夜中も真夜中、丑三つ時程には深夜だ。おかげで今歩いている廊下など、月明かりで照らされている箇所以外は真っ暗で何も見えない。


 「は~ん、どうしてこう貴族ってのは芸術に金をかけるかねー」


 そんな暗い中でも、廊下のあちこちに飾られている装飾品や絵画、壺等を流し見ながらボヤく。


 「・・・」

 「・・どうしてこう貴族ってのは芸術に金をかける金ー」

 「・・・」

 「・・どうしてこう貴族ってのは芸術に金をかける金」

 「・・・」

 「・・どうしてこう貴族ってのは芸術に金をかける金」

 「・・・」

 「・・金とかねーを掛けてるんだよ?」

 「わかっとるわっ!!三回も繰り返すことかっ!?」

 「無視するからぁ」

 「問答に値する内容じゃなかったからだ」

 「おー手厳し、でどうだった?」

 「使用人、警護していた騎士、全員始末した」

 「どんくらいいたか聞いたんだが」

 「あー、四十人くらいじゃないか?」

 「さっすが『刃将デザイア』、後で回収しとこー」

 「それは良いが本命を忘れるなよ?」

 「わかってるって」


 話しながら目的の場へと着く。

 他のものとは明らかに違う造りの扉縁の大きな扉だった。

 扉を開け、黒髪の男の後に続いて中に入る。

 中では、寝間着姿の金髪の男一人が、抜き身の剣を持った男達数人に囲まれている状況だった。


 「ご苦労だった」

 「おいーす」


 ひと声かけられた男達は剣を下ろし、部屋から出ていった。まるで元から見張りだけが目的だったかのようだった。


 「貴様ら、一体どこの者だ!?こんなことをして只で済むと「黙れ」」


 チャキン


 軽く高い金属音が響いた。

 まぁ何のことはない。この目の前にいる刃将が、腰に下げている剣を抜いて、また鞘に戻しただけだ。


 ポトリ


 「ひぃぎぃやあぁぁぁ!!」


 金髪の男の右耳が落ちた。右頭部を両手で多いながら蹲る。


 「おーい、あんま傷つけんなよ」

 「どうせ耳はいらんだろ」

 「いらなくねーよ、ちゃんと”欠損無く”って伝えただろーが!コレは戦闘用じゃなくて偽装用なんだよ!」

 「・・・・マジ?」

 「マジ」

 「・・・・すまん」

 「はぁ。まぁ良いけどよ」


 ヤレヤレ

 ため息を吐き蹲ってる男に近づく。


 「つー訳で死んでもらう訳だが、まぁ安心してくれ。アンタは死んでも、その死体は動き続ける。俺の力で永遠にな、悪い話じゃなかろう?家族も友人も悲しませることなく、極々自然に、特に犠牲も無く、俺たちの望み通りに動いてもらうんだからな」

 「や、やめ」


 俺たちってなんてヤサシイんだろーなー。

 金髪の男の頭を鷲掴み、黒色の魔力光が迸る。


 「まぁ奥さんも娘さんも、遠からずそっちに行くだろうから先に行って待ってなって」





















 「相変わらず奇妙な技を使う」

 「あ?」


 要が済んで、部屋から出ると刃将が話しかけてくる。


 「さっきのか?」

 「ああ、魔力振動による脳内破壊・・・だったか?聞いたこともないぞ」

 「そりゃ自作だからな、つっても俺もレイダーのアニキからパクっただけだが」

 「紋章師クレストメイカーか、態々面倒な事をするもんだ」

 「俺の場合、死体は外傷が少ない方が良いからな。お前みたいに何でもかんでも剣で切るようなやり方は良ろしく無いんだよ」


 出口に向かって歩きながら話す。途中、コイツに斬られた騎士と思しき死体がチラホラ見える。忘れずに回収・・しておく。


 「で、カイナお前はこれからどうするんだ?」

 「ん?俺?俺は確かー・・南下しつついくつか対象を回収して、後は・・」


 無意識に言葉が途切れる。


 「・・まぁ、故郷・・で学生生活だな」


 ニヤリと顔が緩む。


 「学生?お前も”愚者ニーズヘクス”と同じタイプの任務か?」

 「んー、似たようなもんだけど・・ちょい違う。まぁ潜伏するのは一緒だけど」

 「そうか・・・・俺はこの後準備が整い次第、西のへローテ大陸に行く。その後は北の方だ」

 「ふーん。じゃあ直接合うのはしばらく先になりそうだな。俺も隠密主体になりそうだし」

 「ああ」


 外へと出た。

 丁度月が雲に隠れているのか、周囲は暗闇。涼しい夜風が心地良い。


 「んじゃあお疲れさん。後掃除はしとくから準備とやらに行っていいぞ」

 「悪いな」

 「これも仕事だ」

 「そうだな。じゃあ」

 「おう、オタッシャで~」


 手を降って刃将の背中を見送る。姿が見えなくなるまで幾分か待つ。


 「・・北っつたらテトソロビスだよなぁ、多分」


 この世界には4つの大きな大陸が四角形を描くように位置している。北側の大陸は2つ、内一つは4つの大陸中最大の面積を持つテトソロビス大陸。もう一つは最小の大陸。それぞれ面積に応じた国々がある。必然的に人も多くなり、強者も多くなる。


 「・・死ぬなよ」


 友であり、同士である男に、祈りに近い激励を送りながら、周囲を見回す。丁度月が雲から顔を覗かせていた。


 「さて、一仕事しますか」


 月の光りを反射する銀髪の頭を掻きながら、気合を入れた。

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