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「私、未来から来ました」って人が目の前に現れたけど、テレビの企画じゃないらしい。

作者: 三倉えりか

◆あきら


-今、信じられない出来事が目の前で起きた。


この喫茶店にはよく来ている。

窓際の席でなんとなくボーっとしたり、小説を読んだり、資格取得の勉強をしたりと、なにかとここには足を運んでしまう。

窓の外を見下ろすと、せわしなく車は行き交い

歩道には、桜もすっかり散ってしまいいつの間にと言いたくなる程鮮やかな緑がよく茂った木々が行儀良く並んでいる。

ベビーカーを押す若い女性は通り過ぎ、向かいからはスーツ姿の男性、その他にも途切れることなく様々な人が行き交う姿をなんとなく眺めていた。


そろそろ彼女も来る頃かな?とアイスコーヒーの二口目を飲んでから、店の時計に目をやると14:00の5分前を指していた。


(あれ?さっきも13:55じゃなかったっけ)


そう、アイスコーヒーが届いた時にすぐ一口飲んで僕は窓の外をぼんやり眺めていた。

そして汗をかいたグラスで現に僕の手が濡れているのだから5分くらいは経っているはずだった。

が、開いた手の平にもグラスにも水滴ひとつ付いていなかった。


ドタドタ!!!!!



「はあ!間に合った!!!」


音に驚き店の階段に目をやると、ドタドタと上って来たその人は、なんの躊躇(ためら)いもなく、しかし息を切らせながら僕の目の前に座った。



「あの、」

声をかけようとしたその時

目の前の女性は言った。


「私、未来から来ました」



(この人は何を言っているのだろうか)


目の前の女性があまりにも普通に、そしてぐ僕を見つめている。

なにか緊張しているようにも、思い詰めているようにみえたその顔は、なにかを覚悟したような瞬間の後

にっこりと笑った。


「私、未来から来たんですよ。

驚かないんですか?」


驚くもなにも、変な女が現れたとしか表現が出来ない。とは言えない。


「これって、あのテレビの企画ですか?

信じる?信じない?みたいな。

本当に申し訳ないんですけど、僕そうゆうの引っかからないんで…。

他の人でやっていただいた方がいいかと。」


自分でもなんて夢のない、そして冷めた言い方なんだ。と思った。

いや、言い方というより、僕はそうゆう奴なんだ。

もっと感動や喜びを表に出せたらと感じることが、何度あったか数え切れない。



しかし、その女はニヤニヤしながら

そう、笑いを堪えるように僕のクソみたいな言葉聞いた後

ふっ、と笑ってこう言った。


「そう言われると思ってました。

信じられないのはよくわかります。

でもほら、今この瞬間私とあなたの時間しか動いていないんです。

わかりますか?」


確かに、店の時計もスマホも止まったまま。

この2階席は僕の意図いとはないが貸切になっていたため客はいない。しかしアイスコーヒーが乗っていたトレーを脇に抱える店員が、僕に背を向けて今にも歩き出しそうにしている。

さて、このマネキンのように硬直した店員は芝居をしていると思うことにする。

頭を必死に回転させて。いや、全く上手くまわらないが

ありとあらゆる脳内の引き出しを引っ掻き回した。

この異様な雰囲気を感じていないフリをするのに精一杯だった。

僕が窓の外に目をやるのには、時間が必要だった。

そう。怖かったのだ。

もし、そう、もし。

外にいる人たちが、車が止まって見えたりしたら…


いや、それくらいならこの店員のようにエキストラやらなんやらで誤魔化ごまかしも効くか。

もし…もしもそんなことが起きていたら、こんなリアクションしか出来ない僕の為に手の込んだ演出をしてくれたものだと感謝の気持ちを伝えつつ、もう一度謝ろう。


そんなどうしようもないことを決意してから、ようやく窓の外に目を向けた。



「ああ、凄いな。」


思わず口に出していた。

まさか、と思った。

そんなにお金かけてまで…

この企画の予算はどれくらいなのか、聞いたら教えてくれるかな?

なんて考えていたら、あることに気が付いた。


「これは僕としては過去に戻ってる、ってことになるんですよね?」



「さっすがですね!!

そんなところに気付く人なかなかいませんよ〜」


その女は、またしても笑いを堪えたやけにニヤニヤした表情をしていた。



平然をよそおい、物分かりのいい男を演じてはみたが

なんとなく見透かされたような気がして、ふと目を逸らしたつもりが窓の外に視線は落ちていた。

しまった、と思ったが時既に遅し。


未だにベビーカーの女性は動かないままだし、自由に空を飛ぶ鳥や風にそよいでいるはずの木々たちすらも止まったままなのだから。

この信じられない状況が現実だと受け入れられなくて暴れ回る僕の脳みそに、観念しろと言わんばかりに突きつけられる光景がそこにはあった。



「未来から過去に来る時、微妙な歪みが生じて

こっちの世界が5分くらい戻っちゃうんですよね。

でも間に合って本当に良かったです。」



そうゆうものなのか。

やけにすんなり受け入れていた。

それよりも、なにに間に合ったと言うのか。

僕は14:00に彼女と待ち合わせをしている。

話があると言われているので、そのことだろう。

なにかを伝えに来た未来の娘、いや科学的に考えて早すぎる。

あのアニメだと孫の孫だから、最短でも孫…くらいか。


目の前の女性はスッという音をさせてから、こう言った。



「14:00を少し過ぎたころ、あなたの彼女が現れます。

大事な話があると言われてますよね。

…今あなたの恋人は妊娠しています。でも今ならまだ間に合うの。何が言いたいかわかる?」



大事な話、と言われていただろうか。

僕は話がある、と言われただけだと思っていた。

だから僕の中では、別れ話が有力視されていた。

大事な話と言われていれば、妊娠についてだと予想出来ていたはずなのに。

と自分の予想が外れたことへの、誰に向けてかさっぱりわからないしょうもない言い訳を考えているうちに、肝心の質問について

ただ黙っている、全く予想が付かないよといった男にしか見えなかったようだ。


彼女は、眉を少し寄せてから続けて言った。



「そしてあなたの恋人は、自ら妊娠していると告げますが、あなたは中絶を前提として話を進めてください。」



驚いた。

もちろん、妊娠についてではない。

さっきも言ったが、一応察さっしはついていたからだ。

中絶…。考えないではなかったが、それしか考えていなかったわけでもない。


彼女はまだ若い。

ついこの間艶あでやかな振袖姿の彼女と、小洒落こじゃれた店でシャンパンで乾杯したばかりだ。

こなれたフリがバレないかとヒヤヒヤしながら、我ながらキザな演出をしたものだ。

今になって思えば、着替えくらいさせてやれば良かった。

パーティドレスの方が食べやすいし、なによりあんなに目立たなかっただろう。

あれじゃあ、新成人を連れ回しているのがバレバレだった。

ああ、あれから3ヶ月以上も経っているから〝ついこの間〟というと年寄り臭くなるかな。なんて思っている僕はというと2年浪人した後、やっとのおもいで東大に入り

院を出てから、働き始めてまだ2年。

年の割に社会人としてはまだペーペーぺーである。

が、今後の収入や生活に不安はなかった。

周りもぼちぼち家庭を持ち始めてはいた。

まだ早い気がしないではないが、父親になるのも悪くはないのかな…なんて思ったりしていたからだ。


それなのに、なぜ中絶を進められているのだろうか。

障害児だから、とでも言い出すのだろうか。

それか、その子が生まれると困る誰かがいる。

考えても考えても拉致があかない。


「そうすると、つまり、あなたは私の孫…とかではないということですか?」



手の平をこちらに向けて、口をかくすようにその女は笑った。

その仕草しぐさは高らかに笑えば高飛車たかびしゃに見えるが、目の前にいるその人は伏し目がちに歯を見せて笑った。


「そんなわけないじゃないですか。

まあそれはよくある話なんで無理もないですけどね。

私は、2040年からタイムスリップして来ました。リューシュンって呼んでください。」



2040年。22年先か。

思いの外近い未来なことが衝撃的だった。

22世紀になる前にそんなことが出来るようになるなんて。


「君は中国人か何かなの?」


日本ではあまりに聞きなれない名前なので、気になってしまった。


彼女はまた笑ったが、今度はアハッと口を少し開けた。


「違いますよ。由緒代々《ゆいしょだいだい》ジャパニーズですよ!多分。

これは、まああだ名みたいなもんです。

ほら、そんなに遠い未来から来てる訳じゃないから、今後実際に会ってしまう可能性があるじゃないですか。

その時、あの時の!ってなったらダメなんです。」


意味がよくわからなかった。

2040年にいる僕が、今目の前にいるリューシュンと名乗るこの人に会ったその時に僕は気付いてはならない、リューシュンは気付かれてはならないということか。


「2040年にタイムスリップが出来るのは、実は極一部の研究者だけなんです。

なので、この事実は決して公には絶対しないでくださいね。

いくら親しい人にでも、絶対にダメです。

私は危険を冒しながらも、国の極秘任務であなたの目の前にこうして現れているのです。」


一体バレたらどうなってしまうのだろう。

いや、余計な好奇心で気軽に聞いていい話ではなさそうだ。

知らぬが仏。余計なことはしないに限る。


「では、あなたはなぜ私の目の前に現れたのですか?」


リューシュンとは呼べなかった。

もはや呼ぶ気配すら私の唇にはなかった。



「私は、あなたを救いに来ました。」


と、強い口調で放たれた言葉は

僕の頭の中をなんとなく通り過ぎた。


そして続きの言葉もそのまま、各駅停車の電車のようにゴトンゴトンとゆっくり、

たまに立ち止まりながら今度は僕の頭上をなんとなく通り過ぎた。


そのなんとなく通り過ぎたその話は、理解するのに少しばかり時間がかかったが要約するとこうだ。


なんと、この先私の身には次々と不幸な出来事が降りかかってくるらしい。

それも人並み外れた不幸具合だという。


人の一生で起こる不幸の相場は決まっているそうだ。

よく、良いことと悪いことは同じくらいだなんて聞くが

僕の場合、2弱:8強くらいの割合で

圧倒的に不幸が上回るらしい。


僕の今日までの人生で、そこまで不幸な出来事があったか?と聞かれたら

そうでもない、と答える気がする。


ごく普通の家庭で育ち、贅沢な暮らしではないものの、友人や彼女ともそれなりに楽しんできたのだ。


過去の僕がなけなしの2弱の幸福を味わっていたとすると、

未来の僕には8強の不幸が待っているということなのか。


不幸という言葉がゲシュタルト崩壊を始めた頃、

なにが幸せでなにが不幸か?

と開き直り始めたが、

そんなそもそも論はハエ叩きのようにぴしゃりとぺしゃんこになる程に通用しない、誰がどう見ても不幸なのだという。


誰がどう見ても不幸とは、一体どんなことか?


逆に幸福の象徴で考えるとわかりやすいだろう。


富、名声、名誉、健康、快楽、解放、安定、安心、友情、結婚、家庭、生などであろうか。


これら全てが崩壊していくのだという。


砂山のようにさらさらと崩れて壊されていくのだという。


「あなたは今の恋人と死に別れ、今彼女が身ごもっているその子は身体も動かせない、意思も表せない状態で生まれてきます。」




なるほど。

それで〝中絶〟の話に繋がるわけか。


なんでも、いずれは妻になる僕の恋人は妊娠9ヶ月の時に交通事故にあい亡くなるのだという。

そしてその事故の影響により、私たちの子どもは植物状態のようなまま生まれ、私はその子の育児とは呼べない介護に疲れ果て昼夜問わず働き倒したが自殺をしてしまうようだ。


僕が自殺?にわかには信じられなかったがとりあえずスルーすることにした。


その他にも様々な出来事ふこうを教えてくれた。


その不幸の全ての根源とは言い切れないが、つい最近宿った命を諦めることで最小限に収めることができるのではないか?


僕の人生を疲労と苦難なものから救うためには、それが最善のなのだとリューシュンは言った。


「では、あなたはなぜ私を救おうとしているのですか?」


「2030年ごろから、日本では全国的にうつ病などの精神疾患者や自殺者が急増していきます。

このままでは日本の人口は減る一方です。

その事態を重くみた政府が救済措置をこころみるようになります。

その1つの試みとして、兼ねてから研究が進められていたタイムスリップを利用しごく一部の人にしか適応されませんが、過去を変えるということが極秘で許されるようになりました。」


それで極秘任務なのか。

ようやく話が掴めてきた。

さて、ではいよいよ中絶について考えなくてはならない。


「では、なぜ妊娠が発覚した今あなたは現れたのですか?

なんなら3ヶ月くらい前に避妊をちゃんとするように、と忠告してくれても良かったのでは…」


僕が呆れるくらい甘えたことを言っていると気付いたのは、口から戯言たわごとという名の小さな僕が足早に出ていってしばらくしてからだった。

それはまるで、転んだ僕をなぐさめるよりも

転んでしまわないように僕の手をしっかり握っていてよ。と小さな子どもが言っているようだった。


リューシュンは少しだけ困った顔で笑いながら


「もちろん、そうすることも出来ましたけど…

まだ子どもも出来てないのに、その子は動けないし話もできないなんて言われても困りますよね?

そんなこと言ったら、あなたたちは一生子どもは作るなと言うことになり兼ねませんし、無事に健康体で生まれたとしても障害者や病気になる人もいる。

起きていない出来事に対して忠告したことで、石橋を叩きすぎて割れてしまうよりも

石橋が割れた後に、割れる前に戻してあげる方が賢明かと思ったのですが。」



全くその通りだと僕は恥ずかしく思った。


誰しもがいつどんなことが起きるかなんてわからない。


都市直下型地震が起きるかもしれないから、東京に行くのはやめよう。

ぶつかってくるかもしれないから、車の側は通らないでおこう。

市販品は身体に悪いから、自給自足で生活しよう。


そんな極論きょくろん、なかなか実行する人はいない。

いや、する必要なんてないのだ。

そんなことを気にしていたらキリがない。


それに、起きてしまえば意外と乗り越えられるものだ。

結婚する前に相手が不治の病だと知らされたら、少なからず誰しもがたじろぐだろう。

中には感動的な話もあるだろうが、大抵はそんな美談にはならないだろう。


だが、結婚してから発覚した場合どうだろう。

キリスト教式の結婚式では、病めるときも健やかなるときも愛し抜くと誓わされる。

もちろんその時は、病めるときが訪れることなんて微塵みじんも考えてはいない。

が、大抵は一緒にたたかわざるを得ないのではないだろうか。

それは情や周囲の目、見栄などもあるだろうが、ある程度の覚悟ができるような気がする。


話は戻るが、僕の場合は幸い

かもしれない論ではない。


確実に起こる不幸な未来を知ることが出来たのだ。



でも、正直なところ

僕の自殺や親族の不幸はかもしれない論でしかない。


ん?ちょっと待てよ。

危ない危ない。


「妻の交通事故を防ぐことはできないのですか?」


我ながらいい考えだと思った。

そうだ。事故さえ起きなければ、僕の恋人は死なずに済むし子どもだって普通に生まれるかもしれない。


そこまで考えて、僕はハッとした。



リューシュンは僕の表情を察したらしい。


「まず、前提として他人の行動は操れないんです。

自分の未来を知った人間、つまりあなたのことです。その人の行動などが変わることはいいんです。

しかし、あなたが例え出掛けるななどと言ったところであなたの奥様は車の事故にあうし、あなたのご両親が乗った飛行機が墜落することは変えられないのです。」


愕然がくぜんとした。

大切な人の死を知ってタイムリープを繰り返すが、全く助けることができず事態が悪化するばかり…という物語は

小説やドラマの話だからではなかった。


「更に、もし私があなたの恋人の元に現れて事故を防ぐことができたとしても、それは子どもが健康に育つ。あなたが自殺をしない。あなたの不幸や苦難を軽減できる、ということには直結しないんです。

かもしれない論でしかなくなってしまうので、国からの承認がおりないのです。すみません。」


リューシュンは、そのかもしれない論に私もかけてみたかった。とでもいうような顔をして、唇の内側を強く結んだ。



「僕の死因はなんですか?」



「あなたは10年以上もの間、まるで生きた人形のようなお子さんのお世話を毎日行い、治療費もばかになりませんから昼夜問わず働きづめで、肉体的にも精神的にも疲れ果てていました。

亡くなる直前会社で同僚に、もう疲れたよ。と言い残して帰宅途中線路に飛び込んで亡くなりました。

遺書はありませんでしたが、あなたの自殺の根源は、残念ながら、介護が必要なお子さんだと承認されたのです。」



まさか電車にかれて死ぬなんて。

日々心も身体も詰め放題のゆで卵のように押し潰される中で、

他人を巻き込んで死ぬのだけはやめてくれ。と何度叫んだことか知れない。

にも関わらず…。そんなことを考えていられない程に彼等は辛かったのだと始めて考えることができた。


「あの、我が子は障害児…ということなのでしょうか。」




「厳密に言えば、障害者とはいえません。まだ解明されていない病とでもいいましょうか。

病名がつけられない世界でもまれな症状なんです。」



それは、一体どういうことなのか。

障害者や難病者としての補助は受けられないが、介護が必要で…しかも僕が心身共に参ってしまう程の。

あまり想像がつかなかった。

身内の介護なんてしたこともなかったし、介護が大変だという話をする者も僕の周りにはいなかったからだ。


リューシュンは僕のポカンとした目を見つめて言った。


「今ピンときてないのはわかります。

自分の子どもの介護なんて、そんなに苦痛なものなのか。ヘルパーさんや看護師さんの手も借りて、やってやれないことはないのではないか。

本当に自殺の原因が我が子なのか。

そんなところですよね。」



この女はエスパーなのか、そう思った。

なんだか少しヤケになっていたのかもしれない。

どんな状態でも我が子は我が子。

自分が自殺しないために我が子を諦めろなんて…。

こんな綺麗事みたいなことを、僕が心から思っていることが信じられなかった。



そして、気付けばまた小さな僕はフラフラと口元からこぼれ出ていった。


「僕は、その子と生きていきます。」


リューシュンの左目からは涙がこぼれた。

その涙のすぐ後に右目からもこぼれた。

その涙はとても美しかった。



「あなたは何もわかってない。」


涙はあの一粒ずつしかこぼれなかった。


なんでわかってくれないの、という圧がキラリとした美しい目から怖い程に感じられた。



「無理もないですね。

急にこの先に起こる数々の不幸を聞かされて。そりゃあ混乱もしますよね。あなたが少しばかりヤケになるのもわかります。でも、成るように成れと思っているならそれは違う。

そんな生半可なまはんかな気持ちでできるようなことじゃないんです。

そんなこと言ってたって、疲れるに決まってるんです。辛いに決まってるんです。そんな状態で世話される人の身にもなってください。

やれないなら、後悔するなら、最初からやらない方がいいんです!」



彼女は、しまった。という顔をして、

つい感情的になって放った言葉が僕の心に火をともしてしまったのを悟った。



やらない後悔より、

やってから後悔する方がいい。


そんなありきたりな言葉が回転寿司の新幹線のようにシュッとあらわれた。



決まったレールの上に僕は乗ってしまっていると思い込んでいた。


先が見える人生なのだと。

結婚して子どもができて、家を買うなり車を買い替えるなどしながら、たまにゴルフや旅行をして、仕事を定年まで続けて、老後はそば打ち道具を集めてはみるが1日と持たず、後はなんとなく盆栽でもいじって、たまに来る孫と崩し将棋をする。



そんなわかりきった人生なのかと、うんざりしていた自分を羨やましく、そして恨めしくも思った。



まさか、自分にこんなにも波瀾万丈な人生が巻き起ころうとしているなんて。

ジェットコースターの序盤に登っていく感覚、カチカチとなる音を真っ暗闇で聞いているような気持ちだった。


僕は高所恐怖症な上に絶叫系の乗り物は大の苦手としていた。



「あなたの恋人は、子宮ガンを患っています。

でも今子宮を取り除けば…助かるかもしれないんです。」


最後の切り札のように彼女は言った。


「あなたの恋人は、事故にはあいます。でも、妊娠を継続していた彼女は母体よりも子どもを優先して欲しいと願ったために亡くなったのです。

なので、もし妊娠をしていない状態であれば…助かるかもしれないんです。」



そうなると話は別だ。とは、ならなかった。



そうまでして彼女が願ったのならば、

尚更。かもしれない、に引きずられるわけにいかないのだ。



驚く程僕の意思はかたくなだった。

なぜここまで思っているのか、自分でもよくわからなかった。



「要は、僕が自殺しなければいいんでしょ?」


謎に満ち溢れた自信がそこにはあった。

とはいえ、自殺する人のほとんどは

自分が自殺することになるなんて思いもしないんだろうけど。



「私は、あなたの行動を変えることを促すことはできても、気持ちを変えることはできない。

だから、あなたが自殺してしまう程の辛い気持ちを変えることはできないの。

それはつまり…その…」


さえぎるように僕は、大丈夫と言った。



「なんでよ…。」



彼女はうなだれていた。



◆あかり



父は私が15歳の時に亡くなった。


快速で通過する電車の運転席の目の前に、何かに絶望するようにホームから倒れ込んだらしい。



母は私を身ごもったまま交通事故にあいそのまま亡くなった。


相手は即死。

保険にも入っておらず、無職な上に天涯孤独。

目撃者もいないため一銭のお金も要求できなかったし、

母の保険はがん告知後にやっと入ったものなので、たいした保険金にならなかった。



更に父は、私が2歳の時に痴漢の冤罪で捕まった。

無罪にはなったが会社はクビになったらしい。


そこそこいい会社に勤めていた。

にも関わらず、その後は東大の院を卒業したような人が働いているなんて誰も思いもしないような寂れた工場で働いていたようだ。


世間の目は冷たいのだとか。



なぜ私の父にばかり、不幸な出来事ばかり起こるのか。

不運なんてもんじゃない。

不幸なのだ。


その他にもいっぱいある。


母の母、私の祖母は認知症で長年施設にいて、最近ではとうとう母のことも祖父のこともわからないようだ。

父のことに至っては、認知症の初期段階から足繁あししげく顔を出しているにも関わらず毎度罵声ばせいを浴びせられ追い返されているらしい。


私の目線の先に、ウェディングドレス姿の母と思われる人とタキシード姿の若かりし頃の父が笑っている。


お腹が大きくなる前にと、妊娠が発覚してすぐに撮ったらしい。


しかし、結婚式は出来なかった。

父の両親が式に参列するために乗った飛行機が墜落したのだ。



父は本当に不幸だ。


私はこうしてただ横たわっていることしか出来ないのだから。



私は生まれた時から自分で身体を動かすことも出来なければ、自分の意思を表すことすら出来ない。


つまり、植物状態なのだ。


ただ、ずっと眠ったままではない。


起きればまばたきもするし、涙も流す。


ただ、意思や感情に連動しているかどうか他人にはわからない。



脳や身体に特別な異常が確認出来ないらしい。



脳波については、誰も見たことのない動きを示しているらしいので機能しているのかいないのか全くわからないという。

身体については、麻痺や硬直があるでもないが褥瘡じょくそうが出来ないようにしなければならないし、リハビリで動かしたりマッサージをしてもらわなければ筋肉や関節の機能は低下する一方だ。


咀嚼そしゃくができないので、胃に直接管が繋がっているし、排泄もオムツ頼り。


また、意思を表すことが出来ない。と言ったが意思はあるのだ。


感情もあれば痛みもある。

耳も聞こえていれば目も見えている。


そう。

意識はしっかりあるにも関わらず、何も出来ないこの恐ろしい状況をご理解いただけただろうか。



昔、海外で「ゴースト・ボーイ」という本が話題になった。


植物状態から意識が戻ったにも関わらず、誰にも気付いてもらえないまま8年が過ぎたという男性の自伝だ。


閉じ込め症候群というらしい。

名前だけで恐ろしいが、私はそれ以上なのだ。


目線や瞬きですら相手に意思を表すことができない。



こんな私を毎日看続けていてくれた父が、ある日から突然目の前にあらわれなくなった。


父の、最後のいってきますの声を

私は、あの日に限って寝過ごしていて聞くことができなかった。



父は毎日挨拶あいさつをしてくれた。


いってきます。

ただいま。

おはよう。

おやすみ。

いただきます。

ごちそうさまでした。



父はいろんな話をしてくれた。


小さい頃は絵本だって読んでくれた。

私が10歳を過ぎた頃になると、仕事の愚痴ぐちも言うようになった。

私が12歳の頃には、母との出会いについて話し出したりもした。


ベッドに横たわる私を椅子に座らせ、ずり落ちないように固定をして、映画を観せてくれたりもした。



音楽や落語も聴かせてくれた。



外にも連れて行ってくれた。


動物園に水族館。美術館や博物館にも行った。


乗り物には乗れないが、遊園地や公園、ディズニーランドもシーも行った。


季節毎のイベント、花見や花火。紅葉こうようやイルミネーションも見せてくれた。


海でイルカに触ったりもした。


勉強や雑学も教えてくれた。


食事も、食べられないけど

味わうことも教えてくれた。


舌に乗っけてから、すぐ取り出すのだけど。

たまに意地悪もされた。

もしかしたら、私がリアクションするのではないかと梅干やレモン。

キムチや納豆なども試された。


残念なことに、私がその時どんな気持ちだったかは伝わっていない。



なんの反応もない私に、一生懸命話しかけていた。



ただ横たわっているだけなのに、私は一丁前に風邪をひいたりする。

少しなら咳もする。

でも激しくなってくると自分ではどうしようもなくなる。

痰は絡むし、胃液も上がってくる。



そんな時は看護師さんがすぐ来てくれる。

要看護・介護者向けのシェアハウスに私たちは住んでいる。

在中の看護師さんやヘルパーさんは定期的に様子を見に来てくれたり、身体の向きを変えたりマッサージやストレッチ、体拭き、爪切りや、ヘアカットもしてくれる。


そのため、父は私のことを気にしすぎることなく働けたようだが、明らかに働きすぎだった。


にも関わらず、仕事から帰って来るやいなや手を洗い、必ず私の手や足のマッサージをしてくれた。



なにも感じていないように見える私に

父はいつだって普通に接するようつとめてくれた。




とはいえ、父はたまにイライラしていた。


そんな時は言葉の節々《ふしぶし》にとげがある。


声のトーンや大きさで父の気分はわかった。



父は決して気分屋ではないが、機嫌が悪いときもある。



寝たきりの私は、同じ体勢でい続けると圧がかかっているところの血流が悪くなるとその部分が壊死してしまう。特に後頭部、肩甲骨けんこうこつや腰の出っ張っている骨の部分、かかとはよく痛くなる。


なので定期的に身体の向きを変えなければならない。

左に向けたり、右に向けたり。

頭を浮かせてみたり、首を曲げてみたり、身体を起こしてみたり、脚を上げてみたり。


簡単な運動もする。といっても、腕を上げたり回したり、横に広げたり、斜めに動かしてみたり。

脚を上げたり、股関節こかんせつを回したり、膝を曲げたり、足首を曲げたり回したり。


それは父がいない時は、看護師さんやヘルパーさんが代わる代わるやってくれる。

言っちゃ悪いけど、人によって随分違う。

ひとつひとつの処置も、よくそんなところまで気付いてくれる。とその気遣いや心遣いに感激させられることもあれば

こちらが何もわからないと思ってか、そうでなくてもそうなのかは知らないが、大雑把おおざっぱというか適当というか雑な人もいる。

最低限のこと、もしくはそれすらもさぼろうとする人もいる。


すると、その人の目や表情や声色こわいろで私にどんな風に接してくれるかがなんとなくわかるように自然となってくるものだ。



例えば、床に何かが落ちていたり、

私が汗をかいていたりしても、

この人は絶対気付かないだろうな。

もしくは知らんぷりするんだろうな。

と思う人が見回りに来ると、案の定私が生きていることが確認できればその他のことは何もせずに部屋を出て行く。


身体の向きを変えるにしても、その時に服がぐちゃぐちゃで気持ちが悪い状態のままでも放っておくし、

ストレッチも形だけやっておけというような、効いてるんだかよくわからないようなやり方だったり、逆に痛いくらい引っ張ったり力を入れすぎたりと…言い出したらキリがない。



介護してもらっている分際で、感謝すべきその人に対して、こんなことを思うなんて私はなんて性格の悪いおろかで嫌な奴なんだろう。


そもそも人の気持ちなんて、わかろうとしてもなかなかわからないのだから

わかろうとしない人にはわかるはずがないのだ。



辛さや痛み、悲しみはその人にしかわからないのだから。



私だって、自分が健康体で元気そのものであったとしても寝たきりの人の世話をしたいと思うものなのか。ましてや親身になって介護できる自信なんて全くない。


周りの友達はアパレルや美容関係などの企業でキラキラと楽しそうに働いているのに、私は人のオムツ替えたり指突っ込んで便を出したり…なんで私がこんなことしなくちゃいけないんだろう。



そんなことを考えたとしても、誰も責めることなんて出来ないのだ。


この仕事にやりがいも誇りも持っていて日々充実感と奉仕ほうしの精神に満ち溢れている人もいるだろうが、そうでないからといって悪いなんてことは全くもってありえない。



むしろ好きなことして稼げる人なんて、ほんの一握りだからだ。


人生はそんなにうまくてあまいものではない。


にがくて理不尽だともがくのが人生なのだ。



そんな私は足掻あがくことも叫ぶことも出来ずに生かされている。



私の面倒を見てくれている全ての人達のお陰で生き長らえさせていただけているのだ。



どんなに下手でも無理矢理でも、やって貰えるだけ本当にありがたい。




私はそうゆう立場なのだ。



随分ずいぶんと皮肉な言い方になってしまったが、もちろん感謝している。

本当だ。


ただ、なんとも卑屈ひくつな考えばかりしてしまっている自分が憎いし、あわれで仕方ない。




青虫はさなぎにならなければ、蝶々にはなれない。

さなぎになんか、ちっともなりたいと思ってないのに。


という台詞が、先日観せてもらったおもひでぽろぽろという映画に出てきた。



始めからさなぎとして生まれてきた私は、さなぎとして終わってしまうのだろうか。


蝶になることは、出来ないのだろうか。




父の話に戻ろう。




父は仕事から帰ってクタクタのはずなのに、私の手や足をマッサージしながら今日あった出来事や世間話、たまに職場の上司への小言だとか、公開中の映画についてなどの私がここにいても知り得ない世界の話なんかもしてくれる。



ただ、日によっては全くしゃべらなかったり、口数が少なかったり、遠くを見つめて黙って何かを考えていたり、ため息をついたり、マッサージに込める指の力が強かったり、時には爪の跡がつくこともあった。

それに気が付くと、慌ててさすりながら

ごめんな、痛かったな…と申し訳なさそうにしたが、力が込められていることを自覚していないこともあった。


タキシード姿の父はなかなかだった。元からスマートではあったが、今では年々コケてしまった頬のくぼみがより強調され、身体は益々ひょろひょろしていったが、肉体労働のためほとんどが筋肉ではあるのようだ。脂肪という名の嗜好品しこうひん贅沢品ぜいたくひんを父が食べるのをあまり見たことはなかった。




そんな父を見ているのは、とても辛かった。


父は、本当にたまにだが、私に背を向けて泣いていた。


そして、ウェディングドレスを着た母に向かって話しかけていた。



私はこっちにいるというのにね。



◆ゆかり



(オンギャーオンギャー)


どうやら、私の子は無事に生まれてくれたみたい。


良かった。

私はこの子の成長を見守ることは出来ないけれど、あの人ならきっと立派に育て上げてくれる。


あきらさん、ごめんなさい。



あなたに妊娠と同時に癌の告知をしたあの日。


別れる選択肢も考えていた私にあなたは言ってくれました。


「幸せになるために結婚するんじゃない。

辛い日々を一緒に乗り越えていくために結婚するんだ。

僕は君と過ごせる日々を精一杯生きていきたい。」



一見胡散臭い歯が浮くようなセリフも、あなたの言葉だとなぜか信じることが出来た。



この子を、よろしくお願い…しま…。







「先生!目が開きました!」



あまりの眩しさに立っていたらくらりとしてしまいそうでしたが、私は横になっていたみたいで倒れずに済んだようです。



ボンヤリとした光の外からは、慌ただしく指示が飛び交い、私の身体には何かがいろんなところに沢山ついていて、触られるとなんだかとても不思議な感覚。自分の身体がマシュマロにでもなってしまったようでした。



そして、私は身動きがとれませんでした。


よくわからないまま周りの声や音を聞いくことしかできずにじっと耳に神経を集中させました。



でも、聞こうとすればする程機械音や器具の音、足音や人の声が混ざり合っていて、それはそれはとても混乱した状況だということしかわかりませんでした。


私は生きているということ?



(フグッフグッ)



こんどは光の内側から聞こえる気がした。



(フンギャ、フンギャッ)



もしかして、私の赤ちゃん…???



なぜか咄嗟とっさにそう感じました。


私はその泣き声に向かって話しかけました。

おっかなびっくり初めて人の子を抱くように猫撫ねこなで声であやしていました。



ただ、普通にあやすことは出来ないのです。

表情を見ることはおろか、抱くことも出来なければ、おっぱいをあげることも、オムツを替えてあげることも出来ない。

実態が見えないのですから。



しばらくして、赤ちゃんは静かになった。

眠ってしまったようです。




まだわからない。

生死を彷徨さまようとはこうゆうものなのでしょうか?



聞き覚えのある声が近づいてきた。


私の手に大きな何かが震えながら入ってきました。


でも、私はそれを握ることは出来なかったのです。



光の外の声がはっきりと聞こえました。


「この子は目を覚ましたんですよね?」


あきらさんの声でした。

でも鼻にかかる弱い声で、私は聞いたことのない話し方でした。




「目を開けることは出来ましたが、こちらからの呼びかけにも反応しませんし、把握はあく反射もありません。

把握反射というのは、原始反射と呼ばれるもののひとつで赤ちゃんは感覚がとても敏感なので手のひらに軽く触れるだけでもその指をギュッと握ってくれるものなんですよ。

ということは、脳の方になんらかの障害がある可能性が高いです。」


誰?医者?障害?



その時私の手の中にある何かが強くくい込んだので、掴みたかったが、マシュマロはびくともしなかった。




私は…赤ちゃんなの?




(ほーら、よしよしよしよし

気持ち悪いね〜。もうすぐねキレイキレイしてあげますからね〜。待っててね〜。)



私の赤ちゃんが泣いている。

それに私は声をかけてあげることしかできない。



あーもー、どこ行っちゃったのよー。

1時間に1回はオムツ見てくれないとー。お尻だって痒くなっちゃうしー。



ドタカラン、ドタカラン、ドタカランカラン。

慌ただし階段をのぼってくる音と共に知っている音がした。



カランカラン

「あかりー。ママと一緒に用意したおもちゃだぞー。」

カランカラン



大きな手がマシュマロのお腹をポンポンした。


「あれ?

もしかして…うわ、くっせ!」



やっと気付いてくれた〜。


(良かったね〜。あかり〜。ふー気持ちいいねー。)



まだまだぎこちないながらも、旦那は一生懸命、心をこめて私たちのお世話をしてくれました。




そう。


娘の身体の中で、娘と私は生きていました。


身体は動かせない。

でも娘の身体の感覚は私にもあるのです。


とても不思議な感覚でした。


オムツが濡れれば気持ちが悪いし、背中が痒いのにどうすることもできないし、お風呂に入れてもらった時の心地いいのに顔にも声にも表せないのもどかしいし、予防注射は痛いのに涙も出せない。



外の世界は眩しかった。

そして時には薄暗く、真っ暗だった。


音は良く聞こえたし、匂いも感じるので、旦那が酒もタバコも辞めたのは割とすぐ気付きました。


そして、内側の世界には旦那は聞くことの出来ない泣き声が響いていた。


とはいえ、娘との魂が入れ替わるというのは聞いたことがあるけど

共存するなんてことがあるなんて…。


でもそのおかげで娘と四六時中過ごすことができたことにとても感謝しています。


ただ、やはりそのせいなのでしょうか。

娘の脳波をいくら調べても意味不明な波形しか出ませんし、時にはあり得ない二本の線が医者を更に困惑させたようです。




旦那の育児休暇が終わる前に、引っ越しをしました。

要介護の子を持つ片親に向けた施設が出来たのです。

旦那の仕事が始まったら、この子の面倒は誰が看るのだろうとヤキモキしていた私は、この施設の存在を知った時心からホッとしたのを覚えています。


旦那には頼れる人が居ないのです。

両親は亡くなりましたし、弟さんはとある宗教にはまってしまい会うことはなくなっていました。私の母は認知症になりとても孫の面倒を看ることなどできません。父は横領の罪を着せられ、あかりが生まれてからすぐ失踪しました。


更には、ただでさえ少子高齢化は進み介護人口も増えているので、入院は愚か、訪問医療も介護施設も手一杯ですし、保育園では健康な子しか預かってはもらえません。

そんな中、旦那が仕事の間でも常に看護師さんや介護士さんが目をかけてくれる環境にいられるようになったことにとても感謝しています。


どんなにつらくぞんざいな扱いをされようとも、生きていくための選択肢はひとつでした。


そんな時は、できるだけ娘を寝かせるようにしました。


この子は本当に泣かないのだろうか?とつねられたりもしました。


泣かないのをいいことに、寝返りや汗拭き、オムツを平気で放置する人もいました。



その度に、自分でやってあげられないことを強く悔やむことしか出来ませんでした。



ですが、旦那は毎日あかりのことを気遣っていました。汗疹あせもが出来ないようにベビーパウダーをまぶしたり、身体をマッサージしてくれたりもしました。

時には本格的に、ベビーマッサージのDVDを見ながら慣れない手つきでしたが。くすぐったかったりもしたけれど、そんな時娘はキャッキャと笑っていました。私も一緒に笑いました。


どこかに出かける時も、旦那はあかりに声をかけました。


目がしっかり見えるようになった頃、雪が降りました。

桜も見に連れてってくれました。


娘は内側の世界の中で、確実に成長していきました。


人見知りもすれば、イヤイヤ期も迎えました。


私は、自分が教えてあげられることはひとつ残らず教えてあげようと思いました。



「ゆかり、俺たちの子。あかりだぞー。今まで会わせてあげられなくてごめんな。あれから半年も経ったなんて…ゆかり。会いたいよ…」



退院して家に帰ってすぐ、あきらさんは婚前写真を私に見せた。いや、あかりに見せた。

いやいや、婚前写真の私にあかりを見せてくれたのです。


あの夢と希望と幸福に溢れていた頃の写真がとても眩しかった。1年も経っていないのに、もう随分昔なことのように感じられました。



それからは、写真の私に向かってあきらさんは話しかけるようになりました。

勿論もちろんあかりにも話しかけていました。


こんなに話す人だったのね、というくらいに様々なことを話してくれました。


私のこうゆうところが好きだったとか、最初は一目惚れだったとか。

恥ずかしくて目の前で聞いていたら赤面してしまうようなことも素直に、情熱的に話してくれました。

こんなにも私のことを愛してくれていたなんて、知らなかったのです。


あきらさんは硬派で真面目な人でした。

なので、余計なことは言わず表情も分かりづらいので何を考えているのか悩むこともたくさんありました。


突然素敵なレストランを予約してくれたり、薔薇バラの花を贈ってくれることもありましたが、決してドヤ顔はしませんでした。

むしろ、知らん顔をしたりするので私としてはそんなあきらさんが無性に可愛く思えたり愛おしくなったりして、あきらさんの真逆ともいえるような大袈裟ともいえるリアクションで喜びました。


それでも、ああそう。とでもいうようにクールを気取るので、なんとか驚かせたり喜ばせたりしたかったのにそれは出来ずじまいでした。



そんなあきらさんが、写真の私に向かっては泣くのです。


声を出して笑うのです。時には怒ります。

こんなに感情豊かな人だったのかと、こんな状態になって知れるなんて、私が成仏できずにさまよっている幽霊ならついうっかり成仏してしまいそうでした。



あきらさんが珍しく休みだったある日、看護師さんが顔を出しました。

最近入った割と若い看護師さんです。


いつもはろくすっぽオムツもまともに変えてくれないのに、今日は無駄に身体の向きを変えて傾けたり、身体を拭いたり着替えをさせたり、マッサージをしたり。

やけにかまいに来るのです。


「今日は休みなんで、僕ができるので大丈夫ですよ。」


そんなこと言わないでとばかりに、ずかずかと看護師さんが私に手を伸ばし抱き上げると、


「あけみちゃん、本当に可愛いですよね〜。毎日話しかけてるんですよ〜。」


明らかに色目を使って私の旦那を舐め回していた。



(ちょっと!私の旦那にちょっかい出さないでよ!)


そう思ったのに声に出せないもどかしさにもだえている時に私の旦那はボソッと言って笑ったのです。


「いつもあかりを可愛がってくれて、どうもありがとうございます。」



さっと青ざめた女豹のようだった看護師は、獲物を奪われたハイエナのようにびたいやらしい顔をして去っていった。



私はこの人の子を産めてよかったと、心から思いました。



そうそう。この人はこういう人。

決して器用ではないし、誤解もされやすいかもしれないけれど

人の本質を見極めたり、上部ではない何かを察することの出来る人なのです。


この人の遺伝子は残すべきだ。

あの日私はこう強く思ったのです。

だからあの時も私に迷いはありませんでした。


それが、この人のことを苦しめてしまう人生になるとも知らずに。



◆あかり



母はいろんなことを教えてくれた。


そのおかげであまり苦労せずに、大学に入ることができた。


医者は奇跡という言葉で片付けるには、とても足りないといった風だった。


いくら新薬が効いて身体が動くようになったからといって、知能が伴っているなんて考えられないのだという。



新薬を使用する前の記憶はないということにした。


つまり、意識はなかった。ということにしたのだ。


そうでなければ、私に散々適当な扱いをしてきた人も、誰も聞いていないと思って私の部屋を吐け口にしていた人も、私が知ってはいけないことを目の前で晒してきた人も、血の気が引くどころの騒ぎでなくなってしまうだろうから。



ただ、観てきた映画や出掛けた場所などはなんとなく見たことがある気がする。程度には理解しているフリをした。


前世の記憶がなんとなくある、といったような曖昧なもの。

都合の悪そうなことは、わからないと言えばよかった。


今まで父がしてきてくれたことに、意味があったことはしっかり伝えたかったからだ。



私は18歳になった。


1年前に新薬が開発されて、といっても他の病気用の薬が特殊な形へ変化してしまい、それがたまたま私の症状に効果があるのではないか?というレベルの薬が特効薬となったのだ。



翌日には指先が動き、3日後には脚が動かせるようになった。

1週間後には頷くことが出来るようになった。


1ヶ月後にはぽつりぽつりと話すことが出来るようになり、3ヶ月後には少しずつ食事を摂るようになった。半年後にはゆっくりと歩けるようになり、

感情も出せるようになっていた。



動くことが出来るようになった。

意思を表すことが出来るようになった。

感情も出せる。話すこともできる。


でも、母と内側で話していたようにはなかなかできなかった。


どうして。

どうしてなの?ママ



ママってば。

応えてよ。



ママの声は新薬が使われる日の朝には聞こえなくなった。


初めて新薬の話が出たのはその1週間前だった。


といっても、私の耳に入るところで医者と看護師が話しているのが聞こえた程度で、勿論私の元へ説明に来ることなんてなかった。


父が亡くなってからは、私の身寄りになる人間はおらずこの施設長が世間体もあり国からの補助も出るとのことで、引き続き面倒を見てくれていた。


その為、この治療についての決定権も施設長にあった。


リスクはあった。

もしかしたら、一気に血流が良くなり心不全を起こしてしまうかもしれない。

神経への影響もわからず、脊椎損傷の危険もあった。

脳へのダメージは多少なりとも避けられないだろうと言っていた。

とはいえ、脳については元々異常な波形であった為、どの道新薬の影響ということにはならないだろうとのことだった。


施設には研究協力費としてなかなかの額を受け取れるようだ。


万が一死んでも、最善の手は尽くしたと言い逃れが出来るし、むしろやっと厄介払いが出来るのだろう。


良くなったら良くなったで、自分で自分のことが出来るようになるなら、それこそ手間が省けるのは確かだ。


施設長はふたつ返事で新薬の使用に同意した。



一応言っておくが、施設長は悪い人ではない。

私が回復していく様を、本当に喜んでくれたし、感動すらしてくれていた。

その気持ちや感情には、よこしまなものはないように見えた。



私は今後、この人に恩返ししていくことになるのか…。


と、なんともいえない霧の入り口に入っていく感覚がした。



私はこれから、一体何のために生きていけばいいのだろうか。


一体何のために動けるようになったのだろうか。



そもそも、私はなぜ生まれてきたのだろうか。



この話が出た時、母はしばらく黙っていた。


私はよくわかっていなかったので、どうゆうことなのか?この医者は何を言っているのか?また痛いことをしないといけないのか?母に問うしかなかった。



難しい顔をしているであろう、唸り声と独り言をポツポツとテーブルの上にゆっくりと、それでいて規則的に並べてから、スッと息を吸った。



「あかり、外の世界に出られるかもしれない」



ん?


すぐには理解出来なかった。



え?

ここから出るって何?

この身体が私のものになるってこと?



「あなたが今まで見てきた世界は受動的なものだったの。

自分の目の前しか見ることが出来なかった。この部屋の天井や、起き上がらせてもらった時に目に入るテレビや外の風景。

誰かの力を借りて見てきた世界なの。

でもね、これからは自分で見たいと思った世界を自分で見ることが出来るかもしれない。ということなの。

わかる?」



わかるような、わからないような。

自分で見たい世界って一体なんなんだろう。

どんな世界が待っているんだろう。


勿論嬉しくないはずはなかった。

自由に動けて、話すことが出来るかもしれないなんて。

背中が痒いのを我慢するのはもううんざりだし、目の前を蚊がブンブン飛んでいるのも不愉快だし、着替えも風呂もトイレも自分で出来るなんて。



ただ、あんまりよくわからないけど

なぜか不安の方が大きかった。



その不安の原因がぼんやりと浮き上がってきた。


「ねえ、そしたらママはどうなるの?

私と一緒にそれを感じることが出来るの?」



ママは何も言わなかった。



「ママ、子離れしなくっちゃね。」



ママの声は震えていた。



母はいろんなことを教えてくれた。



子離れとは、親が子をひとりの人間として尊重することなのだという。


親子はいつまでも一緒にはいられないのだ。

だが、親にとって子どもはいつまでも子ども。

心配しないわけがない。

それでもいつまでも心配ばかりはしていられない。

その子の能力や行動を信用して、いつの間にこんなに頼もしい存在になったのだと感じることを喜びとするものなのだと。



親離れとは、子が親からの保護を受けずに自立して行動することなのだという。


やだよ。

ひとりで外の世界になんか行きたくない。

親離れなんて出来ない。

怖いよ。ママも一緒に来てよ。


外の世界の私も泣いていた。

ポロポロポロポロ涙はただ流れていた。

でも、誰も気付いていないので耳も髪も枕もびしょ濡れになった。



治療についての恐怖もあった。

あれ程死にたいと思ったこともあったのに、いざ死んでしまうかもしれないと思うと怖かった。

今より悪くはならないかもしれないが、結局この先もずっとこのままだと知らされることになるかもしれないのも怖かった。

でもどうせならずっとこのまま中の世界でママと過ごしている方がいいかもしれない、とさえ思った。

外の世界の怖さを聞いていた。人間関係や社会の荒波について、事件や事故、災害についても母は包み隠さず教えてくれた。

その時はどこか他人事だと聞いていたが、いざ目の前にするかもしれないと思うと、そんなこと聞きたくなかったと今更耳を塞ぎたい気持ちになった。

だが、外の世界の美しさや楽しさもしっかり聞いていた。

それはとてもキラキラしていて、ウキウキするものだったが、母と一緒に感じられないなら意味がないとさえ思った。

それくらい、母の存在は大きく、かけがえのないものだった。



でも、母は違った。

治療は必ずうまくいくと言った。

あなたには素晴らしい未来が待っている、と。



「あなたはもう大丈夫。

外の世界でも立派にやっていけるわ。

ううん。全然立派じゃなくてもいい。

それでもあなたなら大丈夫。

こんなに辛くて苦しくて悔しい思いしてきた人なんていない。

それはあかりの魅力であり、強みなの。

それは確実にあかりの味方になってくれるし、背中を押してくれる。

あかり、自分を信じなさい。

ママは、あかりを信じてる。」



そんなの無理だよ…。

ママがいたから今まで頑張れた。

ママがいてくれたから、どんなに辛くて苦しくて痛くても悔しくても嫌な思いをしてもイライラしても悲しくても、

この閉じ込められた空間の中でどうにかなりそうでも、頑張れた。

ママが一緒に、精一杯支えてくれたから、この世界でも生きていられた。

楽しかった。安心できた。


母がいなかったら、私の心はとっくに死んでいただろう。


肉体的には自殺すら出来ないのに、こんな絶望感を味わい続けていたら、今の私の精神状態があるはずがなかった。


いよいよ明日投薬という夜、母は私を強く抱きしめてくれた。

背中をさすって、頭を撫でてくれた。


その体温を私は初めて感じることができた。そしてそのまま眠ってしまったが、起きた頃にはその体温は感じられなかった。




◆ゆかり



娘に、あかりに私はなにをしてあげられただろう。


この閉じ込められた世界の中で、私が教えてあげられることは全て教えられたのでしょうか。



まあ、私がいくら言ったところで百聞は一見にしかずといいますし。

実際に見て感じてみなければ、わかるはずもないのですが…。


今後大きな壁や困難にぶつかった時に、少しでも私の言葉がよぎってくれて、ほんの少しでも心の支えになれると嬉しいと厚かましいことを思ってしまうのです。



心配は尽きません。

この先も、私も一緒に見守っていたかった。


楽しそうに笑う、あかりの姿を見て

一緒に笑いたかった。


彼氏が出来たとか、仕事はどうだとか、なんでもない話をしながらお洒落なカフェに行ったり、

ショッピングや旅行にだって行きたかった。



あわよくば、といいますか夢のような話ですが、あきらさんとあかりと。

誰もが思い描く家族団欒の幸せな光景を噛み締めたかった。


多くの人が当たり前に過ごす日常なので、実際に過ごしていたら味わいもしなかったかもしれない、そのなんでもない幸せな日々を過ごしたかっただけなのです。



私は、この先ひとりで生きていく娘が心配で気の毒でなりません。



多くの人が感じてきた普通は、彼女にとっては未知の世界なのです。



それでも、彼女にとって普通だったことは決して無駄にはならない。


残酷な現実を目の当たりにしてきた彼女へは、少々若い娘が知らなくてもいいようなことも教えてきました。

その為、冷めた所といいますか、歪んでしまった感情もあるかもしれません。


ですが、むしろ誰よりも優しく、誰よりも辛い人の気持ちのわかる、誰よりも強い子として生きていけるだろうと思うのです。



これから多くの人と関わり、友だちや同僚、素敵な人との出会いもあるはずです。


きっと、たくさんの人の愛を受け取り

たくさんの人への愛を与えることになるでしょう。



果たして…私は彼女を、本当にそんな子に育てることが出来たのでしょうか。



不安は尽きませんが、受験勉強をやるだけやった。

出来ることはやりきったんだから。と、試験前夜のような気持ちでした。


御守りもカツ丼もカンニングペーパーもありません。

あるのは積み重ねてきた日々だけです。



大丈夫。



私と、あきらさんの子だもの。



あかりなら大丈夫。



あなたならもう大丈夫。




◆あかり



私は19歳になりました。

今ではすっかり普通の大学生です。


友だちも出来ました。

アルバイトも始めました。

一人暮らしもしています。



外の世界はまだまだ、不思議なことばかりです。



母の教えは私の中で、エンドレス日めくりカレンダーのように次々とめくられては繰り返し戻ってきました。



「あかり、あなたの笑顔はきっととっても可愛らしくて素敵よ。笑ってる人の周りにはあたたかくて優しいオーラが広がるの。楽しい時には遠慮なく笑いなさい。」


その時は、自分の笑った顔も声も全く想像がつかなかったけれど、鏡の中で笑うその顔と、友人に囲まれて笑うその声は、私の中で聞こえていた母の声と、父の見せてくれたウエディングドレス姿の母の口角のキュッと上がる口元と、父の何も見えていないんじゃないかというくらいにっこりした目元とよく似ていた。



この笑顔は人を癒すことが出来ているのだろうか。



また、人の気持ちについても母はこう言っていた。



「なんでわかってくれないの?って思うこと沢山あるでしょ?でもね、わかるわけないのよ。その人じゃないんだから。

だから、まずあなたがわかろうとしてごらんなさい。

もし、お互いがお互いをいたわってねぎらえるようになれば、

こんなに素晴らしいことはないでしょ?

自分が辛いとき、余裕がない時でも、人を思いるってすごく難しいことなんだけど、あなたにはそれが出来るはずなの。

あかり、あなたは辛くて苦しくて悲しい気持ちをよく知っているわね。

それはね、そうゆう人に寄り添えるってことなの。

手を差し伸べてあげられるし、強くて優しくなれるのよ。

だからといって、相手にはそれを求めすぎてはだめ。

相手があなたのことを考えてくれなくても、それはそれでいいのよ。仕方のないことだから。

人の辛さや痛み苦しみは、人それぞれだから、他人にわかりっこない。

でも、それを分かち合いたいって思ってくれる人がいるって、とても心強いことでしょ。

今はわからなくてもいい。でも覚えておいて。

慎ましく、謙虚に生きるのよ。」



難しかった。

中の世界しか知らない私は、なんで外の世界の人のことを気遣わなければならないのか。

こんなに辛い思いをしているのに、なあなあと健康に生きている人のささいな不幸について、なぜ考えなければならないのか。

それでも、母は言った。



「毎日看護師さんや介護士さんが、様子を見に来てお世話してくれるでしょ?

当たり前じゃないからね。

当たり前って思っちゃうのは依存っていうの。

今は助けてもらわないと生きていけないけど、それについて引け目を感じることはないのよ。

だからこそ、感謝の気持ちは忘れちゃいけないの。

あなたが人を助けてあげられるようになった時、存分に力になってあげればいいの。

受けた恩恵は、与えられる時が来たら返せばいいのよ。

辛い時に支えてくれる、助けてくれる人がいるのは、とても有り難くて幸せなことなのよ。」


そう言われても、その時の私はいつも優しい看護師さんのたまに機嫌の悪そうな時に彼氏と喧嘩したのかな。とか、すごく嫌な感じの人にでも、きっと家族がいてその人なりの正義があって生きているんだろうから仕方ないか。

くらいの気遣い方しか出来なかった。



なぜ私は世話をしてもらわなければ生きていけないのか。

なぜそれに感謝しなければならないのか。

なぜ母は私の中にいて、父は逝ってしまったのか。

私が生かされていることに、どんな意味があるのだろうか。



そんなことを思ったりもした。



そして、外の世界出てみると本当にいろんな人がいるものだと驚いた。


外の世界には外の世界の人たちの、私には知り得ない出来事があった。


あの時わからなくても、

振り返ってわかることが確かにそこにはあった。


自分が辛い時は誰よりも自分が辛いと思うし、他人のことを構ってはいられない。



なぜ毎日のように凶悪事件は起きて、なぜ毎日のように人は悩むのだろう。




悩みやいざこざの種は

だいたいは人間関係だ。


中の世界にいた頃とは比べ物にならないくらい、というか信じられないくらい外の世界には人がいた。


私と関わりのないと思われる人も、きっとどこかで関わっている。


スーパーのお弁当も、売ってる人だけじゃなくて、それを作る人。

お米農家の人、それを運ぶ人。その道路を作る人、その人を育てた人、生んだ人。


たくさんの人が繋がって繋がって、今の私がある。


命は自分のものだけどその命は

たくさんのものや人に守られて、私は生かされている。



それは決して私だけじゃない。


私だけが、他人に世話をかけて助けてもらわないと生きていけなかったわけじゃないんだ。



現に、動けるようになったところで

1人でなんでも出来るわけではなかった。



協力したり、教えたり教わったりしながら、出来るようになるのだ。



その人たちはみんながみんな親切丁寧で優しいわけではなかった。

嫌な奴だとか、合わないと感じることは仕方ない。いいところは尊重し、

嫌なところは受け流しなさいと母も言っていた。


そんな中でも、出逢えてよかったと思える人がたくさんいる。

人に恵まれてると思える私は、とてつもない果報者なんだと思う。



私が外の世界に出てからというもの、多くの人が私の前に現れた。



地球がひっくり返って中身が全部宇宙に散らばってしまう程に大きく変わったのだ。



中にいた時とは態度が全く変わる人もいた。


本当に良かったと心から喜んで涙まで流してくれた人もたくさんいた。



今後の私の人生をサポートしていきたいと志願してくれる人もいた。



普通のことが出来る喜びを噛み締めながら、私はこれからどうしたらいいのか、どうしたいのかを考えた。



◆リューシュン


「本当に行くのか?」


上司の目には涙が溜まっていた。


私の覚悟は揺るがない。



「はい。父を助けたいんです。」




親が子を想う気持ち。

親にとって子は宝。

自分よりも大事な存在。



そうかもしれない。


でも、子どもだって親を想ってる。



自分を犠牲に、辛い思いはして欲しくないし。

自分を理由に、自由を奪われているなんて嫌だし。

自分のせいで、人生が壊れていくなんて耐えられない。



「父は本当に私のことを大切に想ってくれていました。

それは時に痛々しい程に。」



どうして、私の為にそこまでするの?

ママの為?ママと引き換えに私が生まれたから大事にしなくちゃいけないの?

自殺しちゃうくらい辛かったのに、どうして私にはそんな様子を見せてくれなかったの?

全然知らなかった。

パパがそこまで追い詰められていたなんて。


そんなことを考えて何度泣いたかわからない。


私が生まれたせいで。


何度自分を追い詰めたかわからない。



そんなこと思う必要ないと母は私を慰めた。

そんな母を心配させまいと、私はいつからかそんな話はしなくなった。



それでもその想いが消えることはなかった。



私は、今人を救うことの出来る機関に携わっている。


過去を変えることが許されているのだ。



それが今より多くの人を救うことが出来る、そう承認されれば可能なのだ。


なのに、上司が首を縦に振らない。



国からは許可が下りているにも関わらず、私を可愛がってくれていたその人は唇を固く閉ざしていた。



「私には、止められないんだね。」



何度この話をしただろうか。

それ以外の方法を山程提案してくれた。


それでも私の選択肢はひとつしかなかった。


「大変お世話になりました。

このご恩は、決して無駄にはいたしません。」



私は父に会いに行った。



リューシュンという私の呼び名。


これも上司と考えた。

上司は私の選択を止めはしたが、私の意思は尊重してくれていた。

なので、入念な打ち合わせを何度も何度もしてきたのだ。

父はきっとこう返すだろう。驚いた顔はどんなだろうか。

それは、ひどく楽しいものだった。


あかり。

両親がつけてくれた愛しい名前。


とはいえ、そのままではやはり使えない。



未来っぽい、現実離れした方がいいよなと海外の言葉を使うことにした。



母はスペインがお気に入りだったようで、景色や建物が素晴らしいだとか、食べ物が美味しいだとか言っていたことがある。


まあ、あまりおもしろい話ではないのでざっと話すが、つまりはスペイン語で「あかり(光などを意味する)=ルス(luz)」なのだ。


そして、幼い頃私はサシスセソとラリルレロがうまく言えなかった。


看護師さんはカンゴシュシャン、徹子の部屋の音楽をリューリュリューと歌いよく笑われた。


なかなか安易だが、きっとバレることもないだろうとこの名に決まった。



そして、この両親によく似た声と顔は

どこかの怪盗のように別人に変装することは2040年では容易だったので、これもバレることはない。



ただ、未来から来た孫かと言われた時には思わず母によく似た口元を隠してしまった。



そして、思い出の中の父と、母から聞いていた父を知っていた私は、その答え合わせでもしているような実物を前にニヤニヤする口元を抑えることが出来なかった。



これで父を自由にしてあげられる。



そう思っていたのに…。



まさかの展開だった。



自分に起こる不幸を知っても尚私をこの世に生み出し、育てると言うのだ。



それが自分の首を絞めることになるというのに。



母だって、私があんな状態で生まれてしまったことを悔やんでいた。

そして自分を責めていた。

私のせいで、そう思っていたのを私は知っている。


これは、母の願いでもあるはずだ。


だからこそ、父には違う未来を歩んで欲しかった。



例え私がいなくても、別の形の幸せがそこにはきっとあるはずだった。



それなのに…。



なんでよ…。


なんでわかってくれないの。




私はそんな父を見守って、支えていくことしか出来なくなった。




上司は目を丸くしていた。

幽霊でも見たかのようだった。

それが幽霊でないことを確認した後、彼は私を抱きしめた。



父は癌に侵された母を懸命にいたわった。


そして母も、そんな父を心配させまいとねぎらいいつも笑顔だった。


父は事故を食い止めようとした。


何かと理由を付けて、母を家から出さないようにした。

でも、それも虚しい結果に終わった。

事故の日にちはズレたが、車に轢かれそうになっている猫を助ける母の意思は変えられるはずがなかった。



そして、私も予定通りの状態で生まれた。




事あるごとに私は父の話を聞き、時に励まし、アドバイスをした。とはいえ、大半は様子を伺い黙って聞くことしか出来なかった。


父は他人の私に対しても、《《あかり》》への態度とさほど変わらなかった。



他人にだからこそ言える愚痴や悩みを、私にすら漏らさなかった。

そりゃたまにはありました。ありましたけど、惚気のろけやら自慢の方が圧倒的に多かった。



やれ、プニュプニュして可愛いだの、身長が伸びただの、前髪を変えても似合うだの。



本気で言っているのだろうか。



むず痒い気恥ずかしさと共に、やはり嬉しかった。



こんなに大変なのに。

こんな私なのに…。



そしてついに、父の自殺予定日となった。


中にいた私の記憶と、父の様子は特に変わりがないように見えた。



大きな出来事のあるその日は、私との連絡は取れないようになっていた。



私は父を救うことが出来ない。



私を育てると決めた父を支えると決めたものの、私を拠り所に《《あかり》》を育てるのが楽になった訳ではなさそうだ。



でもなぜか、はたから見ていると、さほど苦痛そうには見えなかった。



確かに体力的にはきつそうだった。


少しやつれているし、身なりも構ってはいなかった。


それなのに、《《あかり》》のいる部屋では穏やかな顔をしていた。


まるでそこにいることが嬉しくて仕方がないというような。


私の記憶の中の父は、こんな風に笑っていたんだっけ??


いささか混乱していた。


中にいた私が感じるものとは、何かが違っていた。


何もわかっていないかもしれない私を前にしても尚、自分の感情を抑えて穏やかに見せているのだろうか。


そんなの、気力も参ってしまって当然である。



私は、やっぱり無力だった。


結局父の気持ちを変えられないのはわかっていた。


それなのに、足掻こうとしていた。



あの日から、この日が来るのが怖くて悔しくて、どうにかなってしまいそうだった。



◆あきら



やっぱり。



あの日から、ずっと疑問だったその件がようやく明らかになる。



僕はその日が来るのが楽しみだった。



僕が自殺なんてするはずがない。





あかりが生まれた。



僕とゆかりの子だ。



可愛くないはずがない。



小さくてあまり動いてはくれないが、口元はゆかりによく似ていた。

耳の窪みや形、耳たぶの分厚い感じもゆかり似だ。


自分に似ているところはよくわからないが、髪質は僕に似て直毛の猫っ毛だった。



その柔らかな髪を触っていると、とても幸せな気持ちになった。



耳たぶもすごく触りたかったが、それは本当にたまににした。



見ているだけでも充分だった。




仕事から帰って、あかりを抱っこする。

目を瞑っている時は眠っていると思い、そっと抱き上げた。

泣かないのをいいことに私は理性を抑えられなかった。

そう。世の父親は仕事から帰った時子どもが寝ていると「やっと寝たから起こさないで」と触らせてはもらえないらしい。

娘への罪悪感と共に世の父親への優越感に浸っていた。


起きているときは手足をマッサージしたり身体の向きを変えたりした。


構いたくて仕方がないのだ。



でも、そんな自分を変態チックに感じて少し戸惑ったりもした。




子ども用の歌も踊りも覚えた。


元々出無精ではなかったが、ゆかりといた時よりもあかりを連れて外へ出た。


ゆかりとももっといろんなところに出かければよかったと思いながら、写真も一緒に連れて行った。


なぜか3人でいるような、心安らぐ時間だった。



僕は幸せだった。


確かに大変なのかもしれない。


周りからもあわれんだ目で見られもした。




でもそんなの気にならないくらい、娘が愛おしいのだ。



ゆかりの残してくれた、宝物を大事にすることは当たり前のことだった。



それでも、身体がついてこないこともあった。



気持ちとは裏腹に、眠気やだるさは容赦なく襲ってきた。



あかりのオムツを替えずに寝てしまったり、マッサージの途中頭突きしてしまったこともある。


その度に、こんな父親でごめんと心の中で謝るしかなかった。



それでも、こんな父親でも、父親でいさせてくれてありがとう。

生まれてきてくれてありがとう。と思わざるを得なかった。


こんな不自由な状態でも生まれてこさせると決めたのは僕だから。


もしかしたら、あかりは辛いのかもしれない。



泣きも怒りもしないが、本当は辛くて苦しいのかもしれない。



そうだとしても、ごめん。

僕は君に生まれてきて欲しかったんだ。


僕の勝手な都合で、君はこの世に生まれてきたんだ。



◆リューシュン



なんで。




父は生きていた。



事故や事件の日にちが変わることはあっても、自殺の日は変わらないはずだった。



「だから言ったでしょ。大丈夫だって。」



訳がわからなかった。


「僕はずっと幸せだったんだから。一応、ずっと気にはしてたよ?なんで自殺なんてするんだろう?って。

でも、あかりを育てながら確信した。死ぬとしたら、それはきっと不幸な事故なんだって。それなら、君の話によれば、理論的に考えて僕が行動を変えることで事故を防げるってね。

それを証明出来るまでは本当ヒヤヒヤしたけど、これでやっと君の任務にも貢献出来たかな?」



私の目からは涙が溢れた。

止まらなかった。


噂には聞いていたけど、なかなかのキザ具合だな。と笑いも込み上げていた。


泣きながら笑う私を、父は優しく抱き寄せた。

そして頭の上にポンと手を置いた後、私の耳たぶを触ってすぐに離した。



彼氏かよ。と心の中で笑った。


と同時に、なにかが弾けた。


私、この感覚知ってる。



それは、紛れもなく私の中で閉ざしていた感覚だった。



こんな私を育てる父は可哀想だ。

こんな私の面倒を見るなんて不幸だ。

私のせいで父も母も死んだんだ。



そう決めつけていたのは、私だった。



父はそんなこと微塵みじんも思っていなかったのに。


あんなにも愛情を注ぎ続けてくれていたのに。


あんなにも優しい眼差しで微笑んでくれていたのに。



私は目を逸らし続けていたんだ。



その大き過ぎる愛情を受け入れられないでいたんだ。



私は自分のことしか考えてなかった。



そのことに気付いた時、ようやく私の中で弾けたそれはスッとなくなった。



◆2048年



人は愚かな生き物だ。

大事なものは失ってからでないと気付くことができないのだから。


人は生きるか死ぬかではなく、

支配するために殺しあう。


憎悪、嫉妬、怨恨、金品、地位、名声、見栄、事故、絶望、道連れ、興味、快楽、なんとなくなど、

様々な理由で人は人を、己をも殺す。



それもなぜ死ななければならなかったのか、と悔やまれる人が死んでしまうことが実に多い。



憎まれっ子世にはばかる、という言葉があるがその通りだ。


図太くてズル賢くて凶悪な奴が生き残る世の中。


うまく忖度した奴が出世し、制覇する。自分勝手でわがままで周りを振り回してばかりの奴が得をする。



優しくてお人好しな人は、周りに気を使い続け人に譲り助けて、自己犠牲の末精神及び肉体を滅ぼす。ことが実に多い。


ただでさえ日本の人口は減少している。


事故、病気、殺人、寿命により人は死ぬ。


醜い争いを続ける人種がどんどん増えていく。



人は女性からしか生まれることが出来ない。

それなのに、女性の社会進出が一般的になるということは生物学的に、妊娠中の体調管理、家事や育児を行うにあたって確実に不利であり、つまり人は絶滅に向かっているのだ。


その為、人類滅亡の危機対策として、

人は機械との共存、融合の道を選んだ。


人は機械と共存することにより、生活に余裕が出来た。

掃除や洗濯、料理などの家事は機械が全て賄ってくれるし、

面倒な手続きや申請なども簡単でスムーズなものとなった。


人は機械と融合することにより、不慮の事故や事件、天災に巻き込まれ犠牲になる可能性はほぼ0となった。

病気や怪我にもなりにくく、治りやすくなった。


人は機械に管理されるようになったのだ。



そして、やっと過去30年以内の人間にもその適応が承認された。

まだ試験段階だが、罪のない人や死ぬべきではない人、才能溢れる人、慈悲深い人、人の為に生きる人、惜しまれる人が無駄に死んでしまうことのないよう、あらかじめ保護することが可能となった。



「只今2018年より戻りました。

被験者2名へのマイクロチップ

【セキュリティアプリ(安心安全機能:危険察知能力、危険回避能力、危険対応能力)・ヘルスケアアプリ(健康長寿機能:免疫、血糖値、筋力、心臓、脳などの機能正常維持装置)搭載】

埋め込み完了です。」



◆2018年


目を開けると、眩しかった。


そのまま窓の外に目をやると、清々しい青空と心地よい温かみのある日の光。爽やかにそよぐ風と鮮やかな緑がこちらを見ていた。



正面を見ると、ゆかりがいた。



「やっと起きたね。」


本屋が付けてくれるブックカバーが付いたままの文庫本をパタリと閉じて、ズズッとオレンジジュースが入っていたであろうグラスに入ったストローから口を離した。



僕のアイスコーヒーのコースターはびしょびしょで、グラスの中はグラデーションがかっていた。



口元を確認したが、よだれは垂れていないようだった。



「ごめん、寝ちゃってたみたい。」



ふふっと、ゆかりは笑った。



「いいの。私も寝坊して来るの遅れちゃったし。」



そうか。

店の時計は15:00になろうとしていた。



ゆかりはこちらをじっと見つめていた。



「あれ?右のこめかみの所、なんか赤くない?かゆい?」



え?

指で触ってみたけれど、特に違和感はなかった。



「あれ?ゆかりも。」


僕は自分右のこめかみを、トントンと指で叩いた。



しかし、ゆかりが鏡を出したその時には、ゆかりのそれは消えてしまった。



変なの、と笑った後ゆかりは言った。



「あのね、赤ちゃんが出来たみたいなの。」


ゆかりの口元はキュッと上がった。


僕の目はなくなった。






あとがきまで目を通そうとしてくださっているそこのあなた。


どうもありがとうございます。


この度、初めて小説というものを書きました。


最初に書こうと思った内容を、忘れずに書ききれるのか。書き通すことが出来るのか不安でした。


ですが、なんとか最終話に辿り着きました。


長編小説の目安とされている10万字には届きそうもありませんが、また書き足したいことが出来たり、修正すべきところがあれば更新していきたいと思います。


今回私が強く思ったことは、実際の小説家さんや漫画家さんの頭の中はどんな風になっているのか。ということです。

長年の連載などをしている方は特にですが、結末に辿り着くまでどのように過ごしているのか、どんな気持ちなのか。

私はというと、気が気じゃなかったです。早く終わらせたくて仕方がなかったです。


自分の書きたいことがちゃんと形になるのか手探りを繰り返し、キリがいいところまでは進めたいと朝方まで更新していたこともありました。


私が書きたかったのは、親子がお互いを思う気持ち、介護の大変さ、介護される側の惨めさ、世の中の理不尽さ、人の汚い部分、多くの人にとっての当たり前は当たり前ではないこと、辛いのは自分だけじゃないということ、人それぞれだということ、本来の自分と他人が感じる自分は≠ということ、命、愛、感謝、恩、縁、生、死、幸、不幸など日常の中で私が感じること、大事だと思うこと、忘れないでおきたいことなどを覚書として残しておきたかったのです。


私自身、現在人に介護というか介助をしてもらわないと人間的な生活が難しい状態です。

最低限のことは一応出来ますが、人の助けや支えがないと生きていけない状態なのです。



その中で日々感じること。

この日々がなければ感じることの出来なかった感情を無駄にはしたくないと思いました。


この誰にもぶつけようのない、感覚を小説という形で投影したのです。


過去に戻ってやり直したい。

誰もが考えたことのあることをヒントに、タイムスリップ、入れ替わり(ではないが)、アンドロイド化に近づく近未来に乗せて話の流れを考えました。


そしてその非現実的なことの中であえて現実的リアルを伝えることで、もし心に響く人がいるなら。もし何かを感じ取ってくれる人がいるなら。ほんの少しでも、誰かの力になれたなら。

それはとても嬉しいことなのです。


ちなみに今後マイクロチップの埋め込みについては、どんどん進んでいくのだと確信しています。


最初は機械をうまく扱っているつもりでも、いつかきっと人が機械に管理される時代が来る。


所詮機械ですからね。

本当に善し悪しだと思います。

故障もすれば、ウイルスにも感染するし、悪い奴に乗っ取られもするでしょう。


そんな怖い所も含めて、最後に不気味感を出したかったのです。


ただの感動作品(になってるかはわかりませんが)というか、結構美談にしてしまってる所も多いのでそれで終わりにはしたくなくて。


私が世にも奇妙な物語が大好きなので、少しひねりの効いたエンディングに仕上げました。


後味が悪いと思った方がいらしたら、申し訳ありませんでした。


ただ、私が言いたいことを勝手にツラツラと書き綴っただけですし語彙力も乏しく、読みづらさや分かりにくさ、言いたいことがよくわからないなどあると思います。


もしアドバイスなどいただけましたら、都度見直していきたいと思いますのでご意見ご感想もぜひお待ちしています。

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