しゃっくりの止め方
息を大きく吸って下さい、もっと吸って、もっと限界まで、はい息を止めてこれを読んで下さい
「おかえりー、遅かったねー」
家に帰り部屋の扉を開けると我が物顔でパソゲーをしている幼馴染、又吉多代が居た、彼女を表すなら茶髪ロングの巨乳の元気な子の3つで十分伝わるような気がする
因みに俺は鉢鯉、多代と同じ高校の2年で空手道場に通ってるマッチョだ
「先に帰ってるならお茶くらい用意しとけよ」
「えー、ここ私ん家じゃないし、勝手に用意したらお義母さんに悪いじゃん」
「自分家じゃないなら、勝手に上がり込んでゲームするなよな」
言って俺は台所から2人分のグラスと冷えた水出し緑茶と買い置きしてた黒豆煎餅を持って来る
グラスに緑茶を注ぎながら彼女に聞く
「そういや俺とお前は許嫁らしいが知ってたか?」
「えっ知らなかったの?」
ゲームから目を離さずに多代は言う、鬼ごっこに忙しいみたいだ
「俺は今朝初めて聞いた、親父達に聞いてもお前に聞けとはぐらかされるばかりだし、知ってるなら教えてくれ」
「うーん、どうしよっかなー」
ゲームの中で獲物をフックに吊るしながら考える振りをする、これはあれか?対価に何か要求する気か?自慢じゃ無いが蒸気でカルト狩り買ったから金は無いぞ
煎餅を食べながら多代の出方をうかがう
「とりあえず、あーん」
両手がゲームで塞がってる多代の口に煎餅を入れる
パリパリ……ごくん
「あーん」
次はグラスを口に当てる
コクコク……ごくん
「うーん……しゃっくりの止め方って知ってる」
修理中の発電機に向かいながら彼女は聞いてきた
「何だよ薮から棒に、今聞いてるのは許嫁の「いいから答えて」」
「はい」
優しく言われてるのに何故か断れない、昔からこうだ、だから俺は……あれ?なんか引っかかるような
「ほら早く」
発電機の獲物を追い掛けてたらフックに掛けてた獲物が脱出してる、誰か助けたのだろうか
「あー、しゃっくりの止め方だな……お箸を×の字に置いたコップの水を飲む」
「違う次」
まるで最初から不正解だと知ってるように彼女は淡々と言う
「びっくりさせる」
「ブブー鯉アウトー、次」
あっ負傷してる獲物をフックに吊るした
「耳の穴を押す」
「チャウチャウちゃうねん、次」
獲物が昇天したけど、発電機は残り1つ
「もう分からねーよ、正解を教えてくれださい」
彼女が
ニヤリと笑った気がした
「正解は恋をするよ」
「……それ恋しなかったら一生しゃっくり止まらないのか?」
俺はあきれ気味に聞く、あっ最後の発電機が動き出した
「そんなわけ無いじゃない」
彼女はさも可笑しそうに言う
「おい」
「でもそれ鯉が言ったのよ」
「え?」
獲物達は脱出しゲームが終わる
クルリと倚子を回転させこっちを向く多代、その顔には満面に笑み
「殴りたいその笑顔」
「あはははははは、しょうがないじゃない本当なんだから」
悪びれるそぶりも見せず彼女は笑う、お腹を抱いてさも可笑しそうに
「いや、なんだよそれ?俺覚えてねーぞ」
「でしょうね、許嫁の事を忘れてるんだから」
「まさか繋がるの?」
「うん」
イジメっ子のような笑みにズズっと座ったまま後退する
「小学2年の時にしゃっくりが止まらなくて泣いてる美少女がいました、私の事なんだけどね」
「モチでも食い過ぎたんじゃね?」
「理由は忘れたわ」
俺の突っこみに顔を背ける多代、まさか当たったのか?
「しゃっくりを100回連続でしたら死ぬって都市伝説あるじゃない?」
「あー地球の人口半分くらいになりそうな、あれか」
「当時私は信じちゃっててね、それで泣いてたら男の子が助けてくれたの」
「きっと美男子だったんだろうな」
「うん、とっても格好良かった」
微笑みを浮かべ俺を見詰める多代、流れ的に俺なんだよな?止めろなんだこの羞恥プレイ
「ごほん、それでその美男子が恋をしたらしゃっくりが止まると言ったのか」
彼女の眼差しに絶え切れず、話を終わりに持って行こうとする俺
「ちょっと違うけどだいたいそんな感じ、でね、その子は言ってたのよ私に、『だから僕の事を好きになって』とね」
彼女の笑みがまた深まる
「な、ななな」
なにやってんだ昔の俺、勘弁してくれ!
「それに私は答えたは『えっヤダ、だって鯉くん弱っちいんだもん』」
「イヤァァァァ-!鯉くんて言ったよこの子、完璧に俺じゃん」
なんで黒歴史の発表会になってんだ?俺は頭を抱えてうずくまった
え?ちょっと待てよ、弱っちいって……
「もしかして俺が空手始めたのって……」
「うん、私に好きになって欲しくてだね」
「ぐふっ」
あ、俺がしゃっくりの止め方忘れてる理由がわかった、辛い過去を封印してたんだ
「よしっ忘れよう」
「私は覚えてるけどね」
「あーあー聞こえませーん、俺は今からカルト狩りをするから席を明け渡すんだ」
「いいけど、許嫁の話はいいの?」
……すっかり忘れてた、でもこれ聞いたら残り少ないSAN値が削れそうで怖い
「いつかまた…多分、きっと、メイビー」
「ふーん、まっいいけどね」
玄関が開く音がした、この時間ならお袋が買い物から帰って来たのだろう
「お義母さんかな?ちょっと手伝ってくるね」
「おー、飯になったら呼んでくれ」
「任せなさい、せいぜいお腹を空かせて待ってるがいいわ」
彼女の後ろ姿を見送りながら思う、体をいくら鍛えても一生尻に敷かれるんだろうな、と
止まりましたか?