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召喚者達はその異世界で  作者: 八日園 啓地
第1章 九日間の絆
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07 その少年、決断する

 主人公以外の視点は三人称で書きます。


 (これしか方法はない)

 セレアは何度も何度も考えたある計画を頭の中で繰り返す。

 早朝の森の澄んだ空気がセレアの頰をなでる。今日はカケルからトレードマークとされているフードをかぶっていないため、髪が風で優しく揺れる。

 一週間前、計画で必要になると思い、とある少年に近づいたが、最後の最後まで考えて計画に入れないことにした。少年からしてみれば、自分が巻き込まれかけたとは思ってもみなかったことだろう。

 少年は『女神の加護者』で、今まだプレアを所持している珍しい人物だ。大抵の『女神の加護者』は国がその存在を知って城へ招くとプレアを使い切っている。

 城に招く理由はプレアを国のために使って欲しいからだ。しかし、大抵は見つかる前に使い終わっていることの方が多い。

 セレアは無関係である人を巻き込んでこれ以上被害者を増やしたくないと言う考えに行き着き、その少年を、カケルを巻き込むことをやめた。いや、巻き込みたくなかった。

 現在、セレアは正にその少年の(もと)へ手紙を届けるため向かっている道中だ。送り主は彼女自身である。

 約一週間の経験上、少年はまだ寝ている時間なので郵便受けに入れればいい。

 会って話したら、カケルの性格上セレアの計画を止めるように説得するだろうと彼女は考えたのだ。

 昨日運良く出会うことができたライザーにはもう計画の事は伝えた。一週間だが巻き込もうとしたお詫びとして少年にも伝えるのが筋というものだろう。

 やがて周りの木々が無くなり、セレアの前に一軒の見慣れた屋敷が現れる。例の少年の現在の住居だ。

 セレアは屋敷を見て少年の事を思い、足が()まる。

 この手紙を読んだら彼はどんな反応を見せるだろう。自分がいなくなる事を知ったら彼は悲しむだろうか。もちろん手紙には計画の事も書いてある。

 再びセレアは歩き始めて、ドアの前に立つ。そして、件の手紙をドアに付いている郵便受けに滑り込ませる。

 (いや、カケルならこの作戦を反対して怒るかな)

 セレアはそのまま踵を返して森の中に再び入る。

 (でも私がジャロウを止めないと。この国の王女のこのセレア・ヴィクトリア・スカーレットが)

 セレアは森の中を駆け出した。次の目的地である昨日カケルと行った研究所に向かって。

 作戦と言うにはあまりにも無謀すぎる、自身を犠牲にして(・・・・・・・・)国を救う為に。




 俺はセレアと夕食も食べて、彼女が帰った後書斎に篭って調べ物をしていた。

 ちなみに、料理は元の世界と同様に自分でしている。セレアが食材を街に行って調達してきてくれるのだ。セレアは料理することにはまったのかどんどん上達していき、今では俺とあっさりと俺を追い越してしまった。

 夜になり、書斎部屋のカーテンを閉める。

 屋敷は二階建てで、書斎は二階にある。小説みたいな物語から歴史書、果てはこの国の六法全書みたいな物まで、本のジャンルは様々だ。

 この世界に来た当時は読めなかった文字がスラスラと読める。プレアを使ったおかげだ。言語の翻訳という願いは会話だけでなく、文字にも適用されたらしい。

 いつもだと小説を読んでいるのだが今日は少し違う。この世界のことを知るために歴史書に手を出していた。

 「絶対神法書(シガンマナ)についてはもういいかな。後はこの国についての本を、っと」

 本を読んで分かったことは俺が召喚された国の名前はアルバーレで種族名はリグルートというらしい。

 他の六種族には、ソウルビースト、プロエリム、ドラコーン、アールヴ、ディアボロス、ゴットゼルク、がいるみたいだ。

 半分くらいは名前だけでどんな姿か想像できる。いや、今は絶対神法書(シギンマナ)のせいで全員人間の姿にされているから、今想像したファンタジーのような姿ではないだろう。

 俺は次にこの国の本をとる。最初に目次があり、その次のページから本編だ。最初の項目は、王族についてだ。

 今の王族はどの国も二代目らしい。人がではなく、王族自体が(・・・・・)

 なんでも大昔の、約四百年前の全種族間の大戦争で王族がどの国もいなくなったらしい。そして、次の王が選出され、その子孫らが今、国を治めているわけだ。

 そして、どの種族の国も元々いくつかの国の集まりと書かれてある。つまり連邦ということだ。七つの連邦の代表の国の名前が連邦の名前らしい。例えばリグルートで言うとアルバーレ連邦となる。

 その本にはそんな内容と王族の家系図があった。流石に四百年くらい前のから全部というわけではなく、途中は割愛されているものもあったが。

 「王族……ね。そういえば、この山が王の所有地らしいな。そう考えると縁が全くないというわけでもないな」

 独り言を言いながら、王族の家系図を見る。

 カーテンの隙間からは明かりがさしている。もう朝がきたようだ。結局夜通しになってしまった。

 ここら辺が今の王様かな。えーと、娘だけしか子供がいないらしい。娘の名前は、セレア・ヴィクトリア・スカーレット……。

 「セ……レア?」

 同姓だろうか。スカーレットって確かあの中年貴族の婚約者だ。もしかして、セレアが今日、いや昨日様子がおかしかったのはもしかして……。

 考え過ぎか。そう結論づけて俺は部屋を出る。

 少し休憩するか。そう決めると集中力がきれ、眠気が襲う。

 まずいな。朝はセレアがきて剣の指導をしてくれるのに。

 俺はセレアにどう言ったら今日の稽古が中止になるか考えながら階段を降りる。一番の候補は頭が頭痛です、とかだ。この二重表現で頭が痛いことと、自分の頭の中身がイタイということを相手に伝えることが出来る。絶対にやりたくない。

 階段を降りきると玄関がある。一階にはその他に広間に台所があり、どちらも広い。

 「ん? 玄関に何か落ちてる」

 近づいて、見るとそれは一通の手紙だった。

 「手紙? 誰からだ?」

 封筒には何も書かれていなかった。

 とりあえず、後から考えることにしてポケットに突っ込む。それから広間に向かい、軽食を食べる。そしていつもより少し早くセレアを待ちながら、剣の稽古が中止になる言い訳を考えた。




***

 「遅い」

 セレアが稽古の時間になっても来なかった。いつもならまだ寝ている俺を起こすのに、その日はどうしたことか一向に姿を見せない。

 せっかく良さげな言い訳が思い付いたのに無駄になってしまう。

 「まぁ、いつも俺の方が遅れてるし、教わる立場だからいいんだけど」

 セレアの初めての遅刻で暇になる。森の中、というか山の中は早朝なので少し肌寒い。

 俺はポケットに手を入れると、手が何かに当たる。差出人不明の手紙だ。

 これでも読んで待っとくか。

 封筒を開けて、手紙を読む。手紙には次の内容が書かれていた。


 自分が王族だった事を隠していたこと。

 自分がジャロウと計画をやめるように取り引きをしてくること。

 勝手にいなくなることとこの先会えなくなることへの謝罪。

 嘘だらけだったことへの謝罪。


 差出人の名前は最後に(つづ)られていた。差出人の名は、セレア・ヴィクトリア・スカーレット。

 俺の頭に紅い髪の少女のことが浮かんだ。あの

芯が強く、右も左も分からない俺に手を差し伸べてくれた優しい少女のことを。

 一つずつセレアの言動の理由が氷解していく。昨日の思案顔や奇妙な行動は大体今の手紙で分かった。

 もうセレアは俺と関わるつもりはないらしい。それがセレアが望んでいることだ。

 「こんな事書かれて助けに行かないわけないだろ」

 俺は研究所に再び乗り込むことを決意した。俺が行ったところで何ができるか分からない。

 しかし、セレアは俺の事を全く理解していなかった。何事も自ら決断せず、その時の状況と相手に言われた事を自分の選択とする、俺の性格をセレアには理解してもらえなかったみたいだ。

 たった九日間の付き合いだ。相手の事を何から何まで知っている方がおかしい。だから俺は彼女にもっと俺を知ってもらう為に自らの意思、決断で彼女を助けに行く。日本では決してしなかったことをしようとしている自分に嘲笑する。似合わないことは最初から知っている。

 しかし分岐点に立つと人は変わろうとする。高校生デビューもその例に当てはまる。それは失敗したが(そもそもやってすらいないが)、異世界デビューならまだ間に合うだろう。俺は二回目を得た人生で変わってみせる。

 俺は早速、セレアを助ける準備に取り掛かる為に屋敷に戻る。闇雲に行っても駄目だ。作戦がいる。

 俺は自分が建てた計画に従って、ライトソードと寝室のクローゼットにある例の服を着た。プレアで出したあの騎士服だ。

 今回は真正面から侵入する。プレアはもしもの時のために温存しておきたい。

 異世界生活九日目、俺は二度目の研究所潜入を遂行するために屋敷を出て、駆け出した。

 読んで頂きありがとうございます。

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