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召喚者達はその異世界で  作者: 八日園 啓地
第1章 九日間の絆
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02 その少年、出会う

 「いやいや、ありえないだろ」

 俺は裏路地まで移動して、腰と気持ちを落ち着かせている。

 裏路地に来た理由は衣服が違うせいか周囲から物珍しい目で見られ、居心地が悪かったためだ。

 目立つのは好きではない。悪目立ちならなおさらだ。

 俺は混乱していた頭をどうにか落ち着かせる。まずは現状把握だ。


 名前、相島翔(あいじまかける)

 持ち物、なし。

 着ているもの、中学校時のジャージ(裸足)。

 現在位置、不明。


 完全に手詰まりだ。

 言語と文字の文化が違うらしいため、情報収集もできない。なんの説明もなく、気づいたら見知らぬ場所にいる。

 この場合異世界で大体合っているだろうが、夢という可能性もまだ消えていない。因みにテレビのドッキリの可能性は完全に消滅した。テレビとか映りたくもない。

 しかし、夢だとして、どこからが夢なのかとか、夢だといえる証拠とか問題が増えてしまう。

 うーん、どうしたものか。……あ、そうだ。

 思いついた案を実行するため、俺は右頬を右手で強くつねる。

 「()っ!」

 俺は右頬に痛みを感じて、右手をはなす。

 「痛いってことは夢じゃないってことでいいんだよな」

 随分と古典的な手段を夢ではないことの証明として使ってしまった。しかし今のところ、これより決定的な確信を持たしてくれるものを思い浮かばないので仕方がない。

 とりあえず、ここは最初の考えどうり夢ではなく異世界ということにしておく。

 そう決定づけて、次にこれからどうするかを考える。

 まずは服と言葉をこの世界と合わせないといけないのだが、一文無しに、知り合いが一人もいない異世界ときた。どうやって服を調達して、言葉を覚えたらいいのだろうか。一難去ってまた一難だ。前途多難でもこの場合間違っていない。要するに完全に完璧に手詰まりだ。

 そういえば、今さらだが言葉とかはこういう場合自動翻訳してくれるんじゃないのか。他にもこの世界のことを説明する人はいないのか。まさかの全部セルフサービス? 

 いやいやいくらなんでもそれは……って、こんな詮ないことを考えても仕方ない。

 一旦、思考をリセットしようとする。と、急に服に違和感を感じる。まるで新品の制服を着た時のような、体に馴染んでいない感じだ。それだけではない。先程から足に地面を直接踏んでいる感触がない。ふと、自分の体を見ると、いつものジャージ姿ではなかった。

 上下ともに白を基調とした、制服という表現が合う服を着ていた。その上にこれもまた、白いコートを羽織っている。腰のベルトには十五センチくらいの筒状の物体が収められていた。それは近未来系の映画やアニメにでてくる光の剣を連想させる。もちろん、靴も履いていた。

 「……服がいつの間にか変わっていたとか、雑すぎるだろ」

 愚痴をこぼしながら、腕や足を曲げたり伸ばしたりして、服を体に馴染ませる。ちなみに先程まで着ていたジャージは足下に綺麗に畳まれて落ちていた。

 妙なところで丁寧だな、とこんな状況でも突っ込まずにはいられない。

 不思議な出来事が起こって動揺していると、少し遠くから声が聞こえた。


 「いいからちょっとオレたち遊ぼうよ」

 「ごめんなさい。用事があるので」

 「だけどこんな道を女一人でなんて危ないぜ。オレたちみたいなのがいるからな」


 ギャハハハと複数人の品のない笑い声が聞こえる。

 会話の内容はともかく、随分久しぶりに聞いた感じがする日本語に安心感が胸を満たしていく。俺は声がした方へ急ぐ。確か目の前の道の少し奥から聞こえた。

 駆け足で移動すると、最初の曲がり角を曲がったところにお目当の人達がいた。

 五人組の体格のいい男達が赤いフードをかぶった女の子を壁に押しやり、半円状に囲んでいた。どう見ても女の子が危なそうだ。

 これ、助けた方がいいのかな。だけど、返り討ちにされたら怖いし。

 「なんだ、てめぇ。何見てんだ!」

 俺がヘタレ満載なことで悩んでいると、向こうの方から非友好的な声が聞こえる。見るとその言葉はどうやら俺にかけられたものらしい。一人の男がこちらを睨みつけている。

 まずいなどうしよう。自慢じゃないが、袋叩きにされる自信がある。

 一人の男の声に周りの男達が反応してこちらを見る。異世界にきて早々バッドエンドか、と腹をくくっていると別の男が俺を見て顔が真っ青になる。

 「ば、馬鹿! あいつの服、騎士団じゃねぇか!」

 「げっ! ヤベェ、逃げるぞ!」

 そんなやりとりをして男達は立ち去っていき、俺と女の子だけが残った。

 さっきの男達、俺のことを見て逃げたようだがそんなに怖い顔していただろうか。いや、中学校の頃に空気のように扱われていた俺を見て逃げたはずはない。あれは軽くトラウマになっている。

 俺の服がどうとか言っていたような……。

 「あの…………」

 「は、はい!」

 俺が思い出したくもない記憶を呼び起こしていると、助けた(?)女の子に呼ばれた。そして、女子との会話を日常的にしていない俺は案の定、声の大きさを間違えてしまう。

 こんなところでコミュ力の低さが露呈してしまうとは……無念。

 「危ないところを助けていただきありがとうございました」

 俺に声をかけた女の子は、ダークレッドのフードをかぶっているから表情はわからない。

 しかし、俺の返事に関して特に気にしていないようだ。

 た、助かった……。何が助かったのかと聞かれると特にないのだが、感覚的な問題なので大目に見てほしい。

 「あ、うん。気をつけてね」

 「はい、それでは失礼します」

 俺が平常を装いつつ返事をすると、彼女がそそくさと立ち去ろうとする。

 あ、もっとこの世界のことを聞けば良かった。いや、女子との会話スキルがゼロの俺じゃ無理かな。それにしても『あ、うん』はいらなかった。自分の会話スキルを疑いたくなる。

 そんなことを考えていると突然、どこからか電子音が鳴り響く。発生源は彼女だったようで慌てて自分の服を探り、音の真の発生源を手に取る。

 それは小さな、縦横(たてよこ)どちらも十センチない、液晶端末だった。

 ……なんで中世のヨーロッパ風の世界にそんなものがあるんだよ。


 「『女神の加護者』が近くにいる? さっきの男達の中……じゃないわね。もっと近く……に…………いる……」


 俺の疑問をよそに真紅フードの少女がぶつぶつ独り言を呟いていると思ったら、俺を見たまま固まる。

 なんだ? 俺に見惚れたのか、とかそんな寒い勘違いはしない。『女神の加護者』って聞こえたが、何それ?

 「ちょっとごめんなさい」

 「へ? うわっ!」

 急に少女が俺の右手を掴む。少女の柔らかい手の感触に俺は若干顔が熱くなるのを感じる。

 女子と手を握るなんて何年振りだろうか。確か、中学校のフォークダンス以来だ。因みにプライベートでは何年振りとかの問題ではなく、まずもって相手がいなかった。……なんか悲しくなってくる。

 数秒間の俺の急激な感情の変動を当然知るはずもない少女は俺の右手の甲をみて目を輝かせる。

 「見つけた! 『女神の加護者』」

 「め、『女神の加護者』?」

 「あ、ごめんね。急に」

 パッと右手を離される。もう少し握っていてもよかったのに。まあ、俺の心臓がもたないが。血液を過剰に送り過ぎて、心臓が過労死になってしまう。

 まだ少し彼女の温もりがある右手の甲を見ると、『3』と書かれていた。

 もちろん俺は書いてない。そして、反応からして目の前の少女でもない。

 俺が謎の数字を見て頭に疑問符を浮かべている中、少女が続ける。

 「あなた名前は? 私はセレア」

 「カケル、相島翔だ。ええと、さっきからなんの話をしているのか聞いていいか?」

 俺の質問にセレアと名乗った少女はフード越しでも分かるくらい驚いた様子を見せる。

 え? 俺なんかまずいこと言ったのか。

 「『女神の加護者』は自分が何者かわかってない上に常識を知らないって言い伝えは本当だったのね」

 彼女は独り言のように呟く。が、俺にはハッキリと聞こえた。そこまで遠くない距離なのに聞き取れない難聴系主人公属性は持ち合わせていない。

 「ひょっとしてそれは俺のことを言っているのか? 俺にだって常識くらいあるぞ」

 「そ、そうよね。ごめんなさい。『女神の加護者』が持つプレアとか、世界共通の法律の絶対神法書(シガンマナ)とか知ってて当然よね……」

 「すみません。知らなかったです」

 俺はセレアの謝罪の上に重ねて謝罪する。確かに俺はこの世界の常識を知らない。

 元いた世界はどうかと言われるとそちらはそちらであやしい物もあるが、もう気にしなくてもいい。だってここは異世界だから。かといってそれを破るような度胸はないが。

 「でもさすがに騎士団の制服で街をうろついている程とは予想以上の常識知らずだわ」

 セレアのポツリと呟いた一言が俺に追い討ちをかける。

 俺も好きで騎士団の服を選んだわけじゃない。もっと他にあったはずなのだが。

 「わかったよ、着替えるよ! ていうか、君はどうなんだよ。俺でも知っている常識では人と話すときにそんなフードで顔を隠していたら相手に失礼じゃないのか!?」

 「う、……それもそうね」

 そう言ってセレアは深くかぶっているフードをとった。

 俺は思わず息を飲んだ。

 人の目を惹きつけるような整った顔立ちに、さらに存在感を強調するような長い紅髮の少女が立っていた。


 「じゃあ改めて、私の名前はセレアよ。よろしくね」


 目の前の美少女はそう言って、優しく笑いかけた。

 お読みいただきありがとうございます。

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