1-1 モテない男は辛いよ
こんにちは。僕は持名 樹。彼女いない歴が年齢なんていう変態クソドブな高校二年生。
そんなブサイクドブ男の僕にも最近気になる人が出来た。それがこの春から同じクラスになった最上 強子さん。彼女はとても綺麗で、でもいつも寂しげな表情を浮かべている。そんな彼女の事が僕は、一目見た時から頭から離れないんだ。もしかしたら一目惚れってやつかもしれない。
新学期が始まって二週間がたった。最上さんの事を見ているといろんな事がわかった。
まず、僕は一年から手芸部に所属しているんだけれど、最上さんはというと何の部活にも入っていないらしい。放課後になると素早く教室から出て行ってたので、てっきり部活に急いでたと思ってたのに。
最上さんは体がどうやら弱いようだ。体育は毎回見学だし。最上さんだけ体力テスト免除だったし。
そして何より、最上さんには友達がいないらしかった。誰かとつるんでいる姿なんて見た事ない。だから最上さんの無表情以外の顔を未だクラスのほぼ誰も見た事がないのだった。ここしばらくの日課は、もっぱら最上さんの笑った顔を見て見たいなー、なんて考える事だ。
ある日、思わぬところでチャンスがやってきた。それは理科室への移動教室だったのだが、最上さんはなぜかまっすぐ玄関へ走って行ったのだ。しめた。今しかない。
「尻杉、これ持ってって」
「へ?あ、おい持名!」
友達に教材セットを託すと一目散に最上さんの後を追った。すぐ追いつくかと思ったのに、あれ全然追いつかないや。
「も、最上さん!」
止む終えずに呼び止めた。最上さんは肩をビクッと震わせて立ち止まってくれた。良かった。文化部に走りは合わない。正直もうこれ以上走れないし。
「最上さん、理科室はあっちだよ。どこ行こうとしてるの?」
恐がられないように優しく話しかけたのだけど、振り返った最上さんはもうすごい顔していた。初めて見る無表情以外の表情が嫌悪と侮蔑とは、僕も中々落ちたものだね。
最上さんはすごく訝しげに僕を見ると恐る恐る口を開く。
「あなた、誰ですか?」
おっと、まずそこからでしたか。んー、くるよー。メンタル的にちょっときついものが来るよー。
「同じクラスの持名です。以後よろしく」
最上さんは怯えながらも会釈してくれた。うん、やっぱりなんか傷つくな。ダメダメ、落胆を感じさせちゃダメだ。スマイルを振りまこう。だってゼロ円だしね。タダって凄くお得。
「で、その持名くんが何の用ですか?私とあなたは面識がないんだから、貴方が話しかけて来る道理もないはずだけど」
キッツ。何この子、トゲしか吐けないの?いつか嫌われちゃうよ。僕は嫌わないけど。
「いや、君のことが気になってさ」
取り繕うと言った言葉。でもちょっと待て、これって取り用によると告白っぽい?あ、やってしまった!
慌ててみてももう遅い。最上さんは俯いて肩を震わせていた。あー、終わってしまった。最上さんが顔を上げるとすぐに氷のような顔になって、
「ごめんなさい」
ポツリと呟くとサササーッと走って行ってしまった。よく見ると玄関ではなく、保健室へ向かってたようだし。
僕は彼女にどう思われたのだろうか。保健室へ行くのにも突っかかるクソ男かな。いきなり告白して来る勘違いゴミ野郎かな。ハハ、いずれにしろ救いがないや。
こうして僕は一旦、残りの高校生活を地味に過ごすことに決めた。