説明を
お久しぶりです。m(__)m
「異世界からの転移に、あの龍神から加護を……なるほどな」
「アルマってそんなに有名なの?」
あれから防具を見繕いながら、アシュリに一通りの説明をした。
転移事故については前例があるらしく、なるほどと納得していた。
「アルマって名前は知らねぇけど、あそこには龍神が封じられてるってのは、誰でも知ってる御伽噺だよ」
「お、御伽噺?」
「そ、むかーしむかしっていう始まり方の、よくある御話。子供とかが奥まで入り込まないための嘘っぱちだとも言われてるけどな」
『お、御伽噺、私が!プッ、アハハハ!!』
へーと気が入っていない相づちを打つ。
アルマ、笑ってる所悪いけどキミ、もしかしなくてもとんでもない存在らしいよ?
『いやいや、だって私なんて馬鹿達とバカ騒ぎしてた只の大馬鹿よ?
アッチに行っては騒ぎを起こして、そっちに行っては他族と喧嘩して、気付けば賞金とか掛けられたりしちゃったり?まー力づくでそう言った諸々解決したんだけどね!』
「アハハ、なにそれ」
「?」
「あ、ごめんごめん」
アルマが見えないし声が聞こえないアシュリは疑問符を浮かべてこちらを見ていた。
「アルマがオカシイこと言うもんだから、つい」
「おかしいことをいう?……は、加護憑き!?」
「スピ……??」
「加護に自意識があるものを言うんだよ……ありえねぇ位の上位精霊とかじゃない限り……そうか、龍神だもんな、そうだよな」
うんうんと頷くアシュリからさらに説明を受けた。
加護憑きは超優遇されるか、超忌避されるかの両極端な存在らしい。平たく言えば幽霊が憑りついている状態の様なモノで、変な好かれ方をしたり、悪霊の加護を受けてしまうとそれはもう大変らしい。
「リリーンなんて愛され過ぎて大変な思いしてきたしな」
「リリーンが?」
「あぁ。アイツは火や光の精霊に好かれてるというか、ぶっちゃけ愛されててな。行き過ぎた愛情のせいで同じエルフは近寄れなくてな。幼い頃に村を追放されて……そんな時に丁度良く俺がパーティー募集掛けてたんだ。お互い一人じゃやりにくかったし、ちょうどいいってことでな」
「へぇ。それから一緒に?」
「まーな。ラスアはそのちょっと後に入ってくれたんだ。俺とリリーンの掛け合いが面白いって理由でな」
意外なことに、一番大人っぽいと思っていたラスアが一番子供らしい理由だった。
思わず笑みを溢すと、アシュリが真剣な表情でこちらを見つめてきた。
「ミマ、お前のことは二人に話すが、これはあまり他言しない方がいい」
「あ、やっぱり?」
「当たり前だ。国にとっちゃすげぇ存在なんだよ。それに国じゃなくても、信者連中に知られたら面倒だ」
「信者?」
「あぁ。神や英雄を信仰してる連中だ。派閥は幾らかあるが、あいつらにとって龍ってのは特別だからな」
「特別……?」
「龍は神に次ぐ、もしくは同等以上の存在。神が創造神ならば、龍は破壊者として。神が始まりなら龍は終わりとして、そんな風に神と対極の存在で語られる。それも、大概悪役だ」
「えー」
アルマは巳磨の命を救ってくれた。それがどういう理由であれ、今は自分と色んな意味で近しい存在だ。
そんなアルマが悪役だとは、到底思えなかった。
「まぁ異世界人でもあるミマには信じ難いだろうけどな。でも事実として、過去に龍神が世界を滅ぼしかけた、という逸話が今も残ってる」
「そうなの!?」
「あぁ……ただ、一部の連中は龍こそが守護神だと言って聞かない奴もいるけどな。神が創造し、龍が守護してるんだって」
どっちが正しいのかなんて分からない。
人間の歴史というのはどこかで捻じ曲がることがある。その事実が本当に真実なのかは今の人間には分からないことだ。
よって、ミマは難しく考えることを止めた。
「ん、よく分かったけどわかんないからいいや。私にとってアルマはアルマだし」
「まぁ、加護受けてる時点で今俺が言ったことの何割かがおかしくなっちまうしな」
破壊神なのか守護神なのかとかよく分からない。
ミマにとって、アルマはアルマ。それでいいと、思った。
「んじゃ、そろそろ戻ろうぜ。買い物ももう十分だろ?」
「そうだね、早く戻って二人にも話さないと」
いそいそと準備を済ませると、二人は宿へと歩いて行った。
●
「あ、ミマー!」
「へ?り、リリーン……?」
宿に着くと、リリーンに勢いよく抱き着かれた。
何やらわしゃわしゃとボディチェックをされながら困惑しているミマを抱きしめ、そして一言。
「よかった、アシュリになにもされてないですね…?」
「オイこらそこのクソガキ、俺を何だと思ってやがる……!」
バチッと二人の間で火花が散り、それを面白そうにラスアが見守る。
もう何時ものことだと思いそのまま抱きしめられていると、ふと自分の視界に変なものが映った。
リリーンの肩に乗る、小さな存在……翅が生え、こちらをニッコリとした笑みを浮かべて見つめていた。
(……え、なにこの子?)
さらに不思議なことが立て続きに起こる。
アルマが喋る時の様に、頭の中に声が響いたのだ。
『龍神さマだ、龍神さマ!』
キャッキャッとアルマに抱き着く小さなそれ。
アルマは特に気にした様子もなく、よしよしと人差し指でその子の頭を撫でていた。
「えっと……?」
「どうした、ミマ?」
「あ、いやその……リリーンの肩に乗ってた子が、あ、えっと、その前に話が」
アルマのことを話さないといけないことを思い出したが、今そのアルマが構っている子がよく分からないし、気になってしまう。
おろおろしているミマの頭にポンっと、アシュリが掌を乗せた。
「落ち着けって」
「あ、うん……」
いったん頭を空っぽにし、改めてリリーンとラスアを見つめた。
「えっと、ちょっと話があるんだけど……」
「「?」」
実は、と間を挟んで自分のことを話していく。
唐突に異世界から誤召喚されたこと、それが原因で死にかけだったのを龍神のアルマに救われたこと。
そして山頂から飛び降り、ついでに力加減を間違えてアシュリに突撃してしまったことまで。
「あー、あれって加減間違ってたんだ?」
「アハハ、転生直後でうまくできなくて……気絶してる間にアルマが調整してくれたけどね」
「「………」」
「えっと……驚いた?」
「あ、いや、まぁなんていうか…納得しました」
「ですわね。怪しいところ満載でしたし、唐突に宙に話しかけてたりしてたでしょ?」
アルマにちょくちょく話しかけていたのを見られていたらしい。
流石冒険者、目ざとい……というか、流石に不審者を相手にするなら、それくらいの警戒はするものなのだろう。
「そういえば、私の肩に乗ってたというのは?」
「あ、うん。リリーンの肩に、これくらいの翅の生えた女の子?がいたんだけど、それがアルマに凄く懐いてて……」
「あぁ……その子、色は?」
「色?」
そういえば、赤色に発光している。
そしてアルマに高い高いされて喜んでいる……というか、この子って……。
「赤だけど……もしかして、精霊?」
「多分ね。火の精霊だと思う。昨日は構ってあげたから満足したんでしょうけど、今日はまだ何もしてないから、またくっ付いてたんですね。魔眼を使わないと私に精霊は見えないから、気づかなかったなぁ」
「えっと……もしかしてアシュリが言ってた、加護の話?」
「……アーシューリィ~?」
「ヒェッ」
ギロッとリリーンがアシュリを睨んだ。流石に、人の過去を勝手に喋るのは異世界でもマナー違反だったようで、アシュリは何も言えず身を縮めた。
あらあらとラスアが笑うが、目が笑っていない。とても怖い笑顔だった。
「いや、その……悪い。でも必要なことだと思った」
「ハァ。反省してるならいいわ……アシュリはリーダーですから」
「ほっ」
「たーだーし、今度何か奢ってくださいね?」
「ハイ!」
とてもいい敬礼をしたアシュリを見て満足したリリーン。そんなやり取りの後、ようやく話が戻った。
「……私のは聖眼じゃなくて魔眼な理由、分かります?」
「ごめんなさい、まず聖と魔の違いから分かんないです」
「「「あぁ」」」
全員がそうだ、この子只の常識知らずじゃなくて異世界人なんだ、と今ここで改めて納得した。
それほどまでにこの違いはこの世界で常識となっているのだ。
「聖眼っていうのは、要するにただの加護のこと。魔眼は加護憑きのことです」
「へぇー……?」
「ふふ、分かってないみたいよ」
「でしょうね……加護は、本来適性が会う者が望んで精霊などに語り掛けたりすることで得られる、相互理解と合意に基づいて行われます。でも、加護憑きは一方的です。あまりに厚く、熱い意思を持って行われます」
「ふむふむ」
「相性が良いほど加護憑きの影響を受けます。私の場合は、良過ぎて一日一回は何か命令しないと、沢山くっ付いて大変なんです」
「大変って?」
「精霊の数が多いほど強力な術が使えますけど、その分疲れるんですよ。彼らはこちらを気遣ってはくれますけど、四六時中側に居られるのはちょっと……」
それは、アルマが四六時中側にいるミマにはよく分からない感覚だった。
それはきっとミマとアルマが特殊な関係だからだろう。
加護憑きなのに、ミマとアルマは合意の上に成り立った関係だからだ。そして加護の強さによる疲労も、転生という形で魔龍と化したミマならば問題なくなっていた。
「んー……よく分かんないけど、リリーンがすごいのは分かった!」
「あぁ、ダメね、全くわかってないわよ?」
「仕方ないです。というか、この子はこれでいいです」
精霊の加護憑きというのは、とても珍しい。
だが、龍神の加護憑きなんて聞いたこともないような存在になっているミマの方がよっぽどヤバイ存在だということに、自身で気づくことはなかった。
「んじゃ、相互理解を深めたところで、そろそろクエスト行くか」
「そうですね、今日もアシュリにかましましょうか」
「だからなんでそんな攻撃的なんだよお前は!?」
「貴方がそれを許したんじゃないですか、あきらめてください」
「許したって?」
軽く気になったのだが、アシュリには琴線に触れることだったらしく、顔を真っ赤にした。
「ちょ、待てその話は――ムグゥ」
「ふふふ」
会話を止めようとしたが、その口をラスアに優しく、しかししっかりと止められてしまう。
剣士相手に見事背後を取れたのはラスアが仲間故か、それともアシュリがそれほど動揺していたのか……。
「『いくら傷つけられても構わない、俺の仲間になってくれ』って、こいつからの提案だったんですよ」
「へ?あれ、アシュリがパーティ募集してたんじゃ……?」
「えぇしてましたよ。でもだーれも集まらなかったんです。そりゃ当時個人Dランカーだった野郎一人のパーティーに入ろう、なんて普通思いませんから」
ちなみに今のアシュリの個人ランクはB+。同格のB級相当のモンスターを一度に一人でなら数体、パーティでなら十体ほど狩ればランクアップするという。
ランクアップの条件はある程度の戦力を証明すること故に、危険がつきものだ。
一人の方が危ないのは誰もが承知の上だという。
「そもそも一人でDまで上げるっていうのも頭おかしいんですけどね。Eはともかく、Dとなると大型モンスター最低2体の討伐が必須になりますから」
「じゃぁアシュリって強いんだ?」
「えぇ強いですよ。だから、私もこうして――」
「ッ危な!?」
シュボッとアシュリに火弾が飛んでいき、彼はそれを弾く様に防いで見せた。
ラスアはこうなるのが目に見えていたのだろう、ちゃっかり部屋の隅に移動していた。
「気軽に攻撃できるわけです」
「~~ッ俺があぁいったのは、お前の精霊からの被害を気にしないって意味であって、こんなポンポン攻撃していいって意味じゃねぇっての!」
「被害を減らすのにはちょうどいいでしょう?」
「こんにゃろぉ」
「やるなら受けて立ちますよ?」
「上等だ!今日狩った数が少ない方が奢りだ!!」
「勝手にミマに喋った分足すととんでもないことになると思うけど、いいんです?」
「勝つからいーんだよ!」
「私に勝てるつもりだなんて、いい冗談ですね?」
彼女の精霊は、主に異性が彼女に近づくことを嫌う。
リリーンが仲間と認識しているから、この程度の戯れで済んでいるのだと、ラスアがこっそり教えてくれた。
「でもそっか、じゃぁやっぱり二人は仲良しなんだね」
「そうね、仲良しだからあんな風に楽しそうなんでしょうね」
「……いいなぁ」
それは、巳磨の心の底からの言葉だった。
懐かしく、羨ましい。そう、あの二人を見ていると優しい思い出が蘇るのだ。
そして、それが胸に刺さって、痛い。
笑顔になりながら胸を押さえてしまう。
部活のみんなはどうしているだろう、家族はどうしているだろう。
仲の良かった者たちの顔が脳内をよぎる中、その誰でもなく、ただ一人、強烈に会いたい人を思い出す。
――巳磨、ごめんね?
フラッシュバックのように次々思い出した最後の記憶は、涙を溢す彼女だった。
「ミマちゃん?」
「! ぁ、なに?」
「胸抑えてるけど、どこか痛かったりする?」
「へ?あ、大丈夫大丈夫。なんでもないよー」
ラスアに呼ばれてハッと気づく。
こんな風になるなんて、かなり久しぶりのことだった。
異世界に来てから怒涛の展開ばかりで過去を思い出す暇がなかったのか?
否、多分、これはきっと――。
『アルマ?』
『ん?なに?』
ラスアではなく、その隣にいる彼女を見つめた。
同じように微笑んでいる彼女は、やはり彼らを見つめていた。
『寂しい?』
『……ちょっとね』
『そっか』
きっと昔一緒だったという仲間のことを思い出しているのかもしれない。
ミマが思い出し、アルマが懐かしんだ。二人の気持ちが重なったが故に起こったことなのだろう。
『でも、やっぱりいいね』
『うん、そうだね』
揃って未だ言い合っている二人を見守る。
そう、こんな風に気兼ねない関係は見ていて気持ちがいい。
「――ほーら二人とも~、そのくらいにして早く行きましょ?ミマちゃんが退屈してるわよ?」
「っとそうだな。そろそろ行くか。すまんな、ミマ」
「ごめんなさい」
「んーん、いいよ。むしろもっとやって!」
「なんでそんな瞳を輝かせてんだお前……」
面白い奴、そう言って歩き出すアシュリについていく。
こうしてミマは、初クエストに出発した。
「異世界設定」
「加護」…相互の合意の上で成り立つ一種の契約。力を望み、意思を見せるか何かを捧げることで、力を与え受け取る関係。
「加護憑き」…合意ではなくそれを無視して無理やり押し付ける一方的な契約。一方的に守り、攻撃し、各々のやり方で意思を示す。アルマとミマの関係は特殊であるが、無力なミマを改造し憑いた状態のため加護憑き判定で間違いではない。
「精霊」…星に住まう自然の力、日本でいう森羅万象に存在する付喪神のような存在。種類は豊富であり、普通は見えない。それぞれに合った属性を司っており、主と認めた者の魔力、もしくはそれに準ずる何かを認め、求め、事象を引き起こす存在。