今後の事
ミマがパーティー入りしている頃、オルンは召喚した四人に世界の状況を教えていた。
かなりシリアスな雰囲気を出していたつもりだし、『終末』に関しては特に真剣に話したつもりだったのだが、彼らの反応は……。
「へー、魔物が跳梁跋扈してて世界がピンチ、と。まーためんどくさい世界に連れてこられたなオレっちたち☆」
かなり軽いノリだった。それはもう紙切れ一枚以上に軽ーい返しだった。
そりゃ召喚された被害者からすると、関係ないし関係するつもりもないのだろうけども、あまりに想定外すぎてちょっとオルンは口元が引きつっていた。
「と、とても簡略化されましたしその語尾の調子の良さも気になりますが、まぁそんな感じです」
「まぁ興味ないから取りあえずそれは置いといて」
「本題ですよ!?」
「「「「うっさい」」」」
「……はぃ」
危険極まりない世界に攫われてきたことを正確に理解した四人は、とても冷たい視線をオルンに浴びせる。
そもそもついさっきまで普通の高校生だった彼らに戦えとか無茶振りにもほどがある。
「まぁその辺はホントどうでもいい。聞きたいのは帰る方法と、俺たちと一緒に居たはずの巳磨はどうなってるか、だ」
若干キレているのだろう、口調が少し荒々しくなった部長こと誠が少し睨みながら言った。
「えぇっと、貯蓄していた魔石全てと、私のほぼ全魔力を使ったので、帰還させるにはかなりの年数が……」
「あはは、ぶっ飛ばしていい?」
「いやいやいや!貴方達は召喚された際のエネルギーやこの世界特有の概念に合わせるチューニングとか、覚醒術式以外にも作用していて自覚ないでしょうけど本気でやられると今の私は消し飛びかねませんから!?」
「必死ね」
「必死だね」
「必死だなぁー」
「……はぁ」
誠は今この世界を知る唯一の知り合いを消すわけにもいかず、拳を下ろした。
「で、巳磨に関しては?」
「私が喚んだのは貴方達だけですが……ふむ」
虚空に魔法陣を展開したオルンは思案顔で何やら思案顔になる。
暫く間法人を捜査していると、何やら顔色がだんだん悪くなっていき……。
「お、おかしいですね。向こうの世界の修正数が五人に……アレェ?」
「なぁオレっち一つ気付いたんだが、もしかしてコイツ、ポンコツなんじゃね?」
「もしかしなくとも」
「「ポンコツだよ」」
「う、そのジト目止めてぇー!」
もう色々四人に勝てる気がしないとシクシク悲しむオルンであった。
「と、取りあえずこの世界に来てしまっているのは確実です……一般人でも私の覚醒術式の影響を受けていれば、魔物から逃げきれるくらいは出来るかと」
「誰か善い人に拾われてればいいですね」
「悪い奴に捕まってたりしたら大変……」
「この世界には奴隷制度もないですし、悪いことしてる余裕ないですから大丈夫ですよ」
「余裕ないとか言う単語が出てくる時点で不安なんだが……」
「だから説明したじゃないですか。此処はそれだけ切羽詰まってるんです。まぁある程度都合のいいようにつかわれる可能性が無いわけではないですけど、一般人の覚醒はたかが知れているので問題はないかと。保護されるのは確実だと思いますよ」
魔物に脅かされ続けてきたこの世界は、過去数多もあった国が5つに縮小されるほどにまで追い込まれている。
少しでも力ある者が必要だし、力が無いからと言って卑屈になったり陰謀がどうとかやってる場合でもない。無い者は無いなりに協力したり、『後付け』で力を得る者もいる。
「はぁ。ま、探すにしろなんにせよ、どのみち危ないってんなら力が必要か……ここら辺の魔導書は読み漁ったけど、魔力の使い方ってのがわかんないんだ、教えてくれるか?」
「! えぇえぇ!もちろんですよ!」
「それと帰還の術式も教えてくれると助かる。さっきの口ぶりから察するに、魔石とやらの外部供給できる要素も必要らしいし、人手が多い分俺らの方が早く集められるかもしれないからな」
「……あれだけの会話でそこまで考えるって、意外と冷静ですね。というかその口ぶり、もしかして魔力の使い方教えたら私要らない子です?」
「「「「うん」」」」
「そんな即答しないでくださいな?!」
まぁガイドは頼むけど、と呟きながら今後のことを練っていく部長誠。
そんな誠とは反対に今の現状を楽しむ徹がふと気づいたことを問う。
「なぁ、そう言えばここってどこなんだ?五大国とかは聞いたけどさ、ここも国の一角なんだろ?」
「あぁ、言っていませんでしたね」
コホンと咳払いを一つして、オルンは今いる場所を告げる。
「此処は魔法帝国ミリアニア。そこに浮遊している浮遊都市の一角、私の別荘です」
「別荘?もしかしてお偉いさんとか?」
「えぇまぁ。これでも私、学園長ですから」
「「無い胸張られても……」」
「なんで一々失礼なんですか!?」
「あ、やっぱり女性だったんですね」
「二人とも、何はともあれセクハラよ?」
「「さーせん、つい」」
「すっごい棒読み! うぅ、私これでもこの国で一番偉いんですよぉー?」
「「「「あ、そう」」」」
「うわーん!!」
感心しながらもドヤ顔にムカついた彼らにその後も弄られつつ、魔力の使い方やその他色々なことを教えていくことになるオルンだった。
○
冒険者の受付であり、様々な場所人物施設等から依頼を受け入れている場所、ギルド。
五大国全てに共通している『何でも屋』であり、その本拠があるドラゴニアだけでなく全国に影響力を持っている。
そんな場所に、ミマ達は訪れていた。ミマは受付嬢に渡された紙の文字とにらめっこしている。
『へー、共通語になってるんだね。私が居た頃は種族ごとに文字とか言葉とか違ってたけど』
(……読み書き出来るのは、アルマのお蔭?)
『ううん、多分転移された際にその辺のチューニングされてたんじゃないかな?』
(魔導師ってそんなこともできるんだ)
『転移使える魔の担い手なら出来ない事ではないと思うよ?』
担い手というのはアルマがまだ自由だった頃の言い方らしい。
他にも氣や仙などの言い方もあるらしい。
「ミマ、どうしたんです?もしかして読めない?」
「え、あ、大丈夫。心配ありがと、リリーン」
「そっか。分かんないことあったらアタシに訊いて下さいね」
「うん、ありがとう」
ドラゴニアに来るまでの最中、リリーンはなにかとミマの世話を焼こうとして来る。
これが中々恥ずかしいのだが、事実受け入れてもらっている側の身として拒否するわけにもいかず、程々に甘える結果になっている。
「……はい、承りました。こちらがギルドカードになっています」
「これが、ギルドカード……」
「その右下の紋章に触れてください。自動的に魔力を検知して専用にチューニングされます」
「んっ」
竜を象ったと思われるそれに触れると、何か体を触られるようなむず痒い感覚に襲われた。
直後、右下に黒色でFランクと書かれた大文字が現れる。更にその左上に小さくCという文字が描かれた。
大文字を個人ランクといい、Fから順にD,E,C,B,A,S,0というランク分けをされている。これは個人で受けられる依頼ランクに合わせて査定されるらしい。
小文字の方も同じランク付けだが、こっちはパーティーランクといって複数人のチームランクとして査定されているらしい。
ミマはアシュリたちと同じチームなので、個人はFだがチームで行うならCランクまでの依頼を受けられることとなった。
個人ランクは単独依頼の達成やパーティランクでの個人の戦果によって変動するらしい。
(というか、半年でCランクってもしかしなくてもかなり凄いんじゃ……)
このランク分けの特性上、個人ランクよりもパーティランクの方が上げ難い。
個人で行うのは危険も大きくなる分ランクも上がりやすいのだ。
よって半年でFからCに上がっている彼らはかなり優秀ということになるのだが……。
「アタシ、妹欲しかったんですよねぇ」
「妹って、似たようなもんだろ。主に……なぁ?」
「今どこを見て言ったのかはっきり言ってもらいましょうか?」
「どこってそりゃぺったんこなって待て待て!ギルド内で杖取り出すんじゃねぇよ!?」
「うっさいです、一発殴らせなさい!!」
「こーら二人とも、仲がいいのは別に構わないけど、こんな場所で暴れないで下さいな」
「「はーい」」
まるでコント……というか、仲の良い家族のようだとミマだけでなく、長年人と触れ合っていなかったアルマまでもが思った。
「……あ、そうだ。リリーン、私に魔力の使い方を教えて欲しいんだけど、いいかな?」
「魔力の使い方?そんなことも知らないんですか?」
「うん」
「別にいいですけど……ねぇ、今演習場使っていい?」
「はい、大丈夫ですよ」
受付の人に何か申請をした後、ギルドの真ん中に位置する演習場に移動した。
草原に丸太や武器が置いてあり、申請すれば一定時間だけ自由に使っていいらしい。もちろん、複数人、複数のパーティでも可だ。
「じゃぁ、両手を握って」
「はい」
魔力に関して何も知らないというミマにリリーンは魔力の自覚から教えることにした。
両手を繋ぎ、自分の魔力をミマに流す。何やら暖かいようなむず痒い感覚を覚えたら、それを元に今度は自分の中にある魔力を認識させる。ミマの魔力はかなり大きく、容易にそれを自覚することが出来た。
そして同じようにリリーンに流そうとして……リリーンが急に手を離した。
「ひゃっ!?」
「リリーン?」
「ご、ごめんなさい。……ミマの魔力がちょっと強くてびっくりしただけ」
「強い?」
「濃いって言った方がいいかな?エルフじゃないのにこんな魔力を持ってるなんて……って、貴女それ」
「?」
ふと気づけば、魔力を流していた腕に漆黒の鱗のようなものが現れていた。
否、ようなものではなく鱗なのだろう。魔力に反応して顕現したらしいそれは、魔力を流すことを止めると消えてしまった。どうやらほんの微量でも魔力を扱えば鱗が出るらしい。
アルマ曰く、魔力は呼吸するのと同じものだったうえに、龍に鱗があるのは当たり前だったらしいので、ミマのような例は珍しいらしい。
「あぁ、龍人、らしいから」
「竜人!? はー、また珍しい。でも、言われてみれば瞳の形とか確かに……」
「そうなの?」
何やらニュアンスも違う気がしたが、それ以上に珍しいということに驚く。
アルマの知識では種族ごとに文明が出来るほどに発展していた。龍族だってかなり多くいたはずだが……。
「えぇ。エルフも希少だけど、竜人はその……前線に立つ人が多いから、ね」
「そっか……」
この世界の死亡率はミマが思うより高いのかもしれない。
自衛の手段を得ないといけない、強くそう思ったミマは早速魔法を使ってみることにした。
思い描くのは『火の魔』とアルマが呼称する魔法。
片手に集めた魔力を外界に顕現し、炎へと変換する。
「出来た……」
「……貴女、魔力の使い方は知らなかったのに、その運用は出来るんですか」
「えっと、知識はあるから」
こんなことも出来る、と魔法陣を展開し地面に干渉、遠隔操作のゴーレムを作り出した。
想っていた以上に操作するのが難しいが、地球のゲームを思い出せばそれなりに動かすことに成功する。
「魔術式によるゴーレムの作成、操作……ミマって、魔術師?」
「? 魔術師?魔法使い、魔導師とかじゃなくて??」
「それも知らないのですね……いいですか?理に干渉する魔術式を使える人が魔術師、精霊を介して自然界に影響を与える人が魔法使い、その両方を出来る人は魔導師って言われるの」
「へぇ……」
「うーん、貴女は本当に歪。知っていることと知らない事、やっていることと出来ないことがアンバランスすぎます」
「まぁ、私も分かってないことが多いから、何とも言えないけど、多分その分類なら魔導師になる、と思う」
アルマの知識は古の物だ。魔術も魔法もそれ以外も全て『担い手』としてごっちゃにしていたような時代の物。故に、この時代でどんな扱いを受けるかはわからないが、定義を当て嵌めるのなら魔導師で間違っていないだろう。
「さって、もう今日は遅いし宿に戻ろうぜ。ミマの事も話さないといけないし、部屋とか大丈夫かなぁ」
「もしもの時はアシュリが廊下で寝ればいいですよ」
「んな殺生な!」
「? 別に私は同室でも大丈夫だよ?」
「「な、そんなのダメ!!」」
ヒシっと女性二人がミマに抱き着いた。
「いいですか?男性は野獣なの。そんな据え膳用意されたら、幾らヘタレのアシュリでも食いつきかねないんです……!」
「そうですアシュリさんはちょっと奥手ですが、やる時はやる方です。ミマちゃんはもうちょっと自覚した方がいいですね」
「? あ」
また自分の性別を忘れていたミマは、自分がまた変なことを言っていると理解した。
同時になにやらディスられているアルマに少し申し訳なく思い、打開策を考えた結果、ふっと思い出したことを口走ってしまった。
「大丈夫、私、穴無いから……!」
「「そういう問題じゃ…ってえ?」」
「は?」
「?……???」
今度は何に驚かれたのか分からない。
はて、一体何なのだろうか?
『あー、ミマの場合はほら、私って言う存在に充てられて龍人になったからさ、女性よりの無性なのよ』
(つまり?)
『ミマの精神状態に合わせて変化するようにしてるから、私とのすり合わせが完全に完了したらそこら辺も変わりだすと思うの。つまりね、無性なのは特殊なの』
(あーなるほどぉ。あれ、龍に性別ってないって?)
『そうよ。本来龍族って性別が無いんだけどね、貴方龍人だから。あの時のは、本来私に性別が無いから、意識がガラッと変わるわけじゃないって言いたかったのよ』
(ほぉ……)
さて、事情は把握したところで、どう説明しようかと悩むミマ。
その後宿に着く前に自分の特異体質をそれとなく説明し、そういうものなのだと納得させるのに時間をかけたのは蛇足である。
ちなみに当たり前のようにアシュリとは別室にされ、二人部屋を女性陣で扱うことになった。
その結果ミマは何故か美人と美少女に挟まれて可愛がられながら寝ることとなったのだが。
(元男としては嬉しいシュチュエーションのはずなのに、無性のせいか……なんか、特別感が……ないなぁ)
やはり性別というのは生き物として色々大事なんだなぁと思いつつ、ミマは暖かな気持ちで眠りについた。