自由に動く
巳磨がアルマと出会い、ミマとして生まれ変わっていたその頃、転移する前に一緒にいた四人はボロボロの掘立小屋のような場所で目を覚ました。
始めは全員混乱していたが、少しすると落ち着き、状況確認をしていた。
「……さて、光に呑まれて目が覚めると別の場所。テンプレって奴だな、巳磨が読んでた小説にそっくりな状況だ」
「ホントにこんなこと起こるなんて、面白れぇな!」
「面白がってる場合か?……まぁ分からんでもないが」
冷静にツッコミ入れながら分析をしつつ、皆を纏めているのは、眼鏡をかけた知的な青年。名前を栞作 誠という。彼はボランティア部とは名ばかりの別名「ダラケ部」部長だ。
隣でこの状況を楽しんでいるのは、明るい茶色の髪をしたマコトより少し背の高い青年。
名前を藤山 徹といい、何でもかんでも愉しむ変質者である。ちなみに髪は地毛だが、よく染めていると誤解を受けることが多い。
「よく楽しめるよねぇ、流石のボクでもこれがいわゆる誘拐っていうのは理解できるのに」
トオルを見て呆れているのは、ショートボブで明るい印象を受ける活発系の少女。名前を須々木 霙という。
スカートの下にはスパッツを履いており、運動部も掛け持ちしている彼女の肌は少し焼けている。
ちなみに、成績は下の中。若干おバカさんだ。
「………」
「ん?どしたんサクラっち?」
トオルが話しかけたのは、あたりをキョロキョロと何かを探すように忙しなく動くポニーテールの少女。名前を華舞 桜という。
ミゾレとは正反対のお淑やかな感じがするが、結構行動派でよく周りを引き連れまわすことが多い。
「ねぇ……巳磨くん、何処?」
「「「ゑ?」」」
一緒に行動してたため、てっきり先に起きて辺りを散策でもしているのだろうと思っていた三人が、揃って疑問符を述べた。
括流巳磨、160センチの小柄な男子で、神出鬼没、誘わないと部活にあんまり顔を出さない猫のような印象を受ける彼なら、先に起きてうろちょろしていてもおかしくはない。
「そーいえば……てか、一緒に来てないとか?」
「でもあれだけ近くにいたのに一人だけって変じゃないか?」
「……別の場所に、なーんてことないよね?」
「というか、来てないなら来てないで、アイツ店に置いてけぼりなんじゃ……」
不安が一同を駆け巡った。
巳磨の行動力は時折変な方向に行く。そのせいで危ない目に合う事も度々あった。
本人はケロッとしていて、危険を危険とも思っていないようだったが、周りからすると放っておけない人物なのは確かだ。
そんな一同の目の前に、ホログラムのように半透明の人物が地面柄浮かび上がった。
「目が覚めたようですね、異世界の方々」
足先まで出現しても尚地面に流れている長い翡翠色の髪をした中性的な美人さんだったが、一同はそれどころじゃない。
「どうする?そこら辺探し回るか?」
「いやいや、二次遭難とか勘弁だぜぇ?手持ちの道具もないし、取りあえずこの変な掘立小屋を漁ることから始めたほうがいいと思う」
「ボクその辺ひとっ走りしてこようか?荒れ道なら慣れてるし」
「何がいるか分からないわ。止めたほうが……」
現れた人物なんて目に入らず、既に先の話と現在の危険性を話し合いだした。
「あ、あのぉー」
「ロープとか布とか非常食とかはさっき見つけておいた。少しは持つだろう」
「刃物ならさっきそこで布に丸まってんの見つけたぜ。ナイフと西洋剣と、後棍棒もあった」
「ねーねー見てみて!変な本見つけたー!」
「貸してみて……変ね、見たこともない文字なのに読めるわ」
「もしかして魔法の本とかじゃねぇのそれ!?」
「……みたいね、魔術構造に関して書いてあるわ。ミゾレ、他にはある?」
「こっちに本棚あったよ!」
「魔導書か………ロマンだな」
勝手知ったるなんとやらといった様子で小屋を根掘り葉掘り漁っている四人。流石にそろそろいいかなーなんて思った美人さんはもう一度少し声量を大きくして話しかけた。
「あのぉ……ちょっとー」
「「「「ちょっと待って、今立て込んでるから」」」」
「ア、ハイ」
遂には魔導書を読み漁りだしたフリーダムな四人組に気圧され、黙って小さくなってしまった。
巳磨の心配はしているものの、何だかんだ助かっている彼を変なところで信頼している彼らは、暫くの間美人さんのしょんぼりした空気を無視して本を読みふけるのだった。
●
そのころミマは転生を終え、再度目を覚ました。
「……ん、……ん?」
起き上がると、何故かやたら伸びている黒髪がまず視界に入った。
次にズルッと落ちるズボンにずれる上着。ピッタリだったにもかかわらずサイズがまるで合っていない。靴も同様で、さらに視界が大分低くなったように思う。
「ナニコレ……」
声も若干高くなり、まるで女の様……というか、アルマとそっくりな声色だったように思えた。自分で発しているので若干受ける印象が違ったが、確かにそう感じた。
『起きた?』
「ん? アルマ?」
『そだよ~。キミの守護者であり、加護をもたらす者であり、キミと一体化したアルマさんだよ♪』
何か半透明になったアルマの声が、脳内に響いた。
そして改めて見比べると……自分はアルマより少し小さくなっていた。
「アルマ、なにこれ?何でロリになってるの??」
『私の影響が強すぎたみたいだね』
「え、じゃあこれから女として生きてくの私……私!?」
さらに一人称まで影響を受けていた。
どれだけ根深く影響を受けたのだろうか……。
『アハハ、だいじょうぶだいじょうぶ。龍に性別とかないから!』
「誰もそっちの心配してないよ‥‥?」
言われて確認すると、本当に性別なんてないらしい。
棒も穴もない。ついでになぜか小さなふくらみは合った。
「……何で膨らんでるの?性別ないんだよね?」
『そりゃ1万年以上もその姿だったからね。私の影響を強烈に受け過ぎたみたい、ごめんね★』
「全然なにも反省も後悔もないね……まぁいいけど」
行き成り性別が転換……もとい無くなるとは思ってなかったが、まぁ特に気にはしない。
というか気にしても仕方ない。死ななかっただけましと切り替えることにした。
「取りあえず、ここからどうやって出ようか」
『んー、今のミマならひとっ跳びで降りられるよ?』
「私いったいどうなってるのそれ……?」
『人型の魔龍』
「だったね……そういえば脳内に響いたあれって何?アルマじゃないよね?」
『んっとね、ミマの知識から分かり易く言うと、ぱそこんってあるでしょ?アレでこの世界を例えると分かり易いよ』
「パソコンで……何かのセキュリティからの通告とかそんな感じ?」
『そうそう。世界意思っていう大きな者からこの世界に住まう小さな者達への報せだよ』
「へぇ」
ファンタジーだなぁと思いつつ、自分のスペックを確認する。
軽く腕を振るうと突風が起こり、足元を蹴ってみれば地面がめくれ上がった。石礫を握ってみればあっさり砕ける。
「ナニコレコワイ」
『ちょっと体が慣れてないのかな?転生時にそこら辺の無意識はスリ合わせたつもりだけど、魔龍ベースでそっち系が強いせいだね。仕方ない、そのうち慣れるよ多分』
「最後余計だよ。取りあえず、この身体なら生半可なことじゃ壊れたりしなさそうだね」
言いつつ、さっきまで結界の壁があった吹き抜けの場所へと赴いた。
アルマが加護へと転生した際に、一度死んだとみなされたせいで結界が消えていた。
なるほど、だから生命体が必要だったのかと思いつつ、ミマは山の天辺から落ちるようにして降りて行った。