目覚め
初めまして、更新は不定期です。よろしくお願いします。
目を開くと、そこは--……そんなテンプレな始まり方があるなんて、どれだけ自分は最高なんだろうか。
「おーい、大丈夫?」
「……ぁ、ぅ」
寝転がっている自分に声を駆けてくれた存在に言葉を返そうとしたが、何故かうまく声が出ない。
身体が気怠く、起き上がる事すらできそうにない。
「フム……巻き込まれの誤転移による衰弱かな?足りない分を周りのエネルギーと自分の生命力で補われちゃったんだろうね」
誰だろう……可愛らしい声からして、女の子のようだ。
だけど、今自分が寝転がっているのは剥き出しの地面で、声が反響しているのと暗さから考えて、洞窟っぽい。
「ちょっと待ってね……んっと、これでいいかな」
彼女の手が頭に触れると、何か暖かなモノが体に流れ込むような錯覚を覚えた。
一気に呼吸から何から楽になり、起きることが出来た。
「おはよー。危なかったね、もう少しで死ぬところだったよ?」
「そっか……ありがと」
薄暗いが、差し込んでくる光によって彼女の姿がはっきり見えた。
輝く白銀の長髪、こちらを見据える黄金の瞳。身長は150センチほどの美少女が居た。
衣服は黒いワンピースで、綺麗な髪が映えて神々しく見える。
「えっと、ボクは括流 巳磨って言います」
「ククリ・ミマ、ミマ・ククリね。私はアルマ・ディラ・ギリリアス……その風貌からして、異世界人かな?」
「ゑ?」
「? 違った?強制転移させられたみたいだから、てっきり誰かがミスって異世界人を引き込んだのかと思ったんだけど」
「……」
異世界やら転移やら突拍子が無いことを言われ、思わず固まってしまう。
取りあえず一度深呼吸して、自分の身に起こったことを思い出してみた。
何時も通り部活帰りの道を部活メンバーとどこか寄って帰ろうか~、なんて雑談しながら、近くの店に入って皆座って、頼んだものを食べてたら足元が光って……気づけば洞窟。
「……テンプレってあるんだ」
「?」
「あ、いやなんでもない。 えっと、多分そうだと思う。ボクの住んでたところには魔法なんてなかったから、よくわからないけど」
「そっかそっか。んーどうしようかなぁ」
「?」
「いやね、キミは多分召喚陣の中に入っちゃってたから巻き込まれちゃっただけなんだよね。それで対象者にしか魔力を配分してなかったから、キミ……ミマの召喚は、ミマの周辺に合った物とミマ自身の生命力で補われたみたいで……いわば、今貴方は死にかけてます」
「……まじですかー」
「今は私の魔力を生命力に変換させて分け与えてるけど……どうしてもロスが出ちゃうから、多分近いうち死んじゃうんだよねー。私が本領発揮出来たらよかったんだけど」
「いや、うん。いいよありがと」
「いいって、死にかけてるんだよ?」
なんで?と首をかしげるアルマ。超かわいいと思いながら、ミマは自分の考えを話した。
「人間死ぬときは死ぬからね。ちょっと早かっただけだよボクは」
「死が怖くないの?」
「怖いけど……いいよ。正直、十分だと思ってたから。まぁ家族や友達は悲しませるだろうけど、仕方ないよ」
「……」
どこか諦めたような、投げやりな様なミマを見て、アルマは少しミマに興味が湧いた。
「ミマは随分変わった死生観を持ってるんだね」
「そうかな?」
「そーだよ。普通は死ぬのは嫌だし、そんな簡単に諦められないもんだよ。特に、ミマみたいに若いならね。……なにか理由でもあるの?」
「んー……まぁちょっとね。我儘だから、ボク」
それだけ言うと、洞窟を歩き回りだした。
一ヵ所だけ外の景色が見える場所があるが、そこから見えるのは絶景で真下は崖という……どうしてこんな場所に少女が居るんだろうか、謎は尽きない。
そもそも食料も何もないし、此処に住んでるわけじゃないだろうけど野宿の準備すらないってどういうことなのだろうか。絶景を見たところ山の頂上みたいだし、行き場がどこにもないと同時に帰り道もない。
「ねぇミマ」
「ん?」
「気付いてるだろうけど、私人間じゃないんだよね」
「え、あ、ハイ」
全然気づいてなかったけど、まぁ言われてみれば納得なので頷いておく。
こんな場所に何の準備もない少女一人いることからしてあり得ないし。
「ミマ、ちょっと契約しない?」
「契約??」
「うん。私はとある理由から此処に封印されてるの。此処の外に向けて魔法やスキルは使えない。で、もう1万年以上は此処にいてさ、もう十分だと思うんだ」
何の話か全く見えないが、言いたいことは分かった。
「外に出たいってこと?」
「うん、そういうこと。でも封印術に内側から干渉は出来ないんだよね」
「じゃぁどうするの?」
「ミマはさっきの言葉から察するに、今死んでもいいし、死なないならそれはそれでイイってことだよね?」
「まぁ、うん」
「一つだけ外に出る方法があるんだけど、私以外にもう一つ生命体が必要だったんだ。ねぇ、ミマ」
アルマは、まるで悪魔のような取り返しのつかない契約を、天使のような笑みを浮かべて言った。
「貴方を生かすから、残りの生を使って、私に世界を見せて欲しいな」
自分を生かす、つまり死にかけの状態では無くす代わりに、この異世界を一緒に旅してほしい、という事だろう。
「……いいよ、別に」
少し間を置いて、ミマは頷いた。
「ありがと。じゃぁ今からミマに私の力を使って加護を与えます。この加護を受けた時点で、貴方は人としてはあり得ない能力を得ることになります。同時に、人ではなくなるでしょう」
「人じゃなくなるって……?」
「貴方がベースなので人型ではありますが…加護に合った種族へと強制的に転生させます。それが、貴方が唯一死を免れる方法であり、同時に私の目的を果たすことになります」
「よくわかんないけど……どーぞ」
「では、契約をここに―――【加護転生】と【加護譲渡】【加護変異】を執行します」
アルマの丁寧な言葉を祝儀、もしくは呪儀が始まった。
ミマに密着するように無数の小さな魔法陣が現れ、全身を覆われた。
アルマの足元にも魔法陣が現れ、彼女の姿が少しずつ薄れていく。
脳裏に、何か言葉が聞こえた。
―意思ある加護【聖龍魔神アルマ】、魂の契約により永久付着。
―加護【アルマ】によって、変異転生が行われます。
――属性を感知。罪源「怠惰」「暴食」「傲慢」美徳「希望」「節制」「誠実」を確認。
――属性の天秤の結果、罪源を認識。
――括流巳磨を魔龍人「ミマ・ディラ・ククリ」へと転生開始。
転生を開始したと同時に、ミマの意識は途絶えた。