すっぱい葡萄ときつねの親子
イソップ物語の「すっぱい葡萄」をご存知ですか?
美味しそうに実った葡萄をみつけたきつねが何とか取ろうとしたけど、とても高いところにあってどうしても届かない。そこできつねは「あの葡萄はすっぱくてとても食べられないに違いないや」と言い捨てて立ち去る、というようなお話しです。
これは「すっぱい葡萄」に少し似た、とあるきつねの家族のお話です。
あるところにきつねの親子が住んでいました。
子ぎつねはまだまだ小さく、まだおしゃべりはできませんでしたが、元気いっぱい、すくすく成長していました。
ママきつねはとても一生懸命子育てをしていましたが、自己主張をするようになった子ぎつねとのコミュニケーションに毎日悩むようになっていました。
そんなある日のことです。
きつねの親子が散歩をしていると、子ぎつねが美味しそうに実った葡萄を見つけました。
子ぎつねが葡萄の下に駆け寄りましたが、とても高いところになっていて届きませんでした。ママきつねも一緒になって葡萄を取ろうとしましたが、とても届かなそうな高さです。
ママきつねは子きつねに言いました。
「あの葡萄はすっぱくて美味しくないの。だから食べるの止めましょ」
子きつねはママきつねの機嫌が悪くなったのはわかりましたが、ママきつねが何を言っているのかちゃんと理解できませんでしたし、葡萄があまりにも美味しそうなので諦めることができませんでした。
子ぎつねがまだ葡萄を食べたそうにしているのを見てママきつねが言いました。
「あの葡萄は酸っぱくて美味しくないの!食べちゃいけないの!何で判らないのよ!!」
続けてパパきつねに言いました。
「この子、あの酸っぱい葡萄を食べたがるのよ。大丈夫かしら… まだおしゃべりもできないし、他の子と違ってちょっと変じゃないかしら」
パパきつねは子ぎつねの様子と葡萄をみて、またこれまで子きつねとのコミュニケーションに問題を感じたことがなかったためこう言いました。
「いや、あんなに美味しそうな葡萄だし、食べたくなってもしかたがないんじゃないかな。まだおしゃべりできないとはいっても元気に成長しているんだし、大丈夫じゃないかな。」
それを聞いてママきつねは怒り出しました。
「あなたは子どもが心配じゃないの?!」
パパきつねはとてもびっくりしてそんなことはないと釈明しましたがママきつねの怒りは収まりません。
そのようななか、子きつねはふと視線を変えると、もう少し低い位置になっている美味しそうな葡萄をみつけました。子きつねの視線に気がついたパパきつねは思い切って葡萄に向かって飛び上がり、見事葡萄を取ることができました。ちょっと味見をしてみると、見た目の通りとても甘くて美味しい葡萄でした。
パパきつねはよろこんで子きつねにあげようとしました。
しかし、ママきつねが子きつねの前に立ちはだかりました。
「あなた、あの酸っぱい葡萄を子どもに食べさせようって言うわけ?」
「いや、とても美味しい葡萄だったよ… 子どもも食べたそうにしているんだし、良いんじゃないかな?」
「美味しい葡萄だなんて、どうかしてるんじゃない? あなた、子どもがどうなったって良いんでしょ!」
パパきつねは思いもかけない話の展開にびっくりしました。
これまでママきつねが子育てに悩んでいることは気がついていましたが、ママきつねの様子にとても不安になりました。そこでママきつねに言いました。
「ねえママ、大丈夫? ちょっと休んだ方が良いんじゃないかな?」
ママきつねは激怒しました。
「あなた、私がおかしいっていうの?! もうあなたとは一緒にいられない!!」
ママきつねは子きつねを連れて、パパきつねのもとから立ち去ろうとしました。
子きつねはパパきつねのもとに駆け寄ろうとしましたが、ママきつねに咥えられてしまいました。子きつねは泣き出しました。パパきつねは泣きじゃくる子きつねに駆け寄ろうとしましたが、ふとママきつねの顔を見ると、その強張った様々な感情の混ざった表情をみて躊躇してしまいました。
パパきつねには、ここでママきつねから子きつねを取り上げてしまうと、子きつねにはママきつねがいなくなってしまうように感じたのでした。
ママきつねは子キツネをつれて、そのままパパきつねのもとを去りました。
パパきつねはひとりぼっちになりました。
何故ママきつねはパパきつねのもとを去っていったのか考えました。
「すっぱい葡萄はすっぱいままじゃなくちゃいかなかったのかな…」
パパきつねは何度も考えました。
でも、葡萄をすっぱいままにするのは大丈夫そうですが、子きつねが変だということには、何度考えても同意できそうもありません。
あと、ママきつねのことを考えると、子きつねを取り上げることもできそうにありません。
また何度も何度も考え、パパきつねは心に誓いました。
「今、ママきつねと子きつねのためにできることを精一杯やろう」
パパきつねはママきつねと子きつねのために食べ物や綺麗なお花などをとどけるようになりました。
パパきつねはママきつねと子きつねと一緒に過ごすことはできませんが、ママきつねと子きつねの幸せを願って、またママきつねと子きつねの笑顔が見られる日を夢見て一生懸命頑張るのでした。
おしまい