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#9 真実

▼真実


「バカ〜〜〜〜〜〜!」

 廊下の端まで聞こえるような甲高い声が、四人部屋の病室を揺るがした。

「あ〜ん!かえでちゃん、声でかい〜」

 周りの入院患者が、何事だと云わんばかりに一斉に叶のベッドに注目した。

「……」

 その事に我に返るようにはっと気がついたのか、かえでは真っ赤になって備え付けの椅子に腰を下ろした。

「バカだからバカだって云ったまでよ……」

 せっかく用意していたバースデイプレゼントをこんな所で渡すハメになるなど思ってもいなかったからである。しかも、楽しみにしていたサブライズ・パーティーもお流れ。

 苦心して考えていた事が、水の泡になった事を考えると、かえではいてもたってもいられずそう云うしか無かったのである。

「心配してくれてたんちゃうんか?かえでちゃん!」

 少し身を捻るようにして、かえでの方に身体を向ける。そうしないと表情が見えない。

『ペシリ』

 そんな叶の頻に一発平手打ちが入る。入ると云ってもただ軽くはたいただけだが。

「……事情は朔夜ちゃんから闇いたわ。これ誕生日プレゼント……」

 そう云うと、一枚の映画のチケケットを渡された。

「なん?あ、これ俺が見に行きたかったやつやん!」

 そう云うと、片手でそれを受け取り眺めた。

「ここにもう一枚有るんだけど?」

 かえではふて腐れたように膝に肘をつく。

「あ、もしかして、一緒に行ってくれる予定やったんか?……そんなあ〜……」

『シュン』とへこむ叶の心情は判りやすかった。どこまでも女運が無い。せっかく用意してくれたチャンスがあっさりと打ち砕かれた訳で有るから。

「この怪我、完治する頃まではやってるから……さっさと治しなさいよ!」

 そっぽ向いて赤く煩を染めるかえでに気が付き、

「かえでちゃん、可愛い……」

 云ってはならない一言がポツリと叶のロからもれる。それを聴き逃さなかったかえでは、

「今、なんて云った〜?」

 まるで、某、映画の貞子のような表情で叶を睨み付けたのである。


「それでは、お大事に……」

 朔夜は、神楽の母に挨拶をして、その部屋を後にした。今日は、予定では神楽と共にお見舞いをする事になっていたのに、時間になっても現れない神楽を持ち続ける訳にもゆかず、ナースステーションで部屋を調べてもらい、一足先にお見舞いした訳である。

 朔夜は、持ち合わせ場所を間違ったか、時間を間違ったのか、色々考えたが結局分からないままであった。

 もしかして、入れ違いで先に行ってしまったのかとも思い、足を向けては見たが結局は違った。

「どうしたのでしょうね?」

 連絡すべき電話番号を携帯電話で鳴らしてみても誰も出る様子は無かった。

 仕方無しに、叶のいる病室へと向う。

 広い病院では無いので、階段を降りようとしたその時、まるで昨日のシュチュエーションのように声を掛けられた。

「朔夜さん?」

 聞き慣れない声に振り返ると、そこには今まで捜していた神楽が立っていた。

「どうしたんです?その声は……」

 まるで初めて聞くかのようなハスキーな声であった。

「すみません。昨夜、冷房をかけ過ぎて寝てしまったもので……鳳邪をひいたみたいです……」

 言葉の間に、『コンコン』と咳き込むのが耳に入った。

 意外に、おっちょこちょいな人なのかな?と想いつつも、朔夜は心配げに、

「酷い咳ですね……大丈夫ですか?」

「はい……申し訳ございませんわ。あの、居候さんの……お見舞いだけでも出来るようで良かったです……」

「連絡下されば、無理して来て頂かなくても良かったんですよ。今日は、これから帰って安静にしておいて下さい」

 顔つきが青ざめた表椿な上に、この声を聞いていると申し訳なかったと想う朔夜。

「また日を改めても……」

 そう云おうとしたが、

「せっかく、お見舞いの品も買って来た事ですし……このままお伺い致しますわ」

 神楽はそれでもニコニコ微笑んだ。

 確かに、ここまで来てもらっておいて、帰れと言うのも申し訳ない。そう考えると、朔夜は叶がいる病室へと案内した。


「もう帰る!」

 今の今まで痴話喧嘩が続いたかのような有り様の所に、昨夜と神楽は叶の病室に入り込んだ。

「あ、朔夜ちゃん!聞いてよ〜このろくでなしがね〜!!」

 神楽がいる事など目にも入って無いかのようにまくしたてた。

「かえでちゃん。落ち着いて下さい。ここ病院なんですよ。周りの人に迷惑がかかるでしょ?」

 いつもの事ながら、叶とかえでの喧嘩は見なれているのである。だからこそ、今まで、この三人が上手くやって来れた理由も分りやすい。仲裁に入る?か、ほっておくか?そのどちらかだ。

 そんな中、叶が後ろに控えた一人の女性に気が付いた。

「どちらさん?」

 一瞬、空気が変わる。

「あ、僕の……許嫁の……錦織神楽さんですよ」

 戸惑いながらも朔夜は応えた。

「許嫁……?」

 かえでと叶は一瞬絶句した。

「朔夜ちゃん……そんな人いたの?」

「ええ……まあ……」

 少し照れながら答える朔夜に、

「スケベ……」

 叶はひがむかのように言葉をどもらせた。

「錦織神楽……と申します……」

 礼儀正しく頭を下げるその姿に、

「かえでちゃん。見習わな〜」

 流し日でかえでを見る。

 ムッとしたが、どう見ても穏やかさをかもし出す彼女に負けている事に気が付き、叶が云う事は正しいとこの時だけはそう想った。

「あ〜!でも、何処かで逢った事ない?変やな〜気のせいかな〜」

 美人と分かっての言葉の弾みなのか、それとも真実なのか?それは分からないが、叶は、その顔に見覚え有るかのように表情を一変した。

「いえ……初対面ですわ……事故で怪我をなされたとか?こちら、お見舞いの品です……早く治られるとよろしいですわね……」

 嫌な顔一つせず、神楽は答える。

「叶!あんたは何でも知り合いにするつもり!?」

 呆れて物が云えないわと、かえでは、

「じゃあ、あたしそろそろ仕事に行くね。朔夜ちゃん仕事入ったら連絡するね〜……バイバイッ、叶!」

 表面上徽笑みながらも、叶には眉間に皺を寄せながら挨拶してかえではさっさと病室を後にした。

「なんや〜かえでちゃんのあの態度!……でもそこがええねん〜」

 一人の世界に入っていく叶であった。

 こういう時の叶を見る度に、打たれ強いなと微笑む朔夜であった。


「でも、ホンマどっかで会ってへん?」

 叶は『マジマジ』と神楽の顔を見る。

 普通ここまでされると失礼だろう?と想える程に、叶は神楽を見ていた。でも、そんな事は気にしないで、神楽は優しく否定の言葉を告げる。そんなやり取りをしていた時、突然叶の身に眠気が襲って来た。

「あれ?変やな〜昨日あれだけ寝たのに、眠くなってきた。薬のせいかな〜悪いんやけど、今日はこの辺で……」

 云い終わらないままに、まるで充電が切れたかのように叶は眠りに落ち込んでいった。

 その様子を見ていた朔夜は仕方ないと神楽を見た。今日はこの辺で失礼して、神楽を休ませなければと想ったからである。

 しかし、神楽を見た瞬間、何か今まで気付かなかった違和感を感じた。それは勘というよりも、もっと適切に云い換える事が無いような何か……神楽の目が一瞬、叶の眠りを楽しんでいるかのような何か……

そしてすぐさまハッキリとこの人は、神楽とは違う!と朔夜は気付いたのである。

 しかしその気持ちを抱えつつも、笑顔で、

「じゃあ、行きましょうか?」

 優しくこの病室を出るように、言葉で促した。早く確かめなければいけない事のように想われて……


 病室を出て、朔夜と神楽は階段まで歩く。


 何故気が付かなかった?


 考えてみれば、こんなに神楽は背が高くは無かった。それに、完璧に似てはいるものの、表情が固い。それを見越して朔夜は廊下を歩きながら考える。そして、一か八かの賭けに出たのである。

 神楽の腕を掴むと、丁度男子トイレを通り過ぎる時、その中に引きずり込んだのだった。

「きゃあ!!」

 悲鳴を消すかのごとく、ドアを閉めると、朔夜は単刀直入に問う。

「あなたは神楽さんではありませんね……?」

 真剣に問う朔夜。

「何の事ですの……?ここは殿方の……」

 恥ずかしいとでもいうかのような素振りで、神楽はそこから出ようとするが、朔夜には確信があった。

「お芝居はそのくらいにして頂けませんか?神楽さんの弟くん?」

 その言葉に、一瞬戸惑った様子を見せたが、突然、諦めたかのように大声で笑い出す。

「あはははは〜分かった?意外に早かったね〜結構上手くやってたつもりなんだけどなあ?」

 ぬぐい取るかのようにして、頭からカツラを取る。それを手に、トイレの壁に寄り掛かった。

「姉さんから聞いてるだろ?オレ双子の弟の雅樹。キョウとはバイトで逢ってるからな……まさかあんな反応されるとは誤算だったよ。あのお人好しに気付かれるなんて想いもしなかった。甘かったな……でもここで分からなかったら、もっと事件起してやろうと想ったんだけどね〜気が変わったよ!」

 何の事を言ってるのか朔夜には判らなかった。

「事件?」

「そう。ここ最近の下北沢での事件だよ」

 それでも、朔夜には分からなかった。何を云っているんだ?心の中でその事が空回りする。

「俺は天使なんだよ。これでも判らない?」


 天使は全てを知っている


 確かそんな言葉だった。

「賭けをしません?次起こる下北沢での事件を解決出来れば都住朔夜……お前の勝ち。姉、神楽との事も大目に見てやる。もし解決出来なければ。神楽から身をひけ!期限は来週の日曜日。それまでに、二件の事件を起す。そうだなあ特別にハンデをあげよう……このままだと分が悪すぎるだろうからね〜ヒントは、『F―KN―24』」

 まるで恨みでもあるかのような表情で朔夜を睨み付ける。

「君が今までの犯行をしているのかい?そんな事を話せば君は……」

「俺はね、一つも自らの手を汚して犯行に及んではいない、俺はね……」

 朔夜の耳許で囁く。


「!?」


「法には触れて無いさ。どうする?この賭け乗ってみるかい?頼みの綱は、キョウだってのにさ〜それがこの有り様。この状況を突破出来る物ならしてみな!」

 両手を振り上げながら、してやったりの表情で朔夜を見る。

「何も云わないならこの賭けを承諾した事とみなすが異存はないな?」

「……もしかして、君が叶を……」

 普段冷静な朔夜に全く似つかわしくない表情で強張っている。

「俺だけど、俺ではない……」

 そう云うと、カツラを被りなおし朔夜を振り返りもせずせせら笑いながら横を通り過ぎた。

 今、朔夜の頭の中は混乱していた。

 今の今までこいつは何を云っていたんだ!?

 賭けだって?

 ぐるぐると渦を巻くその頭は思考回路を遮断した。


 俺は誰かとは違う、完璧な陰陽師だからね……


 幽かに囁かれたその言葉が、朔夜の頭を駆け巡っていた。


 TO BE CONTINUED


 


後編へ続きます。もし宜しければ、後編もお読みくださいませ。

このシリーズまだまだ続きます。

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