#5 好奇心
▼好奇心
「ただいま」
次の日、予定通り朔夜は帰宅した。まだ頭の中は本調子にはなれなくて、足が地面に付いて無いそんな時の出来事であった。
「おはよ〜ん!朔夜ちゃん!」
何故だか分からないが、朝から妙なテンションのかえでが上がり込んでいる事に気が付き、一気に現実に戻されたような気分で一瞬目眩がした。
「よおー早かったなあ〜」
相変わらず、タンクトップ一枚で扇風機を一人占めしている叶。
「晩まで帰らんのかと思っとったわ〜」
一瞬、ギロっと睨まれた気がしたが、まるで隠すかのように瞬時にニコリと笑った。
「お郡魔したのかい?」
朔夜は、自らの都屋に向おうとした通りがけに小声で囁く。叶は嫌みやなと言う表情をしたが、切り返した。
「えらいニュースがあるんやわな!かえでちゃん」
と、いうことで、昨日の夜の事の次第をかえでと叶は話し始めた。
「えらいことやで!かえでちゃんのアバートって、下北沢の端の方やろ?やっば何かあるで、これは!」
興味津々な叶に、
「考えてみれば、そうよね。云われるまで気が付きもしなかったわ……暇人はこういう時に役に立つと云うからそれかもね〜発想が飛んでて!」
少し、嫌みを込めてかえでは云う。忙しくて手が村けられなかったら、世間の事なんて疎くなるのも当たり前だとでも云うかのごとく。
「何云ってんねん。博識の常識!この時代何が起こっとるんか知っとらんかったらいかんのや!」
膨れっ面の叶は、かえでに舌を出す。
しかし、そんな事お構い無しに、
「でもね、あの後、不思議な事を聞いたのよね〜あの置き手紙?っていうのかしら?遺書?警察の話を小耳にすると『天使は全てを知っている』っての、前に起こった自殺現場にも残されているんですって!でも今回は、未遂で終わったから、事件の鍵は彼女が握っている可能性を大きく示唆出来るんじゃないかって警察は考えているみたいよ!」
かえでは事細かくは知らないらしいが、そんな事をロ走る。
「ニュースでも取り上げられて無かったのに滅多に周じ遺書なんか残さんわな〜やっぱ何かあるで〜探偵じゃないけど何かわくわくするわ〜」
そんな不謹慎な事を云って退ける叶に、朔夜は、
「叶?バイトは?行かなくて良いのかい?」
お決まりの止めの一言を申し渡す。これを引導と言って差し支えないだろう。
「わあ〜しもた〜忘れとった〜」
叶は、一目散で自らの部屋に入り支度を始める。
それを横目に、朔夜とかえでは和やかに話をすすめる。それが叶の耳に雑音として聞こえて気が散る。
「ほな!行ってくるわ〜後は帰って来てからな〜かえでちゃん〜」
珍しく、かえでが手を振ってくれたのが嬉しくて、出がけの靴を危うく履き間違えそうになったが、落ち着いて、何とか出発する事が出来たのは、この時良かったかも知れない。後で、大変な事に巻き込まれるのであるのだから。
「で、かえでちゃん?今日はその事だけに僕の所に来た訳では無いでしょう?もしかしてお仕事ですか?」
朔夜は、慌てふためいた様子の叶を送りだして笑ってはいたが、仕事の事となると真面目な顔になる。
「あはは……そう云う訳でも無いんだけど……」
仕事の話じゃ無い?はて?と、不思議そうに小首をかしげる朔夜。云い出しづらそうなかえでであった為か、
「叶の事ですか?」
少し悪戯っぽく笑って朔夜はかえでに問い返す。
「ま、あんな奴でも、誕生日くらいは祝ってやろうかなと想ってね……」
朔夜の部屋のコタツの上で『ポリポリ』と頬を人さし指で掻く癖は少し照れくさい時のかえでの癖である。
「誕生日?……あ、そう云えば、叶の誕生日は明後日ですね〜すっかり忘れてましたよ」
あははははと、笑って誤魔化しておいた。そうする事によって、かえでに意地悪をするのも面白い。
「居候ですものね。朔夜ちゃんにとっては!」
少しムッとするかえで。いつもいつも居候扱いで叶にあたるかえでではあったが、内心はそうは想っていないらしい。
しかし、叶にしても、かえでにしても感情表現が豊かなだけに、朔夜にとってこれは生きる上での絶好の楽しみなのである。
「で、サプライズ・パーティーならあたしも面白いし、いい趣向でしょ?どう?」
意外にアメリカナイズされてるなとは想ったが、快く引き受ける事にした。ま、バイトをクビになるのを覚悟していつも仕事に付き合わせているし、こういう時に何かしておくのも後々有利に立つかも知れないと云う気持ちもある。
「そうですね。面白そうだからその話乗りますよ!」
二人はその後、どう驚かせようかと云う意見で盛り上がるのであった。




