ぽっちゃりとんぼメガネ野郎②
女の子は今日こそこれ以上自分の頭の中を支配している一つの思いに心を奪われてしまわないようにと、物語を読み上げた。
しかし、しばらくするとやはり頭の中にぐるぐると渦巻いている“例の事”をまた考え出してしまっていた。
本を開きながらも、もう物語の世界観を想像するどころか、文字に焦点は合わずに、ただどうしようかと迷い始め、本をパタンと閉じるとすくっと立ち上がり、昨日までと同じように部屋の中をぐるぐると歩き回り始めた。
「・・あんな昔のことを覚えているわけないし・・。もう5年も会っていないんだから。ただその日を普通にやり過ごせばいいだけだろ! 何をうだうだ考えているんだあたしは!
・・でも、問題はあいつがたとえ忘れていても、いや間違いなく忘れているはずだ。でも問題は、あたしがそれを完全に鮮明に覚えていることだ・・。
あ~、それが問題だ。もっと早く忘れておけばこんなに悩まずに済んだのに。
そもそもは、うちの大学に引っかかりもしないような成績だったあいつが合格なんかするからこんなことに・・あいつが普通通り、下馬評通り落ちていれば、諦めていれば。
こんなに悩まずに今頃はすやすやとベットで気持ちよく眠ってスッキリといつもの朝を迎えていたはずなのに!」
ああっ、と女の子は頭を抱えしゃがみこみ、目をつむって眉間にシワを寄せて思い悩んだ。
「・・はっ、そうだ、そもそもまだ1週間あるじゃないか・・。“まだ慌てるような時間じゃない”と『スラムダンク』の陵南高校、天才プレイヤー仙道彰もたしか湘北戦で言っていたじゃないか・・。
天才仙道がそう言った時間よりもはるかに・・はるかにまだまだ時間があるというのに・・あたしは、かれこれもう1週間も夜中になるとこの葛藤を繰り返している・・。
おかげで今週の講義の集中力はがた落ちだった・・。レポートもいつもは提出期限に追われることなく素早く始めるものを、まだ手付かず状態・・。
このままだと中学1年の時以来の成績不振に陥ってしまうっ! それだけは防がなければ!
あ~・・あの“ぽっちゃりとんぼメガネ野郎”!! もう出てくんな!!」
女の子は頭を抱えながらうずくまって呻きだした。