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私は穴を掘るのが得意な生き物です

 研究者は少しぱっと見ただけなのに、サイアムがドラゴンであると言い切った。

 あまりにも自信満々なので、まずは根拠を尋ねてみることにした。


「ええっと、主にどのあたりがカラカラトビトカゲじゃないんでしょうか?」

「簡潔に言えば、骨格ですかね。特に羽のあたりが顕著に違います。カラカラトビトカゲは滑空程度の飛行しかできませんが、こちらのドラゴンの羽は完全な飛行を目的とした形状をしていますね」

「はあ」

「とはいっても体重比から考えると羽の大きさが足りないため、ドラゴンの飛行は風魔術を利用しているという考えが主流です。我ら霊命種鳥族が飛行の際に風魔術を用いるように、同様の方法で飛行していると推測されたわけです。ちなみに、カラカラトビトカゲはそもそも魔術行使が不可能な生き物です」

「そうなんですか」

「ドラゴンの魔術行使と言えば、ドラゴンはその角に魔素を操る機能が集中しているのでしたね。角の魔素濃度も、カラカラトビトカゲとの大きな違いの一つでしょう。ただし、普通の人間はよほどの高濃度の魔素でないと視認することは不可能なため、こちらは専用の計測器を用いる必要がありますが……」

「な、なるほど?」

「……とにかく、ドラゴンの骨格標本を見た私が言うのだから間違いありません」

「わ、わかりました」


 話しがとても長い上に、専門的な言葉がちらほらと出ていてわかったようでわからなかったような、だ。

 あまりわかって無さそうな様子がそのまま伝わってしまったのか、研究者は最後にこほん、と咳払いをして簡潔に結論をまとめた。

 分かった所だけで要約してみるに、主に羽のあたりの骨格がカラカラトビトカゲとはまったく違うらしい。

 確かにサイアムは、助走無しで飛行することができる。拾ってから今までに、明らかに滑空ではない挙動をしていたように思う。

 その折、もしかして風魔術を発動しているのだろか?

 変人とは言え、学者が言うのだからサイアムは本当にドラゴンなのかもしれない。

 だとすれば、将来どれだけでかくなるのかという少し的外れな心配が頭をよぎった。


「サイアム、お前やっぱりドラゴンだったの……」

「きゅるる」

「ドラゴン、ね。子どもだとこんなに小さいんだ」

「いやはや、えらい拾い物をしたもんだなあ」

「ドラゴン拾ってくるとか、お前やっぱり変な奴だな」

「ドラゴンの幼生の発見なんて、記録上初めての事じゃないでしょうか」


 この度発覚した事実に、周囲から言われたい放題である。

 サイアムそのものは非常に大人しくてかつ賢いからか、あまりドラゴンに対する恐れなどは無いようだったが。

 そして、うずうずと今すぐにでもサイアムを調べ上げたそうな研究者を止めたのは、意外にもシンだった。


「おいおい、そっちも超気になるだろうけど本命じゃないって。そいつを抱き上げてる方を先に調べてほしいんだが」

「ドラゴンの幼生以上に優先すべき研究素材なんてあるわけが……フム?」

「な、何ですか?」


 観察するかのような鋭い視線が私の視線と交わり、思わず後ずさった。

 上から下まで一通り流れて行った視線は、顔ではなく私の頭頂部のあたりで釘づけになった。

 穴が開くんじゃないかというほど熱い視線を注がれ、私のアナグマ耳は無意識にへたりこんでしまう。


「霊命種の……熊族ではないようですね」

「えっ」


 今までひた隠してきたことを簡単に暴かれ、じわりと嫌な汗がにじむ。

 いちいち見ただけで生き物の種類を区別できるなんて、専門は生物学か何かだろうか。


「耳の形状が熊では無い……フム、これは」

「い、いやいや、その、これは」

「ちょっと変わった形をした耳をしとるが、こいつは熊族だ」

「そう、そうなんです! 熊さんのグレゴリーが言うんだから間違いありません!」


 何と誤魔化そうかと意味も無い言葉を紡いでいた私に、グレゴリーが助け舟を出してくれた。

 それに飛びつくように乗っかったが、相手はどうやらまったくその言葉を信じていないようで、疑わしげな視線を寄越している。


「ちょっと尻尾の方も確認させて頂けますか?」

「えっ、尻尾!?」


 私の熊よりはいくらか長い尻尾は、服の下に押し込まれている。

 見るからに熊の物ではないそれを見せるわけにはいかない。

 さらに、尻の上に生えたそれを引っ張り出して、会って間もない人間に見せるのは少しばかり心理的に抵抗がある。


「そ、それはちょっと……」

「何故そこで渋るんですか?」

「尻尾ってそのー、ちょっと見せ辛い場所に生えているっていうか……そうじゃないですか?」

「そうは思いません。とにかく必要なことなので見せてください」

「えーっと……」

「尻尾もちと変な形でな、それで見せたくないんだとさ」

「そ、そうです。ちょっと他の方と違うので……」

「私は全く気にしないので今すぐ見せてください」


 グレゴリーのフォローもむなしく、研究者はオウムのように見せてくださいと繰り返す。

 ローサも何とか言ってくれ、と後ろを見たら何故かグレゴリーの後ろに隠れている。

 いつもの堂々とした様とは打って変わって、何だか目立ちたく無さそうなその態度に驚いたが、今はそこを気にしている場合では無かった。

 先ほどからずっと尻尾を見るのにお預けを食らっている研究者の目が据わってきて何だかとても怖い。


「私はあまり気が長い方ではないのですが……」

「お、穏便に! 穏便に頼みます!」

「それならば今すぐ見せてください」

「うぐぐ……」

「別に今さら変なところが一つ二つ増えた所でどうってことないだろ? 言った通り、別に外部に漏らすつもり無いし」

「ど、どんなことでも?」

「概ねは」

「うーん……それなら……」


 いくらか悩んだものの、ここで渋っていては何も分からないままかもしれないので結局折れることにした。

 注目されたままでいくらか恥ずかしかったが、ぐいぐいと尻尾を引っ張り出しで研究者からよく見えるよう、くるりと後ろを向いた。


「フム、この尾の長さは……」

「ぎょえ!?」


 いきなり尻尾を掴まれ、間抜けな悲鳴を上げてしまった。

 それほど強い力ではなかったから痛みなどは全く無いものの、普段自分でもそれほど触る部位でも無いので非常に落ち着かない。


「アナグマですね」

「そうですね……その通りです。私はアナグマです」


 ずばりどんぴしゃ言い当てられてしまい、ちょっと動揺して英語を機械翻訳したような妙な言い方になった。


「お前アナグマ娘だったんだ? 俺はアナグマについてはあまり知らないけど、穴掘るのが超得意とかそんな感じ?」

「まあ、穴を掘るのは得意な方かな……」

「へー、名前そのまんまなんだな」


 シンはそれほど動じていないようだった。そもそも、アナグマ云々抜きに、私はちょっと普通じゃないらしいし、今さらなのだろうか。

 それにしても、アナグマだから穴掘るのが得意なの? とは随分と投げやりな質問だとは思う。

 私がアナグマだということをきっちり確認して納得したらしい研究者は、ごそごそとペン、それと紙をくっつけたボードを取り出して言った。


「わかりました。それでは、まずは貴方のことを調べましょうか」

「はい、お手柔らかにお願いします……」


 やや緊張気味の私に対して、研究者は落ち着いた様子で仕切りなおした。


「申し遅れました、私は、ラグ・アメンティ。一応、フォルティエ傘下のこちらの研究所勤めをさせて頂いている者です。主に魔素に関することについて研究しています」

「ムジナです。冒険者駆け出しです。この子はサイアム。で、こっちはグレゴリーで、その後ろの女の子はローサです。二人も冒険者です」


 随分と言葉を交わした私達であるが、今さらな自己紹介であった。

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