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第二十七話 思い出お泊まり!

遅れまして申し訳ございません。ケータイ本体の不都合で投稿することができませんでした(;_;)溜まった二週分は、今回しっかりまとめて投稿させていただきます。

「ふーん?であんたは今ここにいるわけなのね」

「…はい」

「今日って泊まりだったんだ?」

「…うん」

「夕夜の頭の中でだけ」

「…はい」

「今知ったわ」

「…ですよねー」

 現在、午後五時。

 いつも通りに学校を終えて栄理が帰ろうとしたところ、夕夜に思い切り引き止められたのが一時間まえのことである。「穂高くんは?」と聞いたら「今日は来ない」と夕夜は答えた。不審に思ったがとりあえず栄理の家で遊びたいと言うので連れてきたのであるが…経緯を聞いてみたらどうだろう。なんという馬鹿げた話だ。

「そこは穂高くん優先しなさいよ?」

「その話は後程!お願い、泊めて!!」

 パンッと両手を顔の前で打ち合せて夕夜は懇願した。

 真剣に泊めてほしそうだったから栄理は帰れと言えない。もちろん今こうしてるときだって穂高は悶々としているはずで、別れの前にはイチャイチャするのが普通の恋人同士の行動じゃなかろうか?しかし実際夕夜は栄理の家に来ているわけで、しかも泊まっていくという。

「うーん…」

 栄理はしばし逡巡する。

 本音を言ってしまえば―――栄理だって夕夜に泊まってほしかった。

 実は最近、穂高にかかりきりだったのが寂しくて、夕夜は自分との別れなど平気なのではないだろうかと不安になっていたから。

 だから…穂高くんには悪いけど。

「ま、私だってたまには夕夜独り占めしていいわよね。今日は朝まで語ろっか」

「栄理…ありがとう!」

 思わず夕夜は栄理に抱きついていた。

 そうと決まれば絵里に知らせなければと、携帯を取り出しメールを打つ。今日は泊まるということと、それから―――朔眞への差し入れの代わりを頼むこと。

 すると横から携帯画面を覗いていた栄理は、ふと思いついたようにそういえば、と言葉を発した。夕夜はん?と目線でその続きを促す。

「今日も木原朔眞来てなかったわね」

 よし、送信。…て、え?

「あいつ来てなかった?」

「うん。最近彼女になって病が鳴りをひそめたと思ったら、学校にも来なくなったわね。最後に来たのは夕夜が風邪で休んだ二日前よ」

「二日前…」

 ということは、ちょうど夕夜とすれ違いだったのだ。…やっぱり昨日会っといたほうが良かった?いやいや、でも絶ッッッッッ対許したくないし!

 一人で首を振ったり百面相だったりの夕夜を栄理はじとっと不躾に見つめると、訝しんだ。

「…怪しいわね。何か隠してるでしょう」

「か、隠してるっていうか、べつに、その」

「なんか行動起こされたわね?」

 夕夜はしどろもどろになる。

 な、なんで栄理ってこう…。

「当てちゃうんだろ…」

「心外ねー。あんたが分かりやすいだけでしょ。夕夜って思ったことそのまんま顔に出てるもの」

「…まさかぁ」

「本当よ?」

「え…ちょ、待って。じゃああたしが穂高のこと、す、好きだってのも周りにはバレバレだったわけ?」

 栄理はむしろ唖然としてこの目の前の友人を見つめた。

「このニブチンが!いまさら何よ!?あたりまえじゃない!とっくにあんたたち当人以外は気付いてたわよ…。もう、いらいらするったらありゃしなかったわね」

 …夕夜はカルチャーショックを受けて、穴があったら入りたい気持ちになっていた。

「い…いつから」

 苦虫を噛み潰したような表情で何かに耐えるように、問いかける。

「いつから?ふっ…愚問ね。最初からよ」

「さ、最初って…」

「あんたたちがお互い好きだって自覚する、そのずっとずっとずっと前から。しいて言うなら、中学で初めて会ったときにすでにピンと来たわよ?少なくとも私はね」

 栄理はビシッと一息で言い放った。

 夕夜は再びカルチャーショック、もういっそ、自分で穴を掘ってやろうかとも思った。

「ま、あくまで『私は』の話だけど」

「……………………」

 ―――元来。女子とはおしゃべり、もとい『恋バナ』が大好物である。ゆっくり時間が取れれば、人というものはこの手の話か怖い話かのどちらかの話になるものだ。まぁ、栄理の場合は迷うことなく前者であるのだが。

 今夜は―――眠らせてくれそうにない。




「ところでさぁ」

 夕飯も食べ、風呂にも入り、ちょこっとデザートをつまんだりなんかして。その後、布団に潜り込んだ時のことだった。

「結局、木原朔眞には何されたの?」

 …泊まりの真髄は、布団に入ってからのおしゃべりである。あぁ…その話題、すっかり逸らせたと思ってたのにと、夕夜は唸った。

 言うべきだよな…やっぱ。

「べっつに?ほんの一瞬キスされただけ、だし」

 もう電気は消して暗かったけれど、夕夜は感覚で髪の毛の先を一筋掬うと、指先で意味もなく、くるくると弄んだ。

「げ…、それはそれはご愁傷さまだわね」

 きっとされた当人である自分より嫌な顔をしているのだろうな、と夕夜はなんとなく雰囲気でつかんだ。栄理は、ともすれば夕夜より男性に対して潔癖なところがある。言ってしまえば、夕夜は異性に関心がなく理解もないのに対し、栄理はある程度関心もあり、基本的に『男はどういう生き物か』も少なくとも夕夜よりは理解している。

 だから、警戒心も夕夜より多少強かったりするのだ。

「まぁ、腹立ったけど、フライパン投げつけてやったから少しすっきりしたし…だからもう、い」

「フライパン!?」

 夕夜の言葉を遮って、栄理は叫んだ。よほどびっくりしたらしい。…そして、ツボに入ったらしい。

「フ、フライパンてっ…」

 どこまでも夕夜らしい、と栄理は肩を震わせて笑った。どうせなら、思い切り声を上げて爆笑されたほうが、まだ良かったと夕夜は思う。

「そっ、それで穂高くっ、は…、な、何てっ?」

「…ぶん殴りたいくらいムカつく―――って」

 あの日、風邪で伏せっていながら初めて本音で語り合った。ほんの数日まえのことなのに、懐かしい気持ちで思い返しながら夕夜はとつとつと言葉を続ける。

「あたしさぁ…それがファーストキスだと思ってたんだ。ものすごく泣いたんだよね。けど…」

 笑うのはさすがに辞めて、栄理は夕夜の表情を伺おうと暗闇のなか目を凝らす。けれどやっぱり、細かい表情は読み取れなかった。

「―――でも?」

 もっと重大な事件でもあったのかと、栄理まで神妙な顔で眉根を寄せる。

 でも、なんだろう。

 …栄理が、不思議そうな顔をしているのが手に取るように分かる。夕夜はくすっ、とひとつ笑う。

「なーにーよー」

「でも、実はね。あたしの初キス、朔眞に無理矢理されたのよりもずっとずっと前だったのよ」

「…って、相手は?」

 訝しむ友人に夕夜は、にやりと笑って意味ありげに一拍、間を空けて…。

「―――穂高だった」

「…なにそれなんの面白みもない」

 栄理は期待はずれとぶーたれた。

「面白さは求めんでいい」 夕夜としてはそっちこそ何なんだ、といった感じなのだが。

「でもその言い方ってなんだか、夕夜が知らないとこで起こった、みたいに聞こえる」

「あぁ、だって実際そうだから」

「…………?」

 栄理は首をかしげる。

「―――あたしが寝てるときにしたんだって、さー」

 真実を告げると、たっぷり5秒。栄理は押し黙り…。

「わぁー、それってよば」

「みなまで言うな!」

 叫びかけた言葉を夕夜は強制終了させる。あの続きを言われたら、羞恥で顔が赤く染まってしまう。

「ふわぁー…、穂高くん、へたれのくせに意外とやる―――って、へたれだから寝てるときにするのかしら?」

「そ、そんなことどーでもいーよ…」

 恥ずかしそうに俯くものだから、追及は辞めてあげようと思った栄理である。だから、その代わり。

「それで夕夜?―――本題がまだだわ」

 栄理はずばっと切り込んだ。

 対して夕夜は、は?と一瞬考える。

 本題?本題って。

「『その話は後程!』って言ったのはドコの誰かしら」

「あぁ!はいはい…あたしデス」

「ん、よろしい。で?何で穂高くんとこから逃げてきたわけ」

「…べつに逃げたわけでは」

「だから顔に書いてんのよ、あんたは。…言っちゃいなさい、ね?」

 前半は責めるように、後半は優しい声音で。栄理は諭すように語りかけてくる。

「〜〜〜〜〜〜っ」

 あぁもう、降参だ。

 夕夜は白状することにする。

「…………そうなんだもん」

「え?なに、聞こえない」

「―――泣きそうなのよ!もし…もし、このタイミングで穂高とまた二人で話でもしたら―――、あたし、絶対、」

 一息でそこまで言うと。

「―――行きたくない、って駄々こねるよ……」

 さっきまでの勢いはどこへやら、夕夜はしょぼしょぼと尻すぼみに声のトーンが落ちていくのであった。

 ―――離れたくない。

 けれど、自分が泣いてしまったら優しい彼は絶対困ってしまうだろう。夕夜は―――困らせたくないのだ。いちばん愛しい、ひとだから。

 だって別れのときは―――笑顔でいたい。

 だけど、すでに予想できてしまうのだ。今この時、この前のようにふれあってしまったら、必ず自分は自分の心の弱さに負けて穂高にすがりついてしまうだろう。

 ―――行きたくない、そばにいてと。

 穂高にはどうにもできないのに…。

 夕夜は軽い自己嫌悪に陥っていた。

 そのまま黙りこくってしまった彼女に…栄理はひとつため息をつく。

 ―――恋する乙女って、なんて情緒不安定。

「バカねぇ…」

「…バカじゃない、もん」

「バカよ。―――なにをそんなに気にする必要があるの?」

「へ…?」

「いいじゃない。泣いたってわがまま言って困らせたって。あんたにはそうする権利があるんだから」

「権利…」

「そうよ。穂高くんは夕夜の―――『彼氏』なんだから」

 彼女が彼氏に甘えて何が悪いのよ、そうでしょ?と栄理は月明かりのした綺麗に笑った。

 あぁ…いつのまに月が出たのだろう。

 夕夜は栄理の笑顔を見て、いま、改めてそうなのだと実感した。

 自分と穂高は―――もう、『ただの幼なじみ』ではない。『恋人同士』、なのだ。

「―――でも…」

 ここで夕夜はあることにはたっと気がついた。

「それって、普段と変わんない」

 夕夜のわがままに、穂高が振り回されながらもしっかり付き合う。

 それって、昔からのスタンスだ。

「あはは!じゃあなおさらいいじゃない。それが夕夜たちのいちばん自然な形なのよ。まぁ…穂高くんは少し可哀想かもしれないけどね」

 けれど彼はそれできっと幸せを感じているはずだ。

 ―――決して、マゾだからとかそういうことではなく。

「そーかな…」

「そーよ。夕夜がもっと穂高くんに頼ればいい話。さ、寝るわよ?」

 あっさりと布団に再度潜り込むこの目の前の友人に、夕夜は口を尖らせる。

「栄理…マイペース」

「いきなり家来て泊めてって言う人に言われたくないわね」

 それもそうである。

「ごめ…」

 口をついて出そうになったのだが、ふと―――違う、と思った。いま言うべき言葉は、コレではない。なんだかんだ言いながら、家に泊まることを快諾してくれた栄理。自分のネガティブ思考をポジティブ思考に変えてくれた大好きな親友。

 夕夜は、残りの言葉を飲み込んで、栄理が寝ているベッドに近寄った。もう一度息をすうっと吸い。

「ありがとっ、栄理」

 反対側を向いている親友の肩を叩いて、晴れやかにそう言ったのだった。

 世話がかかる―――。

 この時、毎度おなじみとなったこの言葉は、栄理の胸中でのみ呟かれたのであった。

 こうして綺麗な月夜の晩は、穏やかに更けていった―――。

 またひとつ、思い出のできあがり…?


続けてどうぞ。

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