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第二十四話 思い出をつくろう!

「おめでとっ、夕夜」

「は?あたしまだなんも言ってないけど」

 そんなわけで、教室。穂高と廊下で別れて意気揚々とこの2年1組に入ってきた夕夜に、朝のあいさつもそこそこに開口一番、栄理は気持ち悪いくらいの微笑みで言った。

 自分の席からは決して立とうとはせず、夕夜が来るのを待ち構えている。

 …せっかくこのウキウキ気分のまま報告しようとしていたのに、向こうがあんなにヤル気満々だと逆に言いたくなくなるのはなぜだろう。

 …や、やだなあそこ行くの。

 そんな夕夜の心中など知りもせず―――いや、あるいは知ったうえでのことなのかもしれないが―――栄理はしっかり夕夜が座る分の席までも確保して、今か今かと待っていた。

「何も獲って食おうってわけじゃないんだから」

 説得力、ありません。

 なお逃げ腰になりながら、それでも夕夜はじりじりとそばへ寄る。それしか道はなさそうだった。

「ほら座って」

「………………」

 向かい合わせになるイスを引いて、仕方なく座る。

「昨日、熱出してたんだって?もう大丈夫なの?」

「えっ」

 ところがてっきり穂高とのことを根掘り葉掘り聞かれると思っていた夕夜は、目をまん丸くしてすっとんきょうな声を上げた。

 栄理が言ってるのって、昨日のこと?

「熱のことは穂高くんからメールが来て知ったんだけど、…なにその反応。確かにさっきのおめでとうはあんたたち二人に対するものだけどね。でも夕夜の体調だって大事なんだから。当たり前じゃない」

「栄理…」

「私もなかなか友達思いでしょう?」

 元々大人っぽい彼女が、ふんわりと柔らかく笑う。

 くっ…。あたしはいくらめまいがするような超絶美少女の笑顔だって、騙されないから!!

「そんな簡単に納得するか!聞きたいことあんならズバッと来い。ほっ…、穂高、とのことだってのは充分わかってんだから」

「いつにも増して潔いわね」

「おーよ。さぁ聞いて」

「…まぁ穂高くんの名前を異常にどもってたのはこの際見逃すとして。じゃ、お構い無く」

 すると栄理は、すぅっと一呼吸置く。

「どこまでしたの?」

「…はい?」

「だから、どこまでしたの?」

「…えーと…。したの、とは」

 言葉の意味を理解できない夕夜は、しかめっ面と不思議そうな顔を足して÷2したような表情をする。

「やーねぇ。野暮なコト聞かないでよっ。みなまで言わせる気?」

 いしし、と彼女らしからぬ奇妙な笑い声を歯の隙間から漏らし、栄理はその上夕夜の頭をベシッとはたく。

 …なんなのだ、この扱いようは。

 恨めしそうに目の前の美人顔の友を見上げる。

 すると栄理は、答えない夕夜にとどめの一撃を繰り出した。

「聞かなくても分かってるのよ、あんたたちがくっついたことなんて。今朝ここに来るまでに、校門から手ぇつないできたでしょ?私が聞きたいのはそんな甘っちょろいことじゃないのよ!どこまでやっちゃったのかってことなの」

「なっ…」

 やっちゃったのかって、栄理!!

 夕夜は一気にボッと体温が上がるのを感じた。

「何でそーゆーこと平気で聞く!!つーかどこまでもやってませんから!?」

 反論しながら、夕夜は制服の袖でぐいっと口元を拭くような動作をした。残念ながら、無意識だった。

「…なるほど、キスはしたのね」

「っ!!しっ…」

 ところが、栄理のこの発言にいち早く反応したのが、クラスの女子だった。

「い、いやぁーッ!誰か嘘だと言って!!」

「結城くんはもう高良さんのものなんて信じたくない!」

「あぁ…あたし達の氷のアイドル結城穂高くん…」

 受け入れがたい事実を目の前に、彼女達は次々と床にくずおれていった。

「わーぉ…。死屍累々」

「栄理ッ!」

 そうか、分かった。

 栄理は今の今まで、このクラスの面々に聞かせるためにあたしにあんな質問してきたんだ!―――穂高はもう、フリーじゃないってことを知らしめるために。

 ピンとは来た。来たけれど、栄理のこの頭の回転の速さにはいつも驚かされる。夕夜は口をポカンと開けたまま、呆然とつっ立っていた。

「これで昼までには全校女子に広まるわ。良かったじゃない夕夜、敵が減って」

 …そうなのだ。

 穂高は、モテる。ただ本人が無愛想で無口で、騒がれるのを嫌っているから表立って騒ぎ立てるような人がいないだけであって、密かに彼のことを好きな人は多いはずだ。

 以前見かけた調理実習三人組だって、その内の一塊なのだろう。

 そしてその無愛想ぶりと、それでも綺麗な顔からついたあだ名が『氷のアイドル結城穂高』。…正直言って、笑える。初めて耳にしたとき馬鹿にしたら、「…俺だって好きでこんな名前つけられたんじゃない」とひどく真面目に反論されて。…その顔がまた面白かったものだから、夕夜は堪え切れずに爆笑したのだった。

 そんなわけで朝からこっち、穂高と夕夜ふたりの動向に注目する者は多かったのだろう。いつもは『幼なじみ』として登校するふたりが、今朝は手をつないできたのだから。

 真相を確かめるべく、クラスの女子達は始終夕夜と栄理の会話に耳を傾けていたのだ。だからお付き合い確定の内容になった途端、あんな反応が返ってきた。

 とどのつまり…あたしと穂高がキスしたことも全校に広まるってわけで。

「…消えてなくなりたい」

 どうしてこうも自分の恋愛事情を人様に知られなくてはならないのだろう。しかも、少数ではなく多数。

「べつにいいじゃない。穂高くんに悪い虫も寄らなくなるって」

「……………………」

 ほんとかよ、ととりあえず先程まで屍と化していたクラスメイトを見てみたが、どうだろう。すでに立ち直ってなにやら密談をしている。かと思えば、いきなり全員晴れやかな、それでいて(よこしま)な空気を孕んだ笑顔でこちらに歩み寄ってくる。

 あまりの不気味さにピキ、と体が硬直する。ふと横目で見ると、さすがの栄理も動けないようだった。

「高良さん、おめでとう。私達あなたを応援する」

 …は?て、いきなりそんなウラ有り有りの笑顔で言われても。

「今まで男ふたりを手玉にとる魔性の女なんて思っててごめんなさい。これからは…」

 おーい。あたしってそんな悪女だったんかい。

「これからは私達心を入れ替えて、朔眞くん一筋になるわ!」

 ってそっち!?入れ替える方向性まちがってますから!!

「朔眞くんは、任せてね。高良さんは穂高くんだけを見てればいいのよ。心配しないで」

 あぁ、あぁ…。そういうことね。つまり『そっちはくれてやるからこっちにゃ手ぇ出すな』って言いたいわけ。

「ハイハイ。どーぞお好きなように。大体…」

 あんな野郎こっちから願い下げ。と、最後は栄理にしか聞こえないような小声で。

 満足したのか、彼女たちはまた元の位置へと戻っていった。

「はぁ〜すごいわねあの人たちの執念。でもその肝心の木原朔眞が今日は来てないんじゃない?」

「えっ?」

 言われて彼の席へ目をやった。始業の鐘が鳴るまであと3分。

 話し込んで全く気づいていなかったが、そこは空席のままだった。




 朝のHRで、珍しく普通な担任から、夕夜が今週末転校することが皆に連絡された。

 驚くひと、悲しんでくれたひと、引っ越し先のことを心配してくれたひと。…密かにほくそ笑んでいた一部(穂高&朔眞ファンの)女子。…まぁこれは置いといて。

 ―――嬉しかった。

 自分がここを離れることに対して、皆が反応し、言葉をかけてくれたことが。

「お別れ会かなにか開こうか」

 クラス委員がそう言ってくれたけど、夕夜は断った。

「ありがとう。でも、週末まで先約いっぱいだし…それに」

 何もしてくれなくたって、皆がこうして反応してくれたことが―――あたしがこのクラスにいたっていう、確かな証になるから―――だからもう、充分。

 彼女は笑ってそう言い切ったのだった。




「先約って?」

 昼休み、弁当を食べながら栄理は疑問を提示した。次の瞬間、夕夜は待ってましたとばかりに身を乗り出す。

「聞いたね!?聞いちゃったわね栄理!?」

 私の、バカ…。

「…聞いちゃったわよ…」

「なにその残念そうな顔?栄理、今日の放課後、ヒマっ?ヒマよねっ。ヒマに決まってるわよねっ」

「ま、まぁ…ね?」

 何とも言えない夕夜の迫力に気押されて、栄理はしどろもどろに返事した。

 夕夜ときたら手なんか組んで、目をきらきらさせている。

「あー楽しみだなぁ〜」

 にまにまして弾んだ声音。…栄理には、何のことを言っているのか皆目見当もつかなかった。

「…ヒマだったら、なに?」

「もちろん、お・も・い・で・づ・く・り!でしょ」

「えぇ?」

 栄理は首をかしげた。

 ―――放課後、いつもなら早々に穂高とふたりで引き上げる夕夜が、珍しく教室にとどまっている。

「夕夜何する気なの…?」

「いいからいいから。―――ほら来た」

「連れてきてやったぞ」

「さんきゅー穂高ッ」

 連れてきてやったぞ―――。その言葉とともに穂高と現れたのは…茶髪の、明るい笑顔の。

「これ。大野」

「俺、もの扱い!?」

 そう、自称穂高の親友こと、大野智也だった。

「来てくれてどうも。えっとー…」

「あ、智也でいいよ」

「智也くん?」

「…夕夜。大野でいい。そうだよな、大野…?」

 ―――な、なんか背後から物凄くうすら寒いオーラが…。

 智也はいち早く状況の変化を察知した。…後ろを振り向くに振り向けない!

 あわてて、先程夕夜に言った言葉を訂正する。

「た、高良さん。穂高あぁ言ってるし名字でいいよ!」

「はぁ?なんでよ穂高。あたしの勝手でしょ。智也くんだって、べつにあたしのこと下の名前で呼んでも―――」

「いいから!お願いだから名字呼びでお願いします!」

 俺には、穂高を怒らせてまで彼女を名前呼びできる勇気はないっ!!!

 あまりにも必死に、両手をぶんぶん振って全身で拒否するものだから、夕夜はそれ以上何も言えなくなる。

 …なんか知らないけど、嫌がってんなら無理して下の名前使ってもらう必要ないわよね?

「そこまで言うなら、名字でこれからよろしく…」

「よ、よろしく…」

 智也は、あからさまにホッとした顔をした。

 …意味分かんない。

「―――で、一段落ついたみたいだから聞きたいんだけど」

「あ、栄理」

「なにかしらこのメンバー?」

 栄理は輪になって話している全員の顔を、ぐるっと一周一瞥してから腕を組んで、さらに首をひねった。

「高橋さん無粋な質問じゃない?遊びに行くんだよもちろん」

 智也が栄理の右肩を親しげにポンとたたく。

「―――」

 それを一瞬横目で見た後、栄理はすかさずさっと右肩を左手ではらう。智也はそれをしかと見た。

 ガーン…。

 ショックを受けて固まる智也をさておいて。

 ―――ようやく合点がいったと、栄理は手のひらをグーでポンと打った。

「分かったわ。それで夕夜お昼にあぁ言ったのね?そーゆーことなら、私も遠慮なく楽しんじゃおうかしら」

 乗り気になって、夕夜とふたりで笑い合う。

「そうしてそうして!あたし、引っ越しまで今日を含めてあと3日しかないじゃん?だからどーしても最後に皆と遊んどきたかったのよっ」

 にかっと笑って夕夜は眼前にピースを突き出した。

「いい考えじゃない」

「でっしょー。べつにあたしと穂高と栄理の三人でもいいかなとは思ったんだけど、やっぱバランス悪いじゃない」

「まぁ…それはそうね」

「だから穂高に、今朝の友達連れてきてって頼んどいたの」

 …えぇー。ちょ、俺完全に数合わせ?体面保つための道具っすか?

「ダチじゃない」

 ガン!…黙って聞いていれば言いたい放題。どうして自分の周りには強気な性格の人だらけなんだろうか。

 智也はガックリとうなだれた。

「おまえいつまでそこにいる気?」

「え!!」

 顔を上げれば、三人はもう玄関に向かって歩いている。女子ふたりなどすっかり先頭で盛り上がっていた。

 …こんなのばっか畜生!

 それでも智也は好きで穂高といるのだから、仕方ない。走って、三人に追い付いた。

 ―――夕陽でオレンジ色に染まった校舎の廊下に、4つの影が伸びていた。


誰か作者を殴ってください。更新を早めるといっておきながら、この有様…。遅れた理由は色々と(__;)すいません、高校総体がかぶったんです(>□<) それでも待ってて下さった皆様、本当にありがとうございますm(__)m …というか、いらっしゃるんでしょうか。私の小説なんか、誰の目にも触れていないんじゃないかとネガティブになってみたり…↓ それでも、書きます!ひとりでも読んでくれてる人がいるのなら!「読んでるよ」という方、評価感想批評、なんでもいいので足跡をお願いしますっ。必ず感謝のきもちを込めてお返事させていただきます!!

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