暮らしの違いが隠れてました
「君には申し訳ないが、夫婦だから同じ部屋で寝ることになる」
「あ……はぁ」
「君は壁側に寝るといい。それから、入浴は先と後どちらがいい?」
「どちらでもかまいません…」
「では先に入るといい。君は髪が長いから乾かすのも大変だろう」
彼の言葉には事務的な冷たさしか感じられなかったけれど、一つひとつに気づかいを感じた。多分いい人なんだろう。
「タオルと着替えは用意させている。あと、明日から着る服はクローゼットから自分で選んでもらってかまわない。豪勢なドレスから動きやすいものまで入っている。周囲を気にして選ぶ必要はないから、自分が着たいものを着るといい」
伝えたいことは全部話し終えたのか、彼はそれから黙りこくってしまった。わたしも特に話すことは無いので、彼の指示通り先にお風呂に入ることにした。
「広っ!」
浴室に入るなり、わたしは思わずそう叫んでいた。声がやけに響く。
部屋が広いことに驚いて浴室までは観察していなかった。さすがに部屋よりは狭いけれど、それでも広い…。そして浴槽でかっ! なにこれどこにポジションを取ればいいの?
「と、とりあえず身体を洗うのよ…」
貴族とはいえ、わたしの家はさほどレベルが高いわけじゃない。今回だって、どうして第三王子なんかと婚約できたのか分からない。
そんなわたしからすれば、この大きな浴室も、見たことのないシャンプーやボディソープも、目に入るものがきらびやかで素敵に見えた。まさかこんな環境に置かれることになるなんて…。わざわざ用意してくれたのかと思うと、彼に面と向かって婚約が不満だなんて言ってしまったのは本当に申し訳ない。けれど、わたしはまだ認めてない。勝手に婚約させられたことには変わりがないんだから。なんとしてでもこの有り得ない婚約のカラクリを見抜いてやるわ!
「ぷはー」
まぁでも、お風呂に浸かってる間はそんなこと考えなくていいかなぁ。あー極楽。