暮らしの違いを見せつけられました
「何か欲しいものがあればメルダに伝えておいてくれれば用意する。部屋に不具合があればすぐに申し出てほしい。あと、何か壊したときも言ってほしい。修理できるならするし、できないなら速やかに捨てて整理したい」
用意された部屋は充分すぎるほど広くて、大きくてふかふかのベッドがあって、落ち着いた雰囲気の家具が置かれた、なんとも居心地のいい空間に仕上がっていた。わたしなんかに勿体無いと伝えても、これで一番狭いと言われてしまった。
「僕が第一王子なら、もっといい部屋にできたのに」
彼にそんなことまで言われてしまえば、もう部屋が広すぎるなんて言えない。むしろこれより広い部屋とか考えただけで気絶しそうなのに、彼が自分自身を責めながら狭くて申し訳ないなんて言われて、わたしはどうすれば彼を上手くフォローできるのか分からずに、ただただ大丈夫です、満足ですと伝え続けた。
「それじゃあ、僕は仕事をしてこなければならないから」
そう言って、彼は部屋を出ていってしまった。入れ違いで、メイド服の女性が入ってきた。
「メルダと申します。よろしくお願いいたします、奥様」
「奥様っ?」
わたしはそのくすぐったさと妙な貫禄を感じる響きに、思わず身を乗り出して聞き返してしまった。
「はい。ユエン様が旦那様ですので、アリシア様は奥様になります」
「あの……アリシアって呼んでほしいんだけど…」
「……でしたら、わかりました。アリシア様、よろしくお願いいたします」
よかった。ちゃんと話を聞いてくれる人のようだ。
「何かありましたらすぐにお申し付けください。それから、食べ物の好みをお聞きしてもよろしいでしょうか。料理人に伝えなければならないので」
「あ、はい。じゃあ、えっと…人参以外は食べられるから、あまり気にしないで大丈夫よ」
「そうですか。ではそのように伝えておきます」
「ありがとう」
「いえ、お気になさらずに。これが仕事ですので」
メルダはすぐに部屋を出ていってしまった。広い部屋にわたしだけとなった。
誰かといるには気にならないけど、一人でいると妙に寂しい…。
そんな風に思いながら、これからどうしていけばいいのだろうと頭を抱えていた。