大誤算です
パーティー当日、わたしは参加者の男性をくまなくチェックしていった。
この中からわたしと口裏を合わせてくれそうな人を選ぶ。勿論、くだらない勘違いを起こしたりしないかを見極めなければならない。
「決めた」
害のなさそうな、線の細いその人に、わたしはそっと近づいて行った。
「あの…」
わたしが声をかけると、その綺麗な顔がこちらへ向けられた。
「あなたにお願いがあるんです。来ていただけませんか?」
誰もいないバルコニーへ彼を連れ出し、彼を真っ直ぐ見つめた。
「わたしの恋人のふりをしていただきたいんです」
「……断る」
表情一つ変えずにあっさり断られたっ? でも、負けるわけにはいかない。
「っ、お、お願いですっ。わたし、本当に困っているんです!」
「…すまないが、僕には婚約者がいる。君とは嘘でも恋人だと公言するわけにはいかない」
失敗した…。気の弱そうな人だと思ったのに、婚約者に一途で強情な人のようだ。何を言っても頷いてくれなさそうだし、早々に引いて他を当たろう。
そう思ったときだった。
「探したよアリシア。どこにもいなくて帰ったのかと思ったよ」
父がバルコニーに現れた。なんてタイミングの悪い。
「いやぁ、それにしても驚いたな。あんなに嫌がっていたのにどうしたんだ?」
「は?」
すぐに聞き返したことを後悔した。父の口から告げられた言葉は、わたしにショックを与えるには充分すぎるものだった。
「まさか婚約相手と二人きりでいるなんて思わなかったよ。あ、邪魔をしてしまったね。すまないすまない」
妙に満足そうにしながら、父はバルコニーを立ち去った。気まずい空気が流れる。
「あの………その………………」
「…じゃあ、君が僕の婚約者?」
「えっと……そうみたい、です」
「ふぅん」
絶対に怒っているだろうと思ったら、怖くて顔も上げられない。なんでよりによって自分の婚約者にあんなお願いをしてしまったのだろう。こんなことならちゃんと写真くらい見てから投げ捨てればよかった…。
「恋人のふりをしてもらおうとするってことは、僕との婚約を迷惑だと思っているんだよね」
どうして敢えてそんな事実確認をするの!
「あ…違うっていうか…。なんか、勝手に決められてて………全然知らない人なのにって思ったら…でも、そんな、嫌とか…そうじゃなくて…」
これといって上手い言い訳が見つからなくて、わたしは曖昧な言葉をだらだらと続けるだけになっていく。これでは、はい迷惑ですと言っているのと変わらない。
「まぁ別にかまわないよ。僕は王位継承権のない第三王子だし、婚約を申し込まれたのもその家の存続を考えてのことだと分かっていたから」
第三王子…?
「ただ、一応僕も王子だから、スキャンダルめいたことをされると困るんだ。だから、今みたいに他の男に変な頼みごとをしてはいけないよ」
俯くわたしの頬を包み込んで、ゆっくりと顔を上に向かされる。
「わかった?」
女性に見紛うほど可愛らしく整ったその顔に笑顔を浮かべた彼は、わたしを真っ直ぐ見下ろして、首を傾げてそう言った。
わたしは、とんでもない状況に置かれている。
理解したところで、わたしにはどうすることもできなくなっていた。