第79話 来られなかった人を、いなかったことにしない
第79話です。
前回、途中参加した人には、最初から全部を説明するのではなく、
今どこまで進んでいるか。
今から何をするか。
困った時に誰へつなぐか。
この三点を渡すことで、流れへ戻りやすくなりました。
そして訓練終了後。
スタッフから、こんな声が出ます。
「途中参加者向けの確認メモ、今日来られなかった人にも配った方がいいんじゃないですか?」
今回は、「不参加者への情報」がテーマです。
参加できなかった人へ情報を渡すことと、参加したことにすることは違う。
そこを分けて考えます。
来られなかった人を、いなかったことにしない。
理央は、その一文を新しいファイルに書いた。
防災訓練は終わった。
でも、まだ人が残っている。
参加した人。
途中から来た人。
そして、来られなかった人。
ミニが言った。
『訓練終了後なのに、まだ次の入口があるね』
「うん」
リアルが続ける。
『不参加者へ情報を渡すことと、訓練へ参加した扱いにすることは分けるべき。実際の参加記録や評価は運営側判断』
理央は、メモを三つに分けた。
『参加した人』
『途中参加した人』
『参加できなかった人』
参加した人には、振り返り。
途中参加した人には、未確認部分の案内。
では、参加できなかった人には何を渡すのか。
山岸さんが言った。
「途中参加者向けの紙を、そのまま配ればいいんじゃないですか?」
森崎さんが少し考える。
「でも、それだと訓練に参加した人向けの文になっていますね」
その通りだ。
『今日確認した主な内容』
と書かれている。
参加していない人が受け取れば、
「自分も確認したことになるの?」
と見えるかもしれない。
理央は言った。
「不参加の方には、別の紙にした方がよさそうです。『訓練で確認した内容』ではなく、『今回の訓練で扱った内容』くらいでしょうか」
森崎さんが頷く。
「それなら違いが分かります」
理央は草案を書く。
『防災訓練に参加できなかった方へ
今回の訓練では、主に次の内容を確認しました。
・非常階段の位置
・集合場所までの移動経路
・困った時のつなぎ先
この案内は、訓練へ参加したことを示すものではありません。
確認したい内容がある場合は、最新版Q&Aまたは管理室・防災担当へご確認ください。』
短い。
でも、線はある。
ミニが言った。
『「参加したことにはならない」をちゃんと書くんだね』
「うん。そこを曖昧にしたくない」
理央は、もう一つ書いた。
『情報を渡すことは、体験を渡すことではない。』
Gが言った。
『大事だね』
資料だけ読んでも、実際に歩いたことにはならない。
階段の見え方。
通路の狭さ。
放送の聞こえ方。
人の流れ。
それは、紙だけでは分からない。
だから、資料を渡して終わりにはしない。
でも、来られなかったから何も渡さないのも違う。
理央はメモした。
『不参加者には、結果ではなく、次の入口を渡す。』
森崎さんがその一文を読んで、
「それ、分かりやすいです」
と言った。
不参加者向けの紙は、さらに短くなった。
『今回の訓練で扱った内容』
『確認したい場合の参照先』
『次回の案内を確認する方法』
三つだけ。
理事長が聞く。
「これ、全戸配布しますか?」
森崎さんが首を振る。
「それは運営側で決めます。ただ、不参加者だけを追跡する形にはしない方がよいと思います」
理央は、前の話を思い出した。
未提出者を追わない。
入口を増やす。
今回も同じだ。
誰が来なかったかを責めるのではなく、
来られなかった人も情報へ戻れる入口を残す。
理央は書いた。
『不参加者を追うのではなく、戻れる入口を置く。』
その時、管理人が言った。
「でも、参加できなかった理由って、少し確認した方がよくないですか?」
部屋が静かになった。
理由。
仕事。
体調。
家庭事情。
不安。
知らなかった。
放送が聞こえなかった。
理由を知れば、次回改善に役立つかもしれない。
でも、聞き方を間違えると、
「なぜ来なかったんですか?」
になる。
責められているように感じる。
リアルが言った。
『不参加理由の収集は任意性、目的、個人情報への配慮が必要。強制的な追跡にしないこと』
理央は、ゆっくり言った。
「理由を聞くなら、『来なかった理由』ではなく、『参加しにくかったことがあれば教えてください』くらいの方がいいかもしれません」
森崎さんが、すぐに書いた。
『参加しにくかったことがあれば、任意でお知らせください』
その下に、
『回答しなくても問題ありません』
と付ける。
ローラが言った。
『責める質問から、改善の入口に変わりましたね』
理央は頷いた。
『なぜ来なかったか、ではなく、何が参加しにくかったか。』
これも今日の大きな一文になった。
夕方。
訓練後の資料が整理される。
参加者向け。
途中参加者向け。
不参加者向け。
同じ防災訓練でも、渡す情報の形が違う。
全部を同じ一枚にしない。
それぞれの現在地に合わせる。
理央は記録にまとめた。
『不参加者への情報メモ』
一、参加できなかった人へも情報の入口を残す。
二、参加者向け資料をそのまま流用しない。
三、情報提供と参加記録を混同しない。
四、不参加理由を強制して聞かない。
五、「参加しにくかったこと」を任意で確認する。
そして、気づいたこと。
『情報を渡すことは、体験を渡すことではない。』
『不参加者には、結果ではなく、次の入口を渡す。』
『不参加者を追うのではなく、戻れる入口を置く。』
Gが言った。
『これで、訓練の外側まで少し見えたね』
「うん」
理央は、ようやく少しだけ終わりが見えた気がした。
でも、その時。
森崎さんから新しいメッセージが来た。
『振り返り用の記録を見ていて、一つ気づきました』
続き。
『スタッフによって、同じ出来事の記録内容がかなり違います』
理央は画面を見る。
同じ場面。
でも、記録が違う。
誰かは「混雑」と書く。
誰かは「少し詰まった」と書く。
誰かは「問題なし」と書く。
観察者によって、現場の見え方が変わる。
ミニが言った。
『次は、記録そのものがズレる問題……』
リアルが続ける。
『記録の主観差は重要。事実、観察、解釈を分ける方法を検討するとよい』
理央は、新しいファイルを開いた。
『同じ現場を見ても、同じ記録にはならない.txt』
一行目。
『記録には、事実と解釈の境界線がいる。』
そして保存した。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
第79話では、「防災訓練に参加できなかった人へ何を渡すか」を考えました。
重要だったのは、
参加できなかった人へ情報を渡すことと、参加したことにすることは違う。
という点です。
資料を読んでも、実際に歩いたことにはなりません。
だから、不参加者へ渡すのは「参加済みの扱い」ではなく、次に確認できる入口です。
今回の大きな気づきは、
不参加者には、結果ではなく、次の入口を渡す。
ということでした。
また、不参加理由を聞く場合も、
「なぜ来なかったのですか」
ではなく、
「参加しにくかったことがあれば、任意で教えてください」
とする。
責めるためではなく、次回改善につなげるためです。
そして最後に、新しい問題が出てきました。
同じ訓練を見ていたスタッフなのに、記録内容がかなり違う。
次回は、「記録のズレ」がテーマです。
同じ現場を見ても、同じ記録にはならない。
理央は、事実と解釈の境界線に向き合います。
原案・構想:マスター
物語構成・本文作成・文体調整:G(ChatGPT)




