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カラスの濡れ羽色

作者: 七七日

 今日も朝からしんしんと雨が降っている。

 せっかくの休日だっていうのにまったく鬱になる天気だ。

 では、晴れていたら何をしていたか?

 さあ、どうだろう。今日は友だちとも何の約束もしていないし、これといって何かしようと決めていたわけでもなく。打ちこんでいる趣味と言えばゲーム、マンガ……、なんて趣味とはいえないか。

 結局のところ適当にパソコンをいじったり、テレビを見ながらゴロゴロしたり、昼寝したりと意味のない日を送っていたのではないだろうか。

 逆に晴れていたら「こんな晴天なのに何をやっているのだろう?」と余計に鬱になったのではないか。

 しかし休日らしいといえば休日らしい過ごし方。

 しかしなんだかやるせない。

 充実した休日というものを送りたい。

 しかしやることがないし気力もない。

 疲れた。考えるのに。

 窓の向こうには断続的に降りしきる雨。

「あ、カラス」と小さく呟いた。

 一羽のカラスがいつの間にか家の前の電線に止まっていた。

 雨が降っていることなど気にも留めず二本の足でしっかりと電線を捉えている

―――身体を洗っているのだろうか?

 しかしカラスの行水にしては長いような気がした。かれこれ五分はあのカラスを眺めている。

―――誰かと待ち合わせかい? なんて。

 凛として電線に佇むカラスは眺めるにつれてどこか神聖なものに思われてきた。

 十五分は過ぎただろう。もうあのカラスから目が離せなくなっていた。

 いったいこんな住宅街の片隅になんのようだろう。ごみの収集場所はここではないのに。だけどあのカラスを見ていたらそんな考え――ゴミを漁ったり、人を襲ったり、そんなイメージが消え去っていく。

―――なんたってサッカー日本代表のユニフォームにもいるしね。

 テレビの音もパソコンの画面も意識からは消え失せ、視線は一点集中窓の向こうの孤高のカラスに注がれている。

―――そういえばオウムって百年ぐらい生きるやつがいるって訊いたような。カラスはどれぐらいだろう……。まあいいか。

 三十分が過ぎ、四十分が過ぎた。

 未だにカラスは電線の上に佇んでいる。

 まるでそこにいるのが使命の様に、忠犬ハチ公さながらに。

 身体はびしょ濡れでしっとりとしている。これがカラスの濡れ羽色というやつだろう。

―――あっ。

 目があった。

 身体を正面に向けてばっちりと両目で。

 たっぷり十秒ぐらいは見つめあっていただろう。

 そうかと思うとカラスは今までの苦労は何だったのかと思うぐらいあっけなく飛び去っていった。

―――まったく、なんだったんだよ。

 そう言いながらも不思議な笑みが浮かんでいた。

 部屋を出て外に飛び出した。

 傘もささず降りしきる雨の中を、鼻歌を歌いながら歩きだした。

 

充実した(?)休日になったある雨の日。


 


最後までよんでいただきありがとうございました。

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