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英雄は帰る場所を求める  作者: 紅蒼べにあお
導に従っていく
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元凶、或いは

 私たちが戻ってきた時にはパトカーや救急車、消防車が並んでいて、周囲は封鎖された上に人混みに溢れており、私たちはそれ以上進むことが出来なかった。


 「ムスリカ、あれは 」


 「はい。恐らく 」


 人で溢れ、煙の上がる病院からは火の気は感じない。既に鎮火に成功したのかと勘違いしてしまうが、入口でたむろしながらも一切動かない、壊れない自動ドアや窓に困惑する警察や消防士の姿がある。


 「ムスリカさん! 」


 後ろから来た男の魔族は息を切らしながらも小声で私たちに話す。


 「やっぱり無理っす。自分の移動魔術も行使できなかったっす 」


 「そりゃそうね、あんた程度の魔術なんか通さないわよねん 」


 「しかしこれほど大規模に展開できるものなのでしょうか。いくらなんでもこれはあまりに… 」


 「普通は無理なんでしょう。少なくとも私たち魔族の中でもこんなに大規模な魔力の行使は 」


 「魔王様でもここまでは出来ません 」


 この魔力壁はオミナを囲っていた物とはその範囲は勿論だが、複雑性が異常なレベルで行使されていた。


 単純に周囲を豆腐の形で囲っているのではない。私たちに視認出来る限りでも、建物の形に合わせてて最小限に行使しながら病院の窓や扉、その他入口となりえるであろう箇所に合わせて複雑に行使。ドアノブや窓のロックなど細かい箇所にもまるで嵌め込むように魔力壁がその上に張られている。


 几帳面さもあるが、それ以上にわざわざ病院を緻密に密閉する為にその構造を全て把握しているとしか思えない。そうする理由がどこにあるのか私にはわからない。ただその場で何もできない自分自身にもどかしさを感じながら。


 「ムスリカさん 」


 「はい? 」


 「やっぱり阿久井さんがこれをやってるんですよね 」


 ムスリカさんはそれに答えることはない。ただ立ち上る黒煙をじっと見つめるだけで口を閉ざしたままで。







 確実な一撃だった。確かに肉を切ったと確信をした。けれどその刃は骨を断つまで振り下ろせなかった。


 「文字通り足を引っ張ったってかぁ! 」


 「こいつ、自分の体ごと! 」


 刀をしっかり固定され、上手く引き抜けない。刃を握るとそこから氷がさらに広がっていき、俺の手まで凍らされそうになる。


 二つ目の腕にも既に凍っており、それを引き千切り壊しながら立ち上がる。肩にある刺さったままの刀の氷を解除し、刀身をそのまま砕く。


 「これ以上付き合ってられないんでな。いい加減死ねよ 」


 凍らなかったが、その冷たさを直にあてられてしまったせいで手がかじかんでしまう。感覚が鈍って仕方ない。


 どうする。もうこれ以上は打つ手が思いつかない、それ以上に視界までぼやけてしまいいつもの幻覚がより鮮明に映り込む。相も変わらず俺を笑っている。


 諦めるわけにはいかない、だがどうしてもここから次にどう動けば良いのかわからない。今になってこの狭い空間での戦闘を後悔し始める。次の、次の一手がどうしても。


 「制限解除。ここに墓でも建てるんだな 」


 ゆっくりと奴の背後のドアが開く。


 考えろ、目をそらすな。なんでも良い、何か。


 ドアノブは凍ったままなのに。


 強がりの一つも思いつかない、あいつが放つ次の攻撃に対する選択肢すらぼやけてしまい。


 蝶番から音が鳴る頃には。


 奴の首はドアの方を向いていた。


 開いたドアの向こうは暗く、闇が広がっているはずで。バイザー越しに今もそれを見つめているだろう。だけど俺にはそうだと断言できなかった。


 全く知らない人物その背を向けていた。彼のせいであの男がどうなっているのか見えない、確かに首が突然捻らるところは見えて…いや、見えてない。


 それは彼が膝をついたその姿を見て、異常に気付いたのであって。気づいたら彼はそこに立っていた。


 断末魔すら発することなく事切れる。床に倒れる姿を俺は歪む視界から呆然と見つめて、その突飛すぎる状況にもう何も考えることが出来ない。


 「これで最後か 」


 独り言、誰に語り掛けるでもなく。ただ事務的に、その処理を終えたようにぽつりと呟いていた。フードからはその顔はよく見えない、しかしうっすらと階段下の蛍光灯が彼の横顔を照らす。


 右目にバツの傷。よく見た傷。それが指す人物を俺は一人しか知らない。


 「…阿久井! 」


 「無事なようだな 」


 こちらに向かってくる、何も感じない。敵意、殺意、何かを感じさえすればこんな状態でも身構えられるのに、阿久井からはそれらを一切感じない。一瞬見えた黒い瞳にはこちらを見るではなく、まるでもっと背後を見るように焦点が合っていない。


 「腕も繋がってるな。すまないな、火傷はさすがに無理だった 」


 「なんのつもりだ 」


 「お前に頼みたい事があってな 」


 「お前の目的はなんだ! 」


 「不甲斐ないとしか言いようがない 」


 「俺たちを騙して何をしようとしていたんだ!! 」


 「助けてほしい 」


 その一言は熱暴走し始めた頭を一気に冷やした。もう周囲の気温はそこまで低くないと言うのに。


 「詳しい事は…また話すとして、少なくともお前らも俺について薄々勘づき始めたろうなとは思ってな 」


 「なんで今さら 」


 「お前らは知らなくて良かった事だ、だがそうも言ってられなくてな 」


 阿久井の顔はまだよく見えない。疑心がまだ大部分を占めているが、俺は冷静に目の前を見れていたと思う。


 「まずは、特に葵。お前の誤解を少しでも解いておく必要があると思ってな 」


 「なんで 」


 「本当はお前には一番頼りたくはなかったが 」


 阿久井はもう動くことはない二つ目の頭を掴むと、胴体からそれを引き抜く。ちぎれる電線と細かなパーツが辺りに散らばる。


 「俺だけじゃ、この町を火の海に変えちまうから 」


 頭を片手で持ちながら吹き抜けのドアから出ていこうとする。


 そこで、カチりと響く。


 床に倒れたその男は阿久井さんを見ながら。


 「そうか…お前が全部… 」


 口から血を吐きながら呪うように。


 目の前が真っ白に、光に包まれて。

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