照らされて
夕焼けが綺麗だ。病室にはほかにベッドがあるが、遮光カーテンで遮られて他に誰が入っているのかはわからない。左手が完治するのは当分先になりそうで、このまま安静にしてればいずれ回復してくれるとのことだ。
三人はそのまま帰った。ゼーラはそのまま働いても問題ないのかと尋ねたが、今のところ阿久井からは気付かれていないのか、何もアクションがない無い以上は変な動きをしても怪しまれる可能性がある為、カフェで継続して働いて情報を集めるとの事だ。
オミナに関してはこの世界の一般常識もわからない彼女に世渡りなんてできないと、仕方なくムスリカの元で当分暮らすらしい。七将ではあるが、アホというのがムスリカの評価らしいが仮にも立場が上の存在を果たしてどこまで抑え込めるのか些か不安だ。
「なんとなく、そうなんじゃないかとは思ってたんだけどなぁ 」
ずっと感じていた違和感。あの人はどこか違う、何かが嚙み合っていないと。阿久井は俺と同じなんだと思う、向こうの世界に行って戻ってきた存在。出なければあんな魔力を持っていることを説明できない、いつ頃の年代に飛ばされたのかわからないが、あの様子からして俺より後の時代に飛んでいたのではないか。
向こうの世界の遥か未来。魔術と同じく機械も発達して、俺の抗魔力も当たり前になった世界。多分そんなところだろう。
あの後、ゼーラは俺が寝ている間に確認したらしいのだが、地図に一カ所またバツ印が増えており、そこあのデパートの場所だった。その事からも、阿久井が完全に黒であると確信を持てたらしい。
じゃあ、あの時俺と会ったのは偶然じゃなかったって事か。俺を追ってたんじゃなく、現場をただ確認しに来た放火魔って事だったのか。
ムスリカが悔しそうにしていたのを理解できた。そりゃ悔しいよな、今回の一連の事件に関して関わっているのが自分達のすぐ近くに居て、それに気付けず犯行を許してしまった。
何が目的なのかわからないが、このケガか完全に治ったら徹底的に追及してやる。その何もかも見下しているような顔をぐちゃぐちゃに歪めてやるのだ。
「会えなくなって寧ろ良かったかもな 」
それにこちらには光剣もある、今は抗魔力への高い適正を持ったゼーラが保管してくれており、完治したら俺に返すと言っていたが。
思い出すのは、光剣を握った瞬間のどろどろとした感情。あれが一体なんだったのか、もう一度光剣を握ればわかるのだろうが。それを考えると手が震えてしまう。体がその事を拒絶している。
深く考えていて、俺はドアの開く音に反応が遅れてしまう。振り向いた頃には既に彼女は座っていた。
「具合はどう…かな? 」
「倉屋か、なんだ 」
驚いたという意味での発言だったのだが、何が倉屋の気に障ったのかふくれっ面をしてしまう。
「私なんかが来てもうれしくないの? 」
「いや、そういう意味じゃないんだ 」
決してそんな事はないと言いたいが、ここで変な言葉を並べると余計に不機嫌になってしまう。迂闊な物言いはあまりしない方が良い。今なんで俺が病院に居るのか倉屋はその詳しい原因を知りはしないのだから、口が滑ってさらに不安を煽るような事は避けなくては。
「何があったのか聞きたいけど、とにかく葵君が無事で良かったよ 」
「そ、そうだな…、心配かけたみたいで 」
そう、ゼーラやムスリカからずっと倉屋が心配して俺の様子を見てくれとしつこく連絡を入れていたそうだ。俺なんかの為に心労をかけてしまったらしい。
「葵君はさ 」
夕日は病室を明るく照らして、カーテン越しからも日の色で染め上げる。
「昔から優しいから気付かないんだろうけど、周りの人は貴方の事を、貴方が思う以上に大切に思ってるって事を忘れないでね 」
その瞳に見つめられると、言いようのない罪悪感に襲われる。まだ上手く動かせない左手に力が入ってしまう。
俺の周りで誰かが困っていたら、それを助けたいと思ってしまう。そうじゃなきゃ、向こうの世界で誰かを助けようなんて行動しない。けど、それが結果として俺自身によくない結果をもたらしてしまう事も多々あって。その一つの結果として。
病室の隅でこちらを見つめてくる、笑うでもなくただじっとこちらを見つめてくる。この幻覚は、いったい俺に何を伝えたいのだろう。俺は、どうすれば良いんだろうか。
「私が思っている以上に葵君は…。ううん、私から聞いてもどうしようもないよね 」
きっと、今回の一件で俺への疑いは強まったと思う。俺の身に何が起きたのか、それは倉屋自身が想像できないような事だと本人も薄々感づいている。なのに、俺を問い詰めれば良いのに、倉屋はそれをしてこない。もっと責めれば良いのにとすら考えている。
「俺は 」
全てを話しても理解できないだろうし、理解する必要はない。これは俺自身の問題である以上その事に彼女を巻き込んだりしたくはない。
「俺は、倉屋に心配をかけたくない。今日だって、正直こんな時間ギリギリで来てくれるとは思わなかった。だから、その 」
せめてそれだけでも伝えないといけない。俺にばっかり気にかけてほしくはない、だからそういう心配はしないでほしいと。だけど、どうすればそれを伝えられるのか今の俺にはどうすることも。
幻覚は再び笑い始める。それが俺に向けられているのは明らかだったが、倉屋もその笑いの中に含まれているようで、何がそんなにおかしいのか。何がそんなにおかしいんだ。
「葵君 」
次に紡ぐ言葉を考えているさなか、名前を呼ばれてしまいそれに返事をしてしまう。
「なんだろう、これ 」
夕焼けは山際の向こうに沈み、既に病室には暗くなりつつあった。それなのにベッドの下、床には仄かに光りが漂っていて、それはまるで俺が転移陣のあった部屋の明るさで。
「嘘だろ 」
ほどなくその光は消えていく。倉屋の顔から不安の色がなくなるが。俺には恐ろしい予感が脳内を駆け巡ってくる。
病室を叩く音。二回鳴って反応が無くなる。そこからは直観だった、点滴を無理矢理引き抜いて倉屋の方に飛びつき、抗魔力を纏って。
壁が破れる。爆発したように瓦礫を病室にぶちまけて、辺りに赤い物が飛び散った。
「な、なにこれ 」
「倉屋、何も聞くな。ここから離れてくれ 」
「え、え? 」
抗魔力を纏わせたが、左腕には上手く纏わせられなかったからか。いや、無理に動かしたせいだ、包帯から体液が滲み出てくる。抗魔力を左腕に集中させて痛みをなんとか和らげる。
多分、酷い顔をしている。こんなの、倉屋に見せたくはなかった。
「良いか、俺は大丈夫だから 」
笑顔を作って、なんとか誤魔化そうとする。
ここにやってきた者のは壁を破ったのに、ドアからわざわざ入ってきた。靴はコツコツと音を立て、その目をこちらに向ける。
「光剣者、だな 」
「違うと言ったら? 」
顔には見たことない機械を取り付けて、バイザーのような箇所が何度か光ると。手が光り出し、咄嗟に倉屋を壁に空いた穴に放り投げて。
「逃げろ! 」
病室が吹き飛ぶ。もう何もかもが崩れ去っていく。




