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英雄は帰る場所を求める  作者: 紅蒼べにあお
英雄だから帰れない

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3/30

その矛先

 悲鳴を薪にするかのように火の勢いは強くなる。村に着く前から立ち上る煙で既に手遅れだと理解しながらもここに来た。逃げ惑う人々の合間を縫うように原因の場所にたどり着く。そこには血に塗れ、薄ら笑いを浮かべて次の獲物を定めようとする存在が居た。


 魔族は人間と同じ姿を、だが頭部の角、体の一部に全く違う生物の特徴があり、何より高い魔力を所持しているらしいことが魔族の定義だと言う。俺には魔力らしいものを感知する事が出来ないが、その代わり纏っている気配で魔族かどうかを判断出来た。奴らが纏っている気は総じてどす黒く、相対してしていると吐き気すらしてくる。


 剣を抜いて斬りかかるも、その魔族は右手が分厚い鱗で覆われていて力任せだけで肉まで刃が届かなかった。こちらを指差しながら何か喋っているが、わからない。こちらの世界に来た時翻訳の魔術をかけて貰ったが、対応していないのかまるで聞き取れない。手の震えは恐怖じゃない、そんなものはここにきて半年で魔族に対する怒りに変わった。


 許せない。躊躇いはない。村の炎は体の血を沸騰させて、振るう剣には力だけではない別の力が纏われて魔族の硬い表皮を、肉を、骨を断ち切っていく。反撃はぎりぎりで躱してひたすらに急所を狙っていく。魔族は右手に魔力を纏い攻撃を防ごうとする、だが関係ない。自身の一番硬い箇所に硬化する魔術を使ったのだろうが、それすらも切り裂く。宙を舞う己の体の一部を見て魔族は恐怖の顔色を浮かべる、だがそれで攻撃の手を緩めるない。そのまま剣を首、胴、腰と振っていきバラバラにしてやる。だが後ろに飛び退く。魔族がにやりと笑ったのを見て直観で動いた。魔族の体が膨張、爆発し辺りに炎以上の熱をまき散らかした。


 剣を通して放出されたエネルギーは全身を包んでその熱から俺を守る。その威力は村だけではなく周囲の木々を焼き尽くし黒に染めた。


 まだ空気が熱い。打ち身程度で済んだはずだが、全身が悲鳴を上げていた。よろけながら立ち上がり周囲の状況を確認する。先ほどの爆発で火は吹き飛ばされてどこも燃えていない。同時に建物の残骸も吹き飛んで自身がいる場所は既に村だった場所へと変わる。


 守れなかった、救えなかった、これで何度目になるんだ。早く魔族の王を、魔王を倒してこんな事を止めなくちゃならない。拳に力が入り、しかしこの怒りの矛先は今はどこにもぶつけられずただ茫然と立ちすくむ。




 昨夜はよく眠れなかった、何せ整理するものが多すぎた。戸籍、部屋、そして事実。行方不明者として死亡扱いされていた戸籍を戻す手続きや、身辺に必要なものをある程度揃え、そして隣人についての情報。


 阿久井さんの話だと、彼女は5年前から住み込みで働いているとのこと。名前はゼーラ。


 「花の名前を取るってのは、国は違っても一緒なんだろうな」


 阿久井さんはゼーラを外国から来た子だと思っているらしく、マスターも最初言葉が通じない外人が来たと慌てていたそうだ。


 今は静観するしかない。相手は俺をまだ魔王を倒した人間だとわかっていないらしい。


 「葵さん?」

 「は、はい!?」


 しまった、顔に出てたか。


 「初めてだから緊張しますよねー。わかります」


 ゼーラがとなりに座りながら話かけてくる。警戒心を悟られないように心掛ける、身構えてしまいそうになるのを右手を力ませながら我慢した。


 休憩室の狭さ、この距離だと安易に俺の力が漏れれば魔族ならそれを感知してくる。そうなったら、この店どころか辺りが吹き飛んだっておかしくない。


 「でも困ったことがあれば遠慮なく頼って下さいね!私は先輩ですから」


 得意げに胸を張る、この動作がただの人間なら勘違いする輩もいるだろう。


 「ゼーラさん、あの」

 「はい、なんでしょう」


 極力怪しまれないように探りを入れていかなくては。


 「ゼーラさんって、家族はいるんですか?」


 首を傾げてくる。


 「いや、俺の家族はみんな行方不明で。ゼーラさんも日本に一人で住んでるんですよね?故郷とか家族が気になって」


 悲しさと怒りを押し殺して、必要な情報を得るため身の上を利用する。


 魔族に家族なんて概念は存在しない。ただ縄張り争いと己の強さを誇示する為だけで周囲を害する存在。この世界で生きていく為に必要な思考を取り入れたのだろう、なら家族という概念の話をすれば己以外の魔族の存在の有無が知れる筈。


 「うーん、家族の話はちょっと…」

 「いやなら無理には」

 「いや、家族って言うより何だろう…、集団?グループ?みたいな感じだから」

 「よくわからないけど、ゼーラさんと同じ国の人?」


 ゼーラは首を縦に振りまくって嬉しそうにする。


 この様子だと、他にも魔族がいる。まず、ゼーラ以外にもこちらの世界に来た魔族が一定数いそうだ。


 「私たちはみんなでこっちに来て、それぞれ好きに生きてるの。けど、定期的に集まってそこでお互い今どうしてるのか確認し合ってる」


 魔族が集団で集まる、本来は魔族同士で群れたりしないし各々好き勝手にその生を謳歌してるような奴らがそんなことを。そこで嫌な考えが脳裏を過った。


 「それって月一とかで?」

 「そうですねー。丁度明日がその日なんですよ」


 そこで部屋の外から阿久井さんの声が聞こえた。どうやら皿洗いをさせたいらしい、もう少し情報が欲しかったが安易に深く聞いたら怪しまれそうでもある。ゼーラに一言かけて俺は休憩室を出た。


 明日、魔族が集まる。時間はわからないが、ゼーラが外出したタイミングを狙えば良い。魔族を放っておけないのもある、だがそれ以上に聞いた話だけで考えればこれはあり得る事だ。


 「魔王直接の配下、その誰かがこちらに来ている…」


  魔族は群れない、だがそれを統率したのは他でもない魔王。そこに付き従った魔族ならそういった集団を形成をしても不思議じゃない。


 あの戦いの最中、魔王を見限ったのか知らないが俺同様にこちらの世界に来た魔族が居たという事になる。確認する必要がある、かつ可能ならその場で。


 全員殺す。

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