見え始める影ー前編ー
「では、葵さんも起きたので事を整理しましょう 」
「これでも怪我人なんだからもう少し養生させようとは思わないわけ? 」
そんな俺の慰めを求める声は無視されて、ムスリカは説明をし始めた。
「まず、今回の魔族殺しを行ったというその機械についてです 」
「あたくしは少なくとも見たことないわね 」
機械についてはいろいろ謎が多い、誰が作ったのか、何故光剣を持っていたのか、どうして抗魔力で動いていたのか、魔族だけを狙う理由は。ほとんどが謎の存在だった。
現状、俺たちの中で一番向こうの世界で生きた年数が長いオミナも知見が無いとなると。まだ情報も無い中でその存在を予測するしかない。
「機械がどうしてこの世界に、誰がこの世界に送り込んだのかは保留とします。問題は私たち魔族だけを狙い、そして今後同じ存在が現れる可能性があるという事です 」
「そうなったら、私たち勝ち目あるんですか? 」
今回の戦いにおいてはオミナを庇いながらの戦いとなったが、例え万全の状態で正面切って真面目に戦いたい相手じゃない。第一、同じような存在がいるのなら。真っ先に狙われるのは魔族たちだ。そうなったら俺の行動はほぼ後手に回る。魔族たちを一カ所に集め続けるのにも限度があり、緊急事態でもないと集める事は難しい。
そうなると魔族たちが各々戦いを行わなければならない。それなのに、機械は抗魔力を駆使し、単純な強さでも俺や七将と並ぶ存在に基本戦闘した事ない魔族たちが勝てるわけがない。まだ全員が抗魔力の処置を済ませてない者は特にそれが顕著だ。
「まぁあたくしは次は負けないのだけれど? 」
「いや、お前は負けてなかったよ 」
オミナにそう投げると、少し照れくさそうに体を叩いてきた。この後の検査で折れた骨が一本増えていた。
実際、オミナが暴走してあの場を乱さなければ何もかも終わっていた。危険な賭けをしたという事は黙っておくが。
「現在、私たちで何とか連絡魔術と移動魔術の行使可能な媒体の作成にかかっています。私たちとしては、ひたすら逃げに徹するのが肝心だと判断しました 」
「私も少しは戦えるように、ちょっと特訓してるんですけどね 」
「葵さんと同じくらい戦えたら、戦力とみなしてあげますよ 」
それはそうだ。ゼーラは戦闘経験無くて良い、こんな血生臭い経験なんかしなくても良い。
「次に、葵さん自身が気になっているであろう。オミナ様ですが 」
「これが本来のあたくしよ。美貌だけなら、あたくしより上よん 」
話によると、魔力の消費を抑えるために体を小さくしていた、省エネモードだったというわけだ。それはそうと、話の途中で火花をばちばちに飛ばすのはよくない。良いぞムスリカ、もっと睨んでやれ。
「次に進めます。ここからは葵さんにもいろいろ聞きたい事があります 」
光剣の話だろう。あれはどういう事なのか、何故あるのかいろいろ聞かれるのを覚悟していた。
「戦闘後、私に連絡をしたのは誰ですか? 」
「…戦闘後? 何が? 」
「葵さんではない、少なくともそうだとは思っていましたが… 」
そう言ってスマホを取り出したムスリカは着信に俺からの連絡履歴があるのを見せて来た。ただ俺自身、戦闘後は意識をほとんど無くしてたし連絡をするなんて事頭になかった。
「私の元に無言での通話が来ました。この連絡のおかげで私たちも現場まで向かう事が出来ました 」
通話をそのままにしていたら、オミナが喋り始めてなんとか場所の特定が出来たらしい。もっともオミナは扱いが分からず途中で間違えて切ったそうだが。
「オミナ様はこの世界の機器を使えるわけがありません。あの機械も完全に停止していて、動く気配もありませんでした 」
「そうなると、あの場に第三者が居たという事か? 」
「…あの現場を見て通報ではなく葵さんのスマホで私たちに連絡をするという判断を下した 」
この行動の意味、俺たちの事を知っている者があそこに居たという事だ。
俺たちが知らないところで誰かが周辺を探っている。その不気味さに冷や汗を流してしまう。
「そして、私はその現場に居たのは。オミナ様を閉じ込めた者と、同一人物だと判断しました 」
「え、なんで? 」
「実は、我々の中には回復魔術を行使可能な媒体を持つものが居ました 」
その発言は俺がここに居るわけがないという矛盾を生じさせる。程度にもよるだろうが、その回復魔術を使う事が出来れば少なくともこんな場所に居る必要はない。
「しかも、抗魔力の処置を受けた後の者で、自身でもある程度回復魔術を行使できるようになっている者でもあり。確実に治せると踏んで、呼んだのですが 」
その結果として、体の大体の傷は治癒に成功。オミナも命に別状はないところまで回復を行う事が出来たらしい。
「葵さん。貴方の左腕だけは治せませんでした 」
え、左腕だけ治せない?
「いや、でもじゃあ…え 」
「わかります。かなりの酷いやけどで、そのままでは命も危ないような… 」
「違う。違うんだ! 」
困惑する。その最中で左腕を動かす、その感触に安心感と言葉に出来ないような不安が同時に押し寄せる。
「じゃあ、俺の左手をくっ付けたのは… 」
「くっ付けた?確かに切断されたような傷痕は…え、どうして? 」
困惑をし始めるムスリカとそれに置いて行かれるゼーラとオミナ。その戸惑いは何か見落とすような、家に置いてきたはずの物品が何故か手元にあるような逆の確認不足。
あの現場に仮にその第三者が居たとして、そいつはあの現場において俺の左腕を治したという事だ。それなのに、やけどまでは治さなかったのが余計に気味悪い。
ぶつぶつと小言を言っているが、次第に顔色が元に戻り始める。
「そう、そういう事ですか 」
一人で納得し、俺の方に目線を戻した。
「葵さんの左腕に関しては。なぜか回復魔術を受け付けなかったのです 」
「受け付けなかったって? 」
「魔力が阻害されたと言うべきでしょう 」
なぜだ。抗魔力が原因か?いや、抗魔力は常に魔力に対して抵抗しているわけじゃない。それにあの状態の俺にはほとんど抗魔力は残っていなかった。受け付けない理由がわからない。
「正直に言うとですね。もし葵さんが腕を切断されていたとして、私たちが到着して回復魔術の行使を行えたとしても腕を完全に治せるとは思えません 」
「時間経過による治癒限界ってやつか 」
「はい。正直、やけどに関しても完全に治せるとは思えませんでしたが、少しは楽に出来ると踏んでいました。ですが、腕の修復となると不可能。切断された先があっても動かすのに訓練が必要な、そんな経過時間でした 」
左手を動かして、痛みに顔を歪める。けれど、はっきりと痛みと感覚、思った通りの動きをしてくれていた。感謝すれば良いのか逡巡して、やはり繋がっている事にありがたみを感じる。
「その様子だと完全に繋がっているようですね 」
「そいつのおかげでな 」
それならやけども一緒に治して欲しかったところなんだが。そこについて言及するのは今じゃない。
「では、ここからが本題になってきます 」
ムスリカがゼーラに何か合図を送ると、紙袋から地図をだしてきた。ベッド上の机に地図を広げるとそこにはいたる場所に赤線でバツ印が付けられていた。その数はおびただしいもので、場所によってはバツが重なり合い過ぎてもう少し紙が剥げているところもある。
「これはなんだ? 」
「これは 」
息を吸う。ゼーラの表情が険しいのが気になるが、そんな顔をして当然だった。
「これは、過去に転移陣が発生した場所を示した地図になります 」




