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英雄は帰る場所を求める  作者: 紅蒼べにあお
導に従っていく

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ずれていく

 目の前の機械はもう動く気配がない。生物ではないが、力なく横たわっている姿には生々しい物を感じた。このロボットは抗魔力で動いていた、もし俺に抗魔力が戻ってこのロボットに送り込む事が出来れば再起動するのだろうか。


 もっともそんな事をしようなんて微塵も思いはしないが。


 意識も薄れていくが、既に無くなった左腕、全身の痛みが無理矢理にでも覚醒を促してくる。とっとと体を横にしたいが、確認したいことがあった。


 目の前に突き刺さった光剣。俺がかつて向こうの世界で魔王を倒す為に振るった武器、何故それが今目の前にあるのか疑問だったのだが。


 「これ、俺の光剣じゃない… 」


 俺が振るっていた物は2年の戦いでかなりぼろぼろになった。修復は行っていたが、それでも細かい傷や汚れが残っていた。この光剣にはそれがない、造りたてほやほやで金属部分は艶があり、持ち手には使用されたであろう擦れた跡が僅かしかない。


 ロボットの腕が力強くそれをまだ握っている。まるで首を斬られた罪人が柿に噛り付くような恨めしさを感じる。なんだかこの光剣を握らせておくと腕だけが動き出して剣を振るう気がした。こんなぼろぼろの状態ですることじゃないのかもしれないが、もし動いたらと思うとうかつに倒れられない。


 掴んでいるその腕を引き剝がすと、そこに光剣だけが残る。今この剣の持ち主はいなくなり、ただそこで次の持ち主を待つだけの存在。


 無意識に手が剣に伸びる。もし今後、こんな敵が現れたら光剣は必須になる。左腕も無くしたこんな状態でまともな戦いを続ける事は出来っこない。この剣を持っておくに越したことはないだろう。そう思って、俺は一か月振りに自らの半身とも言える存在に触れた。


 持った瞬間。久しぶりの感触に懐かしさを感じつつ、己の使命と忘れていた憎悪を想起した。


 剣をロボットから引き抜いて、地面に倒れている弱った魔族に目をやる。オミナだったか、七将はやっかいな存在だし今のうちに殺しておいた方が良い。こんな弱った状態、俺もいつ倒れるかわからない。魔族の奴らを生かしておいたら誰が傷つくかわからない、魔王も消えた以上は、統率も取れない今が。早く、早く。


 そう思って近づいていくが、そこまで意識が持たない。オミナは消えて、地面が映り、それすら暗く見えなくなってしまう。くそ、目の前だっていうのに。魔族を、殺せない…。






 目を覚ますとそこには知らない天井。遮光カーテンに左側には点滴が左腕に刺さっていて、ギプスががちがちに巻かれていた。そうか、もう無いんだった。


 体を起こして部屋を見回す。窓から見えるのは大きな公園、10年の間に山上を整地して建ったっていう国立病院。そこに俺は入院しているらしい。公園からは子供たちの声が聞こえてくる、遊具もここから見えるくらい大きくいろいろあるらしい。


 病室のドアが開いてそこに見覚えのある人物が入ってきた。


 「…葵さん! 」


 彼女は俺に駆け寄ってきて右手を握ってくる。ゼーラの泣き顔を見るのは初めてだったが、それよりも頭痛でまともに見る事が出来ない。ゼーラの横には、いつもの幻覚が見える。笑ってくる、いつも通りの風景。


 「葵さん! 大丈夫ですか?!葵さん! 」


 何か良くない考えが過り始める、もう無くしたと思っていた、捨てたと思っていた黒い物が湧き上がる。多分、今ゼーラを見たら俺はどんな事をするのか、自分でもわからない。なんで、そんな事はない。そんな筈はない、俺は妹に任されたんだから、もうそんな事はしないと。


 「大丈夫、大丈夫だから…少し離れててくれ 」


 深呼吸して、頭に血を巡らせる。落ち着け、俺の名前は葵。悪い夢を見ていたような気がする、まるで自分の頭の中に何か見えざる手を突っ込まれたような気色悪さ。何か大事な物を、隠すようにその手は俺の。


 「とにかく、ムスリカさんを呼びますね。いろいろ話したい事があるとの事だったので 」


 「え、ああ…。頼む 」


 そうして部屋を出ていった。机には俺の持ち物が置かれている、スマホを手に取る。


 「2日も寝ていたのか。月も変わっちまったな。 」


 体を再び動かそうとして、その違和感にようやく気付く。いや、戦いの最中で失ってしまった感覚がそこにある。正直、仕方ないと割り切っていたがそんな筈はない。左手を動かそうとするとやけどのせいで皮膚が突っ張って上手く動かせそうにないが、指の先までその感覚があった。




 「葵さん! 良かった…もう覚まさないものかと 」


 ムスリカが部屋に入るなり、泣き出しそうになってしまうのを。


 「うるさいわね。貴方そんな声を出す奴だったのかしらん 」


 別の魔族が嫌味ったらしく言うと、ムスリカはそっちを睨む。いや、ムスリカは魔族の仲間に基本こんな視線向けないはずだが、誰なんだこの魔族。今まで出会ってきた中であんな人は見てこなかった。ような、気が。


 いや、喋り方。そして、雰囲気。引っかかる、こんな喋り方をする魔族は一人いる。けど、こんな姿じゃない。もっと小さくて。


 「オミナ様だって、聞いた時はすごい声だしていたじゃないですが 」


 「ばっ!あたくしはただどん引きしただけよん! 」


 やっぱり、じゃないが。いやそうだと思ったけど。なんで、身長そんな伸びてんだよ。


 な、なにがあったんだ。

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