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英雄は帰る場所を求める  作者: 紅蒼べにあお
導に従っていく

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一つ目の接敵

 俺なんかにそんな資格があるのか分からない、魔王は自分の髪で何を探そうとしたのだろうか。俺にそんな権利があるのだろうか、どうして妹は己の髪を残したのか。


 けれど今は、この標に従っていく。国道に沿って、普段はバスなんかで移動する所を、車に少し抜かされる程度に速度を落として駆け抜ける。見慣れた道を走っていく中で、探索魔術の反応はなお強く光っている。


 「この道… 」


 その探索魔術の光が消える。対象から離れ始めると光らなくなる。手を回して再び光り出す方角へとまた駆け出す。


 間違いない。階段を二歩で上がるとそこは霊園で、その裏は林となっている。


 「まさか襲われてるって事はないよな 」


 魔力壁に囲われている以上、誰も手が出せない場所に居るのだ。気にかける必要なんかない。


 林の中へ進もうとして、横を何かが凄まじい速度で通過していった。


 それは後ろの墓石に叩きつけられ、口から血を吐き、ところどころ切創し、酷い箇所だと複雑骨折をしている。目は虚ろで生気を感じない。


 オミナが辛うじて原型を留めていた。


 声をかけても返事がない。体温はまだ感じる、死んではいないがその手前の状態だった。林の中から土を踏みしめる音が聞こえ、オミナを背負ってそっちを睨みつけた。音は徐々に近づいてくる、もうすぐ木陰から出るだろうところまで。


 来ている、はず。


 霊園を囲っている塀を足で蹴り砕いて、足音は真っ直ぐこちらに向かって来ている、はず。


 右手で強く握っていた髪は尚強く光っている。間違いなく探していた犯人がそこにいる、はず。


 「見えない… 」


 透明魔術、それを行使する魔族と戦った事がある。だから相手が見えざる者だとわかっても落ち着いていられた。その分、余計に困惑をした。


 「逃げろ… 」


 「オミナ、お前 」


 「そい、つは。お前と 」


 気を取られてしまい、腹部に衝撃が走る。予め全身に抗魔力を纏わせていたおかげで内蔵まではやられてないだろうが。目の前にいるだろうそれは、俺より明らかにパワーが上だと言う事実を知らしめた。


 とっさに墓石を蹴って林の中に逃げ込む。罰当たりな事してあとで祟られそうだが、今はそんな事を考えている暇がない。


 木陰を間を縫うように逃げる。恐らくこちらを追いかけているだろうが、その気配も感じない。


 「オミナ! すまないがもう少し我慢してくれ! 」


 さっきの衝撃は俺越しにオミナも受けている。彼女をこうして背負っている状況すらオミナ自身を消耗させている。無理に動かしている上、今は戦闘を見越して抗魔力を纏っているのだからそれに当てられてる魔族からしたら毒物に体を引っ付けている状態でもある。抗魔力を解除したいが、素の状態で一撃でもくらえば俺の体が吹っ飛ぶ。


 そして、直観。体を翻して、目の前に何かが叩きつけられた。いくら背負い物しているとはいえ、この距離を縮められるなんて仮にも修羅場を潜った身としてはプライドを傷つけられてしまう。


 舞い上がった土煙はその輪郭をぼんやりと浮かび上がらせる。足に抗魔力を集中させて、それの頭であろう部位を蹴った。確実に入った、手ごたえもある。


 だから、油断した。


 意に介する事無く、そいつは俺に腕を振り上げてくる。避けられない、とっさに俺はオミナを手放して、木々より高いところに飛ばされる。


 一撃が重すぎる。魔族との戦いでこんな力を出していたのは七将でもスーキとか言うやつ一人だけだろう。だが、奴以上に速い。こんなのに勝てるのか、俺は。


 下ではオミナが宙に浮かんでいる。そこで確信と、ある怒りが沸きあがる。


 「やっぱり魔族を殺しているのはあいつか! 」


 落下するより早く、抗魔力で殴りつける。威力をのせることは出来ないが、今はオミナの救出が先だった。なによりあいつは俺を無視している。ここまでの攻撃が俺に向けられていたのではなく、あくまでオミナだけを狙っての攻撃。たまたまその間に俺が挟まっていただけに過ぎない。つまりガン無視というわけだ。


 相手は微動だにしない。こちらを向くことはない、掴んでいる腕を離させようと着地して何度か殴ってみるが硬すぎて響いた実感すらわかない。


 首を絞めあげて、手の跡が浮き出す。なんとかしてこちらに意識を向けさせなければ。そう考えて、手のブレスレットに目が向く。構う物か、どうせ使い捨て用に渡された物だ。

 

 「こっち向け透明野郎! 」


 抗魔力でブレスレットの魔力を大きく膨張、拡散させる。攻撃というより目くらましのようなそれをした時。息をのんでしまう。


 確かに透明なそれはこちらを向いた。はっきりとそれがわかるくらいに目を光らせて。だけど、その目は。


 大きく、大きく。顔に穴をあけて、そこに電球でも埋め込まれているかのように。


 一つ目がギラリと輝いた。


 魔族にだって一つ目の者はいたが、ここまで大きい者はいなかった。目以外の機能は必要無いかのようなそれは、これまでの戦いで一切感じなかった恐怖を全身に巡らせる。


 そいつはオミナを離すことなく、その目からレーザーを放つ。その射線上には魔力がなくなったブレスレット、やはり俺を狙ってはいない。


 「オミナ! 」


 とにかくオミナから引き剥がす。その事だけを考えて、そいつの腕を掴むと。


 「魔力持ってんならこれはキツいだろ! 」


 腕に抗魔力を集中させて、無理矢理流し込む。かなり消費するが、今はこいつの気をそらさなくちゃいけない。せめて、傷でもついて流し込めればと思ったがダメージを負っているような気配は感じなかったし、魔族だろう相手にそこまでしたくはなかった。


 鼻血が出始めて、口からも血が出始めて。異常に気付く。


 抗魔力による爆発。触れていた箇所に抗魔力が集中し過ぎて、相手の腕が吹き飛ぶ。オミナに触れないよう防御に意識を回した、俺は想定以上の抗魔力消費で全身を守る事が出来ず伸ばした右腕がやけどで爛れてしまう。動かす事は出来るが皮膚が破れて体液が滲み出る。抗魔力に回復能力が無い以上、その痛みに耐えるしかない。回復魔術は高度な術、今居る魔族達では回復魔術を行使出来る者は居ないだろう。


 視線の先に居るオミナには生気を感じない。離れているが土気色の顔から焦りだす。


 そしてそこに近づくのはそこにノイズを走らせたような人型のそれ。俺と同じで左腕が吹き飛んだらしく、煙を立ち上らせながら、そのノイズが晴れていく。


 煙の奥から剥き出しの金属、関節にはシリンダーのような部品。胸部の中央は鈍く発光しており、そこから広がるように隙間から光が漏れている。


 「機械…ロボット?! 」


 こんな状況。今の関係さえなければ胸を躍らせていただろうに、その顔の単眼はオミナしか見えていない。


 ロボットの右手側の空間が少し歪んだかと思うと、その手には一振りの剣が握られていた。その形状、漏れ出す力に合点と否定を同時にしてしまう。俺はそもそも意図して抗魔力を爆発させたんじゃない、暴発したのだと。


 信じられない、暴発した理由がわかったところでその事実を受け止められなかった。


 そのロボットが持つ剣は、間違いなく光剣で、俺と同じ抗魔力を刀身から発している。そして。


 そのロボットは、抗魔力で動いてるのだ。

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