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英雄は帰る場所を求める  作者: 紅蒼べにあお
英雄だから帰れない

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15/30

もう名乗れない

 俺の手には一房の髪が握られていた。傍から見れば変質者そのものだが、こればかりはどうしようもない。これが約束の品だと言われなければ気持ち悪くて本来なら触れたものじゃないが。


 「魔王の髪がまさか媒体だったなんてな」


 最古参の魔族から渡された探索魔術の媒体、それは魔王がまだ魔王と名乗る以前からの髪を使用した媒体だった。俺の記憶だと、魔王の髪色はもっと深い緑色だったが、俺の手の中にある髪は艶を無くしつつある黒色だった。

 

 魔族との戦いは二日後、その日が魔族の消える日だという。つまり、理性も何もかも失って周囲に害をもたらす存在となるわけだ。


 正直、今回はあまり気が進まなかった。突然過ぎたのもあるし、それまでのムスリカの努力やゼーラやその他の魔族たちがこの世界に馴染んで、平和を自分達なりに守ろうとしている。それなのに、いや、俺を毛嫌いしているだけならそれで良いし勝手に消えるなりすれば良い。町で暴れる、そう言われたらもう俺自身も後には引き返せない。


 今後、同じような考えで暴れる魔族が出るかもしれない。そんな可能性は予め摘み取っておきたい。


 「葵さん…?」

 「なんでもない。それより、早くこの探索魔術を行使してくれ」


 手に握っていた髪をゼーラに渡す。俺は抗魔力しか持ってない、だからそれを行使するには手助けが必要だ。現状として安全に魔力を使えるのはゼーラを含め抗魔力に適合した魔族だけ、その中でもゼーラは一際高い適合をしていた。一番安全に、魔力を行使できる。


 「それじゃあいくよ、探し物は?」

 「俺の、家族」


 魔力を流し込むと、髪はわずかに光り。まるで羅針盤が方角を示すように光りの強い先端が探し物の方を向く。その段階で俺は一つの事実を確信した。


 「そうか…、もう物扱いか」


 家族は死んでいる、一番期待していたのはこの探索魔術が一切反応を示さない事だった。けれど、魔術は行使されてその在処を指している。もう期待は出来ない。


 「葵さん、大丈夫?」

 「大丈夫だ、大丈夫。想定はしていた…」


 そんな自分に言い聞かせるように、俺は魔術が導く方へ足を運ぶ。

 

 自室の玄関から歩くこと10分ほど。その間の会話は特になかった。ゼーラも俺とムスリカ、あの魔族のやりとりを既に知っている。俺が魔族に対して今後どんな対応をするのかも、全てを承知で仕事終わりでこんな事に付き合ってくれた。


 しかし、やはりそんな緊迫した空間に耐えられない。他でもない俺が、誰よりも居心地の悪さを感じていた。


 「葵さん、始まりの5番目なんだけど…」

 「なんて?」


 会話を振ってくれたゼーラには申し訳ないが、意味の分からない単語を発しないで欲しい。空気をぶち壊す、というより爆発させるような発言はあまりよろしくはない。


 「えっと、ムスリカさんと居たあの」

 「あ、ああ。あの魔族か」


 どうやら族名だったらしい。ゼーラももう名前をちゃんと思い出せないようになってしまっている。こんなんじゃ、魔族たちも浮かばれない。


 「あの人はね、ずっと魔王様の隣にいた魔族なんだけど。その中でも魔王様の悩みとか相談とかずっと受けて、魔王様にとって代えがたい身内みたいな方だったの」


 そこからゼーラの話が始まった。あの魔族が魔王を名乗るより前に支え、その感情の矛先として受け止めていた存在であり、魔王がこちらの世界に送る時真っ先に候補として挙げたという。当然、その魔族は最後まで付き従うと反対したらしいが。最終的には魔王の頼みとあって、こちらの世界に転移したらしい。


 滅魔力による消滅の現象についてもあの魔族は「魔王様に名前を返す儀式だ」とありのままに消えるべきという主張をしていた、当然大部分の魔族から反対され、必然的に魔族たちの中でも疎外される存在となった。


 「ムスリカさんは優しいから、そんな最初の5番目にもいろいろお世話とかしてたんだけど、顔を合わせれば今日は何人消滅したのか聞いてきて」

 「ムスリカ自身も参っていたわけか」


 魔王に名前を、魔王が居なくなってしまった以上は自身も含めて配下の魔族たちはもう存在する事は出来ない。ならいっそ、心中する方がよっぽど義理堅いと考えているのだろう。


 こちらの世界の魔族たちは、生きてほしいという魔王の願いで転移してきた。それなのに誰よりも魔王に近かった存在がそんな事を言うのでは、耄碌というか行き過ぎた信仰心にしか思えない。


 「あ、もう近いみたい」

 「…そうか、近い。のか」


 もう潰れたガソリンスタンド。そこを曲がってあとは道なり。わかる、これ以上は探索の魔術は必要ない。確定していたわけじゃない、もしかしたらそんな可能性もあるだろうと思ってはいた。けれど、戻ってきたらきっと確信してしまうからずっと避けていたあの場所に、この髪は俺を導いている。


 進入禁止の看板、もう何も建っていないこの場所に探索魔術は俺を案内しやがった。


 「ここ?この先みたいな反応をしてるけど」

 「そうか、そりゃそうだよな」

 「…葵さん?」


 俺だけが、都合よく転移なんかするわけがない。向こうの世界の仲間であるサリィがかつて俺とあった時に言っていた。複数の反応があったのに、って。


 「見つかりっこないよな。俺と同じなら」


 考えていた可能性、自分の家があった場所。誰もいない、こっちの世界にはもう誰もいない。


 「俺は、2年間何を…何をしてたんだよ!」


 金網を強く蹴り、その音があざ笑うように辺りに響く。真夜中で誰も見ていないのに誰かが俺を見ている気がして、目線を合わせないように上を向いた。


 「ここは、俺の家があった場所だ」

 「葵さんの?」

 「俺が、向こうの世界に転移、召喚された場所でも」

 「…それって」


 今、光剣者という葵の意味に亀裂が入る。

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