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英雄は帰る場所を求める  作者: 紅蒼べにあお
英雄だから帰れない

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12/30

次の問題

 空は灰色に覆われている。一週間ほどこんな感じの天気が続いており、折り畳み傘を常に携帯しなければ外に出るのも不安だが、まだ使ったことはない。


 バスに少し揺られて着いた場所は普段なら絶対入らないような高級料亭、何度か道中で見かけた事はあるがまさかこの年齢で入れるとは思ってもみなかった。いや、これから先も入る事なんてまずないんだろうと思っていた。


 中に入ると、受付の人に声をかける。本来ならこんな年齢の若造が来て良い場所ではないのだろう、それなのに表情を特に変える事なく受け答えをして案内をしてくれた。


 部屋の前まで案内されて、襖を開くとそこには見知った顔。


 「葵さん、お待ちしておりました」

 「なんじゃ、こいつが件の男か」

 

 よぼよぼのばあさん、その見た目をした魔族が居た。

 俺はムスリカに問う。


 「誰だこいつは」

 「こいつとはなんじゃ!貴様!」


 ムスリカはその魔族をなだめながら紹介をしてくれた。

 その魔族はタマネギという名前、なるほど。見た目と名前が相反しない素晴らしいネーミングセンスだ、魔王の奴もなかなか洒落ている。


 「きさまぁ!わしの名を笑ったな、魔王様より命名されたこの名前を!」

 「い、いや…、名前というか。くひひ…」


 そんな風に笑いながらタマネギ、そう名乗った魔族を見ると。


 先ほどまで怒りをどこかに落としたかのように、何故か悲しい表情をしていた。その意図が俺は理解できなかったが、目線に気付くと。


 「何見とるんじゃこのボケ!」


 また怒り出した。情緒がまるで掴めない魔族だ。







 「さて、改めて以前の話を進めさせていただきます」


 俺がゼーラの消滅を防いで半月ほど。経過も良好で普段と少しも変わらない生活を過ごせてはいる。抗魔力が使えるようになったという副作用がありはしたが、それが魔族たちの生命を脅かすものではないという事もゼーラのおかげで証明できた。


 俺が協力すれば魔族たちは消滅に怯えなくてすむ。ムスリカが他の魔族たちにもこの話を通しており、いずれは全員にこれを受けさせたいという話だ。


 「じょーだんじゃない!」


 ここで問題となるのが、俺自身の存在だった。ムスリカ、ゼーラがとりわけ気にしないから少し忘れていたが、本来はこの反応が出て然るべきだ。


 俺は光剣者、魔族を全滅寸前、魔王の命を奪った者。そんな存在を容易く受け入れろなんて方がおかしいのだ。


 「ムスリカ!お主騙されておるのではないか?!こやつは魔王を!」

 「わかっております。ですが、魔王様のお言葉を忘れたのですか」


 俺を頼れ。こちらの世界に送られる際に魔王から言われたらしいそれに則ってムスリカは動いていた。


 疑問はまだいろいろ尽きない、魔王は俺が転移者だと知っていたのは情報網から知れるだろうが、俺たちが顔を合わせたのはあの死合った戦いが最初で最後だ。こちらの人柄など、ましてや魔族の敵を頼れなんて言葉出るとは到底思えない。


 「魔王様も気がおかしくなっておったのじゃ!お主だって魔王様が部屋に籠るようになっておったのを気にしておったろう!」

 「確かにそうですが、魔王様の言葉を無下にする事とは別問題だと思います。それに魔王様も考える事が多くなれば籠ることが多くなるかと」

 「だからそんな状態で魔王様が真っ当な思考は難しかった以上、言葉通りに受け取るべきではないじゃろうが!」


 議論と呼ぶには少し声を荒げすぎだ。ムスリカも本来は魔族の事でいろいろ話をしに来たはずなのに、魔王の事にフェードアウトしている。なんとか話の路線を戻そうと声をかけたが、タマネギに静止されて間に入れない。


 「わしは認めんぞ!魔王様に手を抜かれて舞い上がるような奴に、魔族全員を救えるわけがない!」


 その一言は、本来この言い合いを止められるはずの俺を参加させるのに十分だった。


 「なんだと、くそババア!俺がお情けで勝たせてもらったって言いたいのか!」

 「そう言っておろう?お主なんぞが魔王様相手に本気で勝てると思っておったのか!」

 「んだとぉ?!」

 「魔王様がどれほどの者を退けたと思うておる!勇者だの剣聖だの人間の中で少し強いだけで持て囃された奴らも打倒し、自身に歯向かう野蛮な同族など足元にも及ばん偉大な方が。お前程度に?わしを笑い殺す気か!?」


 こいつ、あの戦いの場に居なかったくせに好き放題言いやがって。俺がタマネギの胸ぐらを掴みかけたところで、ムスリカが俺の名前を呼んだ。


 「悪い…」

 「け、そうやってわしら魔族を倒してきただろうに。何をいまさら」


 タマネギの態度は変わることはない。もともとこういう気難しい性格なのだろう、ムスリカはまだ落ち着いて話せていた方だったのか。


 だが、一通り言いたい事を言い合えたのだろう。話は魔族消滅への対策話へと持ち込む事が出来た。


 ムスリカ曰く、俺の抵魔力を使って魔族全員にこの処置を施して消滅を防ぐ事が最優先。もちろんタマネギのような光剣者を嫌う魔族も一定数居るため、あくまでも本人たちの希望に則っての処置となる。また、それにともなってゼーラに施した処置をそのまま行い続けるのは非効率かつ、全魔族が耐えられるとは思えないので簡易化と効率化を図り、魔族たちの消滅を最小限に防いでいく。これが魔族側から俺への提案の最終調整だった。


 そこまで聞いて改めて俺は尋ねた。


 「俺の提案についてはどうなっている」

 「はい、それなのですが」


 ムスリカは俺の家族捜索について、何か有用な魔術を持つ者はいないか探してくれたらしい。索敵や看破、感知などの近い事が出来る魔術を行使できる者は居たそうだが、肝心の探索の魔術については当てがなかったそうだ。


 「その言い分だと、探索魔術を行使できる奴が見つかったのか」

 「正確には、魔術行使を出来る道具を持った者がいました」

 「なんだ、じゃあそれを使えば良いじゃないか」

 「問題は…その」


 ムスリカは横に目をやる。その仕草を持ってなぜムスリカがこの話し合いの場に光剣者を嫌うくそババアの魔族を連れて来たのかわかった。そこでムスリカ自身も誠意をもってこの場に来た事も。これを解決しなければ、話は先に進めない。


 探知魔術を行使するその道具。持っているのはタマネギなのだから。

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