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侯爵令嬢の回顧録〜〝傾国の魔女〟と呼ばれて幽閉された私の婚約者は、世界を敵に回した皇太子殿下でした〜  作者: メアリー=ドゥ


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6/6

侯爵令嬢の回顧録。


 あの時の喜びを、アズライアはどう表現したらいいのか分からなかった。


 側近のギメルに連れ出されて、皇都陥落の報を聞き。

 アズライアはそのまま、内海の遺跡近くにある研究所に匿われた。


 そこには、アズライア達が逃げる為の物資が用意されていて、デュロは最初からこのつもりだったと知った。


 だから夜中にギメルの目を盗み、用意されていた逃亡用の飛翔魔導具を使って、皇都に向かって飛んだのだ。


 けれど途中で、墜落した。

 突然飛翔魔術が起動しなくなったのだ。


 森の中に静かに落ちて、アズライアは鎧の重さで動けなくなった。


『何で! 何で飛ばないの! 動きなさいよ!!』


 アズライアは、死ぬつもりだったのだ。

 『生きて欲しい』と幾ら言われたところで、そんな願いは聞き届けるつもりがなかった。

 

 デュロと一緒に死にたかった。

 少しでも、デュロの近くに居たかった。


 けれど、そこに現れたのだ。


『強い願いがあるか、魔女の素質を持つ者よ』


 そんな声と共に、黒髪に紫の瞳を持つ青年が。

 勝手に、着込んだ鎧がガシャガシャと脱げ落ちて、アズライアは土の上に膝をついたまま、彼を見上げる。


 月明かりを背に浮かぶ、愛しい人の姿を。


『我は〝逆位置の魔性〟エルピス。『災厄の魔性(パンドラボックス)』を喰らう力を持つモノ。……我と契約し、その魂を差し出すつもりがあるのなら、願いを叶えよう』


 アズライアは固まった。


『……デュロ?』

『否。この姿は仮初。君の『希望』を写し取った姿』


 しばらく呆然とした後、アズライアは思わず、うふふ、と笑った。

 当然、魔性と契約する幸運を得たから、ではない。

 

 その演技(・・)が、あまりに滑稽にだったからだ。


 彼の言葉で、現れた時の言い方で、本当は一体何をしていたのか、全部分かってしまった。


『嘘が下手ね、デュロ。冷酷非情な演技はそれなりに上手いと思ってたのに』

『……』

『そんな大根演技で、私を何で騙せると思ったの?』

『我はエルピス。願うか、願わぬか、応えよ、魔女の素質を持つ者よ』

 

 あくまでも、デュロはこの喜劇を続けるつもりらしい。


 だから、付き合ってあげることにした。

 デュロが生きていてくれること以上に嬉しいことは、なかったから。


 同時に決意した。

 彼の魂は誰にも与えないし、魔性に喰らわせることも許さないと。


『良いわ。契約すれば、生きている間はずっと、私の側に居るのよね? なら、願いは1つ……死んだ後も、デュロが私とずぅっと一緒にいることよ』

 

 アズライアは、うふふ、と笑う。


『出来るわよね? だって『災厄の魔性』は、契約者の願いを叶えるんだものね?』


 これでデュロは、申し出を受けたら自分が死後に喰われない方法を探すことになる。

 アズライアという魔女と契約した魔性として、あくまでも演技を続けるつもりならば。


 彼はしばらく沈黙した後に、小さく笑みを浮かべながら、こう答えた。


『君の願いを叶えよう、アズライア・インフェロー』


※※※


「それで、【封印の塔】に入ったご令嬢はどうなったの?」


 息を呑んで話に聞き入っていた孫娘の問いかけに、魔女は笑う。


「それからも色々あったけれど、【封印の塔】から、彼女は姿を消したの。そして幸せに暮らしたのよ。その色々は、また次の時に教えましょう。そろそろおやつの時間よ」

「あ!」


 頭を撫でてそう告げると、膝にもたれていた孫娘はハッとして立ち上がった。


「大変! おかーさんのところに行かなくちゃ!」


 その背中を見送って、魔女はポツリと話しかける。


「この話を、書き記しておくべきかしら……あの子がこの先を知りたいと思うことがあるなら、意味があるかしらね」


 すると、魔女の耳元で囁くような返事が聞こえた。


『回顧録か。好きにするといい』

「好きにしていいの? 秘密の話なのに」

『作り話の一つに過ぎない、そう判断される』

「そうかもしれないわね。それと、これは仮の話だけれど……」


 魔女は改めて、編み物に戻った。

 そうして手を動かしながら、また問いかける。


「魔女にとっての希望エルピスは、愛する人の姿をしていたわ。もし、皇太子殿下が〝逆位置の魔性〟と出会っていたら、どんな姿をしていたのかしら」


 しばらく、返事はなかったが。


『……おそらく、朱色の髪と瞳を持つ、美しい女性の姿をしていただろう』


 やがて告げられた言葉に……魔女はうふふ、と笑った。

  


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― 新着の感想 ―
どんな結末が待っているのかハラハラしながら読んでおりました。 アズライアとデュロの行動理由や覚悟が物凄く刺さりました。 非常に格好良いなと思いました。
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