侯爵令嬢の回顧録。
あの時の喜びを、アズライアはどう表現したらいいのか分からなかった。
側近のギメルに連れ出されて、皇都陥落の報を聞き。
アズライアはそのまま、内海の遺跡近くにある研究所に匿われた。
そこには、アズライア達が逃げる為の物資が用意されていて、デュロは最初からこのつもりだったと知った。
だから夜中にギメルの目を盗み、用意されていた逃亡用の飛翔魔導具を使って、皇都に向かって飛んだのだ。
けれど途中で、墜落した。
突然飛翔魔術が起動しなくなったのだ。
森の中に静かに落ちて、アズライアは鎧の重さで動けなくなった。
『何で! 何で飛ばないの! 動きなさいよ!!』
アズライアは、死ぬつもりだったのだ。
『生きて欲しい』と幾ら言われたところで、そんな願いは聞き届けるつもりがなかった。
デュロと一緒に死にたかった。
少しでも、デュロの近くに居たかった。
けれど、そこに現れたのだ。
『強い願いがあるか、魔女の素質を持つ者よ』
そんな声と共に、黒髪に紫の瞳を持つ青年が。
勝手に、着込んだ鎧がガシャガシャと脱げ落ちて、アズライアは土の上に膝をついたまま、彼を見上げる。
月明かりを背に浮かぶ、愛しい人の姿を。
『我は〝逆位置の魔性〟エルピス。『災厄の魔性』を喰らう力を持つモノ。……我と契約し、その魂を差し出すつもりがあるのなら、願いを叶えよう』
アズライアは固まった。
『……デュロ?』
『否。この姿は仮初。君の『希望』を写し取った姿』
しばらく呆然とした後、アズライアは思わず、うふふ、と笑った。
当然、魔性と契約する幸運を得たから、ではない。
その演技が、あまりに滑稽にだったからだ。
彼の言葉で、現れた時の言い方で、本当は一体何をしていたのか、全部分かってしまった。
『嘘が下手ね、デュロ。冷酷非情な演技はそれなりに上手いと思ってたのに』
『……』
『そんな大根演技で、私を何で騙せると思ったの?』
『我はエルピス。願うか、願わぬか、応えよ、魔女の素質を持つ者よ』
あくまでも、デュロはこの喜劇を続けるつもりらしい。
だから、付き合ってあげることにした。
デュロが生きていてくれること以上に嬉しいことは、なかったから。
同時に決意した。
彼の魂は誰にも与えないし、魔性に喰らわせることも許さないと。
『良いわ。契約すれば、生きている間はずっと、私の側に居るのよね? なら、願いは1つ……死んだ後も、デュロが私とずぅっと一緒にいることよ』
アズライアは、うふふ、と笑う。
『出来るわよね? だって『災厄の魔性』は、契約者の願いを叶えるんだものね?』
これでデュロは、申し出を受けたら自分が死後に喰われない方法を探すことになる。
アズライアという魔女と契約した魔性として、あくまでも演技を続けるつもりならば。
彼はしばらく沈黙した後に、小さく笑みを浮かべながら、こう答えた。
『君の願いを叶えよう、アズライア・インフェロー』
※※※
「それで、【封印の塔】に入ったご令嬢はどうなったの?」
息を呑んで話に聞き入っていた孫娘の問いかけに、魔女は笑う。
「それからも色々あったけれど、【封印の塔】から、彼女は姿を消したの。そして幸せに暮らしたのよ。その色々は、また次の時に教えましょう。そろそろおやつの時間よ」
「あ!」
頭を撫でてそう告げると、膝にもたれていた孫娘はハッとして立ち上がった。
「大変! おかーさんのところに行かなくちゃ!」
その背中を見送って、魔女はポツリと話しかける。
「この話を、書き記しておくべきかしら……あの子がこの先を知りたいと思うことがあるなら、意味があるかしらね」
すると、魔女の耳元で囁くような返事が聞こえた。
『回顧録か。好きにするといい』
「好きにしていいの? 秘密の話なのに」
『作り話の一つに過ぎない、そう判断される』
「そうかもしれないわね。それと、これは仮の話だけれど……」
魔女は改めて、編み物に戻った。
そうして手を動かしながら、また問いかける。
「魔女にとっての希望は、愛する人の姿をしていたわ。もし、皇太子殿下が〝逆位置の魔性〟と出会っていたら、どんな姿をしていたのかしら」
しばらく、返事はなかったが。
『……おそらく、朱色の髪と瞳を持つ、美しい女性の姿をしていただろう』
やがて告げられた言葉に……魔女はうふふ、と笑った。
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