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第22話 「型の奥に在るもの

アオイは“冷気の泉”での集中の儀式を通じて、己の“芯”と向き合いはじめます。

そして、初めて訪れる「恐れ」との戦い。

“立ち方”一つが、自分自身を映す「型」になる──その意味が少しずつ身体に刻まれていきます。


今回も静かな修行回ですが、仲間たちの修行の様子も少しずつ描いています。

それぞれの「問い」が、やがてひとつに繋がっていくような話になっています。

夜が明けるよりも早く、空は青白く滲みはじめていた。


風の門を越えたアオイは、森の奥へ導かれるように歩き続け、やがてひとつの場所にたどり着いた。


そこは谷の底に近い、岩肌に囲まれた静かな泉だった。

水面は鏡のように澄み切っており、空の色さえ飲み込んでいる。


 


「ここが……“冷気の泉”……」


アオイは自分の吐く息が、白く染まっていることに気づいた。

肌を刺すような冷たさ。しかし、その冷気には、ただの寒さとは違う“緊張感”があった。


まるで、精神の乱れを見透かすような──そんな静けさが、そこにはあった。


 


「ここで一つ、“集中の儀式”をやってもらう」


ハクロウの声が背後から響いた。


「肉体を冷やし、感覚を研ぎ澄ませる。その上で、意識を極限まで内に沈める。

 それが“流れ”を知る第一歩だ」


「はい……」


アオイは服を脱ぎ、静かに泉へ足を踏み入れる。

冷たさが足先から身体へと這い上がるたび、筋肉が震える。


だが、それは“拒絶”ではなかった。

逆に、自分がどれほど身体を甘やかしてきたかを痛感させる刺激だった。


 


「冷たさに負けるな。呼吸を整えろ」


シンゲンが言う。


「……表面の感覚に囚われるな。心の底で、流れを捉えろ」


 


アオイは目を閉じる。

その瞬間、風の音すら遠ざかり、ただ心音と呼吸だけが残った。


──息を吸う。

──ゆっくりと、深く吐く。

──吸って、吐く。


胸が苦しくなってくる。

寒さが芯に食い込んでくる。


だがその中で、アオイの意識は深く沈んでいった。


やがて彼の中で、風が“音”ではなく“感触”として流れ出す。

それは、自分の身体を通る“流れ”と呼応するように、一定のリズムを描いていた。


 


「……見えてきたか?」


ハクロウの声が、どこか遠くから響いたように感じた。


アオイは、ただうなずいた。


 


その瞬間、冷気の中に確かな“芯”が生まれた。

それは揺らがない、“立ち姿”の始まりだった。


泉から上がったアオイの身体は震えていたが、その目には迷いがなかった。


その瞳には、たった今まで感じていた“風の流れ”がまだ残っていた。


 


「悪くねぇ。よく耐えたな」


ハクロウが手ぬぐいを放って寄こす。


「だが、ここからが本番だ。“冷気”で浮かんだ感覚を、身体に刻みつけなきゃ意味がねぇ」


 


アオイは濡れた髪を払いながら、深くうなずいた。


着替えを終えると、シンゲンが岩の上に腰を下ろし、静かに言った。


 


「“立ち”に入るぞ。次は、“型の構え”の基礎中の基礎だ」


「構え……」


「型の始まりは“静”だ。だが、それは“動きの停止”じゃない」


 


ハクロウが地面に足を開いて立つ。


その姿は、まるで風の中で微動だにしない一本の木のようだった。


「見てろ、アオイ。これは“ただの立ち方”じゃねぇ」


彼はゆっくりと重心を移動させながら、片足を引き、両手を自然に構えた。


「地に根を張りながらも、風に応じて揺れる。力を抜きすぎてもダメ。入れすぎてもダメ」


 


アオイはその姿を見て、思わず息を飲んだ。


構えただけなのに、周囲の空気が一瞬、変わった気がした。


 


「これが“型の構え”……」


「試しに、俺を押してみろ」


「え?」


「押してみろってんだよ」


 


戸惑いながらも、アオイはそっと手を伸ばし、ハクロウの肩に力を込めて押した。


──びくともしない。


見た目には自然体なのに、まるで地面ごと一体化しているかのような重さだった。


 


「……っ、な、なんで……!?」


「“芯”が通ってるからだよ。力じゃない。“立ち方”が違うだけで、ここまで変わる」


 


「やってみろ、アオイ」


シンゲンが促す。


「今のお前なら、“感覚”はあるはずだ。冷気の中で見つけた“軸”を、忘れるな」


 


アオイは深呼吸し、地に足を開いた。

泉の冷たさを思い出す。あの時、確かに身体の中心に風が通った。


その感覚を頼りに、ゆっくりと構えを取っていく。


 


「……どうだ?」


「悪くない」


ハクロウが唸る。


「まだ甘ぇが、“芯”は入ってる」


 


アオイは内側から、風と地面がひとつに繋がるような感覚を覚えていた。


手の指先まで、すべてが“中心”から動いている──


 


「……これが、“静”の型……」


アオイは呟いた。


 


「ようやく入口に立ったな」


シンゲンがゆっくり立ち上がる。


「今の“立ち”を軸にして、いよいよ“動き”へと繋げていく」


「だがその前に──一度、心を落とせ。次の段階では、お前の“恐れ”が試される」


 


アオイの顔が引き締まる。


その言葉の裏にある何かを、彼の身体が直感していた。


 


そして、静けさの中に──ほんの僅かに、空気の“異質”が混ざった。


風が揺れた。


“何か”が、近づいていた。


──風の流れが、急に変わった。


空気がざらつく。

泉の水面が、小さく波打つ。


アオイが反射的に顔を上げたその瞬間、谷の上の岩陰から、黒い影が滑り落ちてきた。


「っ──!」


反応するより早く、大地が揺れる。


それは獣だった。

巨大な四足の体躯に、甲殻のような鱗をまとい、赤黒い眼がアオイをまっすぐに睨んでいる。


「“魔獣”……!?」


シンゲンが声をあげた。

だが動こうとはしない。ハクロウも、制止するように片手を上げる。


「アオイ──戦え。“恐れ”に、芯を折らせるな」


「な……!」


アオイは泉の前に立ち、咄嗟に構えを取った。


さっき教わったばかりの“立ち”。

体の芯を貫くように意識を沈め、呼吸を整える。


(逃げるな──)


魔獣が吠え、飛びかかってきた。


アオイは踏みとどまり、真正面から受け止める。


が──


「──っぐあッ!」


鋭い衝撃が胸元を打ち抜いた。

魔獣の体重は重く、単純な踏み込みでは到底受けきれない。


だがアオイは崩れず、後ろへ飛ばされる寸前、重心を落として地を掴む。


「まだ……終わってない!」


動きながら、あの泉の冷たさを思い出す。

芯を通す。流れに乗る。無理に抗わず、受け流す。


一撃。

魔獣の爪が飛ぶ。アオイは寸前で回避し、風のように横へ跳ねた。


「──よし、“立ち”が崩れてない!」


シンゲンが低く唸る。


「力任せじゃねぇ、“型”で受けてるぞ」


アオイの目に、恐れは残っていた。

けれど、その恐れを抱えたまま、彼は“向き合って”いた。


その姿に、ハクロウがゆっくりと腕を組む。


「ようやく、芯で立てるようになったか」


 


──そして、場面は変わる。


 


そのころ、別の修行地では──


「──はぁっ!」


ユナの声が、谷の上でこだました。


風を読むように、彼女の足が草原を駆け、回復魔法の陣が光を放つ。


「……タイミングは悪くないが、詠唱が甘い」


ガルドが背後で呟く。

その手には、丸太を削った盾と剣。


「“助ける”だけじゃ、仲間は守れない。お前が攻めに転じる覚悟を持たないと」


「……うん、わかってる」


ユナはうつむきかけたが、すぐに顔を上げた。


「私も──ちゃんと、進まなきゃ。アオイだけに、頑張らせない」


 


一方、風の斜面では──


「はっ、はっ、はあ……!」


ミレイが、走っていた。


体力よりも、判断力と集中力を鍛えるための修行。

目隠しで風を感じながら、足場の悪い坂を全力で駆け上がる。


「まだ甘い!」


レオンの声が飛ぶ。


「風を読むだけじゃ足りねぇ!お前自身が“風になれ”!」


「うるさい!やってるわよ!!」


叫びながらも、ミレイの足は止まらなかった。


 


──それぞれの場で、試されているのは“恐れ”だった。


支える力。

仲間を信じる力。

そして──“自分”を信じる力。


すべての修行は、ひとつに繋がっていた。


 


風がまた、静かに揺れ始める。


次の試練の予兆を含んで──


アオイの呼吸が、浅くなっていく。


──一撃、一撃が、重い。


魔獣は力でねじ伏せようとはしない。

試すように、的確にアオイの動きを崩しにかかっていた。


(わかってる……こいつ、“ただの獣”じゃない)


背中を裂くような痛み。転がった地面に血が滲む。


シンゲンが動こうとしたそのとき──


「動くな、シンゲン」


ハクロウの声が制した。


「これは、あいつの“恐れ”との戦いだ」


「でも……」


「負けそうな顔してない。むしろ──限界を超える顔してる」


 


その言葉通りだった。


アオイは立ち上がる。膝は震えていた。

視界は揺れていた。


けれど、構えは崩れていなかった。


(怖い……)


その感情は、消えていなかった。


(でも、それだけじゃない……)


呼吸を深く、さらに深く。


身体の奥に沈む意識。その中心に、“冷気の泉”で感じたあの感覚があった。


──風が、流れる。


身体の内側を、芯をなぞるように。

それは、熱でも冷気でもない。けれど確かにそこにある、“何か”。


「……っ!」


アオイの目が、微かに光を帯びる。


一瞬、彼の周囲の空気が静止した。


そして──


「はああぁぁっ!!」


渾身の踏み込み。

地を蹴ったアオイは、魔獣の攻撃の隙間に滑り込み、掌底を打ち込んだ。


ズン、と音がした。

魔獣の巨体が揺れ、後ずさる。


「……効いた!?」


アオイ自身も驚いていた。


それは“力”の一撃ではなかった。

彼の“芯”を通して、風の流れが、拳と一体となった瞬間だった。


ハクロウが目を細める。


「今のが──“青の気配”か……」


「おいおい、早すぎだろ……」


シンゲンがぽつりと呟く。


だが、アオイはその一撃に満足する暇もなかった。


魔獣が怒りとともに吠える。牙を剥き、突進してくる。


 


──そのころ。


草原の高台、ユナは小さな石を両手に持っていた。


「これを、“相手”だと思って投げてみろ」


ガルドが教えたのは、攻撃魔法の初歩だった。


「治すだけが癒しじゃねえ。戦うことで、仲間を守る力だってある」


ユナは小さく頷くと、石を高く掲げ──


「……行くよ!」


風の流れに合わせて、放った。


その軌道は、静かに、けれどまっすぐに前を射抜いた。


「いい目をしてるじゃねぇか」


ガルドがぽつりと呟いた。


 


斜面では、ミレイがついに目隠しを外した。


「もういいでしょ……ねえ、レオン?」


「いや、まだだ。最後にひとつ、やることがある」


そう言って、彼はミレイに小さな木の板を渡す。


「風を読むだけじゃダメだ。“感じて、導け”。お前なら──できる」


「……あんたに言われると、悔しいけど信じちゃうのがムカつくわね」


笑いながら、ミレイは再び駆けだした。


 


──戦いの場。


アオイの身体が限界を迎えかけたときだった。


魔獣の突進が、直撃する。


地面に激しく叩きつけられ、アオイは呻いた。


けれど、そのとき──


「まだ……!」


立ち上がる足に、芯が宿っていた。


「負けない……俺は、“恐れ”から目を逸らさない!!」


叫びとともに、再び構えを取る。


その姿に、魔獣が一瞬たじろいだ。


(もう少し……)


何かが、目覚めようとしていた。


ハクロウとシンゲンの視線が交差する。


「仕上げ時だな」


「だな──“恐れ”の先へ、導いてやるか」


 


──風が、またひとつ、流れを変え始めた。


アオイに刻まれる、新たな“型”の輪郭が、そこに浮かび上がっていく。


魔獣の唸り声が、谷に響いた。


アオイは両足をしっかりと地に根ざし、深く息を吸った。

寒さも痛みもあったが、それらすべてが自分の“輪郭”を浮かび上がらせるものに変わっていた。


(感じろ……流れを……)


──吸って、吐く。

──芯を中心に、意識を沈める。


冷気の中で見つけたあの“静”が、再び心に灯る。


魔獣が咆哮と共に突進してくる。

しかし、アオイは動かなかった。


構えのまま、ただ“待った”。


(風が……流れる)


魔獣の脚の動き。わずかな踏み込みの癖。肩の軌道。


全てが“前兆”として、風に伝わってくる。


(今だ──!)


一瞬だけ軸をずらし、相手の力を“流す”ように受け流す。


その隙に、身体を回転させるように動かし、肘打ちを叩き込んだ。


ズドン、と重い音が響いた。


巨体がよろめき、アオイの手が、まるで風を通した刃のように振るわれた。


「はあぁっ!!」


最後の一撃。


魔獣が崩れ落ちる。動かない。


 


沈黙が訪れる。


アオイの呼吸は荒く、肩で風を切っていた。

けれど──その瞳は、静かに澄んでいた。


「……やった……!」


そう呟いた瞬間、膝が崩れた。

がくりと地面に膝をつく。


その体を、ハクロウが支えた。


「ようやったな。よく、“恐れ”を超えた」


その声には、どこか誇らしさが混じっていた。


シンゲンも笑っていた。


「本当に、芯が通り始めてる。まさかあそこまで“流れ”を捉えるとはな」


アオイは、うつむいたまま、静かに答えた。


「……怖かった。でも……“感じられた”んです。動きの前に、風が流れて……」


「それを感じ取る“身体”ができてきたってことだ」


ハクロウはうなずくと、そっと背を叩いた。


「でもな。今のお前じゃ、もっと強い奴には勝てねぇぞ」


「……はい。わかってます」


「だから、次の段階だ。“型”の意味が、ようやく教えられる」


 


そのとき──


谷の上から、小さな光が瞬いた。


「あれは……」


ユナだった。


遠くから、彼女がこちらを見下ろしていた。


その隣には、ミレイとレオン、そしてガルドの姿も。


──仲間も、また進んでいる。


アオイは静かに、彼らに頭を下げた。


胸の奥に、力が満ちていく。


(俺も……もっと強くなる。みんなと肩を並べて……いや、守れるくらいに──)


 


風が、アオイの周囲を優しく撫でた。


その流れは、もうただの風ではなかった。

アオイ自身の“芯”と共鳴する、“意思”を持った流れだった。


 


──次なる試練の始まりを告げるかのように。


アオイは息を吐き、静かに目を開いた。


 


冷気の泉での“集中の儀式”と“静の型”の修練を終え、彼の身体はまだ微かに震えていたが、芯は確かに定まっていた。


今ならわかる──地に足をつけるとはどういうことか。

自分の中に流れる“風”と、周囲の空気が呼応する感覚が、確かにあった。


 


「おい、少しは顔つきがマシになったな」


振り返ると、シンゲンが腕を組んで笑っていた。


「だが修行はまだ続く。身体に刻み込んだ感覚を、仲間と交わす中で確かなものにしろ」


 


アオイはうなずき、風の門の方向へと足を向ける。

仲間たちもまた、どこかで同じように修行に挑んでいる──その姿が、ふと見たくなったのだ。


 



 


最初に見つけたのは、ミレイだった。


木立の間で、風を巻くような動きとともに、彼女の髪が弧を描いた。


「──《風脚》!」


鋭く放たれた蹴りが、空を裂くように疾走する。

その先の木の葉が、一瞬で舞い上がった。


 


「すごい……。こんなに速かったっけ?」


呟いたアオイに、ミレイが振り返る。


「気づいた? “風の道筋”がわかるようになると、動きも自然と滑らかになるのよ」


彼女は汗をぬぐいながら笑う。


「ここに来てから、風を“蹴る”って感覚がちょっとわかってきた気がするんだ」


 


彼女の動きは、まるで風と遊ぶようだった。


 



 


次に訪れたのは、レオンの修行場だった。


岩場の高台で、彼は黙々と拳を振るい続けていた。

その拳には布が巻かれ、血が滲んでいる。


 


「……またやってる。無茶ばっかしやがって……」


アオイが呟いたのを聞きつけたのか、レオンは手を止めてこちらを見た。


「よぉ、アオイ。お前、ずいぶん“良い顔”になったな」


「そっちこそ、また手ぇボロボロじゃんか」


 


「鍛えるなら徹底的にな。ここの岩、まるで生きてるみたいに跳ね返してくる。……だけど、たまんねぇぜ。この感じ」


彼は拳を握り締め、にやりと笑った。


 



 


そして最後に──ユナ。


風の門近くの開けた草地で、彼女は静かに両手を組み、祈るように立っていた。


その周囲には淡い光が灯り、まるで風と光が調和しているようだった。


 


「……これは?」


「“精霊との調和”よ」


アオイの背後から、ユナの声が届いた。


 


「回復魔法ってね、ただの技術じゃないの。自然との“共鳴”がないと、本当の癒しにはならないの」


彼女はそっと手をかざし、草の上の小さな花を癒すように触れた。


すると、しおれていた花が、柔らかく起き上がる。


 


「心が乱れてると、光も揺れちゃう。だから……修行って、戦うだけじゃないんだよね」


彼女の言葉に、アオイは静かにうなずいた。



 


その帰り道、ふと鼻をくすぐる香りに足が止まった。

風の門の岩陰で、何やら焚き火の煙が立ちのぼっている。


 


「……この香ばしい匂い……まさか」


 


覗き込むと、そこには鍋を火にかけながら、黙々と包丁を動かすガルドの姿があった。


「……朝飯?」


 


問いかけると、ガルドはちらりとこちらを見ただけで、無言のままうなずいた。


その手は止まらない。野草と芋を刻む音が、妙にリズミカルだ。


 


「相変わらず手際いいな。っていうか、これも“修行”なの?」


 


ガルドは少しだけ口の端を上げたような気がした。


 


「……“整える”ってのは、戦うことだけじゃねぇからな」


「……なるほど」


 


「料理も、火加減、切り方、味のバランス──全部、“流れ”だ。乱れてたら美味くならねぇ」


 


彼は火を見つめながら、ぽつりと呟く。


「だから俺は、こうして整える。……自分の中の乱れも、仲間の体調も。全部、飯に映る」


 


静かだけど、芯の通った言葉だった。


アオイは、しばらくその光景を見ていた。


火と、包丁の音と、ガルドの背中。


それは“戦士の修行”とは違うが、確かに“道”を感じさせるものだった。


 


「……すごいよ、みんな」


思わずアオイは呟いた。


──誰もが、戦いとは違う形で、自分を鍛えている。

それが、どれだけ尊いことか。


 


その瞬間、また風が揺れた。


冷気の中で感じた、“異質な気配”──それが、じわりと近づいてきていた。


アオイの胸に、微かな緊張が走る。


次に待ち受けるのは、ただの修行ではない。


本当の“試練”が、迫っていた。


ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます!


今回はアオイが「静の型」を体得していく中で、“恐れ”と向き合う一話でした。

魔獣との戦いは派手なアクションではなく、どれだけ自分の芯を保てるか──という“内面の戦い”として描いています。


そして物語後半では、仲間たちもまた、それぞれの場所で自分自身と向き合い始めました。

風、祈り、料理──やっていることは違っても、みんなが“整える”という一点に向かっているのが見どころです。


アオイの「芯」に、ほんの少し“青の気配”が宿りはじめた今、次回はいよいよ“型の本質”に迫っていきます。

ここから、修行編の核心に触れていくので、ぜひ続きもお楽しみに!


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