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寡黙の外連に魅せられて  作者: 小娘
霧中の剣
22/41

変奏

 外に出ると、もう日は暮れかかっており、温い風が吹いていた。霧が少し濃くなったようである。歩いて城を目指しながら、アストリッドは何となく気詰まりを感じさせる連れを横目で観察した。


「……そうだ、ティーナは元気?」


ちょうど良い話題であった。この男も、こちらのことは王女の友人くらいにしか認識していまい。


「はい、息災であられます」


ラウルはこちらをちらりと見やってから、生真面目に答えた。それによって会話はいとも容易く途切れてしまった。アストリッドは同じ質問をアルヴァにも尋ねようと心に決めた。


黙って歩き続けていると、城が見えてきた。見張りの騎士が二人、城の前に立っており、彼らは揃って目の前を横切る人影を眺めていた。もう数歩進んだところで、ラウルがあっと声を上げた。彼は何か言いかけてから声を押し止め、足早にその人物に近づいていった。歩調を変えずにそちらに向かいながら、アストリッドは目を凝らし、その正体に気付いて思わず笑みを浮かべた。騎士に睨まれながら右往左往しているのは、アルヴァその人だった。


「陛下、こんなところで何をしていらっしゃるのです?」


ラウルが声を低くして尋ねているのが聞こえた。アルヴァは側近の言うことを耳にも通さず、にこやかにアストリッドを迎えた。


「やあ、来たね。君と話がしたかったんだ」


「どうも、御機嫌麗しゅうございます、陛下。で、外で何してんの?」


「見ての通り、城の騎士たちは厳しくてね。町のほうはそうでもなかったと思うんだけど。とにかく、君が中に入れてもらえなかったら困るじゃない?それに、あの中は息が詰まるんだ」


アルヴァは例の騎士たちを大袈裟な身振りで示しながら、何か愉快なことでも言ったかのように、声を上げて笑った。


「私なら忍び込めるけどね。まあ良いや、話って?」


「君個人に頼みがあるのさ。何せ、君はティーナの無二の親友だからね。……歩きながら話そうか?」


彼は早速歩き出した。ついていこうとするラウルには、目もくれずに待機の合図を出す。アストリッドは不憫な側近に目をやり、案ずるなというつもりで頷きかけた。その意味が伝わったかどうかは不明である。彼女はアルヴァに並んで歩き始めた。


「ティーナは元気にしてる?最近会いに行ってなかったんだけど」


調子の良し悪しも知らない相手を親友と認めるのも妙な話だ。だが、この計り知れない男は、あくまで概念としてその言葉を使っているに過ぎないのだろう。


「もちろん、至って健康だ。毒の後遺症もないよ。妹は行いが良いんだ、俺と違ってね」


「知ってるよ。……っと、その、後遺症がないことはって意味だけど」


アストリッドは慌てて付け加えた。怒りっぽい性質ではないとはいえ、一国の王を煽るわけにもいかないだろう。いや、それはさておいても、アルヴァには善悪という基準がどうもそぐわない。彼は結局、そのどちらかをなすために動いているわけではないのだ。だから、やることなすことが良くもあり悪くもあり、または良くも悪くもないのである。そして、そのことを彼は自覚している。だからだろうか、彼が声を立てずに笑っているのは?


「そうか、君はあれから何度か彼女に会っているものね。変わらず元気だよ、妹は。頼みっていうのは、まさに彼女に関わることなんだ。今度、ティーナがここに来ることになっていてね。君には、しばらくの間彼女の側近のような役割を果たしてほしいんだよ。どうかな?」


「お金がもらえるなら何でも良いよ。ティーナに何をさせる気?外交官にでもするの?」


「……まあ、じきにわかるさ。君たちは落ち着くまでこっちにいないとならないかもしれないけれど」


真意をそう簡単に明かさないところが実に彼らしい。やはり、一騒ぎ起こすつもりなのかもしれない。とはいえ、今考えても仕方のないことである。アストリッドは無関心を装った。


「ふーん。キテスにはいつまでいるつもり?」


「もう数日だろう。俺にも体裁というものがあるから。まったく、肩が凝るよ」


アルヴァは芝居がかった仕草で肩を回した。アストリッドが短く笑うと、彼は微笑み返し、おもむろに足を止めた。


「さて……君に頼みたかったのはそれだけなんだ。そろそろ戻ろう」


と、来た道を右手で示す。その顔つきには得体の知れない一物を腹に抱えていることを仄めかしていたが、アストリッドは気にしないことにした。彼とて、毎度のように腹の内を探られるのも良い気はしないだろう。彼女が踵を返して歩き始めたところで、アルヴァはそうだ、と声を上げた。


「アストリッド、もう一つだけ。君に覚えておいてほしいことがあるんだった」


「なるべく簡単なことにしてよね」


「簡単だとも。君がティーナの友人だということを、忘れないでほしいのさ。妹が迷うことがあれば、どうか助けになってやってくれ。君なら正しく彼女を導けると、俺は信じているから」


言葉の終わりには、彼の顔つきは翳りを帯びていた。霧が月明かりを鈍くしているようだ。湿った風が二人の間を駆け抜けた。


アストリッドは彼の言う”正しさ”について尋ねたかった。歯車になってやるくらい造作もないことだが、噛み合わなければ意味がない。ただ、レカンキチでの一件のときと同じように、知らないままでいることこそが最適解なのだと理解している自分もいた。自らの意思で歩む必要も、歩みを止める必要もないのだと。かつ、結局、歯車は回ることになるのだと。これも教育の賜物か!しかし、やはり、いつからか芽生えた妙な意識が、身を委ねてしまうことを拒むような……


「心配しないで。上手くやるよ」


アストリッドは黙り込んでしまっていたことに気付いて咄嗟に答えた。アルヴァは薄い笑いを浮かべた。


「君がそう言うなら大丈夫だろう。……あ、それから、君のところの団長に伝えてくれないか?君たちの任務は、キテスの騎士たちをよく観察しておくことだとね。俺の悪い癖だよ、先ほどはつい答えを濁してしまって」


「わかった、伝えとく」


「良し。それじゃあ、ここからは俺一人で問題ないから。清々しい風が吹いていることだし、のんびり歩いて戻ることにするよ。おやすみ、アストリッド。良い夜を過ごしてくれ」


「そちらこそ」


アストリッドは纏わりつくような風に引かれるようにしてアルヴァから離れた。少し歩いてから振り返ったが、もう彼の姿は見えなかった。走って帰りでもしたのかと思わずにはいられなかった。霧の中、暑くも寒くもない外気のせいか、どうしても憂鬱な夜だった。


「ティーナには似合いそうもないな……」


その呟きさえ、夜に搔き消されるようであった。



 団の元に戻ったアストリッドは早速国王の言伝をマンフレッドに報告し、その指示は即座に団員たちに知らされた。細かい指示は明朝に出すと言った団長だったが、翌朝目を覚ました三人が見つけた書き付けには、詳細は何も書かれていなかった。


≪今朝方届いた陛下からの御命令により、一時レカンキチに帰還する。諸君らも昨日話した通り、任務の遂行に務めるように≫


とまあ、味気ない文字列が並んでいたのである。キャットはその紙きれをがさつに放り出した。


「差出人の名前がないということは、ぜひともこの指示を仰いだほうが良いということね。きっと金払いもしっかりしてるわ」


「かもね。字も端正だし」


アストリッドは遠目から見れば完全にみみずであるマンフレッドの癖字を見下ろして言った。ハーレイが大きく欠伸をする。


「団長がいないなら、もう少し寝ようよ……騎士だって、朝は眠くて冴えないよ、きっと」


朝と言っても、もう間もなく昼に差し掛かるのだが。


「賛成ね。空気からしてやりきれないわ」


と、キャットが早速寝台に寝そべる。余談だが、団員たちがこの部屋にあるようにしっかりした寝台を使うのは久方ぶりのことであった。あまりに慣れていないせいで寝づらさすら覚えたのは、お互い口にせずともわかっていることである。


さて、団員たちはずるずると眠りの沼に引きずり込まれていった。が、しばらくして、熟睡を阻止しようとするかのように、何かがやかましく窓を叩く音が聞こえた。誰かが外から三人を呼び出そうとしているのだと考えたいところだが、ここは三階だった。そもそも、扉から訪ねてこない理由もわからない。彼らは寝ぼけた顔で起き上がり、互いに目を見合わせた。


「雨だよ、多分」


ハーレイは言い、また毛布の中に包まってしまった。アストリッドは呆れながら彼を見やった。


「雨がこんなに力強い音を出すわけないじゃん」


「わかんないわよ。夢かもしれないし」


キャットもまた後ろ向きに倒れ込んで目を閉じた。まったく、彼らの気ままのことと言ったら!アストリッドはいまだ音の絶えない窓に一歩近づいた。帳を引いたままだったので、外は見えない。しかし、こうして来訪を知らせてくれている以上、少なくとも悪意のない人物であるのは確かだ。それか、罪のない罠か。


彼女はさっと帳を開き、目に飛び込んできたものに唖然とした。逆さにぶら下がった青年……彼は、にこやかに手を振ってきた。


「……あのー、ちょっと、二人とも?」


アストリッドは仲間たちに声をかけると、とりあえず窓を開けて青年を招き入れた。雨で全身を濡らした彼は軽やかに部屋に入ってきた。


「やっと出てくれたね。どうも、お久しぶり」


と、馬鹿らしさのある辞儀を披露する。アストリッドは起き上がった二人に目配せをした。彼らが返してきた合図は、三人が同じことを考えていることを示していた。


「……何だっけ、あんた?」


「酷いなあ。こっちは約束を守ったっていうのに。フェリクスだよ、フェリクス」


レカンキチでの国王追放事件に一役買ったごろつき集団、”ネコ”の自称特攻隊長ではないか。マギーに敗北した彼は、団の宿敵であるグウェンドリンと、彼女が関わっているという”カラス”という賊についての調査を、半ば強制的に―彼自身が半ば面白がっていた部分もあったが―引き受けさせられたのである。


「ああ、そんな名前だったね。いや、顔は覚えてたんだけど」


アストリッドは言い訳がましく言った。フェリクスは不満げに―そうでもないだろうか―下唇を突き出した。


「僕だってそうさ。名前がわからないのに、頑張って君たちを探し出したんだよ」


「わからないほうが仲良くなれると思うわ。私はキャット」


キャットは寝台の上から動かずに手を差し伸べ、握手をするときのような動作をして挨拶代わりにした。ハーレイのほうは興味津々といったところで、マヨの横に足を下ろして微笑んだ。


「俺、ハーレイだよ。こっちは相棒のマヨ」


「猫は好きじゃないんだけど。で、君は?」


フェリクスは虎をまじまじと眺めていた目を上げた。アストリッドは口の片端をぐっと持ち上げた。


「アストリッド。私たちに会いに来たってことは、何か進展があったの?」


「もちろん。それで君たちの天幕に行ったら、知らないおじさんと子どもしかいなかったもんだから、まあびっくりしたよ。間違えて隣の天幕に入っちゃったのかと思った」


そんなものはない。


「じゃあ、どうやってここまで来たの?」


ハーレイが無邪気に尋ねた。さして重要ではないことこそ、彼の人生を彩るのである。フェリクスはよくぞ聞いてくれたと言わんばかりに眉を上げた。


「そのおじさんに、ネコのフェリクスだって自己紹介したんだ。それで、ここの三人組はって聞いただけ。宿を特定するのに手間取ったけど、無事辿り着けて良かったよ」


「これからどれだけ面白い話をする気かわからないけど、早いところ本題に入ったらどうかしらね」


と、キャットは両腕を前にして思い切り伸びをした。


「期待して良いよ、キティ。君たちに頼まれたカラスの調査だけど、なかなか興味深かった。まず、彼らがラカオにそれはそれは丈夫な根を張ってるってこと。前世信仰の団体……エリスっていったかな、その皮を被った、影の支配者って感じだった」


マグノリオ団の天幕で修道士たちに並んで座っていたグウェンドリンの姿が思い出された。一見すると無害な団体……そのうちの全員が、鋭い刃を隠し持っているというわけである。ハーレイが身を乗り出した。


「前世信仰って?」


「そのまんまの意味だよ。大抵の人間は来世がより良いことを祈るけど、あいつらの唱える教義は違う。人が前世で辿った運命は今生をかけて繰り返され、それがまた来世で繰り返されるんだってさ。だから、下手に抗っても仕方ないけど、少しずつ善行を積んで素敵な来世にしましょうねって。ま、主張の大部分は、前世が確かに存在するってことみたいだね」


「だったら何だって言うのかしらね。目に見えないものなんて、ないのと同じじゃないの」


キャットは冗談めかして肩をすくめたが、フェリクスは大真面目に頷いた。


「心臓と一緒でね。それはさておき、あのグウェンドリンって女。あれはとんでもない曲者らしい」


「そりゃ、片腕が刃になってるし」


アストリッドはぼそりと口を挟んだ。フェリクスは軽く自身の額を叩く。


「おっと、それは知らなかった。情報を追加しておかないと。で、彼女、カラスの幹部ってことになってるけど、多分あれが親玉だよ。かなり綿密に偽装してるらしい。大司教って呼ばれてる仮の頭領を立てて、そいつにあの女があれこれ命令してるのもわかってる。カラスのうち、一番優秀なのは彼女の手勢で、兄さんが気付かないうちにネコのことを嗅ぎ回られてたらしいし。しかも、これがとんでもないんだけど、片腕が刃になってる」


「へえ、よく調べたね!」


と、ハーレイはやけに目を輝かせて言った。マギーの臨時諜報員は得意満面である。


「猫っていうのは賢い生き物だから、これくらいお手のものだよ。ただ、最後のは骨が折れた」


「あの実力なら、あいつが頭領でも不思議じゃないわね。だけど、わざわざ誤魔化す理由は何かしら?ただでさえ、裏でこそこそしてるつもりなんでしょ?」


キャットはいつになく真剣な調子で言った。軽口に乗っからない辺りからして、あのときグウェンドリンに出し抜かれたのがいまだに悔しいらしい。


「さあね。カラスが一枚岩じゃないのか、警戒すべき敵がいるのか……少なくとも、彼女の目的がレカンキチとネコの結託を阻止することだったのは間違いないよ」


「どういう意味?あれの後も関係を続けてるわけ?」


アストリッドは眉をひそめた。あれ以来、ネコらしき姿をターバの町で見かけたことはないし、そもそもこのフェリクスがとんでもない裏切り方をしたのだ。とても関係が続いているとは思えなかった。青年は首を振った。


「いや。おじゃんになったよ、僕が死ななかったからね。っていうのは、事件のどさくさに紛れて僕を始末することを条件に、兄さんがアルヴァサマに協力を約束したって話なんだけど。何か、僕って優秀だからさ、兄さんには目の上の瘤っての?知ったこっちゃないんだけど。とにかく僕の始末ができなかったんで、兄さんってば怒り狂っちゃってさ。で、もう協力なんかしない、ってレカンキチを突っぱねてきたらしいよ」


気にも留めていないような顔をしてフェリクスは言った。が、その言い草はどことなく早口で、口にするのも嫌なのだと暗に示しているようであった。キャットは考えるときの癖で唇を噛んだ。


「その人、随分な努力家なのね。だけど、つまるところ、私たちがお兄さんの計画を見事に邪魔したってことよね?」


「そうだね。おかげで僕は助かったわけだけど……あ、どうもありがとう。でも、レカンキチには痛手だったんじゃないかな。何かでかいことを企んでたならなおさらだ。ネコって案外大きい勢力だから」


「俺たち、あのときはグウェンドリンの言葉を逆手に取ろうとしたんだもんね。失敗したかなあ」


ハーレイのぼやきに、フェリクスはぱっと顔を輝かせた。


「まだ巻き返せるよ、君たち次第だけど」


「どうやって?頭でも下げたら、ネコがレカンキチについてくれるっての?」


「いや、マギーに頭を増やせば良いんだ。僕っていう頭をさ」


「いらないと思うよ」


ハーレイが悪意のない様子で言った。フェリクスも、これにはいささか気を悪くしたようである。


「いるよ。だって、兄さんとしては僕がいなくなれば満足なんだし。いなくなってやるから、レカンキチに協力しろって言ってあげる。その代わり、マギーを僕の居場所にさせてよ。別に良いでしょ、僕は優秀だし」


「良いわけないじゃないの。どうして私たちが敵だったおちびさんを信用しなきゃいけないのよ?」


キャットは小馬鹿にするような笑みを浮かべた。フェリクスは怪訝そうに首を傾げる。


「誰のこと?僕はもう十七だよ」


「奇遇だね、俺もずっとそうなんだ」


などと言いながら、ハーレイはまるで関係ないかのようににこにこと笑っている。アストリッドは呆れた目線を彼に投げながら、なるべく厳しく見えるような顔を作ってみた。鏡がないので、上手くできているかはわからないが。


「何でも良いけど、私たち、別にレカンキチがネコと協力しようがしまいが知ったこっちゃないんだよ。だから、あんたが兄さんを説得する必要もないし、マギーに椅子を見つけることもないの。わかった?」


「でも、あの女はおっかないよ。レカンキチをどうする気かわかんないでしょ。ねえ、良いじゃんか。僕もマギーに入れてったら」


フェリクスは根気強く食い下がる。三人は目を見合わせた。厄介だ。そもそも、マンフレッドがいないというのに、マギーに関して勝手な判断をするわけにもいかない。彼らは考えを巡らせ、そしてある一つの結論に行き着いた。こういうのは、見なかったふりをするのが一番だ。


「任務に行かなきゃね」


キャットは言い、つと立ち上がって伸びをした。ハーレイものそのそと動き出し、マヨの背中を叩いて出発の合図を出した。アストリッドはさっさと部屋の戸口に向かい、扉を開けてフェリクスのほうを振り返った。彼は何やら心穏やかな様子で微笑んでいる。


「じゃ、またね、マギー」


彼はあっさりと言うと、来たときと同じように窓から撤退していった。一同が任務に行くと言い出したから諦めたのだとは思えないが、ともあれ、話は終わったようだ。三人は連れ立って宿を出た。すぐ外に、不格好さの目立つ騎士が突っ立っている。そのまま通り過ぎようか迷った末、アストリッドはその人物に声をかけた。


「……あんた、そこで何してんの?」


騎士もといフェリクスは剣を抜いて適当に振り回した。目の前を掠める剣先を、三人は身じろぎもせずに眺めた。


「やあ、マギー。また会ったね。キテスの道案内がいるかと思って」


「いらないと思うよ」


ハーレイが親切に言うのに、フェリクスは機嫌を損ねることなく笑った。


「役に立てそうで嬉しいよ。僕、ここの生まれってことにしてるんだ。来たのは初めてなんだけど」


「良い国よね、昔を思い出すもの」


そう言うキャットは、生まれも育ちも路地裏である。嫌味と知ってか知らずか、フェリクスは満足げに頷き、仰々しく両手を広げた。


「すごく良い国だよ。猜疑心で固めた、剣も刺さらないほど強固な地盤を持ってる。改めて、ようこそキテスへ、マギー。赤の他人を代表して、歓迎するよ」



……キテス王国。冷徹なる剣を腰に携え、憎悪の炎を胸に滾らせる騎士たちよ。解け合うことを弱さと、熱き血を涙とすることを強さと信ずる騎士たちよ。

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