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黒猫ツバキと魔女コンデッサ

黒猫ツバキ、陰陽道を操る高校生魔女によって人間になる

作者: 東郷しのぶ

登場キャラ紹介

・コンデッサ……ボロノナーレ王国に住む、有能な魔女。20代。赤い髪で緑の瞳の美人さん。

・ツバキ……コンデッサの使い魔。言葉を話せる、メスの黒猫。瞳は琥珀色。まだ成猫ではない。ツッコミが鋭い。 


・チリーナ……伯爵令嬢にして魔女高等学校2年生。コンデッサの元教え子。青い髪をツインテールにしている。コンデッサのことを「お姉様」、ツバキのことを「駄猫」と呼ぶ。コンデッサを過剰に慕っている。


※設定の豆知識……コンデッサたちが暮らしている世界は、現代より数億年ほど経ったあとの地球です。



・挿絵は全てAI生成によるイラストであり、かぐつち・マナぱ様から頂きました。

・本作のお題は「拍手」です。


ツバキ「ニャン・ニャウ・ニャウ・ニャ・ニャイ・ニャン・ニャウ・ニャイ・ニャン(臨兵闘者皆陣列在前)!!!」

 ここは、ボロノナーレ王国の端っこにある村。……の隅っこにある、魔女コンデッサのお(うち)


 ある日のこと。

 高校生魔女のチリーナが、コンデッサのもとを訪れた。チリーナは幼少の頃にコンデッサから魔法を教えてもらい、それ以降、コンデッサを大変に慕っている。そのため、高校生になってからも、頻繁(ひんぱん)にコンデッサのところにやって来るのだ。


「チリーニャさん。今日は何の用事があって来たのかニャ?」


 コンデッサの使い魔である黒猫ツバキが、チリーナを出迎える。

 ツバキの後ろには、コンデッサの姿があった。


「あら、駄猫(だねこ)(わたくし)がお姉様に会うのに、用事など必要ありません。()いて言うなら〝お姉様の顔を見ること〟自体が、大切な私の用事です」


 そう主張するチリーナへ、コンデッサが素っ気なく言葉を返す。


「いや。用件が無いのなら帰れ、チリーナ」

「つれないですわ! お姉様。……用事なら、ちゃんとあります。実は私、偶然ですが、古代世界の魔法の本を入手しましたの」

「魔法の本?」

「ハイ。それで《解読(かいどく)魔法》を使って、本の内容を一部ですけど、読み解くことに成功しました。その成果を、お姉様に見ていただきたいのです!」


「ふむ。面白そうだな。本のタイトルは、何というんだ?」

「タイトルは『初心者大歓迎! 誰でもできる、陰陽(おんみょう)道』ですわ」

「陰陽道……。その名前は、私も少し聞いたことがある。確か、独自な体系を持つ魔術の法で、古代世界の中華や日本といった国で使用されていたとか……」


 (つぶや)く、コンデッサ。

 そんな彼女へ、チリーナが熱を込めて語る。


「私は頑張って、陰陽道の魔法のひとつを修得(しゅうとく)いたしましたの」

「おお。偉いぞ、チリーナ」

「ありがとうございます、お姉様。それは《猫を人に変える魔法》なのですわ。その効果を、ぜひとも試してみたいのです」

「猫を人に変える……か。魔法の対象は――」


 コンデッサとチリーナは、同時にツバキへ視線を向ける。

 ツバキは警戒した。


「イヤだにゃ!」

「駄猫……いえ、ツバキさん。お願いします」


「ツバキよ。チリーナに協力してやれ。お前は私の使い魔だろう? そしてチリーナは私の弟子だ。弟子の成長のためなら、苦労するのを()しまないのが、立派な〝師〟というものなのだよ」

「苦労するのは、ご主人様じゃ無くてアタシにゃん。理不尽(りふじん)にゃ」


「大丈夫ですわ、ツバキさん。少しの間、人間になってもらうだけです。ちょっとした人体実験……いえ、猫体(ねこたい)実験です」

「『実験』って、言ったにゃ! 不穏にゃ!」


「お礼として、タケノコを一年分ほどプレゼントいたしますわ」

「にゃ? タケノコ?」

「タケノコご飯は、美味しいですわよ~」

「にゅにゅにゅ……仕方ないニャン。チリーニャさんの〝オンミョ~ド~〟に、付き合ってあげるニャ」


 ツバキはタケノコの誘惑に負けた。

 タケノコ料理の魅力は絶大なので、やむを得ない。


「感謝しますわ、ツバキさん。では、この黒い首輪を着けてください」

「ニャン? どうして?」

「古代世界の日本には〝アキハバラ〟という名の聖地がありました。そこに住んでおられた〝ネコミミメイド〟なる女神が着けていた魔法のアイテム……それが、この首輪なのです」


「女神さまの首輪なのニャン?」

「その通りです。これをツバキさんが着けたら、《猫が人になる魔法》の効果が、より大きくなります」

「ニャン。でも……」

「さぁ。早く、この呪具(じゅぐ)を装着してください。ツバキさん」

「今、『呪具』って、言ったニャン! 呪具は、怖いにゃ!」


「え~と……この〝ジュグ〟は〝呪具〟では、ありませんよ。若者向けの、お洒落な品――ジュ(・・)ブナイル・()ッズ(juvenile goods)の事です」

「ジュブニャイル・グッズ?」

「略して『ジュグ』です。よく見てください。ハイセンスで、スマートで、ファッショナブルな首輪でしょう?」

「分かったニャ。黒い首輪を着けるニャン」


 ツバキはチリーナに言いくるめられてしまった。

 ツバキは子猫で、相手が高校生の魔女である以上、当然の成り行きである。


 それでも、まだ微妙に納得がいってないツバキを、コンデッサは抱き上げた。


挿絵(By みてみん)


「もう、いい加減に観念しろ。ツバキ」

「にゅ~」


 コンデッサの腕の中で、しぶしぶと受け入れ体勢になるツバキ。

 チリーナは、陰陽道の魔法を放った。


「まいります! 《猫を人に変える魔法》――リン・ピョン・トン・シャン・カン・ジン・レン・ザン・ゼン! ネコネコ・コネコネ・ニンニン~!」

「あれ? 陰陽道の《九字(くじ)の呪文》って、そんなのだったかな?」


 チリーナの変な掛け声を耳にして、コンデッサが首を傾げる。

 一方、チリーナの魔法を受けたツバキは……。


 ボワ~ン。

 白くて薄い煙が漂い、それが晴れると、中から人の姿になったツバキが現れた。


 黒髪に琥珀(こはく)色の瞳を持つ、人間の少女になっている。


挿絵(By みてみん)


「にゃん? アタシ、どうなったニョ?」

「やりました! 魔法は大成功です! ツバキさんは、完璧な人間の女の子になりました!」


 チリーナが大喜びする。

 ツバキが〝自分の姿を見たい!〟と騒ぐので、コンデッサは大きな鏡を持ってきた。


 鏡に映った己の〝人間形態(けいたい)〟を、ツバキはしげしげと眺める。


「これが、アタシなんニャ。完璧な人間にゃ。一分(いちぶ)(すき)も無いニャン」

「そうです! ツバキさんは、完全な人間になりました。陰陽道の魔法は、凄いです!」


 何故か、自慢気な様子のツバキ。

 チリーナは自らの魔法を大絶賛。


 状況に戸惑い気味なのは、コンデッサだけだった。


「え? そうか? 少女になったツバキには、大きな猫耳と尻尾がついているよな? どう考えても〝完璧・完全な人間〟とは言えないような気がするのだが…………ま、まぁ、でも見事だよ、チリーナ。たいしたもんだ」


 パチパチパチ。

 チリーナが行った《変身魔法》による結果を(たた)え、コンデッサが拍手をする。


 パチパチパチパチ……パチパチペチペチ……ペチペチペチペチ。


「ん? 私の拍手の音、おかしな響きになっていないか?」

 と、コンデッサが自分の手を見てみると。


(てのひら)に肉球が! 私の手や腕がモフモフになって、猫っぽいぞ!?」


 コンデッサは慌てて、鏡に映る自分の姿を確認する。


挿絵(By みてみん)


「わ~! 私が猫になっている!」


 パニックになる、コンデッサ。

 チリーナは別の意味でパニックになった。つまり感情が突き抜けて、(スーパー)・歓喜した。


「きゃ~! 猫のコンデッサお姉様。可愛いですわ!」


「ご主人様はアタシを胸に抱いていたから、アタシと一緒にチリーニャさんの魔法を浴びたのニャ。その効き目が、時間差で現れたに違いないニャン」


 ツバキの冷静な指摘を受けて、コンデッサは考え込む。そして反論した。


「だからって、あれは《猫が人になる魔法》だろう? 《人が猫になる魔法》では無かったはずだ」

「人が人になっても、面白くないニャン。そこはオンミョ~ド~さんが、気を()かせてくれたのニャ」

「余計な気遣いだ!」


「『弟子の成長のためなら、苦労するのを惜しまないのが、立派な〝師〟というもの』って、ご主人様は言ってたニャン」

「苦労の範囲にも、限度があるだろ!」


 言い争う、主従。

 現在〝主〟が猫で〝従〟が人になっている。主従逆転である。


 チリーナはテンションMAX(マックス)状態になりつつ、猫のコンデッサを抱きかかえた。


「このまま、お姉様を、わが家にお持ち帰りいたします!」

「こら! チリーナ!」


「チリーニャさんに、そんな事はさせないニャ! 猫になっても、ご主人様はアタシのご主人様なのニャ!」

「ツバキ……」


 コンデッサは感動した。


「お姉様。伯爵家(わがや)に来てくださったら、朝昼晩の豪華な食事を保証します。お仕事はなさらなくても構いませんし、一日中ゴロゴロ寝ていても誰も文句は言いません。気が向いたときに、私に()でさせてくだされば、それで充分です。レッツ・スローライフ!」

「う……」


 コンデッサの心は揺れた。


「ご主人様! ご主人様が怠惰(たいだ)な猫生活を送るようになったら、誰がアタシの面倒を見てくれるのニャ!? アタシはこれからも思う存分、グ~タラな使い魔の暮らしがしたいニャン。そのためにも、ご主人様には〝人としての尊厳〟を守って欲しいのニャ! 猫になっちゃ、ダメにゃ!」


「私の〝人としての尊厳〟の価値が安すぎる……なんか猫になっても良いような気がしてきた」

「お姉様! 歓迎いたしますわ!」

「ご主人様!」


 ツバキは焦って、自分の首にある黒い輪っかを取り外した。

 すると――


 ボワワ~ン。

 ツバキは猫の姿に、コンデッサは人の姿に戻った。


「ああ。魔法の効果が切れてしまいました」

 残念そうに、チリーナが言う。


「やっぱり、アタシは猫の姿のほうが良いニャン。アタシは猫だから。ご主人様も人なんだから、人の姿のほうが良いよネ?」

「何を当たり前のことを言っているんだ? ツバキ。私は魔女であり、人である自分に、大きな誇りを持っている。『猫になりたい』とか『ペットになりたい』とか『無為(むい)徒食な24時間ダラダラ生活を送りたい』とか、みじんも思わなかったぞ」

「ご主人様の言葉に、説得力を感じないニャン」


 ともかくも、チリーナの《陰陽道による魔法実験》は成果をあげた。

 ツバキが協力してあげた、そのおかげだ。


 チリーナはツバキへ、感謝の気持ちを示す品を渡した。


「ツバキさん。今回はイロイロと、ありがとうございました。お礼のタケノコ一年分です」

「これ、単なる一本の竹にゃん」

「ですから、一年分ほど育ったタケノコです。どうぞ、召し上がれ」

「竹は、食べられないニャン~!」


 ツバキの言い分は、もっともである。

 チリーナは、考えた。


「だったら、竹細工(ざいく)にしましょう。竹で玩具(おもちゃ)を作りますわ」

「分かったニャ。妥協してあげるニャン。それで遊ぶにゃ」


「まず……これは竹トンボです」

「楽しそうニャン」

「竹の水でっぽうです」

「面白そうニャ」

竹馬(たけうま)です」

「使うのが、難しそうニャ」

「竹槍です」

「武器は、いらないニャ」



 数日後。

 コンデッサの家に、再びチリーナがやって来た。


「先日、お姉様にしていただいた、盛大な拍手喝采(かっさい)が忘れられません。それで、新しい陰陽道の魔法を会得(えとく)しました。また試させてください」

「拍手はしたが、喝采まではしていないぞ」

「私には、ハッキリと聞こえました」

「それは幻聴(げんちょう)にゃん」


 ツバキがツッコミを入れる。

 コンデッサは、チリーナに尋ねた。


「今度は、どんな魔法なんだ?」

「ハイ。《生き物を小さくする魔法》です。魔法によって、その対象を【五分の一】程度の大きさにすることが出来ます」


「なるほど。興味深いな。では、ツバキ」

「にゃんで自然な流れで、アタシに話を振ってくるのニャ! アタシはイヤだニャン。ご主人様が協力してあげれば良いニャ」


「どうして、私が?」

「忘れたニョ? ご主人様は『弟子のためなら、苦労するのを惜しまないのが、立派な〝師〟である』って言ったニャン。自分の言葉には、責任を持つべきニャ」

「く! またもや、そのセリフを持ち出すとは……! ああ。馬鹿なことを言うんじゃ無かった。あの時は『苦労をするのはツバキだから、それなら何ごとも惜しむ必要は無いな』と安易に考えてしまった」

「最低な発言にゃ」


 そんなこんなで、魔法の実験体(?)にはコンデッサがなることになった。


「それでは、お姉様。《生き物を小さくする魔法》を掛けますわよ! よろしくお願いいたします」

「分かったよ。〝女は度胸〟だ。ドンと来い、チリーナ! こうなったら五分の一に縮んだ身体で、ケーキやプリンやクッキーを食べまくってやる。デザートは5倍の大きさになっているわけだからな。食べ放題だ!」

「ご主人様。それは、太るニャン」

「いつもの5倍くらい食べても、もとの身体に戻ったら、結果的には普段と同じ食事量になっているはずで……大丈夫だよな? 太らないよな?」


 急に心配になってくるコンデッサ。

 身体が小さくなっても、取りあえず、デザートをいっぱい食べるのは止めたほうが良さそうだ。


 チリーナが、魔法を放つ姿勢になる。


「まいります! 《生き物を小さくする魔法》――リン・ピョン・トン・シャン・カン・ジン・レン・ザン・ゼン! チイサイコトハ、イイコトダ~!」

「その掛け声、やっぱり陰陽道の《九字の呪文》と違っている気がする」


 ボワンボワンと、白い煙が漂い……。

 どうやら《生き物を小さくする魔法》は、無事にコンデッサに掛かったようだ。


 恐る恐る、コンデッサは自分の手を見る。


「よし。ネコの手には、なっていないな。ニンゲンの手のまま、小さくなっているし、目線の高さも、さっきより低くなっているぅ。マホーは成功か?」


 しかし、妙に己の声がカン高い気がする。舌が上手く回らない。あと、手足が短くなっているような――


「キャ~!!!」

 パチパチパチと、チリーナが拍手する。


「ニャ~!!!」

 ペチペチペチと、ツバキも拍手する。


「チリーナもツバキも、何を大騒ぎしているんだ?」


 コンデッサは鏡を見た。そこには4歳くらいの幼女の姿が映っていた。


 コンデッサが右腕を上げると、鏡の中の幼女は左腕を上げる。

 コンデッサが右手をグーの形にすると、鏡の中の幼女の左手もグーの形になった。


「おぃ~! これは、どういうことだぁ! 《小さくなる魔法》とは、タイカクが【五分の一】になるんじゃないのか? ネンレイが【五分の一】になっているじゃないかぁ!」


挿絵(By みてみん)


「重要なのは、お姉様が愛らしい幼女になった事実です! 【体格の変更】が【年齢の変更】になっている……そのような違いは、この際、ささいな問題です!」

「いやいや。ダイ問題だじょ、チリーナ」


 幼年期特有のつたない(・・・・)喋り方をするコンデッサに、チリーナは興奮のあまり身(もだ)えする。


「幼女のコンデッサお姉様! わが家にお持ち帰りいたしますわ!」

「そんなの、させないニャ!」

「む。そこを退()きなさい。駄猫。幼女になったお姉様のお世話を、私が手取り足取り、して差し上げるのです」

「ダメにゃ! 幼女になっても、ご主人様はアタシのご主人様なのニャ」


 使い魔として、ツバキはコンデッサに(あつ)い忠義心を捧げているのである!


「たとえ幼女であっても、ご主人様にはアタシの世話をしてもらわなくちゃ困るのニャ。アタシのご飯を、用意してもらうのニャン」


 ツバキはコンデッサに篤い忠義心を……。


「なんという、ニート思考。幼女に世話をしてもらおうなんて……図々(ずうずう)しいにも、ほどがありますわよ。駄猫」

「チリーニャさんこそ、幼女の誘拐犯として逮捕される前に、自重(じちょう)するべきニャン」


 どちらが幼女コンデッサのパートナーとして相応しいか、チリーナとツバキは言い合いを始める。


「幼女お姉様の側には、私が!」

「幼女ご主人様は、アタシと一緒!」


「チリーナ! ツバキ! 『ヨージョ、ヨージョ』と何度も言うなぁ!」


 幼女コンデッサが怒った。

 激怒した幼女は、無敵である。高校生魔女も、使い魔の黒猫も、あっという間に服従した。


 魔法が解けて。


「やっぱりお姉様は、お姉様の姿が最も美しいですわ。これこそ、私のコンデッサお姉様です」

「チリーニャさん、調子が良すぎるニャ。でも大人のご主人様だったら、何の遠慮もなく、世話をしてもらえるので、アタシも安心ニャン」

「駄猫。アンタは少しは遠慮しなさい」


 またまた口論をする、チリーナとツバキ。

 コンデッサは溜息をついた。


「チリーナ。ツバキ。お前たちは……。まぁ、良い。ところで、チリーナ。お前が使用した陰陽道の魔法のもととなった本のタイトルは、何だったかな?」

「これが、その本です」

「持参していたのか」

「ハイ。お姉様も《解読魔法》で見てください。表紙に『初心者大歓迎! 誰でもできる、陰陽道』と記されているでしょう?」


 コンデッサは、陰陽道の本を手に取った。


「……チリーナ。《解読魔法》は、キチンと使わなくてはダメだ。もう一度、タイトルを確認してみろ。『初心者大歓迎! 誰でもできる、陰陽道っぽいもの』と書かれているぞ」

「…………っぽいもの?」


 チリーナはコンデッサから本を返してもらい、その表紙を改めて眺めた。

 それから……彼女の身体が、プルプルと震え出す。


「つまり、チリーニャさんがやってみせた今回の魔法は、本物の〝オンミョ~ド~〟じゃ無くて、〝オンミョ~ド~もどき(・・・)〟だったわけニャン。早い話がインチキ――」

「け、けれど、本の副題……サブタイトルは『陰陽の術を世界に披露(ひろう)して、万雷(ばんらい)の拍手を浴びよう』となっています!」

「チリーナ。《解読魔法》で読み直してみろ。そこの正確な記述は『珍妙(ちんみょう)な術を宴会で披露して、酔っ払いの拍手を受けよう』だぞ」

「宴会で、酔っ払い……」


「私もツバキも当然だが、酔ってはいない」

「猫にアルコールは厳禁なのニャ」


「あと、陰陽道の《九字の呪文》は、正しくは『(りん)(ぴょう)(とう)(しゃ)(かい)(じん)(れつ)(ざい)(ぜん)』だ。そこからして、チリーナは間違っていた」

生兵法(なまびょうほう)はケガのもとニャン。チリーニャさん、気を付けるニャ」


「駄猫に忠告される身に、()ち果てるとは……」


 チリーナが、ガックリと落ち込む。


「チリーニャさん。いくら何でも、落胆しすぎニャン」

「まぁ、勘違いがあったとはいえ、今回のチリーナは頑張ったと思うぞ。良くやったな、チリーナ」


 コンデッサが褒めると、チリーナの表情はパッと明るくなった。


「お姉様!」

「弟子の成長が感じられて、私も嬉しいよ」

「ありがとうございます」

「うん」

「私へのご褒美として、お姉様にはこれからも時々、猫になったり、幼女になったり、していただきたいのですが――」

「それは、断る」


「チリーニャさん、()りないにゃん」


 コンデッサとツバキとチリーナは、今日も仲良しである。




  挿絵(By みてみん)

「それにしても、チリーニャさんは元気なのニャ」

「私は『けっこーな陰陽師』ですから、当然です!」

「……にゅ? 『健康な優良児』と言おうとしたニョ?」


~おしまい~ 


 ご覧いただき、ありがとうございました。



 かぐつち・マナぱ様から頂いたAI生成イラストをもとに、本作のストーリーを考えました。コンデッサが室内で帽子を被っているとか、そのあたりは大目に見てください……イメージ重視なのです。

 かぐつち・マナぱ様に、心より御礼申し上げます! 


 よろしければ、コメントやポイント(☆マーク)をしてもらえると嬉しいです!


※本作を投稿してから、かぐつち・マナぱ様に、またまたAI生成イラストを頂きました(9月19日)。

 イラストのタイトル「幼女様のお怒りは最強なのです! 」


挿絵(By みてみん)


コンデッサ「甘い物を食べても、これだと絶対に太るぅ~!」

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― 新着の感想 ―
ツバキはタケノコ好きなんですな。 でも、一年分のタケノコ……それは食べれないよ。 (´;ω;`) 五倍のデザートを食べまくり! ならず! 幼女のお持ち帰りは事案です。 (⌐■-■) このシリーズも…
人間の女の子っぽくなったツバキがめちゃくちゃ可愛いー!と浮かれていたら、コンデッサまで!!!!! 可愛いです……眼福! 始終可愛いイラストと可愛いお話に、拝読しながらニマニマしてしまいます……ってツバ…
二人と一匹のお話を続けて二話も読めるなんて、とても楽しませていただきました! 挿絵とお話がとても合ってて、面白さ倍増でした。 普通ならお話が先にあって挿絵を描くと思うのですけど、逆の順序もありありのア…
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