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架空都市ウツノミヤ

作者: Wattan

私は宇都宮市在住の36歳。3児の父。食いしん坊。


私はある日、夢を見た。

いや、違う。

確かに架空都市ウツノミヤに行った。



そもそも私は、ご先祖様に手を合わせる、神社に行ったらお参りする、くらいの信仰です。

仕事柄、六曜は気にしますがその程度。



これまでも時折、夢の中で実際の宇都宮とは少し違う(実在しないお店や通り、地理)架空?の宇都宮が夢に出てきていた。

いつもその夢は、実在よりも非常に巨大化複雑化した架空の宇都宮駅が夢の舞台で、あまりの現実との乖離と駅の複雑さによって、私は予定されていた乗り換えができずに焦り、混乱して叫びたくなり汗だくで起きる、という夢だった。

数えきれないほどの回数、この夢を見た。

(駅員や駅利用者は夢の中で登場するが、話しかけたりはしないで終わる。詳しく言えば、話しかけてはいけない雰囲気というか設定というか。夢なのでその辺は曖昧…)



記録的な暑さが続く夏のある日。

いつものように少量の酒を飲んで、クーラーつけて娘と寝る。


私はこれから架空都市ウツノミヤへ足を踏み入れることになる。



巨大で複雑化したウツノミヤ駅は夢の舞台ではなく、

高校時代の同級生Iと2人で、宇都宮市泉町(飲屋街)の実在しないバーで飲んでいた。

なぜ泉町かわかったかと言うと、Iが歩きながら「泉町で飲もう」と発言したからである。

(現実の泉町とは異なる店が並んでいたが、夢だからかその時は違和感は感じなかった)

初めて入ったバーだったが、何も違和感がない。

むしろ居心地の良いバーだった。

同級生とマスターと、他の客との会話を楽しみながら杯を進める。マティーニがすごく美味しい。

格好はスーツだったが、昔の体型で痩せていた。

(痩せていた頃にオーダーで作ったスーツを着用していたので気がついた)

数杯飲んで私は気持ち良く酔った。

そして、お開きに。

Iは歩いて、私はタクシーで帰宅する流れ。

週末なのか人通りもある。


lに別れを告げ、泉町から駅前大通りまで歩く。2分くらいか。

大通りのタクシー乗り場には、現実ではあり得ない小型バスの形をしたタクシーだった。夢なのか違和感は感じず(酔っていたからか?)乗車して「桜まで」と上機嫌で運転手に伝えた。

小太り中年の運転手は明るい声で「西川田方面からで良いですか」と丁寧に聞いてきた。私は酔いもあってか、はい、と返答し車は動き出した。

(この会話かなりおかしい。泉町からタクシーに乗ったのだから、桜までなら駅前大通り一本をまっすぐ西へ向かえば良いはずである。西川田方面から向かうのはあり得ない。)


酔いもあり、ぼんやりと車窓を眺めていた私だったが10分経っても到着しない事にようやく違和感を覚えた。酔いも醒めた。



何故なら、全く見たことのない街並みだったからだ。新宿かと思うくらい高いビルが乱立しているオフィス街を抜けたと思ったら、ごちゃごちゃしている住宅街に出たり、片側6車線ほどある広い道路を走っていたり。記憶にもない、初めて見る全く見たことのない街だった。



慌てた私は、思わず運転手に話しかける。「行き先、桜ですよ!」この言葉を発した時、驚いた。呂律が回らない。おかしい。

頭はクリアなのに、上手く話せない。

すると運転手がこう言う「西川田から行くと、サクラはこっち方面ですよ。」

私の呂律が回っていなかったからか、困ったように言った。


私は血の気が引いた。何処だここは。さっぱり分からない。

混乱する中、道路標識の地名を見れば良い、と気がつく。

しかし、それもすぐに絶望に変わる。

読めないのだ、

なんと書いてあるか。

見た目はいつも見る青看板。しかし、カタカナを崩したような、ロシア語あたりの文字を掛け合わせたような文字は、もう日本語ではなかった。

(日本人だけが読めないフォント「Electroharmonix」のようなテイスト。検索してね)

「ここ、知らない場所です」と、平然と運転を続ける運転手に慌てて言った。

しかし先ほどより更に呂律が回っていない。冷や汗を感じながら、次の言葉を続ける。

「私が行きたいのは桜です!!!」自分でもびっくりした、全く呂律が回ってない。

これには運転手も困惑した様子。

行き先の詳しい場所を聞く前に客が酔っちゃったよ〜、といった雰囲気。私は頭はクリアなので景色にヒントがないか、外の風景を凝視しながら、次々と言葉を続ける。…が、変わらず全く呂律が回らない。話せば話すほど、呂律が回らなくなる感じだ。


そうだ、スマホだ!!

ポケットから取り出して、画面を見る。

外観はいつもの私のスマホ。

しかし写っている画面はいつもと全く違うもので、どうやったらロックを解除出来るのかも全く分からなかった。

(無理矢理例えれば、OS自体が変わっていて例の文字の羅列。12文字程度ある文字を順番通りに押せば、ロックが解除出来そうな雰囲気だったが、何度やっても成功しなかった)



怖くなった私は警察に保護してもらうべく、「け・い・さ・つ」と大きめの声で伝えた。ルームミラー越しに運転手と目が合う。変わらず呂律は回っていないが、私は必死の形相だ。


すると車内の空気が一変した。

運転手が小さくため息をついてこう言った


「本部の者を呼びますね…」


それがどう言う意味なのか分からない。

タクシー会社の本部に連れて行くのか、何故警察ではないのか。

私の焦りは最高潮に達して、次々と言葉を発する。しかし、全く呂律が回っていない。ただ酔っ払いが騒いでいるようだ。

【本部】とはなんなのか、早く警察に、と焦る私を裏腹に車は動き続ける。

そうだ!

信号が赤になって停車したら、ドアを開けて助けを求めよう!しかし幾つ交差点を通過しても赤信号にならない。

気がつけば、私の乗る小型バスタクシー以外、一台も車が走っていない。大きな通りなのに、あれだけいた人通りもない。


ここは何処だ。

何処に連れて行かれる。

何故呂律が回らない。パニックになりそうな出来事の連続に私は頭をクリアに保つのが必死だった。

小型とはいえバスの構造なので、出入り口は前方助手席側のみ。よくある2つに折れて開くタイプだ。

走行中でも構わない、体当たりしてみた。

何度やってもピクリともしない。

運転手にも怒鳴り散らす。

「ここは何処だ!何処へ向かってる!ドアを開けろ!警察に行け!」声にならない声で、騒ぎ続ける。


運転手は慌てた様子でこう言う


「もう少し、もう少しですから!」


運転手は、敵意をむき出しした私だったがなんとか場を収めようと必死で、怒鳴り返すなどしてこなかった。(むしろ面倒な事に巻き込まれた、という表情)



すると、うしろから一台のセダンがパッシングして来た。追い抜き時に運転席から手を出して、付いてこいのようなジェスチャー。

奴は誰だ、警察か、と怒鳴り散らしても額に汗をかいた運転手は、パトカーに捕まった違反車のように黙ってハンドルを握りセダンに続く。

セダンは大きなサイレン(海外の警察のようなサイレンで日本に居て聞いた事はない種類)を流し、街中を走ったので、野次馬なのか数人、飲み屋?から人が通りに出て来た。



次は何が起こるんだ、と警戒した時、小太りの運転手は少し荒めのブレーキで停車。その反動なのか、小型バスのドアが少し開いた。見逃さなかった私は、再度ドアに体当たり。今度は身一つ出られる程度に開いた。

小型バスタクシーから出られた。

野次馬からは何故か冷たい視線。わたしからは距離を置く。何故助けてくれないのか、僅かな違和感。

セダンのドアが閉まる音で、意識がそちらへと向かう。

出て来たのは、スーツ姿の長身の男。

黒皮と思われる手袋をはめているのが印象的だった。夜にも関わらず、サングラス?をしていて表情が読めない。鼻が高いから欧米人か、しかし距離があって分からない。

彼が警察なのか、【本部】の人間なのか。

思考回路が破綻寸前。瞬きすら忘れていた。


私は観念した、というか落ち着いた。

訳のわからないことが起こり過ぎた。

もう疲れた。タクシーからは降りられたのだ。あとは警察なり何なりが私の身柄を保護してくれる。


スーツ男が私に近付く。野次馬が皆一歩引く。状況を固唾を飲んで見守っている。誰もスマホで動画撮影などしない。またわずかな違和感。私もスーツ男に歩み寄り、握手出来る距離くらいに。


すると次の瞬間、私は磁石の様な力で両手を後ろに無理矢理回された。

(現実世界で言えば、手錠なのだろうけど夢の世界では両手に小さな磁石のようなものをつけるだけで手錠をかけたようになった)

どれだけ力をいれても手は動かない。


その男が、混乱する私に澱みない日本語で小さく言う。

「まずは話し合いましょう」

その優しすぎる声に、いきなり拘束された事に恐怖を覚えて咄嗟に走り出した。

野次馬がパニックになる。

スーツ男はすぐに私を追いかけ始めたようだったが、野次馬にぶつかって倒れてしまったようだ。

懸命に走る私に聞こえて来たのは、信じられないくらい早く動く心臓の音とスーツ男が無線?で仲間を呼ぶ声「…逃げた。…優しく、…優しくだ…、…」


オフィス街のような場所を必死に逃げる私。

少し冷静になって、この街の違和感に気がつく。夜なのに街灯は昼間の如く明るく、人がいないオフィスでも真っ白い光がついている。

これじゃあ、隠れる場所がない!


タクシーに乗せられている時には気が付かなかったが、一本路地に入ると結構入り組んだ造りだった。

しかし、白い街灯の光は私と私の濃い影を追いかけ回す。


3分くらいは全力で走っただろうか、体力の限界だし、腕を拘束されているので走りにくい。

走る脚を止めかけた時、酷く不快なモスキート音のような音が鳴る。鳴り響く訳ではなく、この磁石のような拘束機から鳴っているようだった。

破壊を試みるもうまくいかない。爆発でもするのか。


回らない頭の中で私は、T路地の角にあるオフィスビルよのようなに入った。

ここもやたらと照明が眩しい。

真っ直ぐに伸びる廊下、白い壁が余計に眩しい。

ほんの僅か、自動販売機くらいの大きさの影を見つけてそこに隠れる事にした。


するとすぐ近くで声がした。



ひどく驚いた。本当に驚いた。

人の気配は全くなかったのに、文字通りいきなり現れた。

しかもスーツ男じゃない。

男性老人だった。

全く見覚えのない初見の老人。痩せ型、歳は85位か。

伸ばした顎髭は白く、短い白髪。

作務衣のような和服のようなものを着ている。

鋭い目は、今の私の状況を理解している、と言っているようだった。

警戒した方が良いのだろうが、突然現れたので驚きで腰が抜けて、走り続けて喉がカラカラで声も出ない。


すると老人が喋り始めた


「驚かなくて良い。」


いや、驚いた!声が私の声だった!

似ている、とかではなく本当に私の声。

私の動揺をよそに、老人は言葉を続ける。


「元の世界に送り返してやる。お前の為にこれを使うとはな。」


そう言って、懐からライトセーバーの根元のような機械的な装置を取り出す。

その装置を地面に立てて、スイッチを押す老人。

オフィスビルの照明の比にならない程の青白い光が装置から発せられる。


一体、誰なんだ?何をしたんだ?何が起こる?

眩しいながらも老人を見ると、少し口角を上げて


「もう、来るなよ。」


と私の声で言った。



頭は混乱しているものの、走り疲れてもいない、体は横たわっていると気がついた私は目を開けた。


いつもの寝室で、横で眠る娘の寝顔があった。


ただ、瞼の裏には強い光を受けた時にできる残像がはっきりと残っていた。


おわり

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