72話 倒すために①
反田先輩を波瑠先輩を貶めた犯人として考えた俺は、皆の力を借りながら色々と調査することにした。
咲良には反田先輩の周辺、理子と唯と那奈には波瑠先輩が大学デビューしたという話題がどこから出たのかという調査、新とアキには反田先輩の動向を探ってもらった。
そして何日か経ち、今日はその調査結果が揃ったので皆で集まって会議をする事になった。波瑠先輩は事情が事情だが何日も休んでもらっているわけだし、早いところ決着をつけたい。
反田先輩と出くわしたり、作戦が漏れてはいけないため、会議は俺が住んでいる部屋で行う事となった。7人で話すとかなり狭く感じるが、こればかりは仕方ない。
集まった俺たちの空気はどこかどんよりとしているというか、少し重苦しい空気だった。理由は言わなくても分かる通り、ここ何日かで行った反田先輩の調査の結果が誰からも見て分かる結果だったからだろう。
まぁ全員集まったわけだし、会議を始める合図としても俺がまず口を開く。
「えーまずは皆ありがとう。そして皆も大方分かっているとは思うけど、今日はその調査結果で作戦を立てる会議だ。波瑠先輩を何日も待たすわけにもいかないしな。じゃ、まずは咲良から頼む」
咲良は俺の向けた視線に一度無言でうなずいた後、自分の調べた結果について話し始めた。
「私は反田先輩の周辺について主に調べました。反田先輩は知っていると思うけど、とにかく交友関係が広かった。ここ何日かでも数十人と話していたし、先生とかとも仲が良い。周りからの評判は最高って感じだね。ただ……」
「ただ?」
咲良が少し真剣な表情になってトーンが少し下がったので、俺は気になって咲良に問いかけた。
「反田先輩って恋人がいる、って話だったじゃん? でもさ、恋人である彼女さんとここ何日かで会ってなかったんだよね。ちょっとおかしいって思ったかな」
反田先輩には恋人がいるし、この前に調査で会った時に写真も見せてもらった。俺、新、咲良は恋人である彼女の顔も把握しているわけだし、咲良が見落とすといったようなミスをするとは考えにくいだろう。
あまり反田先輩の彼女については話を聞いていないが、写真から見ても同年代のような女性だった。また、噂や咲良の調査からも彼女は俺たちと同じ大学の人らしい。
「まっ……隠せない事はないよな」
俺は皆が黙り込んでいる中、全員が頭の中で思っている答えを代弁する形で言った。
渋谷先輩の件と同じように、自分にとって絶対に裏切らないで信頼できる仲間がいれば、だいたいの悪事は行える気がする。渋谷先輩だって自分に都合の良い帝国を作ってたわけだし。
それに恋人かいるかいないなんて、会話の話題に出るかSNSで投稿しない限りは基本は分からない。しっかりとした情報管理ができていれば、だいたいの事はバレないからな。
よくある話として、恋人のスマホを見て浮気が発覚する話があるが……それもしっかりと証拠を消去していればバレないだろう。まぁ、スマホを見せなかったり不必要な外出が増えたりして色々とボロが出て結局はバレる事が多いんだけどな。
それに反田先輩はおそらく、恋人を駒として見ている。もう別れていても不思議ではないし、ダミーとして協力してもらったみたいな話もあるかもしれない。
二人で隠れて会っている線もない事はないが、同じ大学という事を考えると何日も会わないというのは少し疑問が残る。
全ては波瑠先輩を手に入れる為。俺たちから引きはがし、波瑠先輩が弱っているところを狙って波瑠先輩につけこむつもりだろう。何なら、ダミーの犯人を作り出してもおかしくない。
――思い通りにさせてたまるか。
反田先輩は間違っている。一つ、波瑠先輩はか弱い女性なんかじゃない。二つ、自分は完璧だと思い込んでいる。三つ、結局はバレないと甘く俺たちを見ている。
波瑠先輩はこんな事で折れる人ではないだろうし、悪事には必ず隙がある。脅しやら金やら汚い手を使ったのかもしれないが、それならこっちも汚い手を使えばいいだけの事。
「私の調査を簡単にまとめると、反田先輩は評判通りの人物。恋人と会っていなかった事が気になったって感じかな。密会とかしてる場合はあるけど」
「咲良ありがとう。これでだいぶ分かったよ」
咲良は自分の調査結果を話し終わると、親指を立ててグットポーズをしながら少し笑った。俺も感謝の意味を込めて、咲良にグットポーズを返す。
「なぁ楽。これって……」
そして同じく咲良の話を聞いて考えをまとめていた新が、俺に話しかけてきた。答えの確認、みたいな意味もあるのだろう。
「新の思ってる通りだと俺も考えてる。反田先輩の恋人はいる、っていう話はダミーだな」
「やっぱそうか。恋人のフリを頼んだのか、一時的に付き合ったのか、利用したのか……」
「反田先輩ほどの人なら、渋谷先輩みたいになんでも出来そうだなとは思ってる。それに波瑠先輩は反田先輩に恋人がいるか聞いたときに知らない感じだった。こんな怪しいことはないよな」
「恋人というアリバイみたいなもんに俺たちは騙されてたってわけか」
「新の言う通りだよ。だからこそ調査は行き詰った。だから、それぞれの性格や立ち位置、メリットに提示されている情報をもう一度整理して……俺は反田先輩が怪しいと思ったんだよ」
最初から俺たちは反田先輩に騙されていた。恋人という存在がいる事で単純に反田先輩を白、と決めつけてしまっていたのだ。もっと最初から深く調べておくべきだったのだろう。
波瑠先輩が知らなかったことから、反田先輩は恋人の存在を隠していたか利用していたのかの二択だと考えられる。
でもこれだけじゃまだ足りない。サスペンスドラマなら、証拠の一つでも見せてみろって話になる。
ここで唯たちの出番だ。そもそも波瑠先輩の大学デビューしたという話はどこから出たのか。それが分かった時、反田先輩を追い込めるピースがほとんど揃うと思う。
別に完璧な証拠が揃わなくていい。周りからどう見ても怪しい、という疑惑の目線さえ向けさせることができたら俺たちの勝ちだ。
「じゃあ、次は唯たちの調査結果を話してくれ」
会議はまだまだ続く。
波瑠先輩を救い出し、反田先輩を倒すために――




