55話 関東旅行⑧
関東旅行二日目。今日はグループに分かれて各々行きたいところを観光しつつ、夕方に皆で野球を観に行く予定だ。皆でどこか行くという話になった時は、珍しく俺が部長権限を使わせてもらいましたわ。ふっふっふ……計画通りっ!
そんな旅行二日目でまず最初に俺が向かったのは……東京駅。
なぜ東京駅? と思ったそこの皆さんは甘いですね。東京ばな奈より甘い。そう! お土産を買うなら東京駅周辺でしょうが!
じゃあなぜこのタイミングでお土産を買うのか? と思ったそこの皆さんも甘い。人気のバターサンドよりも甘い。帰るときに色々と見て買い物してたら、時間がなくなるでしょうが!
「それにしてもよかったんですか? 私と二人でお土産なんか買いに来ても、私はアラくんしか見てませんよ?」
俺の隣を歩くのは、見た目は清楚系美女、中身はめちゃくちゃ明るくてコメディアン! でお馴染みの新の許嫁のアキさーんです!!
もちろん、アキを誘ったのにもちゃんとした理由はある。
「咲良にお土産を買わないといけないと思ってな。恋愛同盟というグループで繋がってるんだし、こうしてアキを誘ったわけ。帰る時にお土産買う時間がない可能性もあるしな」
「なるほど。楽さんが可愛い咲良さんにプレゼントするために、私は都合よく使われたという事ですか」
「いや言い方! 目的自体は間違ってないけど!」
「ふふっ、冗談ですよ。私も咲良さんにお土産か何か買いたいと思ってましたし、恋愛同盟のグループもかなり好きですからね」
「分かる。どこかまた違った心地よさがあるよな」
青春同好会も非常に心地良くて楽しいけど、恋愛同盟もめちゃくちゃ楽しい。基本的にはアキが咲良を弄ってボケたりするのを俺がツッコむ……みたいな感じだけど、どこかあのグループも心地いいんだよな。
まぁ……アキがただ面白すぎる人間だからかもしれないけどね? 恋愛同盟というグループの創始者はアキだし、どこかアキがグループを引っ張っている感じもあるし。
もちろんアキは魅力的で面白くて良い人だと思うけど……黙ってたらもっと美人なんだけどなぁ。
「楽さん? 私に対して今失礼な事思ってましたよね?」
「いいや? 何で北海道って大きいんだろうって思ってた」
「だから誤魔化すの下手すぎません?」
俺とアキはいつも通りふざけた会話をしながら、色々なお土産を見て回る。定番な物から今流行している物に俺が知らない物など……東京という事もあってか品数も多い。こういう時に人間のセンスが問われるんだよなぁ。まぁ咲良なら何でも喜んでくれるとは思うけど。
「それで楽さんは何を買おうと思ってるんです?」
「うーん……やっぱりお土産の定番と言えば食べ物系じゃない? それこそ東京ばな奈とか」
「まぁそうですね。楽さんは異様に東京ばな奈が好きすぎる気もしますけど、実際人気で美味しいですからね」
甘党の俺からしたら東京ばな奈とかのデザート系? はマジで神なんだよな。お土産と言わずに日常でも食べたいもん。
でもやっぱり、お土産ってなると食べ物系になっちゃうよな。無難なものを選ぶ日本人としての国民性を感じて少し嫌になるけどね。まぁでもセンスのない俺のような人間は、困る事もあまりなくて助かる。
「ちっちっち。女性のプレゼントはチャンスであり、戦争なのですよ? そんな時に定番の物を買うなんて……アイスを買う時にバニラを買うようなものですよ」
「別にいいだろ」
何でだよ。バニラが一番美味しいだろうが。自分でも冒険せずに、ずっと定番で同じものを食べているって自覚はあるけどね?
女性にプレゼントするのはチャンスっていうのはアキの言う通りな気もするが、咲良にお土産を渡すだけだからなぁ、俺はともかく、咲良が俺に特別な感情なんて持っているわけないのに。
「じゃあ逆に聞くが、アキはどういうものが良いと思う?」
「そうですね。私が楽さんの立場なら……花束とか?」
「プロポーズじゃねぇか。それにお土産だよって言って花束出てきたら、もうホラーだよ。何しに旅行しにいったんだよってなるだろ」
「うーん……なら木刀とか?」
「小学生の修学旅行か。自分でも帰ってきた後で持て余してしまうのに、他人に渡していいものじゃないだろあれ」
ダメだ。この面白い奴に聞いても何にも参考にならない。せめて新も一緒に連れてくるべきだったかもしれない。
アキといると軽い漫才が始まってしまうの、どうにかしてほしい。俺だってボケたいもん! ツッコミキャラじゃないもん!
そしてある程度見て回っていると、アキが俺の肩を叩いてあるお土産が売っているお店を指差す。商品の近くに書いてある文字を読んでみると、東京駅限定と書かれている。
「あ~限定商品か。こういう限定の文字を見て、俺も色々と買っちゃうの分かる」
最後の一つとかこの地域限定とかタイムセールとか……人間って本当にこういうのに弱いよね。何か特別感というか使命感というか、ここで買うしかない! ってなっちゃうんよな。これだから重度のオタクである俺はすぐに金欠になるんだろうけど。もっと働いて貯金しろ。
「こういう限定商品なら特別感も出ますし、咲良さんのお土産としてもいいんじゃないですか?」
「めちゃくちゃナイスな提案だけど、急にまともになるのやめろ。ビックリしちゃうだろ」
「楽さんもわがままですね……。あっ、あのチーズケーキとかいいんじゃないですか?」
「チーズは俺が嫌いすぎるから、隣のクリームサンドクッキーにしよう。その方が咲良も喜ぶはずだ」
「別にそれでも全然良いとは思いますけど、チーズに対しての嫌悪感が凄い」
だってあの独特の匂いとか味とか嫌いだもん。ケーキにしても、ひょこっと顔を出してくるのは流石の甘党の俺でも敵わない。あっ、ハンバーガーとかサンドウィッチのスライスチーズは別人だから全然いいよ!
それにしても俺たちの周りの奴らは、何故こうも色々な顔があるのか。
理子にしてもアキにしても……それに波瑠先輩や咲良なんかも。皆は色々な事を抱えているのだろう。
「ちなみに私が好き勝手ボケられるのは、楽さんたちのグループだけですよ? 今通っている大学は物静かで清楚な子で押し通してますし。アラくんにしろ、楽さんたちにしろ……優しくて楽しくて安心できるからこそ、私も素を出せるんです」
「それは……まぁ喜んでいいのか?」
「私の本当の姿を見れるのはここだけ! あっ、でも楽さんは私に惚れちゃいけませんよ?」
「……ま、俺に色々とタイミングが来たら、その時はよろしく頼むよ」
「もちろんです。恋愛同盟を結んでますからね!」
言ってみれば、俺の親友である新から繋がった一つの縁。
でもそんな事から繋がった縁もまた大事なものであって、今となってはアキも大事な親友であり、協力関係にもなっている。
そんな事があるから人生は楽しい時もあるし、俺もまた今日も生きていけるのだろう――




