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2話 歓迎会

 今日の講義が終わった俺と新は、大学からもある程度近い居酒屋に来ていた。広山大生も多く利用する人気のある居酒屋だ。

 俺は()()()()もあって行きづらいのだが、今日はどうやら大丈夫のようだ。飲み会で気を遣うので、他のところに気を遣いたくない。


 俺たちは先輩に席を案内され、軽い挨拶を済まして席に座る。かなり多くの人が来ていて、早くも仕上がっている人もいる。



「おい、楽。あれ見てみろよ。高輪たかなわ先輩じゃん。めちゃくちゃ美人」


「あ、本当だ。ミス広山大」



 新が指した方にいたのは、俺たちの一個上で大学三年生の高輪たかなわ 波瑠はる先輩だった。広山大の数多い学生の中でも、一位二位を争うぐらい有名な人物だ。

 大人びた清楚な雰囲気を醸し出し、誰とでもフレンドリーに接し、誰にでも優しい女神のような存在……と言われていて、男の誘いや芸能への道の誘いも数多いのだそう。そこら辺は、何か都市伝説のように語られている。

 毎日十人に告られる、あるスターまでも噂を聞きつけて高輪先輩を誘った、高輪先輩の笑顔で世界が平和になった……など、たまにめちゃくちゃな伝説もあるが、まぁとても人気で美人な先輩である。


「やったな楽。これで少なくとも先輩が卒業するまでは、俺たちのゼミは勝ち組だぞ」


「何興奮してるんだよ新。親密になれるとも限らないのに」


「そんな事言うなって。まだ分からなねぇだろ」



 高輪先輩の方を見ると、男女多くの学生が群がっている。チヤホヤされるのは少し羨ましい気持ちもあるが、あれはあれでめちゃくちゃ大変なんだろうな。


「ねぇねぇ。有明君はお酒飲める?」

「あ、無理っす」


 その後、俺はイケイケ先輩の悪魔の誘いを断り、机の上に置かれている唐揚げやおつまみを食べていく。せっかくのただ飯なのに、食べないのはもったいない。

 それに本当はもうお酒を飲める歳になっているのだが、酒を飲むと大概ロクな事がないと思っているので、きっぱりと断る。あっ、中学時代の保健体育で習った事が活かされた。嫌な事は、きっぱり断りましょう。

 新は俺とは対照的に、あれやこれやと色々な先輩に話し掛けにいき、何か連絡先を交換しているようだった。流石、コミュニケーション力のある男。貫禄が違う。


 そんな感じで歓迎会という名の飲み会もかなりの時間が経ち、先に帰る者、酔いつぶれる者、騒ぎつかれている者……と言う形で、少し落ち着いてきた感じだった。

 俺の周りの席もだいぶ酔いつぶれたようで、俺と同学年? の大人しそうな女の子が俺を見て、()()()()()()()な顔をしていたが、知らないふりをして俺は全体を見渡す。そんな、何でお前は飲み会に来たんだよみたいな雰囲気出さないで貰えます?


「なぁなぁ波瑠ちゃん。何かまた頼もうぜ?」


「でも私お酒飲めないし」


「一杯ぐらい、大丈夫っしょ。それか何? いよいよ連絡先教えてくれる?」


 人があまりいなくなった段階で言うのクソダセェ~! と言う心の声をグッとこらえ、俺は高輪先輩たちの方に聞き耳を立てる。


「せめてもう少し仲良くなってからかな」


「あっ、そう? でも今日俺の事褒めてくれたよね? バスケしてるなんて凄いって」


「あ、あれは」


 それはバスケしてるのが凄いのであって、お前が凄いとかカッコいい事じゃねぇんだよ! とこれまた大声でツッコミを入れたくなるのを、グッと我慢する。高輪先輩、めちゃくちゃ言い寄られているな。

 こういう時は新がいると非常に助かるのだが、新は酔いつぶれた先輩の介抱をしているために席を外している。


――俺がやるしかないか。


 俺は席を立ち、高輪先輩の方に向かう。


「えっ、先輩何か注文するんですか!? 俺も何か注文しようかなぁ。まだお腹が空いていて」


 高輪先輩に言い寄っていた男は、何だこいつとばかりに凄い顔をしていたが、俺は無視をして喋り続ける。


「あ、でも俺酒が飲めないんですよねぇ。まっ、いいですよね。もうお酒を強要される時代じゃなくなりましたし。バレると大変なことになりますからねぇ」


「お、おうそうだな。ちょぅと、外の風にでもあたってくるわ。何か注文するなら、す、好きにしたらいいぜ」


 そんなんでビビる器がダサすぎるし、それじゃ有名な高輪先輩と付き合えるわけねぇじゃんざまぁ! と面と向かって言いたい気持ちを我慢し、俺はダサい先輩の背中を見送った。



「ありがと。えーと……」


「あ、二年の有明 楽です。どうも」


「楽君ね。本当にありがとう。いつもは友達が守ってくれることが多いんだけど、今日は忙しくて来れなかったの。だから、改めてありがとう」


「いえいえ。別に当たり前のことですよ」


 また俺の悪い癖が出てしまった。俺はウザったい奴を見るとめちゃくちゃ腹立つし、困っている人をなかなか見殺しにできないんだ。それなのに俺自身が非力なせいで、痛い目を見ることが多い。

 今日の場合はかなり楽だったので、助かりはしたけどね。()()()()ってな。待ってください調子乗りましたごめんなさい。本当です! 悪気はないんです!



「本当はド直球に言ってやりたいんですけどね。何しろ非力なもので、卑怯な手しか思いつかくて。すみません」


「そんな事ないよ。助けてくれた楽くん、王子様みたいでカッコ良かった」


「そ、そうですか。それは良かったです」


「えへへ、ありがと」



 何だこの可愛い生き物は。あざとすぎるのか、それともただ素直で天然なのか……いいやこれは罠だ。

 きっと勘違いして告白して、優しいけど恋愛対象じゃないんだよね、って言われるパターンの奴だ! でも可愛い。なんだこれ、違う世界から飛び出してきた? というめちゃくちゃ早口で語ってしまいそうな気持ちを何とか飲み込み、平静を保つことができた。


 てか何か今日我慢してばっかだな。あまり本音を言わない事が、俺の長所でもあり短所でもあるんだよな。脳内では最強の俺がシミュレーションされるのに。


 そうやって高輪先輩と話していると、介抱が終わったのか新が帰ってきた。


「何かあったか? 楽と高輪先輩からただならぬ雰囲気を感じるんだが」


「いいや何もなかった。えぇ、何もなかったですよ」


「ふーん?」


 新は、こういう時に勘が鋭い。バレると何かと面倒になるし、ここは何とか誤魔化しておこう。

 よし、成功したと喜んでいた俺だが、その心はすぐに打ち破られる事になる。


「さっきね。私を守ってくれて。本当にカッコ良かったの」


「ははーん。ははははん、ははははん、ははははははーん。何があったのかな? 親友の楽君やい」


 こうして俺は、高輪先輩の爆弾発言により、新にめちゃくちゃ詰められることになったのであった。高輪先輩と知り合えて連絡先も交換できたのは、最高だったけど。

 

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