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第九話 対立

 寒気がするほど冷淡な声が耳に残った、混乱する思考回路に現実が追いついてこない、そっとボイスレコーダーを白井に返す。


 ――順平くんはこの女にすっかり骨抜きにされた、そこで邪魔になった家族。


 えっ、これは自分が不倫している事もすでに掴まれている、そういう事か。想像以上の緊急事態に頭がパニックになる。そういえば最近は夕飯のおかずが前よりも更にグレードダウンしたような気がする、冷めた態度は以前からなので変化に全く気が付かなかった。


「え、これ、これ、白井さん、やばくないですか?」


 不倫がバレる、離婚、妻は出ていく、あれ? 別に問題はない。むしろ望んだ結果になるような。


 だめだ――。


 妻を事故死させる事によって得られる生命保険を当てにして消費書金融に借り入れしていることに気がついた。


 それに不倫で離婚したら慰謝料に養育費も払わなくてはならない、それではせっかく離婚しても宏美との生活がままならない。まったくもって白井の嫁の言う通りだ。


「慌てないでください、逆にこれを利用するば上手く葬ることができるかもしれません、幸いやつらはコチラに計画がバレた事を知りません、そのスキを突くんです」


 殺し合う二組の夫婦、もう後には引けない。計画を中断しても待っているのは地獄のような日々だ、それに自分を殺そうと目論んでいる人間と一つ屋根の下で過ごすなんて冗談じゃない。


 なんとか妻を事故死に見せかけて殺すしかない、いつの間にか順平に選べる選択肢は一択になっていた。


「一酸化炭素中毒なんてどうですか?」 


 様々な殺害方法をネット検索する中で、順平が満足するようなものは少なかった、その中でも目を引いたのは一酸化炭素による中毒死だ。


「なるほど、事故による中毒死ですか」

「ええ」  


 一酸化炭素は無色透明で臭いもない、人間がその濃度を測り知ることは不可能で、知らずに吸い込んでしまえばあっという間に死に至る。実際に火災での死亡原因は火による火傷よりも、火災により発生した一酸化炭素を吸い込んでしまった事による中毒死の方が多い。すべてスマートフォンで仕入れた知識だが。


「例えば狭い部屋で換気しないで、そうだな、テントなんかで煉炭を使用すれば速攻で死にますよ」 


 たまには妹夫婦とキャンプでも行かないか、と誘い出して河原でバーベキューをする。美味いことテントの中に煉炭を持ち込んでそのまま眠りにつかせれば、二度と目を覚ますことはないだろう。


「それだと、僕らも死んでしまいませんか?」


 白井の指摘はもっともだった、この作戦を成功させるには最低でもテントを二つ用意、姉妹を煉炭入りのテントに誘導しなくてはならない。しかしコチラに殺意があることがバレている今、容易に思惑に乗ってくれるとは思えなかった。 


「崖の上から突き落とすってのは乱暴ですかね」 


 例えば東尋坊のような断崖絶壁に連れていき、後ろからちょいと押してやれば、奈落の底に真っ逆さま、うまいこと自殺で処理されれば良いが。


「敵も警戒しているでしょうからね、それは現実的じゃないでしょう」


 腕をくんで考えているが、何の案も出さない白井に苛立った、そもそも彼の凡ミスで妻に殺害計画が露呈してしまったせいでハードルが一気に上がったのではないか、にも関わらずまるでアイデアを出さない態度に文句の一つでも言ってやりたかったが、今自分が充実した生活を謳歌しているのは白井のおかげに他ならない、そんな恩人に不平不満を垂れるなどもってのほかだと思い至る。


 結局この日は何の建設的なアイデアも出ないままに解散になった、相変わらず酒代は白井がご馳走してくれるが、今日は宏美とデートの予定だったので財布にはかなり現金が入っている。それでも折半にしようと切り出さない自分に多少の引け目を感じながら家路についた。

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