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熾火・三部作  作者: しょうじ
第一部:熾火
8/9

連続創作「熾火」(08)

 明けて2003年、2月に資格試験の結果が通知されたものの、昌行は合格には至らなかった。同期の受講グループの仲間は残念がり、受験資格がある来年の再受験を勧めてくれた。

 昌行の心身の調子は、相当程度に安定しているように見えた。年末の試験に際して雅実に告げてあったように、昌行は職場に再度の復職を打診していた。今度こそ・・・。昌行には期するものがあったが、その復職の決定は、いささか独断に近いものと言わざるを得なかった。

 2003年度になって、昌行は再度の復職を果たしたが、彼を待っていたのは別のサポート窓口の対応要員としての辞令だった。昌行は、半年と経たず変調に見舞われた。その業務は、対応件数の出来高によって売上げが上下する契約だったので、対応要員たちには、一件でも多い対応件数がサプライシステムズ社から求められていた。

 昌行は、その窓口の構成メンバーの中にあっては、年長の部類だった。一定の勤続年数があり、「ベテラン」と見なされていたため、十分な事前の研修もなされなかった。

 ある日、年下の上長から、対応件数のことで苦言が呈された。

「谷中さんくらいのベテランで、会社の事情もおわかりのお立場なら、対応件数に見合った給与に引き下げてもらうような打診があってもしかるべきと思うんですけどねえ。」

 屈辱だった。自身が新人研修を担当した相手から、そのようなことを言われるとは。この日を境にして、昌行は通勤の電車の中で、しばしばめまいを感じるようになった。通勤途上で連絡を入れて、欠勤を願い出ることが重なった。

 さらに12月。ついに昌行は社長の安斉に呼び出されることになった。

 「谷中くん、どうだろう。体調もよくないようだし、この際離職して、完治を目指してみるのがいいんじゃないかな。それが君のためなんだと思うんだけどね。」

 口調こそ穏やかだったが、昌行にはいわゆる最後通牒と感じられた。そうだよな、こんなポンコツには用はないよな。

 「お気遣い、ありがとうございます。」

 昌行は2004年1月末で退職した。


 実は昌行は、6月頃から転職活動も進めていた。確かに再度の休職に入る時、「復職は完治してから」が条件だった。4月の異動については自信がない、再考してほしいと申し入れたものの、復職は完治を意味しているから、是が非でも異動は受け入れてもらうと、はねつけられていたのだ。

 先に退職となってしまった昌行の転職活動は難航した。そのことは、昌行を確実に蝕んでいた。

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