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熾火・三部作  作者: しょうじ
第一部:熾火
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連続創作「熾火」(04)

 定例の部門間会議のため、昌行は常駐先からサプライシステムズの本社に顔を出した。急な異動から、既に8か月が経つ。昌行が本社に顔を出すその度に、後任の須永の評判が、派遣スタッフの間で悪くなっていることを昌行は耳にしていた。谷中さんがいてくれていたら、こんな風にはなっていなかったのに、と言われているようだった。

 しかし、須永の評判がよくないのは、ひとり須永だけの問題ではなかった。別の社員がうっかり、この部署は閉じられる、会社も危ないらしいと話してしまったことで、派遣スタッフの間にも不安が広がったからだ。

 「須永さん、寡黙だからなあ。」

 会議を終えて、昌行は直帰した。もう自分には何もできないことが、昌行にはつらく感じられた。

 異動先で昌行を待っていたのは、やはりユーザー対応の窓口業務ではあったが、いわゆるクレーム対応と呼ばれるものが相当の比率を占めていた。一件一件に、いや、一瞬一瞬に異なる判断と決定が求められる。

 それに加えて、昌行は年下の社員たちの案件を引き取った個別対応が日課となってしまっていた。残業時間も長くなる傾向にあった。

 一方、谷中家にあっても、昌行は微妙な立場であった。義和が返済の用立てを依頼してきたのは、あの時以降一度もなかったが、家族たちの心はささくれだっていた。昌行は帰宅すると、タニナカベーカリーとカレーショップの新商品やセールなどのアイディアを、家族たちと語り合った。しかし、起死回生となるようなアイディアなど出しようもない。売上げが低迷してきていたのは、谷中家だけではなく、それは商店街全体に及んでいたのだ。こうして、昌行は仕事と家族との間で、確実に疲弊していった。

 大きな事件は、2000年2月に起こった。1999年末に閉鎖したサポート部門にいた契約社員の一人が、自死したのだ。あくまでも個人の問題が原因と伝え聞いていたが、斎場で必死に案内に当たっていた須永の表情は、何かを物語っているものとして、昌行の目に焼きついていた。この頃には、既に昌行は業務に関わるH社の新製品情報に関心が持てなくなっていた。また、この前調子がよかったのはいつだったか覚えがないんだよなあ、と同僚を笑わせてみるものの、その笑顔には力が感じられないようになっていた。

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