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開発のジレンマ

作者: 灰庭 太郎

『ランドセルミサイル 一号機』


これは名前の通り、ランドセルの外見をしたミサイル発射装置である。


外装は一般的な学習院型ランドセルを採用しており、小学生が背負って歩いても見た目上何の違和感もない。

だがその平和な見た目とは裏腹に、ひとたびランドセルを開けば、その中身は対船舶用小型ミサイル発射装置となっている。

弾丸は最新の小型ミサイル「NMM」を採用。6発まで格納でき、同梱の筆箱型リモコンにより目標の設定・発射が可能である。

ランドセルの材質には軽量かつ耐熱・耐衝撃・にすぐれた最新の発泡金属を使用し、総重量は最大弾数を装填した状態で20.4kgと、他の追随を許さない圧倒的な軽量化に成功。これはひとえに主任開発者の「実際に小学生でも使用できる重量に収める」という意地と熱意によるものだ。その努力には敬意を表したい。


しかし、この製品は致命的な欠陥を抱えていた。

それはなにか。

簡潔に言えば、需要のなさである。


製品のインパクトは確かにあった。技術のレベルも他を圧倒していた。何も製品自体に問題はなかった。

それでも、それでも、だ。

そもそもこんなものは誰も求めていなかったのである。

なぜ開発中にだれも疑問に思わなかったのだろうか、だれも止めなかった、止めてくれなかったのだろうか。

冷静になればランドセルに擬態させたミサイル兵器などどこにも需要がないことはすぐにわかる(それこそ小学生にでも)。

けれでも、あの時は誰もが冷静ではなかった。

初めは「小型化したミサイル兵器を」という何の変哲もない注文だった。それがあれよあれよといううちに「持ち運べるもの」になり「鞄に入るもの」になり「鞄ではサイズが曖昧だしインパクトもない、もっと明確にだれもが分かるものがいい」ということで「ランドセル」というところに落ち着いてしまった。

そして、面白そうだと開発陣が乗り気で実装を始め、その困難さ・チャレンジングさに魅了されているうちにそのまま完成へとなだれ込んだ。

皆優秀な人材だった。それが災いだったのだ。

一人でもついていけない人間がいればルサンチマンによって自分の技術不足を棚に上げ「そもそもこんなもの必要なんですか?」という問いを投げつけることができただろう。しかし、悲しいかな。

誰もが優秀な技術者であり、そして同時にロマンチストであった。


こうして、ランドセルロケットという望まれない怪物は誕生した。


今後、このような悲しき存在を生み出さないためにもこれを教訓として伝えていくことが今の私にできる唯一の事だと思う。

どうか、これから先の未来に巣立つ素晴らしき可能性ある研究者たちが同じ過ちをくりかえさぬように、あんな悲しく惨めな思いをしなくて済むことを願い、ここに戒めとして残す。 


Mikeを偲んで。


2XXX年 佐久 一


-技術開発展示「なぜこうなった?トンデモ製品の裏側」展示メッセージ-

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