8.賢者は相部屋に苦言を呈す
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「毎度ありがとうございます! そちらのお姉さんのお陰で、今日は串焼き売れ切れですよぉ♪」
満面の笑みで頭を下げる給仕娘に軽く手を上げて、支払いを済ませた一行は酒場を後にした。チェックインを行ったアマリエを先頭に、客室に向かっていく。
「とりあえず、客室で明日の打ち合わせをする事にしようか」
「あ、はい。ユーティ様。こちらです」
とある客室の前で立ち止まったアマリエが、懐に入れていた鍵でその扉を開けた。全員で入って中の様子を見ると、壁際に二段ベッドが二つ置いてある四人部屋である事が分かる。
ユーティは入り口付近で立ち止まり、アマリエに質問した。
「うん、ここは女性部屋として使うとして……私の部屋の鍵はアマリエくんが持っているのかな?」
ちなみに二人旅であったそれまでの道中では、年頃の未婚女性と同室で寝るのも気が引けたため、ユーティとアマリエは一人部屋を二つ取っていた。
ところが、アマリエの返答はユーティにとって予想外の物であった。
「申し訳ありませんが、この部屋しか取っておりません。ユーティ様も同室になります」
一瞬動作が停止した後に、ユーティは困った顔をしながら頭を数回掻きむしる。
「うーん……いくら何でも、同室はまずくないかな?」
ユーティの苦言に対し、一行は口々に返答する。
「私は、ユーティ様を信頼しておりますから、問題ありません」
「うちは別に、いつでも来てくれて構わないのじゃぞ?」
「お出かけの時には、いつも私に乗って下さっていたじゃないですかぁ」
「おんし、そりゃ馬の時じゃろうがぁ」
ただ、ユーティにとっては忸怩たる物があるようで、まだぶつぶつ言っていた。
「しかし、同室というのは、やや人聞きが悪いというか、端から見ると複数の女性を侍らせているように見えるというか……」
「ユーティ様。率直に申し上げます。――この一行を他人から見ると、それ以外には見えようがありません。今更、同室云々を気にされても、無駄かと思います」
「む……」
そのやりとりの間に、シャテルがユーティの後ろに回って行った。
「うちらは誰も気にしておらんのじゃ。ユウよ、いい加減に諦めぃ!」
「うわっ!」
シャテルはユーティの背中を押して前に進み、彼を下段ベッドに座らせる。そして彼女自身はちゃっかりと彼の横に腰を下ろしたのだった。そして、向かいのベッドには、アマリエとティエンが並んで腰掛ける。
こうしてようやく、落ち着いて話せる環境が整ったのだった。
◇ ◇ ◇
全員が座ったところで、アマリエは対面のユーティに対して口を開いた。
「ユーティ様。もう一つ、別室を取ったりもしていられない事情がありまして」
「ふむ?」
続きを促すユーティの視線に、アマリエはその柳眉をわずかにひそめ、やや口ごもった後に言葉を続ける。
「その……申し上げにくい事ですが、このままでは路銀が足りなくなります」
アマリエの発言に、シャテルはあきれた顔をして隣のユーティを見上げた。
「なんじゃ、ユウよ、そんなに貧乏しとるのか?」
「あー、道中の財布は総てアマリエくんにお任せしていて、ね。ただ一応、計算して両替はしておいたと思うのだが」
アマリエは困った表情を続けながら理由を説明する。
「シャテル様とティエン様には申し上げにくいのですが、二人旅での用意でしたので……人数が倍になりますと、流石に」
ユーティは顎の下に手をやり、少し考えこむ。
「ふーむ。確かに、シャテルとティエンの分は想定外だったか。二人とも帝国通貨の持ち合わせは……」
「正直言うて、ほとんど無いのう。そもそも、庵では自給自足じゃったから、王国通貨すら、それほど持っとらんわ」
「私はぁ、馬でしたからぁ……」
「まあ、そうなるか」
そして、期待通りの回答に、肩をすくめるばかり。
「アマリエくん、なんとか当座の資金を手に入れる方法は無いかな?」
「そこそこの、つまり、手放したり誰かに使われても支障が無い魔導具類があれば、現金化もできますが……」
アマリエの提案に、ユーティは腕を組んで手持ちの道具について思案する。
「確かに、この田舎でも買い手が付きそうな魔導具は、それほど持っていないな。シャテルもそうだろう?」
「うちのは基本、ユウお手製じゃからな。アーティファクト級しか持っとらんわ」
「私はぁ、馬でしたからぁ……」
「「「う~~~ん」」」
三人が腕を組んで考え込んでいる中で、唯一、アマリエだけがそのまま言葉を続けた。
「なので、解決策は一つしかありません」
「アマリエくんには何か案があるのかな?」
アマリエはユーティの問いに小さく肯く。
「はい、ユーティ様。もともと、この街で冒険者登録をする予定だったと記憶しておりますが」
「ああ、外国人がこの国で旅するにはその方が便利だし、そもそも、魔王軍の支配地域に侵入するためには、冒険者の資格が必要らしいからね」
「で、あれば、明日は少しでも高ランクで登録し、高ランク冒険者用の割の良い仕事をするしかないと思います」
アマリエの提案に、ユーティは一瞬意表を突かれた顔をした。しかしすぐにそれが、正しい作戦である事を理解する。
「なるほど……それは道理だ。確かにこの方法なら、移動しながら稼ぐこともできそうだね。明日は一つ、頑張ってみる事にしようか」
「なに、ユウとうちは、元々王都ではSランク冒険者じゃったのじゃからな。容易いものじゃ」
「はい、五英雄のお力、期待しております」
と、アマリエはユーティとシャテルに向かって微笑みかけたのだった。
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