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5.賢者は愛馬への接吻を提案される

 ユーティの愛馬、天龍号が見た目の年齢にそぐわぬ長寿である事を聞いたシャテルは、唐突に然魔法の詠唱を始めていた。


「"マナよ、魔力を視る目を我に与えよ"――魔力探知(ディテクトマジック)


 魔法が発動すると、その空色の瞳を中心に小さな魔法陣が現れ、そして消えていった。これは、魔法の痕跡を可視化するための魔法である。

 そしてシャテルは、天龍号に近づいてみたり遠ざかってみたり、様々な角度からしげしげと観察を行い始めた。


「魔法でも掛かってるかと思ったが、何も見えんのう……む?」


 しばらくははかばかしい結果は無かったようだが、天龍号の口を覗き込んだ時、ふと何かに気がついたようで、シャテルは天龍号の口から喉の奥の方を覗き見た。そして今度は、懐からメモ帳を取り出し、目をつむって、右手で天龍号の身体をさするように当てては、メモ帳になにやら描き込むと言う作業を繰り返しはじめていた。

 天龍号の頭からお尻まで、まんべんなくなで回した後、シャテルはパタンとメモ帳を閉じると、誰に言うでも無く独りごちる。


「よし、とりあえず、こんなところかの」

「何か見つけたのかな?」


 ユーティの声に、シャテルは初めて彼が覗き込んでいた事に気がついたかのように、彼に顔を向けた。


「む? なに、まだ書き写しただけじゃ。これから精査するから、結論は少し待つのじゃな」


 と言ったかと思うと、シャテルはさっさと天龍号によじ登り「早く出発するのじゃ~」と、催促しはじめる。


「シャテル様、どうしたんでしょう?」

「天龍号に何か見つけたようだが、うーん、彼女の結論を待つしかないね」


 ユーティはアマリエと顔を見合わせたが、ともあれ休憩を終えて次の街への旅路を再開する事にしたのだった。



              ◇   ◇   ◇



 道中、シャテルは、メモ帳を眺めながらぶつぶつ小声で言ってみたり考え込んでみたり、ひたすらそれらの行動を繰り返していた。


「ユーティ様、かなり難産のようですね」

「ああ、ただ、彼女の集中はそう簡単には破れないよ。こうなったら、どんな難問も時間の問題だね」


 事実、彼女の集中はその後3時間にも及んだのだった。

 すでにアヴェニオの城門にたどり着いてしまい、これから衛兵の簡単な聴取を行わなければならないのに、この有様ではどうしようかとユーティが考え始めた所で、彼女はメモ帳をパタンと閉じた。


「うむ、間違いないな」

「シャテル、結論は出たのかな?」

「うむ。路上で話すのもなんじゃし、まずは街の中に入ってしまうのじゃ。さあ、早ぅ早ぅ」


 シャテルは鞍に横座りになった脚をぶんぶん振って前に進む事を催促する。子供っぽい仕草ではあるが、見た目だけ考えると、年相応とも言える行動に見えた。


(これで100歳越えているんだからなぁ……)


 城門では、特に商売の荷物を持っていると言うわけでもないため、規定の通行料を払うだけで問題無く中に入る事ができた。美女と美少女を連れた黒ずくめの青年と言った奇妙な取り合わせに、中年の衛兵は一行を奇異の目では見ていたものの、余計なことを聞かない自制心はあったようで、それに関して特に何か口にする事はなかった。


 一行は市中に入り、宿屋を探す。最高級には届かないが、女性が泊まっても、まあ問題は無さそうなレベルの宿を見つけ、そこに足を踏み入れていった。


「アマリエくん、チェックインを頼む。私は天龍号を(うまや)に入れておくことにするよ」

「はい、かしこまりました」


 アマリエは独り離れてフロントの方へ向かっていった。

 ユーティは、天龍号を()いて宿泊客用の馬房に連れて行く。シャテルもその後ろをぴょこぴょこ付いて行ったのだった。



              ◇   ◇   ◇



「それで、天龍号に何か見つかったのかな?」

「何らかの強力な魔法の類が掛かっておるわ。しかも、ご丁寧に検知で外から分からぬよう、肌の僅かに内側までだけ効果を及ぼすようになっとる。外から見えるのは口とかだけじゃの」


 自らの愛馬に、何らかの魔法が掛かっていると言う事を聞いて、ユーティは驚きの表情を見せた。


「そんな事になっていたのか……それにしても、解読には酷く難航したようだね」

「我々が使う術式魔法では無かったからの。文字の意味から考える所から始めねばならんかったのじゃ。おそらく、東方の仙術の類いじゃと思う」


 と言いながら、メモ帳を開いてユーティにその内容を見せる。

 それはユーティが詳しい術式魔法ではないが、式を構成する文字は東方の漢字が中心であり、言葉の意味だけはユーティにとってもなんとか読み取る事ができた。


「なるほど、勅命なにやらとか書いてあるね。確かに絹の国(セリカ)の仙術のようだ」

「なんじゃ、ユウはこの文字を読めるのか? であれば、ユウに解読を頼めば良かったのう。――ともあれ、恐らく何らかの条件下で解除できる魔法じゃが、恐ろしく強力そうでな。正しい手順を踏まねば"魔法解除(ディスペル)"などで外せる気がまったくせん」


 シャテルは肩をすくめて二、三度首を振ってから、言葉を続けた。天龍号はその仕草を小首を傾げながら眺めている。


「ただ、唯一、術式が露出している口に対して何か行う事が解除条件のようじゃ……と思う」

「口……に、か。なるほど」

「そこで、じゃ。ユウよ、こやつにキスをしたことはあるかの?」

「キスだって!?」


 唐突な質問に、ユーティは一瞬、驚きの表情を見せた。そして、質問に回答すべく頭の中で記憶を巡らせる。


「ふーむ、せいぜい頬を寄せるくらいしかしていないかな。もしかすると、この子の首筋などに口をつけた事があったかもしれないが……」

「いや、口と口でじゃ」

「流石にそれはないな」


 首を振って否定する。


「では今、やってみてくれんか?」

「え、キスを? 本気かい?」


 流石に眉をひそめてシャテルの顔を見たが、ユーティには彼女がどうも本気で言っているように見えた。


「本気も本気、大本気じゃ」

「う~~~~~~ん」


 ユーティは腕を組んでしばらく考え込んだ末、最終的に肩をすくめて同意したのだった。


「仕方ない。一応、やってみようか」

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