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4.賢者は過去の告白を打ち明けられる

 ユーティとアマリエ、そしてシャテルを加えた一行は、国境の街から、次の街に向かって歩みを進めていた。


 シャテルが隠棲してから20余年。ユーティ自身も王都を離れていたとはいえ、それまで一度も訪ねてくる事がなかったシャテルが、突如来訪してきた理由。ユーティにはそれが全く想像つかなかった。


「それはそうと、シャテルは何故私を探していたんだい?」

「そう、それじゃ!」


 何気なくユーティがシャテルに質問したところ、彼女はブロンドのツインテールを激しく揺らしながら振り向いてきた。


「さっきも言うた通り、アニー・フェイなる者がうちの(いおり)を訪ねてきてな。聞けばユウが保護者で、しかも、まるで歳を食っとらんと言うではないか! それを聞いたら、またユウと旅をしたくて居ても立ってもいられなくなっての。追いかけて来たと言うわけじゃ」

「ユーティ様がお年を召さない事が、何か関係あったのですか?」


 アマリエの素朴な疑問に、シャテルは肩を落としながら説明する。


「うむ。実はの……以前、ユウに告白した事があったのじゃが、見事にフラれてしまったのじゃ」

「あら……まあ」


 断った主であるユーティを、なんとなく批判の目で見てしまうアマリエ。その視線に気づいたのか、ユーティはアマリエに対して言い訳を始めている。


「念のため言っておくが、ハイエルフである彼女は、成人するまでに人間のおよそ10倍の時間が掛かる。その頃の見た目は10歳程度だったんだ。友人として、パーティメンバーとして、長く家族のように接してきたが、さすがに恋人関係については、ね。断らざるを得なかった」

「恋人関係になるのであれば、見た目の歳の差がもっと小さくないと、と言いおったからな。人間であるユウが相手では、時間が経過するたびにその差が開いてしまう一方じゃ。その時は、人間と比べて緩やかに流れる時間を呪ったものじゃよ。それで傷心のうちに田舎の庵に籠もったわけじゃが……」


 そこまでしんみりした表情になっていたシャテルだが、そこまで喋ったところで一転して満面の笑みを浮かべる。見た目の年齢相応に、ころころ表情が変わる女性のようだ。


「ユウの歳が変わってないと言う事であれば、逆に時間の経過で見た目の差は近づくばかり。今度は逆に、時間が味方になったわけじゃな!」

「まだ人間換算で12歳くらいだよ? 流石にまだ、人としてどうかと思える年齢差じゃないかな」


 抱きつかれたときに、一瞬動揺した事は隠しておく。


「なんじゃと!? もう子供も産めるようになったのじゃぞ!?」


 シャテルの明け透けな表現に、ユーティはちょっと赤くなりながら苦笑した。


「シャテル、それはちょっと生々しいよ……」

「ま、今はまだ無理でも仕方ないわ。あと50年待っておれ、ユウの方から乞うてくるような美女になってやるのじゃ」

「あらあら、50年後の予約が入ったようで。良かったですね。ユーティ様?」


 和やかな表情を見せているアマリエを見て、ユーティは彼女が当初シャテルに対して抱いていた警戒心が薄れているように感じた。


(やれやれ……なんとか受け入れてくれたようだ。アマリエくんも普段は優しいんだが、女性が私に近づいてくると、何故か冷たくなる事が多かったからなぁ)


 人知れず冷や汗を拭いながら、ユーティは二人と共に隣の町、アヴェニオへの旅路を続けるのであった。



              ◇   ◇   ◇



 その後は何事も無く昼を迎え、一行は休憩がてらに昼食を取ることにしていた。


 街道から少しだけ外れた草地に踏み込み、敷物を敷いてそれぞれ腰を下ろす。流石に奇襲を警戒して、靴を脱ぐことは無いが、敷物の上に腰を下ろせるだけ、十分な休憩になる。

 春のぽかぽかした陽気が心地よい。川沿いのためか、時折涼しい風がアクセントのように吹き抜けていた。


 アマリエが腰に着けた大きめのポーチから、二人分の弁当――宿屋で作って貰った、パンにハムやチーズを挟んだもの――を取り出して、一包みをユーティに渡す。シャテルも同様の物を、自身のポーチから取り出していた。

 そして「いただきます」の声と共に、一行は昼食を取り始めたのだった。


 なお、ユーティの愛馬である天龍号には、既にニンジンを与えて木陰で休ませている。シャテルは天龍号を眺めながら、何気ない質問を口にした。


「そういえばその馬、うちのスレイプニルを見て、よく暴れなかったものじゃな」


 何しろ通常の3倍ほどの大きさの神馬だ。盗賊共の馬は、盗賊を振り落として逃げ去ったり、周りの盗賊を蹴り飛ばしたり、完全にパニック状態に陥っていた。それに引き替えユーティの馬は、スレイプニルが至近距離に近づいても、全く動ずることが無かったのだ。


「覚えてないかな? この馬の前で何回か見せたことあったじゃないか。だから慣れているんじゃないかな」


 ユーティの答えを聞いたシャテルは、目を大きく見開いて、驚きの余り一瞬、固まってしまう。


「なん……じゃと!? あの頃と同じ馬なのか? いったい何歳なのじゃ、普通の馬はそんなに長生きせんぞ!?」

「初めて出会った頃は既に大人の馬だったし、それから乗り換えていないから……30歳、以上、かな?」

「確かに、普通の馬でも30歳くらいまでは生きることがありますが……ユーティ様、この馬は4、5歳くらいにしか見えません」


 考え込んでいたシャテルだったが、その言葉を聞いてユーティに迫っていく。


「ユウよ、さては不老不死の妙薬でも作ったか?」

「いくら錬金術師を標榜(ひょうぼう)してたからと言って、それは無理な話だよ。私は何もしていないよ?」


 もっとも、自分がなぜ老けないのかは、ユーティ自身でも分かっていないのではあるが。


「う~~~~む。ちょっと待つのじゃ」


 また腕を組んで(うな)ったシャテルは、唐突に魔法の詠唱を開始したのだった。


「"マナよ、魔力を視る目を我に与えよ"――魔力探知(ディテクトマジック)

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