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3.賢者はスキンファクシに乗れない理由を誤解する

「アマリエ・フェイと申します。ユーティ様とは、生活を共にさせていただいております」

「なん……じゃと?」


 ユーティとアマリエの前に現れたエルフ、シャテル。アマリエによる挨拶の言葉を聞いて、彼女はびしっと固まってしまったのだった。アマリエは気付いてか気付かずにか、さらに追い打ちを掛けていく。


「はい❤ 当てもなく転がり込んだ私を、家族のように受け入れて下さいました」

「か、家族……じゃとぉ!?」

「はい、毎日、ご飯を作って差し上げたり、お風呂の準備などもさせていただいております」

「お、お風呂ぉっ!? よ、よもや、背中を流したり、着替え中にうっかり鉢合わせてしまったり……っ!?」

「シャテル、妄想はそこまでだ! ――アマリエくんも、誤解を招くような表現はしないでくれ!」


 妄想と共にどんどん声のトーンが上がっていくシャテル、そしてそれを(あお)るアマリエを、ユーティは慌てて制止する。


「10年以上前から保護していた姉妹の、長らく行方不明になっていた一番上の姉でね。少し前に再会できた流れで、引き取ることになったんだ。メイドとして住み込みで働いて貰っているが、け、決して、やましい事はないぞ!」

「別に、手を出しておかしい年齢差では無いと思うのですが」


 と、火に油を注ぐような事をぽそっと呟くアマリエを無視して、話を強引に切り替える。


「と、ところで、シャテル。アマリエ・フェイくんの顔を見て、誰かを思い出さないか?」

「確かにおんし、どこかで見たような……」


 シャテルはアマリエの顔、濡れたように輝く漆黒の髪と、鳶色の瞳をじっと見て考え込んだ。しばし経った後、おもむろに手をぽんと叩く。


「なるほど、フェイとな! 言われてみれば確かに、面影があるのう」

「面影、とおっしゃいますと、妹のアニーかアレックスに会われたのですか?」


 その台詞に、シャテルはなぜか鳩が豆鉄砲を食らったような表情になった。


「なに、アニー……? あーあーあーあー、おんし、アニーの姉なのか。それは気がつかんかったわ。確かに一月ほど前、うちの(いおり)を訪ねて来おったな」


 そして、考える素振りをしながら、言葉を続ける。


「ふーむ、そういえば一昨日訪れたユウの領主館(いえ)でも、おんしと似たような娘に()うたな。と言う事は、それがアレックスかの」


 なんとか誤魔化せたようだ。ユーティは話が一段落ついた所で、二人に向かって軽くパンパンと手を打ったのだった。


「さて、すまないが急ぐ旅でね、あとは移動しながら話をしようか」



              ◇   ◇   ◇



 ユーティはアマリエ、シャテルの二人の顔と、自身の馬を順番に見た後に、シャテルに向かって口を開いた。


「シャテル、君の飛行術は、ゆっくり飛ぶには向いていないだろう?」

「その通りじゃな。真っ直ぐ高速移動するのはともかく、歩く速度について行くのは、やや骨じゃ」


 手を口に当てて考え込んでいたアマリエだったが、意を決したようにシャテルに向かって口を開いた。


「あの、シャテル様、翼持つ馬、スキンファクシはいかがされたのでしょう? 私が伺っていたシャテル様の物語では、スキンファクシに乗って大空を駆け巡るシーンが欠かせませんが」


 それを受けたシャテルは、渋い表情になって髪をポリポリと掻くばかり。


「スキンファクシはのう……今は、ちょっと乗れんのじゃ」

「おや、何かあったのかな?」


 何気なく質問するユーティを、はっと気がついたアマリエが急ぎ制止する。


「ユーティ様、ダメです、女性にそんな事を聞いては!」

「アマリエくん?」


 そして、耳元でぼそぼそと説明する。ユーティはシャテルの話を聞き、その内容についつい顔を少し紅くしてしまっていた。

 当初、その様子を不思議そうに首を傾げて眺めていたシャテルだったが、途中で何か思い当たる節があったのか、大理石のような肌の顔を紅く染めながら声を上げた。


「ちょ、ちょっと待て、おんしら、もしやユニコーンと勘違いしとらんか!?」


 それを聞いて、ぴたりと止まる二人。


「「――違うのか(のですか)?」」

「当たり前じゃっ! それに、うちはユニコーンでも立派に乗れる身体じゃぞっ!」

「そ、そうなのか、シャテル」

「し、失礼いたしました」


 ユーティは、居心地が悪そうに頭を掻く。アマリエも申し訳なさそうに頭を下げている。


「原因は、この飛行術じゃ。おんしの妹御(アニー・フェイ)に教わったのじゃがな……調子に乗って飛びまくっておったら、スキンファクシにスネられてしもうたのじゃ」


 そして、がっくりと肩を落とす。


「それからちーとも出てきてれんでの。ほとぼりが冷めるまで待つしか無いのじゃ……」

「す、済まない。変な事を聞いてしまったね。と、なれば……」


 少しの間考えたユーティは、アマリエに顔を向けた。


「よし。アマリエくん。君が馬を操ってくれ。できるね?」


 ユーティの質問に、うなづくアマリエ。


「はい、問題ありません」

「そしてシャテルはその後ろに乗ってくれ。私がその横を歩こう」

「うむ、承知したのじゃ」


 まずアマリエが白いケープを(なび)かせながら飛び上がり、前の(くら)に跨がった。メイド服のロングスカートではあるが、フレアがついていて余裕のあるデザインであるため、跨がる事に問題はない。


 そして、アマリエに手を貸りながらよじ登ったシャテルが、後ろの鞍に横座りで収まった。そして、しがみつくように両腕をアマリエの胴体に回していくのだが……


「シャテルさま、胸を揉むのは止めて頂けませんか?」

「散々いじってくれた意趣返しじゃ。気にするな!」


 なぜかシャテルの右手は、胴ではなくやや上の方に回っていた。そして、アマリエが着ているメイド服の白いエプロンの上から、彼女の胸を揉みしだいていた。


「ふむ……やや固いようじゃが、中に詰め物でも入っとるのか?」

「革鎧を中に着ておりますので。中はきちんと詰まっております」


 右手を正しくアマリエの腰の方に回しながら、シャテルは首を振りながらぼやいている。


「そうか……人間は一人前になるのが早くて羨ましいのう。うちがこの域に達するには、あと80年くらいはかかりそうじゃ」

「その代わり、散るのも早うございますからね」


 二人のやりとりを困り顔で眺めていたユーティだったが、一つ咳払いをすると出発を宣言したのだった。


「さ、次の街に向かって出発しようか」

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