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29.メイドはバスターカノンを発砲する

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 特に「バージン魔王が~」は本作と関連が強い作品となります。

※ 連続投稿終了寸前ですが、今週は都合により投稿時間が一定しません

「間に合いません。撃ちます!」


 無防備に降下中のユーティとシャテルに迫る火竜の気を引くため、アマリエはバスターカノンをチャージ完了前に過早発射していた。


『ゴアアアアアアアッ!』


 当たることはなかったが、かすめて行った破壊の光に怒りの声を上げる火竜。彼の目は、自らの棲家に向かって無防備に降りている人間ではなく、光を放った者に向けられていた。


 火竜は口を開け、大きく息を吸い込み始めている。喉の奥で、ちらちらした炎が見え隠れしていた。


「来ます!」

「お任せあれぇ~」


 ティエンは素早く両手を動かし、最後に印を結んで術の言葉を発した。


「"火焰屏障"♪」


 その瞬間、アマリエは自身を囲む雰囲気が変わるのを感じた。こちらに向かって迫り来る火竜を目を離すこと無く見据え、伏せた姿勢から膝立ちの姿勢に立ち上がる。

 ついに火竜がその口から輝く炎を吹き出してきた。アマリエは表情を変えずに轟々と迫り来る炎を見つめながら、バスターカノンを持ち上げスライドを引く。排莢口から使用済みのコンデンサーが飛び出し、カランカランと地面を転がっていった。


 火竜の炎は、アマリエ達がいる所にたどり着いてしまった。しかしそれは、不可視の壁に阻まれ、アマリエ達に害を及ぼすこと無く左右に分かれていく。


『ガアアアアアッアアアッ!』


 怒気に帯びた目でアマリエ達を睨みながら、火竜はその上空を通り過ぎていった。バサリバサリと羽ばたきをしながら、高度を上げつつ旋回に移っている。


 アマリエは火竜の姿を目で追いながら、先程の発砲の結果に思いを馳せていた。


(トリガーを引いてからの反応が遅い。弾速もそれほど速いとは言えず、発射時の光が見えてしまうため、見てから避けられる可能性が高い。で、あれば……)


 考えを定めたアマリエは、火竜に視線を合わせたままティエンに声を掛けた。


「ティエンさま」

「はぁい?」

「この銃は、火竜の正面から撃っても当たらないように思います。通り過ぎざまに火竜の後ろから撃ちたいので、背中を護っていただけますか?」


 ティエンは、顎に人差し指を当て、少しの間思案してから快諾する。


「うーん……うん、大丈夫ですよぉ」

「よろしくお願いいたします」


 と、答えたアマリエは、地面に置いていたバスターカノンを持ち上げ、肩に担く。そして再び発砲準備を開始したのだった。



              ◇   ◇   ◇



「"火焰屏障"♪」


 初撃をティエンの結界魔法に阻まれた火竜だったが、今度は少し学習したらしく、なるべく炎を細く長く、集中してアマリエ達に浴びせかけてきていた。

 しかしその工夫も空しく、ティエンの結界を破る事はできていない。


「べろべろばー♪ ダッサいトカゲモドキはヌルい火焔しか吐けませんねぇ」


 悔しそうに自分たちを睨みながら飛び去っていく火竜に向かって、ティエンは舌を出すポーズを見せつけていた。

 一方、背中側でバスターカノンを抱えたままのアマリエから、ティエンに声が掛けられる。


「充填率70%…… ティエン様、申し訳ありませんが、あと一撃耐える必要がありそうです」

「はぁい!」


 ガッツポーズで機嫌良く返事するティエン。そして彼女は、空中を大きく回って自分たちの方を向いた火竜が、再び突進しようとしているのを眺めていた。


「さあて、そろそろ行きますよぉ」


 都合三回目となる結界魔法を唱えるべく、必要な手振りを行って印を組む。


「"火焰屏"……って、あぁれぇ?」


 そして、術の言葉を発しようとした所で、火竜の口が大きく開いているのが見えた。それまでは、炎を噴くため喉の奥が光っていたのに、今は暗いままだった。

 これまで、ティエン達よりやや高い高度から火焔を吹きかけて、火竜はそのまま通り過ぎていた。しかし今回は、自分たちと同じ高度で口を開けて迫ってきている事に気がついた。


「あららぁ!?」


 ティエンは動揺し、背後のアマリエにちらっと視線を向けた。彼女は膝立ちで巨大な銃を肩に乗せ、火竜の様子に気がつくこと無く、集中した様子でこちらに背中を向けている。


(なんとかしないと、巻き込まれちゃいますねぇ)


 ティエンは迎え撃つように、手足を大きく広げ、迫り来る火竜に立ちはだかったのだった。



              ◇   ◇   ◇



 火竜がぐるりと旋回している間は、ちらちらとそちらの様子を伺っていたが、いよいよ突進を始めそうになってきた時には、アマリエはバスターカノンのスコープを覗き込む事に集中していた。


「エネルギー充填120%。バスターカノン、発射体勢に入りました」


 後は火竜が通り過ぎた後に背中から撃つだけ。その筈が、これまでと比べて極めて近い距離を通り過ぎていった火竜によって、アマリエはバランスを崩しかける。


「くっ!?」


 アマリエは膝立ちになっている脚を僅かに広げて、転ばないように安定を取り戻していた。そして、スコープ一杯に広がっている火竜の背中を睨みつける。


「ティエン様!?」


 飛び去る火竜の口から、大きな物体がぶら下がっていた。そしてそれはぽろりと外れると、そのまま落下していく。


 それは、人型をしたシルエットだった。


「よくもッッ!」


 柳眉を逆立てたアマリエは、高度を上げながら旋回を開始していた火竜の、少し前の空間に照準を定めてトリガーを引いた。


 ボルトが前進する打撃音が響き渡った次の瞬間、銃口から高エネルギーの光束が吹き出し始めた。今回は十分なエネルギーで放たれたため、光の束は螺旋回転によって集束しながら前進していく。


 光束は火竜の目の前に延びていき、火竜はそれを横切るように通過していった。


 ぽろり。


 次の瞬間、火竜は光束によって音も無く首から切断され、頭と胴体の二つに分かれて勢いのままに落下していったのだった。


「ティエン様!」


 火竜の行く末をスコープ越しに確認したアマリエは、地面の上にバスターカノンを置くと、立ち上がって先程の人影が落ちた方向に向かって走り始めた。


(私が火竜の方さえ向いていれば、ティエン様が喰われる事はなかったはず。それに、私の剣で倒す事もできていた。この失態、ユーティ様に合わす顔が)


 様々な事が頭の中を駆け巡りながら草原の上を駆けるアマリエ。


「ティエン様!!」


 アマリエの声が届いたのか、アマリエの視線の先で、地面に転がっていた人影はむっくりと起き上がった。


「はぁい、何でしょう?」


 そしてその人影、ティエンは、何のダメージも受けていない様子で、のんびりした声を上げたのだった。

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